軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミリの冒険⑬

戦いの後。騒ぎは思ったよりも少なかった。ミリの 闇霧(ダークミスト) によって意識を根こそぎ奪われた特別VIP会員の客及び審判、従業員だったが、意識を取り戻してからはとても穏やかな様子だった。

闇霧は飲み込まれた人々に恐怖を植え付けられる。だが、闇が晴れたとき、人はそこに希望を見出す。

まるで子供のように未来に対し希望を見出した彼らだったが、だからといって人間的に成長したとかそういうことはない。

今日の試合は今のミリとカノンの戦いで最後だったため、闘技場を出て、賭場に向かう。

今なら大勝ちできる気がする! そんな希望を持って賭場に出ていくのだ。

もしも騒ぎが起きるとしたら、この後大負けして多大な損害を出した人が現れてからだろう。それこそミリには関係のない話だ。

「……ミリ……ちゃん……どうしよ」

ノルンは泣きながらミリに声をかける。

彼女が持っていたのは、赤色のメダル4枚、黒色のメダル8枚、銀色のメダル5枚、そして金色のメダル10枚。

合計1億584万センス分のメダル。それが彼女の手の中にあった。

日本円にして100億円の価値。それだけのメダルを持っているのなら、彼女達の将来は約束されたようなものである。

「あ、もちろんミリちゃんのおかげで勝ったんだから、今回勝った分は私の取り分じゃないのはわかっているけど、それでもちょっとは――」

「金メダル5枚分だけでいいわ。残りはノルンが使いなさい」

「うん……って、え? それだけでいいの!!?」

そんなことを言われたら逆に困る。ノルンはそんな顔をしていた。

「ところで、ゴルザ。この賭場に技能書はあるかしら?」

「ええ、僅かですがございます」

「それとメダルを交換してほしいの」

ミリが言うと、ノルンは尋ねた。

「技能書ってなんですか?」

「技能書は読むとスキルを入手できるアイテムよ。上級迷宮をクリアした時に極稀に手に入るの。一般に出回るものではないから知らないのは無理もないわね。私がここに来た目的も、半分はそれが目的だし」

この世界でもお金は重要だ。だが、それだけが全てではないことをミリは知っている。

お金を稼ぐ方法など山のようにあるが、強くなることが重要だと、ミリは思っている。

「もっとも、多くの技能書は教皇に献上しているため、残っているものは僅かですが」

「いいわ、見せて。あ、そこの人、カノンの治療が終わったら教えてね」

賭場の従業員にそうお願いをし、ミリはゴルザとともに二階のVIPフロアへと向かった。

VIPフロアの商品交換所は広い部屋の中にあった。一階の交換所では見ることができない珍しいアイテムがあった。

例えば、魔物が食べたら強くなるレアメダルや、魔剣のようなものまである。もちろん、貴金属類も多い。

その中にあったのが技能書。

一冊銀メダル1枚のものから、金メダル200枚のものまで多数ある。

「これが技能書ですか……書というから本かと思ったんですが、宝石なんですね」

ノルンは興味深げに技能書を見た。

技能書は、ビー玉くらいの色だった。

ちなみに、技能書の中身は、「技能書鑑定」という特別なスキルを持っている人が鑑定しているため、中身がわかっている。

「魔法系はさすがに高いわね」

「いろいろな魔法がありますね。なんですか、この星魔法っていうのは」

「星魔法は夜の晴れた日にだけ使える魔法ね。レベルが高ければ大規模魔法は使えるけど、雲魔法を使われたら手も足もでないのよね」

「……雲魔法も聞いたことがありません」

ノルンは魔法の才能はないので、そこは諦めることにした。

「あ……私これが欲しいです」

ノルンが見つけたのは、金メダル5枚で交換できるスキル、「槍千本」だった。

「……ハリセンボンみたいな名前ね。たしか、連続で槍の突きを行うことにより、槍が千本のように見える……みたいなスキルだっけ?」

「はい、女神様からいただける槍スキルです。滅多に手に入らないので、運任せなんですが……技能書で手に入るならこれが欲しいです」

「いいの? 金メダル5枚って、5000万センスよ。ノルンが一生頑張っても手に入らない大金だと思うけど」

「……はい、私はこれをお金にして受け取ったらいけない気がするんです。たぶん、ちゃんと働いて得たお金じゃないと、使っても楽しくないと思います」

ノルンは自嘲するように笑って言った。

「そういうものなの? まぁ、いいけど。私はこれね」

ミリが手に入れたのは、「石頭」だった。

頭が物理的に硬くなり、頭突きの威力と頭の防御力が上がるスキル。これも金メダル5枚分。

「ミリちゃんにしては意外なスキルですね。でも、魔法に対して絶対的な力を持つミリちゃんが、さらに物理防御まで上がったら敵無しですね」

「え? 何言ってるの、防御系のスキルを私が使う訳ないでしょ。これはおにいに使ってもらうに決まってるでしょ」

「あ……そうなんですか。ミリちゃんは本当にお兄さんが好きなんですね」

「好きとかそういう感情じゃないわよ。おにいに死なれたら困るだけだし」

ミリは無邪気な笑顔でそう言った。

そして――残ったメダルでノルンは強鉄で作られた槍を交換し、残りのメダルは貴金属類にして、旅の資金にすることにした。

メダルの交換を終えたところで、カノンの治療が終わったと知らせが届く。

「ノルンは食事でもしてここで待っていて。彼女とは私がサシで話すから」

ミリはそう言うと、医務室へと向かった。

そこでは、先程、戦いを繰り広げたカノンがベッドの上で白衣を着て座っていた。

「私たちふたりで話すから、あなたは下がっていて」

ミリの言葉に、ここまで案内してきた女性は頭を下げて去っていく。

そして、ミリは彼女に声をかける。

「約束よ。私の奴隷になりなさい」

「……はぁ……奴隷か。約束は守るわ。あなたの奴隷になる。でも、私が隷属の首輪なんかに縛られると――」

「言ったわね」

ミリがにやりと笑う。

――スキル、魔王の権威発動!

配下に加わると宣言した魔族に対し、絶対的な服従を強いるスキル。

そして、魔王は、魔族を配下に加えることにより、経験値が手に入る。そして、配下が魔物を倒して得た経験値の一部も手に入る。

ミリが賭場荒らしをしてカノンを配下に加えたのは便利な部下が欲しくて、賭場の地下から魔族の魔力の反応があったからだ。

それが、ミリが知っている悪魔だったのは予想外だったが。

【ミリュウのレベルが上がった】

【魔王スキル:悪魔召喚を取得した】

カノンが配下になったことで、レベルが上がった。

ステータスオープンと呟き、自分のステータスを確認した。

……………………………………………………

名前:ミリュウ

種族:ヒューム

職業:魔王:Lv15

HP:921/921

MP:101/101

物攻:303

物防:503

魔攻:1220

魔防:892

速度:520

幸運:30

装備:セーラー服 運動靴

スキル:空間魔法Ⅲ 闇魔法Ⅹ 調合Ⅳ MP吸収 MP節約 ステータス偽造 魔王の権威 悪魔召喚

取得済み称号:迷宮踏破者Ⅲ

転職可能職業:平民Lv1 薬師Lv1

天恵:薬学

……………………………………………………

相変わらず、MPの成長率だけが悪い。魔攻値が四桁になったが、それもファミリスだったころに比べたら弱すぎるとミリは思った。

「そう言えば、カノン。どうして悪魔なのにこんな賭場で戦っていたの?」

「それは……」

「正直に答えなさい」

「……ここにあるという技能書、魔力検出のスキルを手に入れるためのバイト……ってあれ? なんで私……」

「魔力検出……ね……確か魔力の残滓を見つけ、その持ち主について調べる力だったわね。そんなのを使って何をするの?」

「魔王様が復活なさったという話を聞いて、フロアランスの転移陣から魔王様の情報を集めようとしました……」

なるほど、とミリは納得した。

フロアランスの転移陣は、かつてミリが魔王だったころに迷宮探索に挑み、その脱出の時にできてしまった物だ。

あれを使えば魔王の情報は手に入るだろう。

ただし、死ぬ前の魔王ファミリス・ラリテイの情報が。

「……あの、私、あなたの言葉に逆らえないんだけど、何かしました?」

「私の奴隷になるって言ったでしょ。その言葉にあなたが従っているだけよ」

「そんな……そんなスキル、私が知る限り――まさか」

カノンは恐怖で顔を真っ青にして言葉を失う。

そして、ミリは邪悪な笑みを浮かべたのだった。

※※※

この後、ミリはノルン、カノンとともに、頭の毛を全部毟り取られているフェンリルに乗りさらに南へと向かった。

「待っててね、おにい。とりあえずおにいのための召使いはひとり確保したから」

もちろん、カノンとおにいが出会ったときは、カノンにこう命じるつもりだ。

「例え部下でも奴隷でも、おにいに手を出したら殺すから」

そう、例え誰であっても。