軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ジョフレたちの参戦表明

シャベルとツルハシの音が谷に響き渡る。

土砂崩れにより塞がれた道。そこで数十人の作業員が土や岩の撤去作業をしていた。

もともとこの谷は岩盤地であり、そのひとつひとつがとても大きいため、岩を砕かないと運べないことが作業を難航させていた。

「……話が違うじゃないか……全く、 金(きん) どころか鉱石すら見つからない」

最初は金を見つけることに躍起になっていたスッチーノだったが、一日、二日、三日と作業を進めるうち、この地道な作業に嫌気がさしていた。周りから話を聞いても金が出たという話は一向に聞こえない。

「まぁ、そういうなよ、スッチーノ。こうして汗水たらして働くって素晴らしいじゃないか」

溜った汗が目に入らないよう、手首で額の汗を拭き取りながら、フリオはシャベルで土砂を掻き出す作業に勤しんでいた。

そこには、元不良少年というレッテルは見受けられない。どこから見ても好青年の男だ。そんな幼馴染の変貌ぶりに、スッチーノはもはやため息しか出ない。

彼を総統に位置付けていた秘密結社マサクルは、もう解散した。

スッチーノがそうしたのは、先の戦いで稼ぎ出した金を独り占めするためだ。

だが、フリオは違う。フリオは一人の男に心底惚れている。そして、彼についていくと決めた。

「師匠に昔習った事があるんだけどよ、全ての物体には急所と呼ばれる場所があり、そこを一突きするとどんなものでも砕くことができるんだ。見てろ!」

そう言ったのは、フリオが憧れる赤髪の男、ジョフレだった。

彼はツルハシを構えると、目を閉じた。

フリオとジョフレの間に緊張感が生まれる。

そして――

「これが俺の実力だ!」

そう言うと、一際大きな岩に向かってツルハシを横向きに振るった。

結果、変な力が加わったことによりジョフレのツルハシの柄が折れてしまい、使い物にならなくなる。

「さすがジョフレの兄貴、ツルハシを一撃で破壊するとは、超はんぱねぇっす!」

興奮するフリオ。彼の耳には「こら、新入り、またツルハシ壊しやがったな!」「次壊したらただじゃ済まねぇって言っただろ!」という周囲からの野次は聞こえていないようだ。

「まぁな。俺にかかればツルハシなんて三本の矢を折るより容易いことよ」

どこかの日本人がこの世界に広めた逸話を思い出し、ジョフレは意味のわからないことを自慢げに言った。

そして――

「来たぞ! あの方がいらっしゃった!」

「道を開けろ! あの方の邪魔をするな!」

「供物だ! 供物を用意しろ!」

作業員が道を開け、そこに現れたのはエリーズとミルキー――を乗せたケンタウロスだった。

「ケンタウロス様、このあたりで採れた美味しい野草です。どうぞお納めください」

作業員のひとりがそう言うと、ケンタウロスは一度嘶き、野草を食べ始めた。

その間に、エリーズはケンタウロスから降り、ジョフレに駆け寄ると、

「ジョフレぇぇぇ! お弁当持ってきたよ! ずっと会いたかった」

「おぉ、エリーズぅぅ! 俺だってずっと会いたかったぞ! わざわざ俺のためにありがとうな」

三時間前に別れたばかりだとは思えない再会の言葉を交わし、エリーズとジョフレは熱い抱擁を交わす。誰かが「それは全員分の弁当だからひとりで食うなよ!」と律儀にツッコミを入れていた。

その間もケンタウロスは野草を食べ続け、そして、最後の一口……となったところで、その野草にはロープが結び付けられていて、作業員のひとりがそれを思いっきりひっぱって、巨大な岩の向こうに投げた。

それを追いかけるケンタウロス――その先には当然巨大な岩があり――

ケンタウロスと岩とが直撃。岩は粉々に砕け散った。

歓声が沸く中、ケンタウロスは何事もなかったかのように、最後の野草を食べる。

「さすがケンタウロス様だ」

「ケンタウロス様、また後でお願いします」

「美味しい野草をまた用意しておきますから」

とケンタウロスに頭を下げ、作業員たちは砕けた岩を運ぶことに。

「……さすがはジョフレの兄貴の仲間は、スロウドンキーも半端ねぇっすね」

「だろ? 俺はあいつを見たときから何か他の馬とは違うものを感じていたんだ」

ジョフレは自慢げに言うが、スッチーノは心の中で「馬と違うものを感じていたって、そりゃあれはロバだしな」と毒づく。

そして、彼は岩を運び出す作業員から隠れるように、谷の脇の茂みに向かった。

サボろうと入った茂みの中から声が聞こえて来た。

自分と同じサボっている人間だろうかと耳を澄ませると、

「大変ニャ大変ニャ」

と可愛らしい声が聞こえてくる。独特な喋り方のため、すぐにそれがケット・シーのものだと思った。珍しい種族ではあるが、でもフェルイトでも時折見かけることもある。基本的には戦いを好まない温和な種族だ。

「大変ニャ、王がおにゃくにゃりににゃられたニャ」

「聞いたニャ! 早く里に帰るニャ。新たにゃ王を決める戦いが始まるニャ」

「その前に五人の戦士を集めるニャ! 冒険者ギルドで冒険者を集めるニャ! 報酬を弾んで集めるニャっ!」

「にゃ、お前、王を目指してるのニャ?」

「男にゃら一度はトップを目指すものニャ」

「カッコイイニャ! おいらもそんにゃ台詞言ってみたいニャ」

「にゃら、お前も言ってみるニャ」

「いいのかニャ? にゃら言うニャ。男にゃら――」

「おい!」

ケット・シーの言葉を遮り、スッチーノはケット・シーの前に現れた。

「にゃ、人間、いつから聞いてたニャ?」

「それより教えろ。冒険者を集めて何をするんだ? それは金になるのか?」

※※※

その日の夜、スッチーノはジョフレ、エリーズ、フリオ、ミルキーを集め、話を切り出した。

これから、新たな王を決める戦いがはじまる。

勝負内容はわからないが、五人の戦士と一匹のケット・シーが集まり戦う勝負であり、その勝負に勝ったケット・シーが新たな王になるという。

「俺たちも参加しないか? ちょうど五人、ここに集まっている。俺とフリオは頭数にしかならないが、ミルキーの力はみんなも知っているだろう。それに、ジョフレさんとエリーズさんもいる。死角はない。件のケット・シーには明日返事することになっている」

「いやいや、スッチーノ。俺たちは今、土砂の撤去作業というとても重要な仕事を任されているだろ?」

それに最初に異を唱えたのはフリオだった。普段働かない彼にとって、今回の仕事は苦痛ではなく、労働の喜びを発見するきっかけとなったのだ。そこはスッチーノとは正反対である。

「いや、いいんじゃないか? 面白そうだし、この勇者ジョフレの腕の見せ所だ」

「きゃぁ、ジョフレかっこいい! そうだ、お弁当作って持って行きましょ」

「そうだな、玉子焼き作ってくれ。エリーズの玉子焼きは絶品だからな」

「さすがジョフレの兄貴っ! 俺も兄貴についていって、その勇姿をこの目でしかと焼き付けるっす!」

まさに手のひら返しと言わんばかりに、フリオがジョフレについていくことを決めた。

「あぁ、でも俺やスッチーノより、ジョーの兄貴とハルの姉御を誘った方がいいんじゃないっすか?」

「いや、この五人で行こう! 何、この俺がいるんだ、大船に乗ったつもりでついてこい」

豪快に笑うジョフレを横目に、スッチーノは最後にミルキーに声をかけた。

ミルキーは「ん、いいよ」と興味はあまりないがついてくると宣言した。

こうして、メンバーが揃ったわけだが、

「そういえば、フリオ。お前、ジョーさんとハルさんのことを兄貴とか姉御って言ってたけど、あれはどういうことだ?」

スッチーノはフリオに思わずそう尋ねた。

すると、フリオは「なに当たり前のことを聞いてるんだ?」といった顔で言う。

「ジョフレの兄貴の仲間だぞ。ジョフレの兄貴の弟分として、尊敬するのは当たり前じゃないか」

「……いや、お前がいいのなら別にいいんだけどよ……」

スッチーノは思った。

(もしかして、フリオの奴、ジョーさんとハルさんが、フリオの叔父であり、尊敬しているナルベさんを捕まえたイチノジョウとハルワタートだって気付いていないのか?)

まさかな、とスッチーノは首を横に振った。でも、もしもそうなら、少なくともこの戦いが終わるまでは黙っておこうと思った。

(王の財宝を手に入れるのは、この俺だからな)