軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界……なんだよな

あわよくばと期待していなかったといえばウソになる。

Bランクの冒険者がパーティーを組んで倒すような敵を、俺が一撃で倒す。軍隊ですら手を焼いた魔物の軍勢相手に俺達だけで倒せたんだから、そのような不可能なことも成し遂げることができるのではないかと思っていた。

だが――

俺の放ったスラッシュの一撃はドラゴンの右わき腹にあたると、何枚もの鱗が弾け飛び、飛び散った血飛沫が周りの草を赤く染め上げるが、致命傷には至っていない。

ハルの放った一撃はドラゴンの腹を狙って放たれたが、前足に遮られてダメージを与えられなかった。

くそっ、天狗になっていた。

「すごいニャ! ドラゴンは背中の鱗は強固だから狙うなら腹の真ん中の鱗の薄い部分を狙うのがセオリーにゃのに、まさか鱗ごと切り裂くにゃんてっ!」

ステラが興奮気味に、隠れている茂みの中から叫んだ。

あぁ、腹が弱点で、本来ならそこを狙わなければいけないのか。

それは盲点だった。

「ご主人様、来ますっ!」

ハルが叫ぶと同時に、ドラゴンはその背中から生えた大きな翼を羽ばたかせ――なんとその巨体を持ち上げた。

(おいおいおいおい! いくらなんでもあの翼で巨体を持ち上げるのは物理的に反則だろ!)

飛ばないのなら背中の翼はなんのためにあるんだ? と聞かれるかもしれないが、俺はぶっちゃけ、ドラゴンの背中に生えているのは翼ではないと思っていた。

前足がないワイバーンと違い、ドラゴンにはちゃんと二本の後ろ足と二本の前足が存在する。ならば、背中の翼は、手から進化した翼のわけがない――あれは進化した肩甲骨だと思っていた。

いや、嘘だ。そんなことは思っていない。

でも、せいぜいは風を起こす程度の付属品だと思っていたのは本当だ。

(中々のスピードだな)

ある程度、上昇し、急降下してくるブロンズドラゴン相手に、俺はあることを考えた。

そして、大きくジャンプして、そのドラゴンの背中に飛び乗った。

「背中の鱗は硬いから注意しないとな――」

俺はそう言いながら、上昇していくドラゴンの背中の上で、剣を振り下ろした。

鱗数枚を弾き飛ばし、深く突き刺さった。

ドラゴンは暴れ、俺を振り落とそうとするが、深く突き刺さった剣は抜けることはない。そして、俺の握力ならその剣から手が離れることはない。

俺は力づくで剣を手前に引いた。

斬るためではない、剣は横向きに突き刺さっているから、切り裂く目的なら横にずらさないといけない。

「ご主人様っ!!!!」

ハルの叫び声が聞こえたが、その声がだんだん遠のいていく。

ドラゴンが上昇したのだ。天の遥か高みを目指して。

ドラゴンが木々の林冠をも越え、雲一つない空へと飛び出した俺は太陽を独り占めにしている感覚になった。

森の向こうには一面に広がる大草原――ダキャットの領土が広がり、反対側には、恐らくはコラットの領土なのだろう、赤土の大地が広がっている。それ以上先は霞がかかってよく見えない。

(異世界……なんだよな、ここが。ここが、アザワルドなんだよな)

最近、自分がおかしいとは思っている。 いくらマリナの友達のためとはいえ、ドラゴン相手に戦いを挑むなんて、しかも理由がマタタビのためだなんて、本当にどうかと思う。

そして、その違和感を払拭するために、何故か俺はこんな行動をし、こんなところにいる。

「俺は――この世界で何をしたいんだろうな――」

風を肌で感じながら、俺はそんなことを呟いた。

最近、日本でのことも、そして、多分ハルと同じように俺自身よりも大事だと思っていたミリのことも思い出さない日がある。

俺の願いは、ハルやキャロと、あと今はマリナやピオニアと、ただただ平和に暮らせたらいいと思っている。

だが、俺はなんでこうも事件に巻き込まれる?

なんでこうも、自ら事件に首を突っ込む?

今回の件にしても、にゃんと六星とステラの確執の向こう側に、何か事件の予感がする。

それに対し、俺はいったいどんな行動を取るんだ?

また巻き込まれるのか?

俺は自分の足元のドラゴンを見て、ふっと微笑んだ。

そして、俺はドラゴンの実力を信じて、口を開いた。

※※※

ドラゴンはゆっくりと降下をはじめ、元の場所に着地。ハルが臨戦態勢に入るが、俺は手振りで彼女の攻撃を制した。

ドラゴンは俺が降りたのを確認すると、ゆっくりと上昇し、空へと飛び去って行った。

「追わなくてよろしいのですか? ドラゴンの素材で武具を作ると仰っていましたが」

去りゆくドラゴンを見送り、ハルが尋ねてきた。俺は首を横に振る。

「ま、鱗は何枚か落としてくれたし、なにより、あいつ、正々堂々戦ってくれたからな」

あの時、あのブロンズドラゴンは俺だけを見ていた。横にいるハルや、矢を放ったマリナ、隠れていたステラやキャロの存在も気付いていたのに、俺だけに的を絞って戦いを挑んできた。

「あのドラゴンは最初の戦い方を見るとかなり利口そうなのに、俺が攻撃した後はただ愚直に俺との一騎打ちをしてくれた。それに、最高の景色も見せてもらったしな」

だから、俺は空の上でドラゴンに交渉してみたのだ。

実力の差ははっきりしてるだろ? ここで俺が本気を出していれば、飛び乗ったとき首を貫くこともできたんだぞ。

負けを認めるならゆっくりと元の場所に着地してくれ。そうしたら見逃してやる。

そうしたら、ドラゴンは本当にゆっくりと降下した。もしも言葉が通じなければ、力づくで着地させなければいけないところだった。

去りゆくドラゴンを見て、俺は小さく微笑んだ。

いろいろ考えたが、俺は結局は幸せになりたい。幸せになれたらそれでいいと思う。

ハルと、キャロと、マリーナと、ピオニアと……大切な者たちとともに幸せになれたら、それで。