軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者ギルドのケット・シー

とりあえず、ピオニアには小麦の収穫と、俺達の住む家の建設を頼んだ。

必要な素材として、木材の苗と綿花の種(ハル達に買ってきてもらっていた)を渡した。

ちなみに、他のホムンクルスはまだ試験管の中に入れたままにしてある。ピオニアが言うには試験管の中にいる状態では自我と呼べるようなものは存在しないらしく、閉じ込められている等という感覚はないそうだ。

なぜホムンクルスを増やさないのかと聞かれたら、名前を付けるのが疲れそうだからだと答える。

マリーナはMP枯渇で動けないので、マイワールドの中で休ませることにした。

どうして宿のベッドで休ませないのか?

それには大きな理由がある。

ともかく、フェルイトに戻った俺達は宿を出て冒険者ギルドへ向かった。

町には流れの冒険者も戻ってきているが、それでも以前と比べると圧倒的に冒険者の数が少ないらしい。

そのため、依頼が結構滞っているそうだ。

剣と盾の看板は全世界共通らしく、ハルの持っている冒険者ギルドのカードも使うことができる。

依頼の内容の多くは、護衛だった。仕入れなどで国を出るのに不安が残っているのだろう。

あと、南の街道整備や魔物退治などの依頼もあったし、土砂の撤去作業の依頼もまだ残っていた。

「盗賊の捕縛か……」

食料ばかりを狙う盗賊の出没情報もあった。

こういう依頼は賞金首依頼といって、依頼を受けなくても、捕縛して冒険者ギルドに連れて行けば賞金が貰えるという。依頼を受けない人間でも、犯罪者の情報を得ることで危険を回避できるから、こういう情報のチェックは必要だ。

ただし、この盗賊に関しては、食糧を奪っていく他は特徴らしい特徴が書かれていない。

街道を通った多くの者が、気が付けば食糧を奪われていたそうだ。

本当に盗賊かどうかもわからない。

なんとも不思議な話だが、怪我をしたという話もないし、町から徒歩で二日程の場所のため、食糧を奪われたことによる野垂れ死にというケースもなく、賞金が出るのは 生け捕りのみ(only alive) という依頼だ。おそらくは食糧を盗む手口について調べるためだろう。

もっとも、相手が盗賊の時点で、殺したところでペナルティーはないだろうが。

別に盗賊退治を請け負うつもりはないが、覚えておこう。

「お願いしますニャ! 助けてくださいですニャ!」

若い女の声が聞こえた。ただし、その声は俺に向けられているものではない。

それでも、その特徴的な喋り方に、俺はついつい振り向いてしまった。

これまで、白狼族のハルや、茶狐族のカチューシャさんなど魅力的な獣人女性ばかり見て来たが、今度は猫耳か? とついつい視線がそちらにいってしまう。

決して浮気じゃない。うん、俺はハルとキャロを心から愛しているが、これは男の性だ。仕方がない。

そして、俺はその声の主を見て言葉を失った。

ふわふわの黒い毛に覆われた猫耳、頬のあたりにみえる猫髭、そしてくるくるしている猫の尻尾、手の平には愛らしい肉球、なによりその顔はどう見ても――そのまま黒猫の顔だった。猫娘なんかじゃない。

緑色の服を着ている二本足で歩く猫だ。

大きさは普通の猫よりは大きいが、中型犬くらいだろうか?

オシャレな家猫というよりかは、ぼさぼさの毛のため野良猫っぽい雰囲気を出している。

「珍しいですね、ケット・シーが人里まで来るなんて」

キャロが呟いた。

「ケット・シー?」

はて、どこかで聞いたような。

いや、もちろん地球でも聞いたことはある。ゲームの中の設定ではお馴染みのキャラクターだ。

たしか、とても笑えるエピソードの中で。

「お願いしますニャ! 冒険者の力が必要なんですニャ!」

「だから、しつけぇって言ってるだろ! 助けたところで猫使いにされるのが関の山だろ」

体のごつい斧使いの男はそう言って足にしがみついてきたケット・シーの女性を煙たそうに追い払った。

あ、思い出した。

D(同人誌) の販売人がケット・シーにマタタビを奪われた挙句、ケット・シーの神官に強制転職させられたというエピソードがあった。

「そんなことないニャ! いまならマタタビ酒飲み放題ニャ!」

「だからそんなのいらねぇって言ってるだろ! そうだ、あそこに暇そうにしているガキ達がいるだろ。あいつらに頼めよ」

思わぬ飛び火がこちらにやってきた。

ケット・シーはこちらを見ると、その目を細めて呟いた。

「あいつら弱そうニャ」

うん、やっぱり俺は猫より 犬(オオカミ) 派だ。

まぁ、関わらなくていい問題なら関わらないでおこう。

必死なのはわかるが、それでも問題事に関わるのは御免被る。

と思ったその時、ハルが動いた。

二本の剣を抜いて。

「お客様っ!」

ギルドの受付の男の声が飛び交うなか、ハルの剣はケット・シーへと高速で、しかも何度も突き出された。

あまりの恐怖にケット・シーは動くことができない。

そして――

パラパラとケットシーの毛が落ちた。

長かった部分だけが。

スッキリ散髪され、ケット・シーの姿はぼさぼさの野良猫風から、おしゃれな家猫風になっていた。

ケット・シーは茫然自失といった感じで無言で自分の毛を触っていた。

すると、急に堰が外れたかのように大声で叫んだ。

「す……凄いニャ! なんて 迅(はや) く正確な剣士ニャ!」

ケット・シーは大興奮して鼻息荒く叫んだ。

「私のご主人様はもっと強いですよ」

そう言ってハルは自慢げに――顔は無表情だが、尻尾だけは自慢げにふりふり振って――俺を見た。

するとケット・シーは大はしゃぎでこちらに近付いてきて、

「凄いですニャ! ぜひ私を助けてほしいニャ!」

なんて言ってきた。

厄介事の予感しかしない。

ハルは俺がバカにされたことが許せずにした行為なのだろうが、さすがにこれは後で注意しないといけないな。

さて、なんと断ろうか。

すると受付の男がこちらに近付いてきて、

「ちょうどいいですね。もし彼女の依頼を受けてくださるのでしたら、冒険者ギルド内で剣を抜いたことに関する罰を免除しましょう」

なんてことを言いだした。逃げ道を完全に断たれた。

「……はぁ、まずは依頼の内容を教えてくれ」

結論から言うと、避けようとしても、まわりこまれて逃げ出せないから厄介事って言うんだよなと再認識させられただけだった。