軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミリの冒険⑥

暗殺者の操り人形(アサシンマリオネット) 。

他人を操り、思うが儘に操る闇魔法だ。

しかし、それは表向きの使い方。

ミリはその魔法を、自分自身に対して使った。

ミリが倒れていた魔術師を殺し、カッケがそれを見て笑っていた時に。

そうすることで、ミリは己の力を最大限に使うことができた。

その時の物理攻撃の威力やその速さは、物攻と速度の数値の三倍以上になる。

もちろん、それほどの力を使えば肉体は只では済まない。

暗殺者の操り人形(アサシンマリオネット) の効果が切れ、ミリを襲ったのは激しい痛みだった。

脹脛と肩が痛く、燃えるように熱い。

だが、それでもミリはその手を止めない。

ダークによってのびる触手がカッケを絞めつけた。

拳闘士、そしてデスウォーリアーもまた魔法が弱点だ。

一度捕まったら、もう逃げることはできない。

ミリはひと思いには殺さなかった。

「それで、カッケだったかしら? おにいについて情報があるって言っていたけど、それは何? 有用な情報だったら楽に殺して上げるわ」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「そう、何も言わないの。それならせいぜい苦しんで死になさい。おにいを侮辱した罪を悔いながらね」

ミリのダークの力が強くなる。

再度カッケの口から血が噴き出した。

「ミリュウちゃん、やめて! そんなことをしてもお兄さんは喜ばないよ!」

そう叫んだのは、ノルンだった。

ミリは少し目を閉じ、

「そうね、こんなことをしてもおにいは絶対に喜ばないわね」

「うん、だから」

「だから、なに? なんで私がおにいのためにこの男を殺すのを止めないといけないの?」

「え?」

「私はこの男を殺したいと思ったの。だから殺すわ。私のために」

ノルンはその時、ようやく自分が大きな間違いをしているのだと理解した。

そして、ノルンが思った新たな真実、それがミリの心の闇を如実に表していた。

ミリは兄のためにこの世界に来たのではない。

兄のために強くなっているのではない。

そして、兄のためにカッケに対し強い怒りを覚えたのではない。

ミリは、彼女は常に自分のために行動していた。

兄と一緒に過ごしたい。

兄に守られたい。

そして、兄を侮辱した相手を許せない。

ミリは最初から最後まで、全ては自分のために行動していた。

もちろん、それも兄への愛情なのかと聞かれたら、きっとそうなのだろう。

【ミリュウのレベルが上がった】

【魔王スキル:魔王の権威を取得した】

ミリの頭にメッセージが流れると、ミリはその場にカッケを捨てた。

そして、空間魔法によって中に収納していた、ダイジロウから貰ったアイテムバッグの中に入っていたポーションの入っている瓶の蓋を開けて飲み、瓶を投げ捨て、舞台を降りた。

ミリが舞台から降りると、彼女を避けるように冒険者達が移動する。

そして、ミリは真っ直ぐ冒険者ギルドの施設の中へと入って行った。

「ノルン、私は今からベラスラに向かうわ」

ミリが言う。

兄が、ミリが思っているよりも派手に動いていることがわかった。

はやく合流しないと取り返しのつかないことになるかもしれない。

そんな疑念がミリを襲ったからだ。

兄を失うわけにはいかない。

そんなことを思い、彼女はまだ回復しきっていない足を引きずり、歩いていった。

※※※

ベラスラへと続く街道。

フロアランスの町を出たミリを追いかけてくるひとつの影があった。

「どうしたの、ノルン。あれは舞台の上での出来事だし、正当防衛でもあるわ。怒られることは無いと思うけど?」

「ううん、ミリュウちゃんはやっぱり間違ってるよ。さっきも殺す必要なんてなかった。殺さなくても、もう戦える状態じゃなかったもん」

「言ったでしょ。殺したかったから殺したの。それだけよ」

「私がついていく。ミリュウちゃんをひとりで行かせたら何をするかわからないから」

ノルンは言った。

先程、自警団には辞職の意を伝えた。

マーガレットさんにきっちりとお別れを言えなかったのは残念だけど、それでもあの人ならきっとわかってくれるから、と。

それに対し、ミリは何も言わない。

彼女はわかっていた。

あそこであのように言えば、ノルンが必ずついてくることを。

それを知っていてミリは言ったのだ。

「ついてくるのは勝手にして」

ミリはそう言うと、空間魔法にしまっていたある物を取り出した。

それを見て、ノルンは小さな悲鳴を上げた。

「それ……もしかして」

「ええ、さっきの男の腕よ」

血が滴る腕を投げて、ミリは座った。

「何をしてるの?」

「ノルンはフロアランスの門番をして長いのよね。なら、このあたりに現れる魔物についてはどのくらい知っている?」

「ウサギとオオカミでしょ?」

「そうね。ウサギは白ウサギと黒ウサギがいるけれど狼はどれだけの種類がいるかしっている?」

「え?」

ノルンは考えた。

「たしか、ブラウンウルフと……稀にホワイトウルフが。あと、これは本当に眉唾物の話なんだけど……」

ノルンはその先を言うことはできなかった。

なぜなら、そこにいたのは、真っ白い毛の狼だ。

だけれど、ホワイトウルフではない。

狼王フェンリル。

ホワイトウルフの十倍はある巨大な狼がいた。

狼族の中で最も強いと言われる、おそらくはこのあたりで一番強い魔物。

ただし、目撃談は極端に少ない。

伝説の魔物に、ノルンは尻もちをついた。

ミリはこのフェンリルの出現するポイントを見つけ、新鮮な餌を用意することでおびき寄せた。

フェンリルはゆっくりとミリに近付くと、ごろんと転がり、腹を見せた。

それは狼にとっての服従の証だった。

「いい子ね。私の足になりなさい」

魔王のスキル、魔王の権威。

野生の魔物を従えるという、魔王のみが扱えるスキルだ。

ちなみに、迷宮の魔物には効果はない。

また、ミリ本人も理由はわからないが、従えた魔物を殺しても経験値が手に入らない。

テイムした魔物は殺しても経験値が入るはずなのだが。

今度は伏せの姿勢になるフェンリルの上にミリは上がった。

「ま、待って、ミリュウちゃん!」

ノルンが追いかけると、フェンリルが歯を出して威嚇の唸り声を出した。

「ダメよ、フェンリル。彼女も乗せなさい」

ミリが命令すると、フェンリルは「くぅん」と鳴いて、ノルンが乗りやすいように再度、体を伏した。

そして、ノルンがフェンリルの上に乗ると、それは走り出す。

「はや、はやいよ、ミリュウちゃん!」

「ミリでいいわ」

「え?」

「私のことはミリって呼んで」

「……うん、わかった、ミリちゃん。だからお願い、速度を緩めて」

「それはダメ!」

「いやぁぁぁ」

ふたりと一匹は南へと進んだ。

ものすごい速度で。

ノルンの悲鳴が街道にこだました。