軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

年齢

「ここがお前の実家の領地か。中々富栄えているじゃないか」

「そうだね~~王都とかソペードほどじゃないけど」

「そうだな、良きところを回してもらったからな」

のんびりとことこ馬車の旅ではあったが、当然国内旅行なので到着するときは早いもんである。

俺達三人は、迎えの護衛に守られながら城下町を進んでいた。馬車の外の風景や、或いは周囲の気配は比較的普通に感じられる。どうやらレインもそう思っているようだった。

「ただ、何時にもまして視線を集めるな。何か目立つことでもあるのか? お嬢様だって乗ってるわけじゃないのに」

「当然だろう、この馬車はソペードの家紋入りだ。私もお前もレインも、形としてはソペード本家の直臣であるし、こうしてこの馬車に乗っていてもおかしくはないが、それでもこの街では珍しいだろう」

なるほど、考えてみれば当然だ。今までは馬車に視線が集まっていても、お嬢様への視線だと思っていた。

だが、実際のところは馬車の方に視線を集めていたのだな。誰が乗っているのかはともかく、ソペード本家の馬車が護送されていれば当然だろう。

「しかし、その、なんだ……やはり、両親にお前を紹介するのは勇気がいるな」

「うん、まあそうだろうが……そう固くなるな。別にご両親との関係が悪いわけでもないだろう」

そう言って、俺は隣に座るブロワの手を取って握っていた。

不安になることはない、と優しく握ってやると、そのままブロワは顔を背けながら握られるままになっていた。

それを見てレインが目を輝かせているが、それもまあレインが喜んでいるからいいことだ、と思うことにしよう。

「そ、そうだな……私の両親は私達のことを祝福してくれるはずだ。なにせ、これでいよいよ我が家とソペード本家の関係が盤石になるのだからな」

誰にとっても悪い話ではない。娘が結婚した相手の養子が、遠からず隣国の最高権力者と結婚する。

レインからすれば俺とブロワの娘や息子は妹や弟のようなものであるし、ブロワの実家とソペード、右京と縁が切れる、ということは今後起こるまい。

大体、今回の話はもう決まっていることだ。もう誰にも止めることも、変えることもできない。

「……というか、だな、サンスイ。お前はレイン本人か娘や息子がドミノへ嫁ぐことに関してはどう思っているのだ?」

レインに聞こえないように、ブロワは訊ねてくる。

ものすごい今更なことではあるが、確かに気になるところだろう。

「その点に関しては、大分昔に解決している。俺がソペードへ正式に仕官することになったときに、お父様やお兄様とその話は済ませてあるんだ」

何分、俺達の仕事はソペード本家のお嬢様の護衛である。

その護衛の任務に就くのだから、もしもの事が起きないとは言い切れない。

なので、本格的に俺がお嬢様の護衛になるときに、レインの将来に関しては保証をいただいているのだ。

「レインがよほど嫌がればその時は考えるが、お兄様やお父様が持ち込んでくださるご縁談が、そう悪いものとは思えない。俺もレインも、そこは信頼しているつもりだ」

「……お前、前から思っていたが、前当主様や当主様をお父様とかお兄様と呼ぶことがないか? サイガ様やトオン様の事を呼び捨てにすることもあるだろう。その辺り、気を付けろよ」

うう、鋭いツッコミだった。流石は俺の妻になる女性である。

確かに俺は心中で、お兄様、お父様、祭我、トオンと呼んでいる。

それが偶に地として出ることがあるので、その指摘は適切だった。

「そうだな、正直俺は弟子を下に見ていることがあるし、お二人を慕いすぎていることもある。根が仙人なもんで礼儀を忘れそうになるから、気を付けないとな」

「お前は時々年齢がわからん時がある。なんだかんだ言って、私達がお前の身なり年恰好について詮索しなかったのは、お前の普段の言動が格好相応だったからだ。五百年も生きている割には、お前は結構子供っぽいところもあるぞ」

まあ、お嬢様を相手にたじろぐあたり、余り人間的な深みはないのだろう。

剣しかない浅はかな男、という意味では……。

「まあ……そういうところがいいのだが」

ブロワとも、お似合いなのだろう。

「私はお前の師匠にあったが……アレは確かに、悠久の時を生きた人間だと分かったよ。お前が尊敬する気持ちもわかるが……もしもお前がああだったら、お前を尊敬はしても、恋心までは抱かなかっただろう」

「おお~~」

「……レイン、今のを日記に書くか?」

「うん!」

凄い原始的な盗聴器がフル回転していた。本人は全く悪いことをしている自覚がないのも大したものである。レインは凄腕の諜報員だろう、なにせ気付いているのにどうにもできない。なんて周到な手口なんだ、お嬢様。人を使うのが上手すぎるぞ。

「うう……」

「そっか、ブロワお姉ちゃんはパパの子供っぽいところが好きなんだね?」

「殺せ……いっそ殺せ……」

久しぶりに聞いたな、クッ殺せ……昔流行っていたなあ。

「皆さま、そろそろお屋敷に到着いたしますぞ」

御者のお爺さんが俺に伝えてくれた。確かに周囲から人の気配が消えて、数が減っていく。そして、明らかにこちらを歓迎している気配、こちらへ意識を向けている気配へと馬車が近づいていく。

「……凄いな、お前のお父さんとお母さん。物凄く単純な気配だぞ」

もう、顔を見る前から、彼らの反応が瞼に浮かぶようだった。

亡国の姫君とか何百年も生きている仙人とかが親戚になるのに、心中に一切複雑な物が無かった。

「ようこそ、サンスイ殿! 我が屋敷へよく来てくださった!」

「お帰りなさい、ブロワ! 良く帰ってきたわね!」

馬車から降りた俺達を迎えたのは、ブロワの親として納得できる顔のよく似たご両親だった。俺とレインのように、どう見ても親子ではない、という不都合さは一切ない。

その一方で、ありえないほどの能天気さには一種の不安と、面倒なことが排除されている安堵があった。

ここまで諸手をあげて歓迎されるとそれはそれで怖いが、じゃあどう対応してほしかったのかといわれても具体例が出せない身ではある。

俺がどう思うかよりも、ご両親が喜んでくれていることを素直に喜ぶことにした。ブロワだって、ご両親に祝福してもらう方がいいに決まっているし。

「さあさあ、どうぞこちらへ」

「あら、ブロワ。貴女ってばうれしくて泣いているのね? 確かにこんな良い縁があるなんて思えなかったもの!」

なんか誤解されている気もするが、不都合なことは一切ないので誤解してもらっていよう。実際、説明されたらブロワがいよいよ自決しかねない。

とにかく歓迎された俺たちは、屋敷の中に入っていく。当然だが、緊張感が凄かった。とてもではないが、娘とその婚約者を迎えている雰囲気ではない。

おそらく、このご両親が俺とレインに粗相をするなと、きつく言い含めていたのだろう。

余りにもわかりやすい対応であるが、実際何も間違っていないし、おかしなことを言っているわけでもない。

執事やメイドの顔は極めて引きつっており、何とか笑顔を保っているが冷や汗も凄いことになっていた。

これも給料分だと思ってもらうしかない、要人を迎えるとはつまりそういう事であり、要人が訪れる屋敷に勤めるということはそういうことなのだ。

「今日はまず、この婚約の事を家族で祝うべく、嫁いだ娘を含めて家族を全員集めています。内内での顔合わせということですな」

「安心してね、ブロワ。皆が貴女の婚約を喜んでいるわ」

そりゃあそうだろう、と納得する。

ブロワも散々言っていたが、この婚約に一切悪いところはない。

彼らは今後、『お隣の国の最高権力者と縁続きだ』と国内の貴族に自慢できる。例え血がつながっていなくとも、ただの事実としてそうなる。

「明日からは、少々面倒なことになってしまいますが、それも親戚づきあいと思ってお付き合いしてほしい」

「近隣から貴族を集めて大きなパーティーを開きますの。社交界には余り連れ歩かれなかった貴方には窮屈と思いますけど、ほんの一時です。堪えてくださいね?」

加えて、今現在であっても周囲へ大きな顔ができる。

俺にもレインにも表向きの身よりはないが、ソペード本家の最高権力者から全面的な保証のされている二人である。現時点でもかなり自慢できるはずだ。

正直愉快ではないが、実際にただ一時我慢すればいいだけである。そこまで世俗へ拒否感や嫌悪感があるわけではない。

少なくとも、ソペードの本家の方から命じられたように、首をはねて晒し首をするよりは大分平和的である。俗物ではあっても奸物ではないし、ただ見栄を張りたいだけなのだ。お嬢様に比べれば大分控えめであるし、付き合う事もやぶさかではない。

「本当に貴女は孝行娘だわ、ブロワ」

「そうだぞ、お前のおかげで何もかもが上手くいっている。本当に感謝しているんだ」

いいや、それは少々以上に捻くれた考えだ。上から目線にもほどがある、修行が足りない。

大事なことは、ブロワとそのご両親の関係が良好だという事と……。

「あの、よろしくお願いします!」

「ああ、君がレインちゃんだね? 私はブロワの父だ。今後は私の事を祖父と思ってくれ」

「私の事も、祖母とおもってちょうだいね?」

レインが受け入れられているということだ。

変に有能で、妙な野心を持っているよりはずっといい。

俺自身取り繕うのが上手でもないし、とにかく喜ぼう。

それが双方にとって良いことだ。

「短い滞在になると思いますが、よろしくお願いします。お父さん、お母さん」

ブロワのご両親は友好的に手を伸ばしてくれている。それに対してこちらも歩み寄るのが礼儀というものだろう。

「……ハハハ! ではこちらへ!」

「ええ、新しい家族を迎えると思って、皆楽しみにしているのよ?」

俺の対応を受けて、どちらも顔に出さずとも安堵の雰囲気を出していた。

実際、俺の対応がとても好ましいものだったのだろう。俺を先導して、お二人は屋敷の中を進んでいく。

その足取りはとても軽やかだった。

「ねえパパ、ブロワお姉ちゃんのパパとママは、優しいね」

「ああ、そうだな」

俺の格好を見ても、変な潔癖さや狭量さは見せなかった。

俺の姿が有名であることもさることながら、特に拒否感がないのだろう。

利益で前が見えなくなっている、ということは考えないでおく。

「ふぅ……」

実際、ブロワも大分安堵していた。

そりゃそうだ、直接会わないと反応も何もわからないからな。

お互い愛想よくしているし、遥か格上の方々の決定の元で行動しているので、悪くなるわけもないが、それでも不測の事態は起きるものであるし。

「さあ、これが私の家族です!」

「本当は孫も呼びたかったのですけど、流石に今日のところは娘と息子だけですわ。もちろん、レインちゃんは例外ですけど」

とまあ、ここまでは拍子抜けするほど、びっくりするほど調子よくとんとん拍子で話が進んでいた。

その一方で、何が何やらなのだが……ご両親以外の全員が、その女性に視線が集まっていた。

ブロワの兄らしき青年も、ブロワの妹らしき幼女も、ブロワ本人もレインさえも、もちろん俺もその人に目が向かっていた。

「……」

凄い目力を感じる。

こっちを呪い殺すのか、という視線が俺に突き刺さっている。

無言で、無表情で、眼だけが異様に血走って俺を見ている。

その不気味さに、レインもブロワも仰天して、注目せざるを得なかった。

「では紹介しましょう、一番最初の子のシェットです」

「もう嫁いだ身ですが、孫の顔も見せてくれた孝行娘ですわ」

「……」

唯一、といっていいのか、ご両親だけはその雰囲気にまるで気付かなかった。

その上で、無言で俺を見ているシェットというお嬢さんを自慢げに紹介していた。

顔だけ見れば、雰囲気だけを抜きにすれば、おそらく美しい貴婦人になるであろう彼女は、眼だけ血走って俺を見ていた。

正しくは、俺の肌を、だが。

「どうも初めまして、シェット様。私は白黒山水、こちらは娘のレインと申します。今回歴史あるこちらの家のお嬢様と婚約ができるということで、舞い上がっています」

俺は勇気をもって前に進み、礼をした。その挙動を見て、誰もが俺に感服している。両親以外は。

そんな俺を見て、ブロワのお姉さんは……。

「……!」

近づいてより見えるようになった俺の肌を触ろうと、あろうことかレースの手袋を脱いで、素手で俺の頬を触っていた。

そして衝撃を受けたのか、目により一層の力が宿る。これ以上あったのか、という目力が宿っていた。

「五百歳……五百年……この肌……?!」

これは、アレだろうか。

ものすごい今更ながら、俺が不老長寿であることに衝撃を受けているのだろうか。

確かにカサカサなイメージがある仙人としては、肌が潤っているとは思う。それでも衝撃を受け過ぎではないだろうか。

「シェットお姉さまばかりずるいわ! 私の事も紹介してくださいな、お父様、お母様!」

それをごまかすように、子供のように振る舞うブロワの妹が俺へ抱き着いてきた。

その表情は、とても緊張していた。多分、彼女としては問題を起こさないための必死のフォローなのだろう。

「はっはっは! はしたないぞ、ライヤ! サンスイ殿が困っているではないか」

妹よりややぎこちないものの、お兄さんも俺に話しかけてくる。

気さくを装いながら、俺へ握手を求めてきた。

「私はヒータ、ブロワの兄だ。そこの少々無礼な娘は妹のライヤだ、武名名高き貴殿に会えて興奮しているのであろう、許してほしい」

「いえいえ、お恥ずかしい限りです」

ごく自然に、俺はブロワのお姉さんから離脱して、お兄さんと握手をしていた。

表情を柔らかくしてみるが、俺もお兄さんも一切気が抜けていない。

「……赤ん坊の様な、瑞々しい肌……」

人生で初めての嫉妬を感じながら、俺はなんとか切り抜けようと話題をずらす。

忘我で感触を反芻しているお姉さんから、視線をずらしていた。

「聞けば、貴殿はカプト領地で隣国の最高権力者にお会いしたそうじゃないか。私は彼の事を知りたくてね。良ければ後で教えて欲しい」

「ああ、お兄様ずるいわ! 私も聞きたいのに!」

小芝居を挟んで、なんとか切り抜けようとする俺達。

そんな三人を見て……。

「おやおや、あんまり困らせてはいけないよ」

「そうよ、長旅でお疲れなんですから」

空気を読めない、を通り越して現状認識能力に問題があるらしいブロワのご両親は、ヒータお兄さんとライヤちゃんをいさめていた。

違うんです、俺達を困らせているのはシェットお姉さまなんです。

気づいてください、そしてできれば退席させてください。正直、眼力が恐ろしすぎる。

「シェットお姉さま……?」

「若い、ぴちぴちの肌……」

昔の記憶と違いすぎる己の姉に困惑しているブロワに、レインは涙をこらえながらしがみついていた。

そうだよ、なんか怖いんだよ、この人!