軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

助言

俺は五百年間深い森の中で、ひたすら修行に明け暮れていた。

ブロワは魔法と剣の修行をしたり、お嬢様の護衛をし続けていた。

レインは、そんな俺達の背中しか見てこなかった訳で。

「ということで、お知恵を拝借できればなと……」

俺が数カ月この学園を留守にするということで、この学園で指導している面々は自主特訓を行うということになってしまった。

よく考えたら俺個人としては慈善事業だったので、謝罪するのもなんかおかしい気もするが、そもそも俺だって俺の師匠に一銭も払ってないので指導を放り投げたことは素直に謝っていた。

その上で、師範代的なことをお願いするトオンと、ついでにテンペラの里から帰ってきた祭我に訊ねていた。

「えっと……結婚おめでとうって言えばいいのかな……」

祭我はこういう時どうアドバイスをすればいいのかわからないらしく、硬直していた。

しかし、トオンは爽やかに笑い、嬉しそうに笑っている。

「いやあ、我が師であるサンスイ殿は、女性の扱いには不慣れと見える。そうしたところは見た目相応なのだな」

「お願いします! トオン様!」

鼻息も荒く、レインがトオンに頼んでいる。

多分、理想の父親像ではないとしても、理想の恋人像としては大分近いのだろう。

確かに俺から見ても、そう言う所は結構ある。少なくとも、お嬢様だってめろめろであるし。

「申し訳ありません、トオン様。我らはその……武に生きてきた身ですので」

「いやいや、ブロワ殿。こういうことであっても力になれることは嬉しいです、なにせお二人には助けられてばかり! こういう時に助言をできるのは、借りが幾分か返せる気になるのですよ」

ブロワは恥ずかしそうに頼んでいた。そりゃそうだ、何から何まで恥ずかしい話である。

トオンは上機嫌に笑う姿もイケメンである。やはり何をやってもかっこいいからイケメンなのだと感心してしまう。

はっきり言って、所謂主人公っぽい祭我とは、その辺りが全然違うな。もちろん俺とも雲泥の差である。

「ではまず基本から……何気なく女性を美しいと、魅力的だと感じれば、そこを言葉と態度で示しながら褒めることですな」

一つ目のアドバイスからしてイケメンだった。

これを彼以外がやったら確実にセクハラである。

確かに彼がやれば女性はとても喜ぶだろうが、俺がやって大丈夫なのだろうか。

「え、そうなの?」

「はっはっは! サイガよ、我が義理の弟よ。女性という方は、まずありふれていても当然でも、まずは言葉にしてもらいたがるのだ。いつもと変わらない髪型であっても、いつもきれいに整えているね、と褒めるだけで嬉しいものだよ」

だからそれはイケメン限定である。

俺も祭我も、地球での『セクハラ』を良く知っているので、その辺りの事はどうしても気が引けてしまうのだ。

いや、でもまあ俺とブロワは職場の同僚ではあるが、それ以上に婚約関係になるのだし言わない方がおかしいのだろうか。

「そんなのでいいの?!」

「それでいい、というよりはそれが大事なのだ。日々美しくあろうとしている女性のこだわりに、常日頃から敬意と感謝を示すのだよ。彼女達の苦労に見合った賞賛を怠れば、彼女たちは気分を悪くしてしまうからね」

凄いな……身も心もイケメンだな。

レインなんて、目を輝かせてそのままお嫁さんにしてくださいとか言い出しそうである。

ブロワもチラチラと俺の事を見ているし、実際にそうして欲しいのかもしれない。

しかし、日ごろの感謝が大事というのは、武術の研鑽にも言えることだ。そういうことを怠ると、いい修行にならないものである。

「記念日などに豪華なプレゼントを贈る、これも大事だが普段から手抜きをしていれば、そうしたこちらの渾身の気遣いも空振りに終わってしまう。都合のいい時だけ好意を金で買おうとしている、と思われることもしばしばだぞ」

気づいたら俺だけじゃなくて、祭我や周辺の面々も聞き入っていた。

皆、勘違いしたら駄目だぞ。これはイケメンが実行するか、相手が恋人や奥さんの場合にだけ効果があることなんだぞ。

「今日もきれいだ、と一言言うだけでも大分違う。ただし、手抜きや惰性で言うのではなく、挨拶の様に気持ちを込めて口にするのだ。そうでなければ、女性というものはあっさりと見抜いて白けてしまうからな」

コイツ、故郷ではさぞモテモテだったのだろう。この男と結婚できるお嬢様は、それこそ人を引き寄せる運がありすぎるのではないだろうか。

「しかし、こうなるとサンスイ殿はともかくサイガのことも心配だな。君は妹と普段どう接しているのだ? 兄として気になるところだが……」

「え? スナエとは……」

「君は凶憑きを随分かまっているそうじゃないか。もちろん彼女を軽く扱えとはいかないが、それならそれできっちりと妹や他の女性にも感謝や好意を示さねばならないぞ。仮にも一国の王女を娶るのだ、器量の大きさを見せて欲しいな」

駄目だ、ハーレム系主人公とリアルにハーレムがいそうな王子では勝負になってない。

みんな大好きだよを地で行きそうなトオンと、好意を断れなくてずるずる女の子を増やしていく祭我では、器量の違いが如実に過ぎる。

というか、その辺り本気で笑い話にならないことを体験していそうだしな。

「パパ! トオン様が言ったみたいに、ブロワお姉ちゃんを褒めて!」

ぐいぐいいくなあ、レイン。今までどれだけ我慢していたのだろう。

感心しているばかりだった俺に対して、注文を付けてきた。確かに、今ここで実践せねば教えを受けている側としては申し訳ない。

尚、周囲には俺が指導している面々が揃っており、遠くから学園長先生やお嬢様、また生徒や教師もいる。

肝心のブロワはというと、咳払いして続きを促していた。

ブロワ的には、このシチュエーションでも文句はないらしい。

「着ている服が、いつもカッコイイねって!」

「レイン、ブロワは別に好き好んでこんな格好しているわけじゃないんだぞ」

「え、そうなの?!」

「これはお嬢様の趣味だ」

レインの心無い言葉を受けて、ブロワは微妙に哀しそうだった。

いつもズボンではあるのだが、偶にはスカートを穿きたいといつも思っているのである。

まあレインにとっては、ブロワは何時も男装しているのが普通なので、それを褒めると喜ばれると思ったようだが。

「いいんだ……確かに風の魔法で飛ぶと、スカートは悲惨なことになるからいいんだ……」

レインにどう思われているのか知って、涙目なブロワ。

彼女もレインが赤ん坊のころから世話をしていたので、レインを娘のように思っている。

にもかかわらず、娘に『好きで男装をしている』と思われていたことが哀しいようだった。

そんな彼女の肩に手を置いて、おれは慰める。

「ブロワ、道中は俺がお前を守るから、スカートを穿いてくれ。俺も見たいから……」

「ああ……わかった……うん……」

皆の前で、気が利くところを見せられたとは思う。

それを嬉しく思っているわけではないだろうが、ブロワは俺に感謝を向けていた。

それは気配を察しなくてもわかることである。

「ブロワお姉ちゃん、ごめんなさい……」

「いいんだ、レイン……私も今回はおしゃれをして見せる……」

これが青春を犠牲にした少女の姿か……。

一般人からすれば永遠の命を得たに等しいであろう俺は、レインだけではなくブロワを幸せにして見せると意気込むのであった。

「ブロワに関しては私が善処しますので、その間トオン様には何かとご迷惑をおかけします。よろしければ、祭我様もご協力の程を……」

「気にしなくていいって、俺もハピネのお父さんからいろいろ頼まれてるし」

本当に国家単位で俺の休暇が推奨されて、全体で補われようとしていたのか。

俺は何時からそんな大物になったのだろうか。ここに来てから、知らず知らずのうちに色々と役割を背負っていたのかもしれない。

その辺りの事を、全体で危惧していたのだろう。

「サンスイ殿、私は貴方に弟子入りして、本当に感謝している」

トオンは、とてもまじめな顔で俺の両手をとっていた。

彼の手もまた、剣士の掌だった。

「ドゥーウェ殿に関しても同様だ、私はソペードに返しきれない恩義がある。貴方達に恩を多少でも返せるのであれば、こんな嬉しい話はない。ブロワ殿もサンスイ殿も、もちろんご息女のレイン嬢も、今回の旅行では羽を伸ばしていただきたい」

ううむ、やっぱりこの人がいると安心感が違うなあ。

正直、祭我だけ残していくとなったら相当不安だろう。

強いとか弱いとかではなく、問題解決能力に雲泥の差がある。

「それは私も同様ですよ、貴方のように素晴らしい人にお嬢様をお任せできるというのは、とてもありがたいことです」

「はい、私からもよろしくお願いします。やはり私達二人は貴方にならお嬢様をお任せしたい」

気位の高いお嬢様を満足させられる、顔も性格も戦闘能力も地位も頭脳も、ユーモアさえ兼ね備える想像しうる限り最高の男。

戦闘能力なら俺やブロワで十分だったが、人間的にはどうしても満足させることはできなかった。

「はっはっは! それではハネムーンを楽しんでくるといい!」

こういう安心感を皆が俺に集めていたのかと思うと、それは買い被りの様な気がしてくるのだが。

とにかく、俺は五年ぶりにお嬢様の元を長期で離れることになるのだった。