軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

試合

俺の名前は瑞、祭我。ついこないだまでは普通に日本の高校に通っていたただの男子生徒だったんだ。

「いやあすまんすまん、ラーメン食ってたら君の寿命の蝋燭を消しちゃってさあ」

神様のミスで死んでしまい、異世界で暮すことになってしまった。

正直当時はパニック状態で、何が何だかわからなかった。

というか、寿命が蝋燭で決まっているって……。

「あれじゃよ、ほら、異世界で暮せるようにしたから」

ものすごく軽い調子で、俺のこれからの人生は決まってしまっていた。

「なんか要望ある? まあいきなりあれせいこれせいと言ってもわからんじゃろうし、何かやりたいことがあるわけでもないじゃろうしなあ」

そうして、あれよあれよと言う間にいつの間にか、色々なものを押し付けられていた。

「正直悪いとは思っとるんでな、選択が広がるようにしてやった。ま、楽しむが良かろうさ」

そんな感じで、一方的に俺は異世界に転移していた。

ざっくりいうと、俺に与えられた力は物凄く単純で、しかも規格外のものだった。

この世界には魔法の他に、魔法とは全く違う技術があって、それぞれ先天的に使えるものが決まっているらしい。

魔法と言うのは所謂『土』『水』『火』『風』の四種類を操るもので、RPG的な魔法とそんなに変わりは無い。

例えば一体を攻撃するか、多数を攻撃するか、剣に纏わせるか。あとは属性が違う程度の差で、物凄く単純なものだった。

ただ魔法を使うには魔力というMPが必要で、ごく一部の人はそれを持っていない。

その人たちは状態異常を引き起こす呪術、を使うための呪力。防御や回復を行う法術、を使うための聖力。獣に変身することができる神降ろし、それを使用するための王気というエネルギーをもっている。

つまり、先天的に誰がどの術を使えるかは完全に決まっている。

どんな大魔法使いでも、初歩的な呪術や法術は使えないのだ。

だけど、俺にはそれができる。普段は法術しか使えない、と言うことにしているけど実際には魔法も呪術も神降ろしも全部使えるのだ。

それだけじゃなくて、この世界ではすでに失われてしまっている、未来予知を行う占術と、それを使うための時力も持っていた。

これが強かった。なにせ相手の攻撃の一瞬前が見えるので、どう動けばいいのかその場その場でわかったんだから。

魔法も使えるし、占術のおかげで剣術も凄い。身体能力も大幅に高くなっていて、俺はどんどん周囲から認められていった。

大貴族の娘で、少し気が強いところがあるけど甘えてくると可愛い、ハピネ・バトラブ。

遠い南方の国のお姫様で、俺でも苦戦させられた強い女戦士、マジャン=スナエ。

呪術師の家系で、呪術が使えるけどあまり好きではない、引っ込み思案のツガー・セイブ。

他にもたくさんの女の子たちと仲良くなっていったんだけど、やっぱり異世界転移の宿命なのかみんなに振り回されっぱなしで大変だった。

今だってハピネが通いたいっていうこの世界の学校に俺も通うことになったし、法術をみんなの前で披露することにもなってしまった。

希少だと言われていても、法術は唯一の回復魔法なので、呪術とかに比べて使用者が多い。

だから使うまでもないと思っていたんだけど、あんまり深く追及されるのも嫌なんで、使うことも受けていた。

そして、俺達の他にも希少魔法の使い手とも顔を合わせることになっていた。

驚くことに、簡単な和服と草履だったけども、少なくとも日本人だった。

昔の日本人は背が低かったというし、多分俺と背の高さも一緒だったから、この世界で初めて出会った日本人だと思う。

それに、希少魔法の使い手なんだから、俺と同じなんだと思っていた。それに、童顔の剣聖とか言われているし。

仲良くなりたいな、と思っていたらハピネの癇癪で戦うことになってしまった。

たぶん、学園長先生というのは物凄く意地悪な人だと思う。

実は人と戦うのは初めてじゃない。この世界に魔王とか人語を喋る獣とかはいなかったけども、やっぱりこの世界にも悪人はいた。

占術で予知できなかったら危ない、っていうことも何度もあった。

だから戦闘経験は、この世界に来てからは豊富なんだけども……。

「この国最強の剣聖か……」

仙術という俺が知らない希少魔法の使い手と言うことで、正直期待もしていた。

俺は確かに魔法を含めてあらゆる希少魔法の才能があるけども、神降ろしをスナエから習ったり、占術のことを本で読んだように、学ばないと流石に習得できない。

仙術を使うためのエネルギーも俺の中にあるはずなので、できればやり方を習いたかったのだが……。

ふわ~~と浮かんだところを見て、その気は結構失せていた。

「なあ、ちょっと聞きたいんだけど、君ってもしかして日本人?」

「ああ、そうだ。そういう君も日本人かい?」

「そうかそうか、やっぱりな」

でも、戦う前に話をすると結構いい奴の様だった。

見るからに血のつながっていない子から慕われていた辺り、悪い奴ではないと思う。

まあ、コイツが仕えているドゥーウェ・ソペードっていうお嬢さんは、結構どうかと思うところがあったけど。

はっきり言ってウチのハピネにも悪いとことはあったと思うけど、それでもあの煽り方は無かったと思う。

「なんていうか、学園長先生も人が悪いよな。俺達が同郷だって感づいているってのに戦わせるなんて。多分俺達が希少魔法を使って戦うところを見たいだけだぜ?」

「そうだな。でもやるからには全力で戦うよ」

「ああ、俺は雇われの身だからその辺り切実でね。全力で勝ちに行かせてもらうよ」

童顔の剣聖、そう呼ばれる白黒山水は、確かに俺よりも年下に見える顔だった。

そんな彼と、俺は握手を交わしていた。

「お互い頑張ろうな」

「ああ」

生徒や教師の前で戦う以上、法術だけで戦わないといけないが、それでも目立たない占術は十分使える。

それにそもそも法術は戦闘仕様にもできるので、十分強い。

それに対してふわ~~と浮かぶ魔法で何ができるのかわからないが、油断は禁物だ。

この国で一番強いっていうのが嘘だとも思えないし、もしかしたら隠し玉でもあるのかもしれない。

強敵の予感にワクワクしながら、俺は運動場に出た。

そこではすでに大講堂にいた教師や生徒が、いいやそれ以上の観客がスタンバイしていた。

運動場と言うか、コロッセオに近いと思う。

「ここはキメラやゴーレムを戦わせることもある運動場だから、安心して暴れてちょうだいね」

コロッセオそのものだった。

学園長先生の発言を聞いて、俺は少し嫌な気分になる。

まさかここまで見世物になるとは。

「キメラにゴーレムか……業が深い」

何やら黙とうをささげているような山水は、それでもすぐに切り上げて俺と対峙した。

大講堂と同じ着流しに、木刀。極めて単純なスタイルだった。

本当にあの格好で戦うのだろうか。俺だってブレザー一丁だけど、腰に差している剣はハピネのお父さんから婚約祝いにもらった、魔法の剣だ。

この魔法の剣は、魔法を剣に帯びさせた時、とても強い効果を発揮することができる。

もちろんばれると色々厄介なので、この場では使えないけども。

「おお! あれが剣聖か!」

「すっげえな、本当に法術使いとあの格好で戦うのかよ?!」

「法術って回復魔法だろ?」

「バッカだなあお前、法術だって戦士が使えば立派な戦闘魔法さ!」

観客たちの声が少し耳障りだけど、分かることもある。やっぱり目の前の山水は有名人の様だ。

この国最強の呼び名は伊達じゃないらしく、皆が知っていて当然らしい。

「サイガ~~! 負けたら承知しないからね~~!」

ハピネの応援と言うか、脅しが聞こえてくる。負けたらきっと、とんでもなく無茶を言うに違いない。

「サイガ! 必ず勝てよ! 我が一族に婿入りするのであれば、国一番に勝つなど当たり前だ!」

スナエの応援が聞こえてくる。武者修行中の彼女は、俺と戦う前もそんなことを言っていたような気がする。

「サイガ様! ケガをなさらないでくださ~~い!」

ツガーの俺を心配する声が聞こえてきた。確かに相手は国一番の剣士、スナエと戦ったように、腕にケガをする程度では済まされないだろう。

「サンスイ、私の剣である貴方に無様は許されないわ。勝ちなさい、それはもう鮮やかに」

「サンスイ、相手はバトラブ家の令嬢と婚約するほどの実力者だ。油断するなよ!」

一方で、山水に向けての声援も聞こえてくる。

「パパ、頑張って~~~!」

うん、子供も見てるのか……。彼にも負けられない理由があるんだな。

だが、やるからには手加減は無しだ。このままの条件でも、必ず勝って見せる!

「では、二人とも始めてください」

学園長先生の声が聞こえてきた。どうやらこのまま戦う流れの様である。

とはいえ、俺と山水の距離はかなり離れているし、いきなり飛びかかってきそうでもない。

まずは防御を固める!

「ブライト・アーマー!」

さっき大講堂で披露した魔法は壁を作る魔法だった。今使った魔法は、自分の体を光の鎧で守る魔法だ。

正しく言うと法術だけど、とにかく実体のない鎧なので、重さも感じないし持ち運ぶ必要もない。

こうして防御を固めれば、神降ろしをしたスナエが相手でもないと、ケガなんてしないからな。

「へえ……それが法術か」

感心している山水は、木刀を中段に構えたまま動かなかった。

この光の鎧を軽く見ているのか、それとも自信があるのか。それは分からないが、とにかく動いてこない。

もしかして、カウンターを狙っているのだろうか。

「……攻めてこないのか?」

「ああ、そっちから来るかなと思って」

俺が防御魔法を唱えてから、どっちも全く動いてない。

このまま待っていたら、多分ハピネに怒られるだろう。

とはいえ、先に防御を固めたのはこっちで、それまで動いていないのだから、相手に手番を譲りたかった。

「まあいいか、それじゃあこっちから……」

!!

俺は直後脳内に占術による予知がよぎった。

一瞬で移動してきた山水が、俺の脳天に木刀をたたきつけるというものだ。

俺の魔法はちゃんと兜も作っているが、それをあっさりとぶち破られるという予知だった。

「不味い!」

驚いている間に、瞬間移動でもしたように目の前へ山水が移動していた。

カウンターを入れるのではなく、防御しようとした俺はとっさに剣で頭上を守った。

そして、その俺の視界をふさぐ形で何かが迫って……そこで俺の意識は途切れている。

シュレディンガーの猫という思考実験がある。

観測するという行為が、その対象に影響を与えるというものだ。

確かそういう話だったと思う。

何が言いたいのかと言うと、結構な遠間で向き合っていた俺と祭我君は、とりあえず祭我君が自分を防御魔法で覆うところで始まった。

幸い、頭を守ってくれているので、後は頭をブッ叩くだけである。

カウンターを、後の先を狙おうかと思っていたのだが、どうやらこっちに順番を譲ってくれたらしい。

なので縮地で接近して、そのまま気功剣で頭を叩こうと思ったのだが、縮地を使う前に彼の体がこわばっていた。

今の今まで、テンプレ主人公のように一切の恐怖を抱いていなかった彼は、俺に頭を叩かれると分かったかのように身を固めていたのである。

ああ、やっぱりコイツ他にも何か使えるな。

俺は仙術しか使えないのだが、どうやら彼は他にも色々使えるようである。

いくら何でも、未来予知が法術でできるのならば、それはさっきの学園長先生の説明であったはずだからだ。

つまりコイツは、多分だが未来を予知して、俺の攻撃に備えたのだ。

それを確認するために、俺は縮地を実際に使う。縮地とは、端的に言ってワープだ。

短い距離でしか使えないし、自分一人だけしかできないのだが、それでも殆ど前触れなく一瞬で移動できる。

そして、俺が上段で兜割をしようとすると、察知していた彼はそのまま金属の剣で受けようとする。

馬鹿正直にこのまま倒してもどうかと思うので、俺は寸前で剣を止めて左手を放し、踏み込みながら掌底を、発勁を放つ。

自然のエネルギーを、掌から放つこの打撃は、さて彼の魔法でできた兜を打ち破るのかと思っていたら……そのまま昏倒させていた。

「……うん、こんなもんか」

たまに無理難題を吹っかけられることもあるので、こういう戦いは別に珍しくもない。

問題は、見ていてちっとも面白くないということだろう。

だって、俺は一瞬で移動して掌で打撃を顔面に入れただけなのだ。

見てて楽しいわけがない。

「あら……ひょっとして、もう試合終了?」

学園長先生の言葉もむなしい。

きっとこう、見たこともない魔法と魔法のぶつかりあいが見たかったんだろうなあ。

まあ、予知と読心のぶつかり合いは俺にはできたのだが。

「ええ、終わりですよ学園長先生」

俺は腰に木刀を刺してお嬢様たちの所へ向かう。

そして、勝利を飾った俺を迎えるお嬢様の顔は……。

「貴方って、本当に地味ね。凄いのは分かるけど」

「すみません」

それでも、楽しそうだった。

なにせVIP席にいるハピネを含めたサイガの取り巻きが、それはもう唖然呆然で口を開けたままにしていたのだから。

確かにまあ、試合開始して一分経ってなかったしな。

常人の目で追えるもんじゃないし、追えたとしてもあっけなさに呆然としていただろう。

「パパ、凄いね! もうやっつけちゃったんだ!」

目を輝かせるレインを抱きしめて、頭を撫でてやる。

うむ、やっぱり俺の娘は可愛いなあ……。

「流石だな……しかし、素手で打ったのはなぜだ?」

動きをほぼ見切っていたブロワは、俺の攻防が見えていたらしい。

流石だなっていうか、コイツが流石である。

「あいつは俺の攻撃を読んでいた。だから途中まではそれに沿って攻撃して、そこから修正して打撃を当てただけだ」

「お前の剣術を、初見でか?! 私でも未だに見破れていないのにか?!」

「あいつ、剣は素人に近いな。多分、なんか種があるんだろう」

要するに、ただの後出しじゃんけんである。

例えば俺がグーを出すと思って、祭我は未来を予知したのかパーを出そうとした。

しかし俺は大雑把ながら読心によって、それをさらに読んでチョキを出した。

ただそれだけの事である。

ただ、あいつの予知はあくまでも、このままだとこうなることがわかる、程度のものだ。そこまで万能じゃない。

というか仮に、完全に確定している予知ができるのだとしたら、それこそ戦闘じゃあ意味ないしな。

だって、俺が頭を叩き割ろうとして、それを予知した段階で抵抗の余地ないし。

あいつの予知で見た未来は、行動によって変えられる。そしてその行動の前段階を俺は見切ることができる。

普通にリラックスして中段に構えていた剣が、いきなり慌てはじめりゃ、そりゃあわかるってもんだ。

「攻撃が来る、来るってこわばりすぎて、そのまま無防備な顔に一撃入れただけだ」

「うむ、凄まじいな……」

「やっぱりブロワが一番だわ。貴方の説明を聞いても、ちっとも面白くないもの」

お嬢様の心無い言葉が刺さる。

そりゃそうだと思いますけど、実際に言うのはどうかと思います。

「まあ、私以上に学園長先生ががっかりしているので、そこは評価してあげるわ。それじゃあ今日の授業はここまでみたいだし、このまま屋敷に行きましょうか」

レインと手を繋いで、お嬢様は陽気に歩いていく。その後を俺とブロワが付いていく。

今までと何も変わらない、今まで通りの光景だった。

そして……。

「サイガ~~~!?」

俺達の背後で、絶叫したハピネがどたばたと駆けていく。

「サイガ、サイガ! 頭を打ったな?! 意識はあるか?! 動くなよ?!」

顔を打たれたことで深刻さを察したスナエが、慌てて飛び降りていく。

「サイガ様、ああ……」

余りの光景に、そのまま崩れ落ちて倒れるツガー。

あいつのハーレム要員たちは、何ともテンプレすぎる反応を見せていた。

「今日は新しい環境に来たから、気分がいいわね」

いいえ、同格の相手を公然の場で打ち負かせられたからです。

とはいえ、今のあいつが相手なら、早々負けることは無いだろう。

これから先何度か無茶ぶりをされたとしても、一対一だろうが十対一だろうが負ける気はしないな。

それも、相手が今のままならだが。

五百年の鍛錬はそれなりに自負もあるが、なにせ相手は俺と同じで神様によって転移させられてきた奴だ。

どんなインチキをしてきても、全くさっぱり不思議でもない。

とはいえ、それでも勝たねばならんのだが。