軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

相談

「貴方は多くの魔法を習得しているけども、その中でも異常なのは占術よ。貴方はちょっと本を読んだだけでそれを習得した。初歩だけどね」

その言葉は、教育者としてのプライドに関わる問題だった。

正蔵やランの様な、有り余る力を持つのなら、そうした些細なきっかけで習得できることはわかる。

しかし、その割にはその後の覚えがとても悪い。ここまでが限界だ、と言わんばかりではあるが、それにしてもは他の魔法はそれなりには成長している。

「結論から先に言うけど、貴方は最初の段階だけは何かの働きによって覚えがいいのよ。それこそ、軽く本を読む程度で習得できる程度には」

そもそも、如何に指南書があったとしても、指導者不在の状況で簡単に覚えられるわけがないのだ。

だからこそ、最初の一歩だけは何かの手助けがあるのだろう。

その辺りに関しても興味はあるが、確実なことは『基礎中の基礎だけは簡単に覚えられる』ということ。

「サンスイ君なら悪血を持つ者を見分けられるわ。その誰かに憶えてもらうというのもあるけど、凶憑きであるランちゃん自身には魔法を使っているという自覚もない。つまり、教わり様がないのよね」

凶憑きの効果は、エッケザックスが語った通りだろう。

つまり、人間の運動能力や反射神経などを大幅に底上げする力である。

ということは、彼女に限らず凶憑きは、魔法を使って自分を強化している状態が普通なのだ。

普段と違うことをしているという意識がない以上、教えようと思っても難しいだろう。

しかし、或いは祭我なら。

「それは……そうかもしれませんが」

少なくとも、心惹かれるものがある。

確かに自分にしかできないことだろう。

魔法を学ぶことができない生徒に、可能性の光を与える。

嫌なら嫌で別にいい。学ばないという選択肢もあるだろう。

だが、学ぶという選択肢、自分の資質を知る機会もないというのは……。

「ダメ」

はっきりと、ハピネがそれを止めていた。

「簡単に後見人なんてできるわけないでしょう、学園長。相手は狂戦士よ、それもエッケザックスが強いというほどの」

切り札なら簡単に抑えられる。しかし、それ以外では相性を考えなければならない。これはとても強大な狂犬だ。

それを客扱いにするということは、何か問題を起こした時にバトラブが責任を負うということである。

「放っておけば暴れ出す、そんなのの身元引受人なんて御免だわ」

ハピネの言葉はもっともだった。

というか、祭我はバトラブの婿になる男。つまり、バトラブの意向に反することはできない。

そして、彼女の言葉は、それこそ常識的で当然極まりなかった。

損をするのは一方的にバトラブであり、その判断を下すのはハピネかその父だった。

「あら残念」

その辺りはわかっているのか、学園長はあっさりと引いていた。

そして、双方が引き下がった以上祭我はそれ以上話を進めることはできなかった。

ただ、その言葉に引かれるものがあった故に、どうしようもなく心に何かが残っていた。

「ちょっと、こっち来なさいサイガ」

それを察したのか、ハピネは祭我の手を引いて部屋を出て行く。

それに続いて、バトラブの面々は部屋から出て行った。

そんな若人たちを、学園長はにこやかに笑いながら見送っている。

その心中は、察することしか出来まい。少なくとも、害をなす笑みには見えなかった。

そして、ランの寝ている部屋から出た一行は、適当な部屋に入って話を始めた。

責め立てられるのは、当然祭我である。

ハピネは当然の事、ツガーも不満そうな顔をしていた。

「サイガ、貴方迷ってるわね」

「そうですよね、普段からとても悲しげでした」

おそらく、よほどわかりやすかったのだろう。

その言葉には、もしかしたら、という疑いがなかった。

「……うん、正直迷っていた。このまま器用貧乏になるんじゃないかって」

対応できる幅の広さが自分の持ち味だと思っていた。

そして、実際に大抵の場合では問題がない。

そもそも法術で身を固めて、魔法で攻撃して、神剣で強化増幅できるのであれば、その時点で余計なものはほぼない。

それをさらに付け足していって、更に強くなって、隙は無くなっていく。

それはそれでいい。しかし、専門家には及ばない面も多々ある。それは果たして、強いと言えるのだろうか。

「昔だったら迷わず新しい魔法を覚えていたと思うし、学園長に言われるまでもなく他の人に教えていたと思う。でも今は……うん、やっぱり迷っている。それで、今回の話はいい話だと思えた」

素直に祭我は心中を明かしていた。

はっきり言って、今回の発案は救いのように思えた。

まさに、自分にしかできないことで、誰かのためになると思えたのだ。

「まあ、学園長も何から何まで本気じゃないでしょうね。もしも根っから貴方を利用するつもりなら、貴方と一人で話して丸め込んでいるはずだもの」

そもそも、詐欺師が『私のために協力して』とは言うまい。

態々学園の為に、というのは、断りやすくするためだろう。

「こういう時、どうすればいいと思う? 私達に相談しなさい!」

「そうですよ、そりゃあ戦闘ではお役に立てませんけど、お話をするだけでも楽になれますよ!」

「そういうことだ。お前は我らの男で、我らはお前の女だ。その辺り、胸襟を開いて話すのは当然だろう」

女が三人男を囲んで問い詰める、その状況は正に窮地だった。完全包囲網完成である。

「そ、それはそうだった……うん、ごめん」

「とにかく……一番肝心なことは何だと思う? あの子を、あの子達をどうするかでしょう。殺したいの、殺したくないの。どっち?」

「……殺したくない。できるなら、だけど」

なにがなんでも殺したいか、というとそうでもない。

そもそも、彼女はなにか悪さをしたわけではないのだから、殺したいとは思えない。

まあ、生かしておくと何かと面倒なようにも思えるのだが。少なくとも、積極的に殺そうとは思えなかった。

「じゃあ、まずその方向で考えましょう。殺すしかない時は殺すとしても、できるなら殺さない方法をみんなで相談ね」

ハピネの言葉に、皆が頷いていた。

どうすれば彼女を殺さずに済むのか、それをこの場の面々でまず話し合うべきであろう。

「それで、どうなの? エッケザックスは狂戦士に関してどれぐらい知っているの?」

「我が知っておるのは、倒し方と性質じゃな。スイボクは仙人ゆえに希少魔法の天才だと見抜き、それを悪血と呼んでおった。ただそれだけじゃ」

凶憑き。それは超人的な力を発揮する高性能な人間である。

それを倒す方法は、割と世界で多く知られている。

数で叩いて疲れさせる、防御を固めて疲れさせる、相手の視界の外から攻撃する。

などなど、難しい相手ではあるが絶対に倒せない相手ではなかった。

そのあたり、エッケザックスがいちいち説明する必要はない。

「強いて言えば、凶憑きとは『自己強化の副作用として興奮状態になる魔法』の使い手であり、同時にそれが『常時発動状態』になっているともいえる。故に危険なのだ、という事じゃな」

「凄い迷惑ですね」

ツガーの言葉は深刻だった。

強い弱いはともかく、常に興奮している状態の戦士など迷惑以外の何物でもない。

きっと、隠れ里の者たちも彼女が里を出たことに安どしているのだろう。

「でも今は悪血が尽きて、まともに魔法が使えない。だから自己修復もできず疲労で倒れていると……どれぐらいで回復するのかしら?」

「わからん。そもそも、力尽きた凶憑きは大抵殺されるからの」

力尽きていれば安全だ、という当たり前の結論に達した。

そりゃそうだ、力尽きていたらどんな猛獣でも安全である。

問題は、どうやって力尽きさせるか、或いは他の方法でおとなしくさせるかである。

「呪術で縛るというのはどうだ? 聞いた話では、お前の兄がカプトの切り札にそうした術を施しているらしいぞ。どうなのだ、ツガー」

「で、できなくはないですけど、それって相手からの同意を得ないと難しいんです……っていうか、同意がないと無理です……」

スナエの言葉に対して、ツガーが専門家として否定していた。

大人しくしないと石にするぞ、はいわかりました。

そんな相手なら、そもそも呪術で拘束する必要がない。

「それに、常に発動状態なんですよね? 本人が魔法を使っている、という意識がない以上は呪術では縛りにくいです」

正蔵にとって、魔法を使うというのはある程度意識するものである。

少なくとも、常に魔法を使いっぱなしというわけではない。

しかし、彼女にとっては魔法を使っていることが自然なのだ。だとすれば、魔法を使うなと言われても理解できまい。

「というか……彼女は常に魔法を発動しているのなら、ずっと石にするようなものですよ」

「そうか……すまんな」

「いいえ、私こそお役に立てず……」

とりあえず呪術で縛ることは無理ということになった。

無理だ、ということが分かっただけでも一歩前進である。

「やっぱり、常に興奮しっぱなしなのが問題よね……ねえエッケザックス、相手の魔法を封じる魔法とかない?」

「知らぬ。我もこの世のすべてを知っているわけではないしの」

うむむ……と暗礁に乗り上げた。

きっと、正蔵に関してカプトの面々も同じことを考えたに違いない。

放っておけば死ぬ相手を生かすのは、とても難しいように感じられた。

「……やっぱり、なんでもできるってわけじゃないな」

別に全知全能になりたいわけではないが、人ひとり抑えることもできないこの状況は余りにも情けなかった。

なぜここまで彼女や、彼女の取り巻きに感情移入しているのか、と聞かれると上手く言語化できない。

しかし、その一方で性欲とかそういうものではなく、単純に彼女に生きて欲しいと思えていた。

「というか、こうなると最初から彼女から凶憑きを習うのも無理だったんじゃ……」

「……それよ!」

学園長からの宿題、課題を思い出して愚痴るツガーに対して、ハピネが声を上げていた。

そう、意外なほどの盲点がそこにあった。

もしかしたら、それに気づくことも学園長からの意図があったかもしれないが、とにかく目指すべき地点は見えた。

「サイガ! 貴方にも悪血は流れていて、初歩に関しては憶えるのも早いのよね?!」

「う、うん……」

「だったら、まず凶憑きになる方法を憶えて、それを解除する方法も憶えて、それをランに教えればいいじゃない!」

それはそれで難しいが、とにかく解決策は見つかった。

バトラブ一行は、テンペラの里の者に示す言葉を見つけたのである。