軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

主体

冷遇されていると思われても仕方がないほど、正蔵の住む家は辺鄙な所に建てられていた。

物流から切り離されたそこに、正蔵はこの国に訪れてから数年間、ずっとここで暮している。

一度慣れれば、ここも気楽な己の城である。少々退屈な場所ではあるが、別にここに軟禁されているわけでも幽閉されているわけでもない。

いつでも出られるゆえに、ここを出るつもりがない。

それが彼にとってもカプトにとっても、最悪の最悪を避ける最善の住環境だった。

「とまあ、そんな感じで勧誘されてさ。うっとうしいというかなんというか……」

「そういうのは師匠の所にも来てたよ……そうか、そりゃそうだよな……俺の所には来なかったのに」

「そうしょげることないって、面白いもんじゃないし」

スカウトされる。他人から力を認められ、求められる。

相手が相手なので微妙だが、それでも正直羨ましく思う。

「まあぶっちゃけ、多分あのおっちゃんは適当なところで俺を殺してたと思うし」

「そうだと思うよ……確かにやりそうだ」

正蔵が新政権を打倒したら、当然各国の注目は彼に移る。そして、国内でも畏怖や尊敬の目が向けられるだろう。

そして、何もしていない彼らは勝手に怒り、正蔵を殺すのだろう。正蔵に自衛能力はないので、割とあっさり殺されるに違いない。

「俺、まだ死にたくないしさ。前の時なんて、扇風機の前であ~~とかやってたら消えてたらしいし」

「俺も似たようなもんです」

お互い、神様のうっかりだかなんだかわからんようなミスで死んだ身である。

これ以上、どこの誰とも知らない相手の思惑で死にたくはなかった。

「それに……正直、俺の魔法を評価されても嬉しくなかった」

正蔵も祭我も、規模や自由度はともかく、ありえない力を授かってここにいる。

その力が評価されるのは当然だ。それこそ、替えの効かない逸材同士である。

しかし、それが評価されても嬉しくはなかった。少なくとも正蔵はそうだった。

「俺がやったことなんて、ミサイルのボタンを押したぐらいのもんだ。達成感もへったくれもない」

その言葉を聞いて、祭我は共感する。

確かに正蔵の立場に立ったとして、激しい喜びや感動は想像できない。

才能を神から授かったという言葉もあるが、この場の二人は最強の資質をそのままもらったのだ。

「俺はなんの努力もせずに最強だったんだよ。規模がでかすぎて、練習も努力もできなかった。それでそこの四人に飛ばせてもらって、空中で魔法を使うだけ。敵は遥か眼下、一方的に攻撃するだけ。楽しいと思うか?」

まさに爆撃機の乗組員だろう。

仮に賞賛されたとしても、それは爆弾を作った科学者か、或いは爆撃機を作った設計者である。

そしてやったことも大量殺戮。これが純粋な人助けならまだ良かったかもしれないが、生憎とそうではなかった。

「……後悔してるか? 人をたくさん殺したことを」

「それはしてないって、俺があそこで魔法を使うのが正しいって、パレットを含めたカプトの人が言ったんだ。後悔するってことは、俺はカプトの命令に従わなきゃよかったとか、あの街を見捨てればよかったってことになる」

あの場でああするのが最善だと領主の一族であるカプトが判断した。

ならば、それが最善だったのだろう。そうでなくても、正蔵にもっといい策が思いつくわけもない。

そして、命令に従わなかった場合どうなるかなど考えるまでもない。

「俺は後悔してないよ、祭我。俺はいい人たちに出会った。守ることと癒すことの難しさを知った上で俺を受け入れてくれた。ありがたい話だろ?」

「……そうだな、そう思うよ」

「それにまあ、ここの人たちは俺より頭いいし、考えなくていいからな。正直気楽だよ」

いや、頭を使えよと彼の護衛の面々は思う。

忠義が熱く、命令に忠実なのは好ましい。そうでなかったらとっくに殺されている。

しかし、別に論理だって考えることができないわけではないのだから、普段からそうして欲しいのだ。

行動する前に考えて、質問する前に考えて欲しい。考えてから行動する前には、相談してほしくもあるのだが。

「良くさあ、この手の話だと現地の人たちが馬鹿だったりするだろ? 昨日思い知ったけど、馬鹿と付き合うのってキッツいぞ。俺が言うのもどうかと思うけど」

「それは確かに……」

相手が上流階級の中の、更に上の上ということもあってか、基本的に四大貴族のトップは善良かはともかく有能だった。王家に関しては、二人ともあまり関係がないのでわからないが。

「みんな俺よりバカだったらと思うと、背筋が凍るほどだって」

「それは嫌だな……」

「実際、亡命貴族は国滅ぼしただけあって相当だったしな。もしかしたら俺に殺されるかも、なんてちっとも思ってなかったぞ。できないけど」

帝国の貴族の全員が愚かだったのかはわからない。

しかし、少なくともヌリもハリも、助けてもらって当然という態度を崩さなかった。

その辺りは、正蔵も祭我も味わったことのない事である。

カプトもバトラブも、何から何まで二人に任せることはなかった。

それができるほど二人を信用していないと言えるし、実際できないとも言える。

しかし、二人は迷いなくするべきことを把握しているともいえた。

「できない? なぜ」

「俺は今、セイブって人の呪術によって呪われている。もちろん合意の上だけどな」

「セイブ?!」

「なんだ、知ってるのか?」

正直、その言葉を聞いただけで不信感が沸き上がってしまう。

確かに国家の安全上、最終兵器である正蔵には何かのセーフティが必要なのかもしれない。

だとしても、呪うのどうかと思う。

祭我はツガーを知っているだけに、そのツガーがとても呪術に嫌悪感を持っていただけに、余り好意的にはとらえることができなかった。

「とにかく、今の俺はカプトの人から許可をもらえない状態で魔法を使おうとすると、体が石になる呪いがかけてあるんだ。ペナルティみたいなもんで、すぐ解けるけどな」

「……いいのか、それ」

「というか、そうでもしないと大変なんだって。夜ちょっと蒸し暑くて、風が欲しいって思ったら家が吹き飛んだりするんだぞ?」

どうやら、安全装置は当人にとっても必要だったらしい。

ミサイルの発射ボタンが緩すぎて、触るだけでも発射されてしまうようだった。

「おかげで家が吹き飛ぶことはなくなったんだ。ありがたい話だよ」

「それじゃあ、別にここに住む必要はないんじゃ……」

「いくら呪術で使えなくなってるからって、俺の魔法は街ぐらい簡単にぶっ飛ばせるんだぞ? 怖いって。俺も、皆も」

当人にしてみれば、何時でもどこでも、何もかもを吹き飛ばせてしまうのだ。そりゃあ人が多いところにはいきたがらないだろう。

あるいは、だからこそ彼は自分の魔法で破壊したところへ日課のように赴くのかもしれない。

そこなら、もう壊す物が無いのだから。

「俺の魔法は簡単に物を壊せすぎるからな、皆に迷惑なんだよ」

「そう……か」

何ともスケールの大きい話だった。

そして、だからこそ帝国を打倒した男が脅威に感じる。

「ま、固い話はこれぐらいにしようぜ。久しぶりに日本人に会えたんだ、色々話そうじゃないか!」

「……ああ!」

気さくに話をしていく切り札たち。

中々入り込めない、しかし楽しそうな二人を見て、双方の付き添う者たちは微笑ましく見守っていた。

「皆、集まってもらったのは他でもない」

旧帝都にて会議が開かれていた。

革命が成功して以降は、ずっと明るい雰囲気のあった、或いは楽観のあった会議室には沈黙が満ちていた。

「今回の負け戦についてだ」

その場の最高責任者は、はっきりと明言した。

ドミノ共和国とアルカナ王国の戦争は、負けたと言い切っていた。

「まず、数字的な説明をしよう。今回投入した戦力の全てが失われた。これによって、治安維持や国土の防衛などに必要な戦力以外の全てが失われたと言っていい。ドミノ帝国の領地を引き継いだ我らは、この広大な国土の全てを守らなければならない。つまり、我らは敵に攻め込まれる場合を除いて、戦争の続行が不可能になったわけだ」

国家の最高意思を決定する場でありながら、会議に参加している者たちの年齢は低い。

しかし、その中でも『彼』はとても若かった。

それこそ、その場の年長者から見れば、子供でもおかしくないほどに。

「今回の一件、遡ってアルカナ王国と外交をしていたのは、お前だったな」

逃げ出すことが許されるなら、きっと逃げていただろう。

しかし、ダインスレイフを持っている彼から逃げられるわけがない。

そう分かっている彼は、蒼白になりながらも弁明していた。

「ぎ、議長殿! 敵の戦力を見誤ったことは謝罪させていただきます! 被害が甚大だということも認めましょう。ですが……」

いいや、弁明ではなかったのかもしれない。

「あんなの、どうしろっていうんですか!」

「確かにな」

一種、開き直るしかなかった。

カプトが狙ったように、ドミノ共和国は戦闘続行の意思をほぼ折られていた。

如何に戦力が不足しているとはいえ、あの光景を見なければ戦争を続けるという意見もあったかもしれない。

アルカナ王国が聞き入れるかどうかはともかく、ドミノ共和国は降伏するつもりだった。

「その点に関しては全面的に同意する。自分で言うのもどうかと思うが、アレがあると事前に知っていたとしても、その情報を信じたかどうかわからん」

「そ、そうでしょう! それに私は、この革命の立役者。私はこの共和国にとって、欠かせない人材の筈です!」

アルカナ王国の使った手段が、如何なるものなのかまではわからない。

もしかしたら一度しか使えないのかもしれないし、もしかしたら容易に移動できないのかもしれない。

しかし、仮にもう二度と使えないという虫のいい話があったとしても、それでも戦争の続行は不可能だ。人数が余りにも不足している。

「確かに、お前がもたらした利益は大きい」

「……」

「それで、その利益は今回失った物より大きいのか?」

議会の誰もが委縮していた。

目の前の、若き男に対して恐怖していた。

彼らの恐怖が、更に彼の威厳を盛り立てていた。

「加えて聞くが、お前の責任で始まった戦争で失われた将兵の遺族は、納得していると思うか?」

「そ、それは……」

「お前には責任を取ってもらう。『民意』によってな」

まさか、国民投票などするわけもない。

そんなことをする予算も時間も、この国にはない。

「罪状を説明したうえで、帝都の民衆の前にさらす。貴族たちと一緒に、一族郎党石にさらされることだ」

「お、お許しください、議長!」

「お前を許すのは私ではない。許しを乞うなら、家族を失った市民にすることだな」

一切の反論を許さぬ重みをもって、その彼は外交を任せていた比較的若い男を連れ出させる。

彼とその一族は、民衆の反発を和らげるために利用されるだろう。

そして、彼の失敗が真実なだけに、一族の未来は明るくない。

「それでは、責任が明らかになった上で、今後の国家の方針を決めるとしよう。こちらが差し出せるものを調べろ。徹底的にな。必要なら、今連れて行った奴の蔵を空にしても構わん」

革命を共にした同志さえ切り捨てて、国家の主は厳粛に会議を始めていた。