軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

基準

一万年ぶりに出現した、旧世界の怪物たち。彼らに対抗するという、本来の役割を取り戻した八種神宝たちは、現在アルカナ王国の王都に集まっていた。

彼女たちは基本的に仲が悪いのだが、集まっているとなれば話ぐらいはする。

主体性の欠ける彼女たちの話題と言えば、やはり他でもない使い手たちのことであった。

「昔のことだが、そうだな……二千二百年ほど昔のことだ」

そうなると、エッケザックスはとても饒舌である。

話題にするのは二代前の主である、世界最強の男スイボクの武勇伝だった。

もちろん他の主のことが嫌いというわけではないのだが、千年間ずっと一緒だった相手なので話題が尽きない。

なお、ほかの五人はとても嫌そうな顔をしている。エリクサーだけは嬉しそうにしていて、パンドラは不在である。

「そこそこ大きな南の島に訪れたことがあってな、その島で手ひどい歓迎を受けた」

手ひどい歓迎、と言っている割に、本人はとてもニマニマしている。

少女が幸せそうに笑っているので、普通の人間であれば彼女を可愛らしいと思うだろう。

だがこの場の面々は、全員が製造されてから一万年も経過している神の宝なので、同期が年甲斐もなくのろけていることに白け切っていた。

「なんでもその島で一番権威のある巫女に『神託』があったらしい。今にして思えばその巫女とやらは膨大な時力を宿す者だったのかもしれないが、ともかくスイボクを災いをもたらすものだと言っておったそうな」

亀甲拳の開祖同様に、膨大な星血、時力を宿す者がその島で生まれたのなら、その神託はまさに未来予知そのものであろう。

もちろん、今となっては確かめようもない。だがその占いが当たっていることは、その場の全員が察していることだった。

「大正解じゃないの、よく当たる占いね」

うんざりしつつも合いの手を入れるウンガイキョウ。

実際のところ、スイボクは災い以外の何物でもない。話の初めの時点で、既に占いが的中していることは明白だった。

「島に訪れた時、スイボクは特に危害を加えておらなんだ。だが島にあった国の者たちは、総出でスイボクを殺そうとした。なんでも、スイボクをそのままにしておくと、大地が怒り狂って火山が噴火するとか島が海に沈むとか言っておった」

「あ、もう全部わかっちゃった……」

青ざめているノアは、その話のオチが読めていた。

というか、既に全員読んでいた。まさに語るまでもないことだった。

「あがいたんでえ、スイボクの馬鹿が火山を爆発させて、海に沈めたんだべさ。聞くまでもねえべ」

スイボクの武勇伝は大抵、爆発オチを通り越した滅亡オチである。

いつも滅亡させているわけではないのだが、武勇伝というだけあって派手な逸話ばかりを語ることになる。

派手というよりは迷惑、ひたすら物騒なのだが。

「うむ。理不尽な対応に怒ったスイボクは、お望みどおりに火山を爆発させ、地殻変動させて海に沈めてやったのだ!」

「さすがはスイボク! いつでも元気だな!」

笑っているのはエリクサーとエッケザックスだけだった。

他の宝たちは、予想通りにどうしようもない話に言葉を失っていた。

うんざりしていた、とも言う。

因果関係が文字通り前後しているのだが、理不尽なのは島の人々ではなくスイボクの方だろう。

如何に神の剣を持っているとはいえ、人間が火山を噴火させたり島を海に沈めるとは思うまい。

神託を受けたという巫女も、まさかこの島に訪れた本人が荒ぶる神だったとは想像できなかっただろう。

神の怒りにふれまいと、荒ぶる神を怒らせてしまってはどうしようもない。

「だから……人間風情が天地を自在に操るなというのに」

ヴァジュラは普段の尊大さを隠して、心底から呆れかえっていた。

これでは竜よりも、スイボクの方が人類の脅威である。

「奴の師も言っていたことだが、落ち着くべくして落ち着いたのだから、過去のことは水に流すしかあるまい」

文句を言うだけむなしいだけだから、何もかも諦めよう。

復讐の妖刀にあるまじきことを言うダインスレイフだが、それを聞いて上機嫌そうにしていたエッケザックスは顔をしかめた。

「またお前はそういうことを言う……」

「最初に会ったときも言っただろう。最強を求め続けるのなら、いずれはお前を手放し、さらにその先を目指すとな」

これは、復讐の妖刀が荒ぶる神と出会った時のことである。

およそ二千年ほど昔の話である。

時の皇帝により、勅令が下されていた。

「最強の神剣を見つけ出し、我が元へ献上するのだ!」

神が人類の為に生み出した八種神宝。その中でも特筆される、最強の剣エッケザックス。それを欲した皇帝の命令を受けて、多くの者達が各地に散っていた。

とはいえ、誰もが熱心だったわけでもない。

まずそもそも、実在するのか怪しい代物である。各地で伝説に語られてはいるが、文字通り伝説の剣なのだ。仮に実在するとしても、広大な世界で一本の剣を見つけるなど不可能に等しい。

最初から諦めて、適当に押し付けている者も多かった。

しかし哀れなのは、適当に押し付けられた末端の者たちである。

彼らは見つかるわけもないものを探すために故郷を追い出され、当てもない旅をしながら行く先々で笑いものにされるのだ。

しかも、自腹である。こんな理不尽な話は、そうないだろう。

末端であればあるほど拒否権がなくなるのだが、末端ほどカネがないのは当たり前である。十分な護衛も雇えない状況で危険な辺境へ赴く者は、山賊などの無法者に襲われることもしばしばだった。

彼も、その一人である。

「ひ、ひいい!」

なけなしの金で雇った護衛は、既に逃げ出していた。

家から引っ張ってきた老いている馬は、もう完全にへばっている。

「さあ兄ちゃん、お祈りぐらいはしてもいいぜ」

たった五人の山賊を相手に、下級貴族の青年は追いつめられていた。

多少は金になるであろう馬に傷をつけたくない、という理由で引きずりおろされた彼は、どこか骨を痛めたのか身動きが取れなくなっていた。

その顔には、情けないほどに涙があふれている。

「痛い目を見たくなかったら、とっとと服を脱ぎな」

「血で汚れたら、そのきれいなおべべが売れなくなっちまうだろう?」

山賊たちは一切容赦なく青年を殺すつもりだった。

仮に殺す気が無いとしても、この山中で馬や服を剥ぎ取られれば、生きて下山できるわけがない。

それこそ、奇跡的に助けが訪れない限り、青年の生存は絶望的だった。

「のうスイボク。この近くで新しく帝国が興ったそうな」

「そうか、そこに行ってみるか?」

そこへ通りがかったのは、浮浪者同然の粗末な服を着ている青年と、高級そうな服を着ている少女である。

人気のない山中を歩いている割には、不自然なほどに旅支度というものが一切ない。

着替えなどが無いのはわかるとして、食料や水の類を全く持っていない。金目の物を持っているどころか、今にも行き倒れそうな格好だった。

彼らはすたすたと山賊たちと青年の騒動を通り過ぎて、そのまま歩いていった。それこそ、風体もあって、街中を二人で散歩しているような気軽さである。

「俺をてこずらせる強者がいればいいんだがな」

「お主をてこずらせるものか……おればいいが、そうそうはおらんからのう」

「まったくだ……この間のテンペラの里みたいなやつらがいればいいんだが……」

「そうそうはおるまいな」

二人は談笑しながら、楽し気に歩いていく。

余りにも平和そうだったので、山賊も青年も、その二人へとっさには声をかけることができなかった。

だが、しばらくすると正気に返る。無視されたことに腹を立てた山賊は、怒声をその二人へ浴びせていた。

「待ちやがれ!」

「ぬ?」

待てと言われたので、素直に二人は立ち止まっていた。

その上で、ある種不思議そうに山賊たちを見た。

なぜ自分に彼らが話しかけるのか、その理由がわからないようだ。

「ああ、好きにすればいいぞ。俺に止める気はない」

青年を助けるつもり、と疑われたのか。

勝手にそう解釈した彼は、青年をあっさり見捨てていた。

彼の価値観から言えば、山賊が通行人を襲うことは悪いことではない。

仮に村を襲って略奪の限りを尽くしても悪だとは思わないので、賊という行為を職業だととらえてさえいた。

仕事の邪魔をする気はない、と彼は去ろうとする。

「そういうこと言ってんじゃねえよ!」

「そこの娘を置いていけ! お前は売れそうにないが、その娘は売れそうだからな!」

しかし、そういう問題ではない。ことは山賊のメンツにかかわるのだ。

軍隊や武装している商人の馬車を素通しするならともかく、無防備に歩いている青年と少女を素通しになどできるわけもない。

だがそれは、二人にとって不愉快極まりない話である。この上なく露骨に、二人は嫌そうな顔をした。

「我を欲しいだと? 物取り風情が偉そうに……我を欲するのなら、せめて一端の剣士を名乗れる強者になってからじゃな。行くぞスイボク、この程度の輩などどうでもよかろう」

「そうだな」

山賊を退治することはなく、しかし貴族の青年を助けることもなく。二人はそのまま歩き去ろうとしていた。

余りにも危機感に欠ける態度、山賊への恐怖の欠如。それが彼らの怒りへ油を注いでいた。

山賊たちは貴族の青年を置き去りにして、歩き去ろうとする二人へ襲い掛かろうとする。

「おい、とっ捕まえろ!」

「わかってる!」

賊たちはこの時、商売としての暴力ではなく、悪漢としての暴力を振るおうとした。

利害得失を抜きにして、ただバカにされたので腹が立ったから、殺すためではなく痛めつけるために襲い掛かった。

「……エッケザックス」

しかし、危機感が足りなかったのは山賊たちの方だった。

「うむ」

誰が知るだろうか、浮浪者のような男こそは、花札なる仙郷にて千年の修業を積んだ仙人スイボク。

誰が知るだろうか、神秘的な雰囲気を持った少女こそは、神が生み出した最強の神剣エッケザックス。

この二人を敵に回す、それは決定的な死を意味していた。

「な、娘が剣に?!」

「ま、まさか、伝説の神剣?!」

少女は一瞬にして、浮浪者の如き青年には不釣り合いな、豪華極まりない剣に変わっていた。

それを手にしたスイボクは、愚かにも自分へ挑んだ山賊たちへ切りかかる。

「瞬身功!」

まさに、一瞬の出来事だった。たった数人の山賊が、エッケザックスを手にしたスイボクに勝てるわけがない。

閃光のように加速したスイボクは瞬く間に剣を振るい、後悔する暇も与えず地面へ転がしていた。

「まったく……どこにもバカはいるな、エッケザックス」

『うむ。お主に挑むなど千年早いのにのう』

こうなると、貴族の青年の状況は一気に好転していた。

なにせ山賊はバラバラになって動かず、馬は少々休めば歩けるようになるし、怪我もそこまで深刻ではない。

なによりも、皇帝が求める最強の神剣がそこにあった。

「お、お待ちください!」

「ぬ、なんだ一体。お前も俺に喧嘩を売るのか?」

心底からどうでもよさそうに、スイボクは貴族の青年をにらみつける。

無理もあるまい、貴族の青年は見るからに弱そうで、スイボクから見れば無価値そのものだったのだから。

「い、いえ! 貴方と敵対するなどあり得ません! 貴方は命の恩人です!」

「どうでもいい。俺はただ、挑まれたから斬っただけだ。お前を助ける気などないぞ」

「で、ですが、私を助けて下さったのは貴方です! それに……エッケザックスをお持ちだ!」

伝承に語られる、道具でありながら人の姿になれる神の宝、八種神宝。

それを目の当たりにした青年は、感動し歓喜していた。

「……お前もエッケザックスが欲しいのか?」

「いえ、私ではありません。どうか、我が国の皇帝陛下にお会いになってくださいませんか?!」

「……ぬ?」

まさか、目の前の相手を案内してしまうことが、自分の祖国の滅亡につながるとは流石に想定できなかったであろう。