軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一歩

程なく、グラス・アルカナを頂点として、新しい会議が始まる。

祭我・バトラブ、パレット・カプト、アクリル・ディスイヤ。

新しい顔ばかりの中で、ソペードの当主が最年長となってしまった。

おそらく、歴代を通しても、異質なほどの若い顔ばかりの会議になるだろう。

ソペードの現当主も、かなり若いのであるし。

実際に一つの円卓を囲む会議に五人が座ってみると、大国の未来を占うにはあまりにも威厳にかける面々だった。

しかし、それは面構えだけの話。誰もが重責を背負って、この椅子に座っている。

「さて、こうして新しく会議を始めることになったわけだが」

最高権力者である五人以外、誰も立ち入ることの許されない空間。

今までは右京だけが入ることを許されていたが、今回以降は自粛することになっている。

その中で、グラス・アルカナは新体制になるアルカナ王国の、その基盤について語り始めていた。

「最優先で決めなければならないことは、他でもない。旧世界の怪物が隣人となったことで、国の最重要課題となった、切り札の扱いについてだ」

旧世界の怪物が現れるまでは、有事を除けばただのお飾りだった切り札たち。

しかし旧世界の怪物が現れて以降は、竜に対抗するための『絶対に必要な戦士』になってしまっていた。

「これをバトラブの次期当主の前で言うのは一種滑稽だが、切り札とはそもそも、国家と対等に近い、あるいは超えている武力の持ち主たちのことだ」

文章にしてみると無茶である。

国家の総力を超えた個人など、普通ならありえない話だ。

まして、それが五人もいるなど。

「もちろん、誰もが切り札の存在を疑わない。しかしその一方で、『切り札』とは法的に定義されていたわけではない」

白黒山水はソペード家筆頭剣士兼、武芸指南役総元締め。

瑞祭我はバトラブ家次期当主。

興部正蔵はカプト家専属魔法使い。

浮世春はディスイヤ家当主直属掃除人。

風姿右京はドミノ帝国皇帝。

銀鬼拳ランに至っては、マジャン・スナエの直臣である。

「切り札とは一種の異名であり、総称だ。正式な称号ではないし、役職でもない」

そう言われてみると、なるほどその通りである。

「今まではそれでよかった。言っては何だが、いなくなってもそこまで問題ではなかった。しかし今後は違う。竜と対抗するために、切り札は世代を超えて残さなければならない」

昔、切り札と呼ばれた伝説の戦士がいました、では駄目なのだ。

切り札とは必要な役職であり、後世に引き継いで行かなければならない立場なのである。

「しかしだ、切り札を名乗るに足る戦士は限られる。悠久の時を武に費やした長命者、神から恩恵を受けた逸脱者、そして血統の開祖だ。そうした面々が八種神宝や禁式宝貝をもって、初めて『切り札』と名乗れる。もちろん、我が王家の切り札であるウキョウのように、複数の神宝に適合すれば、話は別だがな」

竜に勝てるだけでは足りない、竜を殲滅できるほど強くなければならない。

神宝を抜きにしても逸脱して強い個人だからこそ、切り札を名乗りえる。

その認識は、極めて正しい。

「如何にアルカナが大国になったとはいえ、それをそろえることは難しい。現にエッケザックスの後継者を決める大会でも、切り札を名乗れる資質の持ち主は三人程度だった」

別に五人に限る必要はない。だが、五人より少ないのは問題だ。

なるほど、彼の主張はもっともである。

だが、問題は解決策の提示だった。

「それはわかりますが、殿下。具体的にどうなさるのですか?」

「それは今後考える」

祭我の質問に対して、グラスはあっさりとした答えを返していた。

それはつまり、切り札をいかにして引き継ぐか、というのを本題にしたいわけではないらしい。

「こ、今後の課題、ですか?」

「そうだ、大八州や秘境と相談することになるだろう。だがそれはそれとして、管理できる、引き継げるものはある。私が提案したいのは、八種神宝の管理についてだ」

逸脱した人間の方はともかく、八種神宝は後世へ確実に残せる。

逆に言えば、それを誰が管理するのか、誰の名義にするのかという話だ。

「八つの内五つを、王家は管理している。だが今後は、八つ全部を我ら王家が管理するべきだ」

祭我もパレットも、これには驚いていた。

確かに八種神宝は引き継げるし管理すべきだが、それを全部王家が管理するのは無茶だ。

名義の上とはいえ、切り札のほとんど全員を王家が管理するに等しい。

例外と言えば、禁式宝貝とそれを操る山水ぐらいだろう。

「殿下、それは余りにも無茶ではありませんか?」

「無茶ではない。むしろ、筋道から言えばそうするべきだ」

諫めるようなパレットの言葉に対して、グラスは力強く断じる。

ソペードの当主は、その言葉に頷いていた。

「なるほど、おっしゃる通りかと」

「そ、ソペード様?!」

「八種神宝に認められた戦士が各家にばらけているのは、一種の偶然だ。今後も継続する保証はどこにもない。それはこの場の全員なら、良く知っていることでは?」

そう言われると、祭我もパレットも何も言えない。

四大貴族の当主たちが、たまたま偶然厚遇するに値するものを見つけ、信頼関係を作っていた。

切り札たちは家に仕えているのではなく、当主個人に仕えている。

尊くも美しいが、それが継続するとは言い切れない。むしろ、難しいだろう。

「ソペードの言う通り。バトラブがエッケザックスに認められる剣士を継続的に得られる保証も、その剣士と信頼関係を築ける保証もない。他の家が確保する可能性もあるし、逆にダインスレイフやパンドラの適合者と関係を結ぶこともあり得る」

仮に、今の切り札を全員王家によこせ、と言っても全員が拒否するだろう。

だが逆に言って、バトラブがエッケザックスを管理しても、その使い手に恵まれる保証はどこにもない。

「八種神宝は国家全体で管理し、適合する戦士へ貸し出す形にするべきだ」

王家が管理する場合は、話が違ってくる。

どの四大貴族がどの神宝に適合するものを得ても、衝突なく貸し出すことができる。

王家自身が得れば、そのまま貸してしまえばいいだけだ。

何もおかしいことはない。

だが問題は、王家が管理するということは、王家の都合が優先されるということである。

四大貴族と王家が同じ神宝の適合者を立てた場合、ほぼ確実に王家の立てた者が第一候補となるのだろう。

もちろんそれは、継続的に切り札にふさわしい個人が現れ続けるという、虫のいい話、捕らぬ狸の皮算用ではあるのだが。

(筋道を立ててきたな、国益に反するとは言い切れん。若い三人はどうさばくのかな?)

ソペードの当主は、あらゆる意味で静観の構えだ。

元々口出しをするつもりがなかったが、ソペードはそもそも八種神宝を一つも保有していない。

禁式宝貝にかんしては山水個人の所有物であろうし、引き継いでも使えるのは仙人だけなので意味がない。

よって、完全に無関係である。

「ではでは、私アクリル・ディスイヤが、ディスイヤを代表して申し上げますわ」

けたけたと、空虚に笑うアクリルが最初に返事をしていた。

「破滅の災鎧パンドラをご所望であれば、いつでもかまいません」

想定通りであり、想定外だった。

まさかいきなり王家の要求を丸呑みするとは思わなかったが、何分彼女には前科がある。

「そうか、それがディスイヤの総意ということか?」

「もちろんですよ、ディスイヤは商人ですから。在庫の品を王家がご所望なら、適正な価格でお譲りいたしますとも」

そして、案の定絶対に呑めない『金額』を切り出してきた。

「適正な、価格だと?」

「はい。だってパンドラは、明確にディスイヤの資産ですから」

エッケザックスはアルカナ王国の領内に刺さっていただけで、アルカナ王国のものではなかった。

ダインスレイフとエリクサー、ヴァジュラとウンガイキョウは神の元にあったが、右京が得た。

ノアとダヌアは、空を飛んでいたら正蔵に撃ち落されていた。

だがしかし、パンドラだけは明確に、最初の時点でディスイヤが購入したものだ。

「楽しみですわあ、王家がどれだけの値を付けてくださるのか。竜を殺せる三つの武器、そのうちの一つにどれだけの価値があるのか。私どもも楽しみにしております」

「……」

「ああ、もちろん現金だけでお支払いができないのなら、宝石などの動産だけではなく、領土のような不動産、あるいは権限などでも構いませんよ」

「ディスイヤが最初に購入した価格、では足りないか」

「それは当然でしょう? 殿下が先ほど申し上げたように、価値というものは変動するものですから。竜が現れ必要な武器となったパンドラですもの、今までとはわけが違います。適合者を抜きにしてもどれだけの価値があるのか計り知れませんわねえ」

献上するのではなく、売却である。

ディスイヤ家の商品を、王家が購入するのである。

アクリルの主張は、とても筋が通っていた。

「ああもちろん、他に欲しがる方がいらっしゃるかもしれませんね。王家の倍の価格でも出す方がいらっしゃるかも?」

もしもはした金にしようものなら、よその国に売る。

もちろん、無理やり奪おうものなら、その時は覚悟をしてもらう。

悪徳商人の倉に手を突っ込むのなら、それは明確に敵なのだから。

「ずいぶんと、業突く張りだな」

「いえいえ、無料でほしがる人よりは、ずいぶんと謙虚だと思いますよ」

カプトにもバトラブにも、一切参考にならない発言だった。

しかし、それでも拒否をしていた。

「……カプトはお断りさせていただきます」

「ほう」

「まずそもそも、ノアは勇者が使うものではありません。ノアは生存を願う、弱きもののための神宝。王家が管理する目的が勇者への分配だというのなら、ノアに関しては筋違いです」

パレットの拒否は、もっと直接的だった。

なにせ正蔵が竜を殺せたのは、完全に自分の魔力によるものである。

ノアはあくまでも乗り物であり盾、それだけあっても竜には対抗できない。

なによりも、ノアは一番条件が緩い。緩い上で、死をも恐れぬ勇者には使えない神宝だ。

王家の掲げる大義名分は、あまりにも不適切である。

「なるほど、違いない。パンドラに関しては献上への対価が示せぬし、ノアに関しては勇者へ与えるものではないな。しかし、どちらも有事の際には、国家のために使ってくれると信じてよいかな?」

「もちろんです」

「ご安心ください」

「では、バトラブに問う」

しかしそれは、提案したグラスにとっても、想定の範囲内である。

本命はエッケザックスを、バトラブから手に入れることだった。

今は名義の上になるが、それでも長い目で見れば確実に意味がある。

パンドラやノアは、双方の家が取り返しのつかない大失敗を犯したときに要求すればいい。

その布石として、バトラブから所有権を奪いたかった。

「国家の為を思えば、エッケザックスを王家に献上するべきだ。そうではないか?」

ランやエッケザックスを、今すぐに王家へ差し出さなければならないわけではない。

だからこそ逆に、断るのが難しいと言えた。

「恐れながら殿下」

「うむ」

だが、それは不可能ではない。

ただ難しいだけの要求を超えられないのなら、その程度の当主というだけである。

グラスとしては、これを断れないのならそれでよし、断れるだけの力があるのならそれもまたよし。

政治家として、祭我がどの程度の力を持っているのか、試すという意味もあった。

「武門の名家たる、バトラブを侮らないでいただきたい」

「ほう」

「殿下の懸念は、つまりはバトラブにエッケザックスの主を育てる力がない、という杞憂が前提でございます」

「杞憂、か」

「左様でございます」

それに対して、祭我は弁舌で乗り越えることはできなかった。

しいて言えば、強弁、雄弁で超えようとしていた。

「恐れ多いことですが、バトラブの切り札は既に代替わりをしております。それはすなわち、バトラブには傑物を育てる力があるという証明に他なりません」

「今後も継続して、エッケザックスの主にふさわしい人材を用意できると?」

「左様でございます。そもそも切り札とは……」

この場で唯一、切り札だった男。

ある意味では誰よりも切り札について詳しい男。

その優位を生かして、祭我は断言する。

「先ほど殿下がおっしゃった素養を持ったうえで、優れた指導者の下で素質に甘えない鍛錬を積んだ者だけが名乗れるのです。先日我が切り札であるランが下した相手がそうであるように、素質に甘えていては決して切り札を名乗れるだけの実力は得られません」

イースターも志波も鏡も、素質だけで言えばランよりもふさわしかったのかもしれない。

しかし、戦士として鍛錬を積んでこなかった。あくまでも、素質があっただけだったのだ。

「切り札とは、四大貴族や王家という最上級の貴人が最大の敬意と信愛をもって接することにより、最上級の素質を持つ者が更なる研鑽を積むという決意を得る。そうした信頼関係によって成立するものなのです。どうかその点を、ご理解していただきたい」

そしてそれを、理路整然と語ることができるようになっていた。

内心がどうであれ、祭我は四大貴族の当主として、国王に対抗する器量を見せていた。

「国家の命運を背負う五人を抜きに、切り札を語ることはできないのです!」

山水を含めて、『最強』とは、最強の切り札とは。

アルカナ王国が求める『目標』とは、アルカナ王国の最高責任者たちが育て上げるもの。

ただの精神論であるはずのそれは、しかしこの場の五人だからこそ否定できない真実だった。

「なるほど、理解した」

エッケザックスにふさわしい強者を用意できない時点で、エッケザックスを王家へ献上する。

そうとも言える発言を、グラスは受け止める。なんとも愚かで、しかし頼もしい発言だった。

「では、政争はここまでとしよう。さきほどもパレットが言っていたが、切り札を後世へ残すにはどうすればいいのか。それを今から考えたい」

後で考える、といったことを今から考える。

なるほど、もっともである。

「実際に竜と戦ったサイガに聞きたい。はっきり言って今の切り札であるランに、お前と同じ働きを期待してもいいのか?」

「俺と同じ働きは無理ですね」

「……はっきり言ったな」

唐突に、不安になることを言われてしまう。

それはそれで、国防的に問題があった。

「ただ、他に適任者がいないのも事実です。既に証明したように、ランはこの国でも屈指の実力者ですよ」

「そうだな、それを蒸し返すのは酷か……あんな大会まで開いたのに、今更それはないな。許せ」

「いえ、懸念はもっともですから」

これに関しては、直接戦って死にかけた祭我の発言を、軽んじることはできない。

それこそ、誰よりもよく知っていることだ。

「では、今現在の国防はどうなっている? 言っておくが、スイボク殿は計上するなよ。彼がカチョウ殿から言われたことを反故にするとは思えんが、彼はアルカナに所属していないのだからな」

「それに関しては、ご安心ください」

ソペードの当主が、控えめに安心材料を出す。

「サンスイが、改修された禁式宝貝を得ました。名前は長いのですが、以前よりも山水に合うように強化されているようです」

「そうか、それでは以前以上の働きができるのだな。それならば、今は問題ないが……」

山水が不老長寿だとしても、流石に今後も永遠にアルカナを守れとは言えない。

それは、スイボクに頼っているのとそう変わらないだろう。

「王家の場合は、それこそダインスレイフとエリクサーに適合すれば問題ない。だが他の四人はどうするか……」

「えっとですね……バトラブは大丈夫です。使いつぶしていいのなら、ランの子孫に蟠桃を食べさせれば、ランと同じ働きはできるかと」

ランと普通の悪血を宿す者との違いは、それこそ悪血の量だけである。

であれば、蟠桃で補おうと思えば補えなくもない。

ただ、祭我本人がそうなったように、食べ過ぎて死ぬ可能性もあるのだが。

「悪血はエッケザックスと相性がいいので、蟠桃さえあれば一回はどうにかなります」

「王家としては残念だが、国家としては嬉しいな。だが、エッケザックスが一本しかない以上、やはり厳しい。一度に一人では問題がある」

一万年前は、竜に勝てる者が三人しかいなかった。

それで負けて、逃げ出したのである。

前回の戦争では、竜に勝てるものは五人いた。

相手は前回よりも大幅に少なかったが、それでも引き分けがやっとだった。

もちろん前提条件が全く違うのだが、それでも二人か三人しか残らないのでは不安が募る。

当座は問題ないからこそ、後世の心配をしてしまうのだ。

「大変申し訳ございませんが、カプトには全く当てがありません」

皮肉抜きで、大変申し訳なさそうなパレット。

彼女のところの切り札は『アレ』なので、一切継承性がない。

「ディスイヤにも全然ないよ~~。パンドラって、完全適合者以外だとすぐ死ぬし」

まったく申し訳なさそうなアクリル。

なにせ一万年に一度しか完全適合者が現れなかったのだ、神の気まぐれ以外では期待が薄いだろう。

「たしかに、そう簡単にショウゾウやシュンのようなものが現れても困るしな。ではソペードはどうだ?」

「禁忌に触れますが、あるいは……」

「ああ、仙人骨や俗人骨か」

禁式宝貝は、ウンガイキョウで増やすことができる。

だが肝心の使い手が増やせない。現状、スイボクや山水だけである。故人を含めても、フウケイぐらいだろう。

「サンスイに与えられた宝貝の性能や使い勝手次第では、竜を殺せる仙人の育成期間も減ると思われます。サンスイが言うには、対人戦よりも簡単だそうなので」

「あ、それはそうでした。俺も保証しますよ」

竜の場合脅威なのは、速度と高度と射程距離である。

ダインスレイフやエッケザックスの使い手が竜に勝てるのは、空を高速で飛ぶ人間に炎を当てるのが難しいからというのもある。

竜を斬れる武器と竜に追いつける速度があれば、小さい人間の方が優位なのだ。

「しかし、それでも百年以上の研鑽は必要だろう。百年以上も鍛錬を詰んだ剣士に、人骨でできた武器を持たせて戦場に送り出すのは、国家の君主として好ましくない」

ため息をつくグラス。

「甘い、というかもしれないがな。ただ、切羽詰まる前だからこそ、できるだけ多くの可能性を模索したい」

それは野心を抜きにした、国益をにらむ王の顔だった。

「我らの子や孫のため、国民の未来のために。四大貴族には、様々な可能性を探ってほしい」

この会議こそが、彼の王としての最初の一歩だった。