軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

責務

改めて、帰りの船に乗った一行。

彼らは言語を絶する神業を見たが、流石に空の旅をしていると言葉を取り戻す。

「いやはや……度肝を抜かれましたな」

「まったくで……さすがはアルカナ王国最強の剣士……」

口から出るのは、素直な称賛である。

なにせ相手は暴動を起こした農奴であり、元は外国人である。

殺しても倫理的に全く問題はない。

もちろん、殺し方には一種の偏執さがあったのだが。

まさか首を斬るにも、凄腕の調理人が如き気遣いがあったとは。

ただ首を落とすだけでは足りず、誰も気にしていないのに本人だけが特に意味もなく『綺麗』に首を落とすことにこだわっていた。

しかも、実際にこなせている。まさに誰も理解できない境地。

「しかし、実際に目にしてみると、通信用の宝貝というのは本当に便利ですなあ」

「ええ、各地から連絡を受け次第、童顔の剣聖が暴徒の鎮圧にむかう。サンスイ殿には負担でしょうが……今のアルカナには余力が乏しい。速やかに犠牲なく片付くのなら、こんなありがたい話はありませんなあ」

貴族たちは、当然ながら山水に聞かれても問題のない話をしていた。

それは聞き耳を立てれば、他の船に乗っている者たちにも聞こえていた。

バアスは嫌いだからこそ、視線を合わせないようにしながらも貴族の言葉に聞き耳を立てていた。

「それにしても……如何に子供や婦人を置いてきたとはいえ、我らを連れて仕事をなさるとは意外ですな」

「それはやはり、退屈をしている者への配慮でしょう」

ちらりと、若い衆を見る。

すっかり青ざめて、山水から目を背けていた。

「ああ……なるほど、我らにはありがたいことに、普段と大差のない稽古でしたが」

「若い者の中には、刺激を欲しがる輩もいるのでしょう」

ドゥーウェもそうだったが、貴族というのは暇になると極端なことをしかねない。

具体的に言うと、部下に無茶を言う。

直属の部下へ無茶ぶりをする程度で収まるのならいいのだが、未然に防げるのならそうしたかったのだろう。

目の前でさらし首の作法を、切断面によってとうとうと語られれば、今後見たいという者は減るはずだ。

少なくとも、居合わせた面々は山水へ生意気を言う気が失せていた。

自分に噛みつかないとわかっていても、狂気の域に達した求道の果てを見れば、挑発する気概は失せている。

「退屈を持て余した若い者が戯れに妙なことを言い出す前に、ああして機会を得たので実践したのでしょうな」

「やろうと思えば、いつでもできる。まさに最強の剣士ですなあ」

山水への畏敬、それを聞いているとバアスはホホが緩む。

生まれがいいだけで、自分のことを偉いと思っている連中が、本物の武人に恐怖している。

それが、たまらなく痛快だった。

「しかし」

「ええ、その通りで」

だが、その歓喜は早々に打ち切られる。

「ご当主様は、あれだけの剣士から忠義を受けている。素晴らしい手腕ですなあ」

「ええ、全くです。偉大なる貴族とは、まさに当主様のことですなあ」

山水にも聞こえているその言葉は、山水にしてみれば嬉しい評価だった。

山水本人にしてみれば、やろうと思えばいくらでも証明できる実力を称賛されるよりも、そんな山水を部下にしている主を褒めてもらう方が嬉しい。

しかし、バアスは違う。

どうしても、その言葉が山水にとって価値があるとは思えなかった。

山水本人への称賛ではなく、この場にいない男が褒められるなど、手柄がとられているようだった。

「違うだろう……どうして、そうなるんだ……!」

どの貴族もクズだと、無意味に悪くとらえていた。

「あらあら、それはそれは。ついていかなくてよかったですわ」

「ああ、見ないほうがよかっただろう。彼に対しておびえてしまうかもしれないからな」

ソペードの分家に当たる貴族の父娘は、夕暮れ時に話をしていた。

父親が見た光景を、見たままに伝えていた。

それは、話している父親が青ざめていることもあって、聞いているだけで恐ろしくなる話だった。

「ただ、改めて理解した。彼は決して『ソペード』を裏切るまい。ソペードの当主が今変わっても、いきなり離脱することはないだろう。普通の貴族同様に、丁寧に接すれば問題ない」

ある意味では、一番肝心なことだった。

他のことがどうでもよくなるほどに、国家の存続にかかわることだった。

彼が敵対せずとも居なくなるだけで、大八州や秘境との外交ができなくなってしまうからだ。

「あらあら、それでは次の当主があの家から出なくても、問題はないということですわね?」

「そうなるな」

「では、私が名乗り出てもよろしいのかしら?」

冗談半分、野心半分で年頃の娘は口にしていた。

それには、少なからずドゥーウェへの対抗心があったのかもしれない。

今まで本家の令嬢として猛威を振るってきた彼女を、下に見ることができるのであれば、少々の手間は厭わないつもりだった。

「ソペードで女当主、というのは前例もあるのでしょう?」

「どうしても、と言うのなら力になるぞ」

「あら、もしかして本当に脈があるのかしら?」

「その場合は他のすべての分家に借りを作ることになるがな」

「……やめておきます」

「そうしろ」

今回アルカナ王国の首脳陣は大失敗を犯した。それは余りにも大きい失態で、国家全体に甚大な被害を与えた。

それはつまり、ソペードの当主がソペード領内すべてに借りを作ったということであり、特定の家が台頭してきたというわけではないのだ。

むしろ、すべての家が等しく被害を被ったと言えるだろう。

つまり、一つの分家が当主に成り代わるには、他の家に遠慮をしてもらわなければならないのだ。

「本家の権威が下がり、我ら分家の声が大きくなった程度に思え。それでも十分だ」

「そうですわね……わざわざ損をすることはないと」

「大体……少なくとも私は、今回の件が失点だとは思っていない。確かに切り札たちのような例外はいるが、基本的にアルカナの外交は強気であるべきだ」

まさかオセオのごとき小国を滅亡まで追い込んだ だけ(・・) で、一万年前の世界から怪物が攻め込んでくるとは思っていなかった。

というか、そんなことを言いだしたら何もできない。

そもそも、相手は八種神宝を持つ国を狙ってきたので、オセオはあんまり関係ないわけで。

「むしろ、よく頭を下げたと感心しているぐらいだ。私なら、一万年前の怪物が攻めてくるなど誰がわかるのだ、と怒鳴り散らしていたかもしれんな」

「そう自己分析できるのなら、お父様でも大丈夫よ」

「当たり前だ、我らは四大貴族であるソペードの分家だぞ。本家にもしものことがあれば、代わりを引き継ぐのが道理だ。分家の長は、皆が当主の代理を務められるだけの気品と理性を持っていなければならん」

いつか、ソペードの当主たちは語った。

当主など誰がなっても同じだと。

組織の長とは単に意思決定の権利を持っているだけで、もしものことが起きれば他の者が引き継がねばならない。

一事が万事、一人は全員。突出した個人に依存した組織に未来はなく、全員が一定の水準を保つことが肝心なのだ。

ディスイヤはともかく、ソペードはそれができていた。

「ともかく……次期当主は現当主の息子に引き継いでもらう。肩身が狭い思いだろうが、それは仕方がないことだ。非がないとしても、責任は誰かが取らねばならないのだからな」

「あらあら、傀儡ですわね」

「最悪なのは、当主の奪い合いで内戦が起きることだ。目先の欲に目がくらんだ連中の短慮で、傾いている国を倒すことになってはたまらない」

大分持ち直してきてはいるが、アルカナ王国の現状が好ましくないことは明らかだ。

それは今日の反乱からして明らかである。

切り札たちが国家に対して帰属意識をもっているように、新しい農奴たちにも帰属意識をもってもらわねばならない。

いくら代わりがきくとはいえ、そう簡単に切り捨てていては安定は見込めないのだ。

「はっきり言えば、農奴たちを冷遇せずともいいのだ。どうせ自分が暮らしていた国の名前も言えないような、学のない連中だからな。元居た国より税を安くしてやれば、それだけで満足するだろう」

「ですが、それでは現国民が納得しないと」

「……まあ、どちらが大切かは、天秤で確かめるまでもない」

悩ましいところだが、それも政治ではある。

誰かがつらい目に合わねば、納得しないものはたくさんいるのだ。

「とにかくだ、こうした機会も有効に活用したい。シロクロ・サンスイは貴族に対して理解が深く、我らソペードに溶け込もうと懸命だ。そういう相手とは、仲良くして損はない」

「本家の力を弱めたい一方で、本家の直臣に『力』を与えねばならない……悩ましいですわね」

「アレを敵に回すよりはましだ。もちろん、理のない殺しはしないだろうが……心が休まらん」

ありとあらゆる状況に、個人で対応し完勝する。

その非合理を合理の果てに達成している男は、敵にするには恐ろしすぎる。

その彼と、きちんとした主従関係を作った現当主や前当主は、本当に褒めるしかない相手だ。

懐中に怪物を飼うなど、尋常の度量ではない。

「利害は一致しているのだ、無意味に足を引き合うことはない。我らはソペード、敵ではない」

「……少し癪ですけど、まあいいですわ」

話せばわかる、というのは大事である。

誰かが間違えても、他の誰かと相談して気づきを得れば、即座に修正されるのだから。

誰とも相談せずに、己の中で煮詰めた答えを結論とする。それほど恐ろしく、楽しく、馬鹿々々しいことはない。

バアスが一番改めるべきは、剣は口で語るものではない、という自己陶酔である。

言われないと分からないどころか、ぶちのめされてから言われないと改められない、と言うのは全面的に甘えだ。

説教をしてくる相手が自分よりも強く、しかも自分へ好意的でなければならない。

想像力や理解力の欠如、傲慢や意固地からくる経験則への執着。

それらをまとめて、教養がないとか、育ちが悪いという。

つまりは、年齢や実績とは無関係な未熟さであり、山水が愛おしく思う理由だった。

「私の次は、お前だ。きちんと務めて、次に回せ」

「はい」

「人は必ず間違いを犯すし、そうでなくとも裏目にでることはある」

「はい」

「自分は間違っていないとか、自分は悪くないとか、そんな言葉で謝罪から逃げるな。お前は責任を負う身なのだからな」

「はい」

ただ殺すだけ、ただ首を落とすだけでは足りないと山水は語った。

首を落とすにも作法があり、良い首の落とし方をするためには力まかせではいけないと証明した。

同様に政治も、ただ成功すれば、ただ繁栄すればいいという物ではない。

成功し存続することが最優先ではあるが、それは前提として可能な限り敵を減らし味方を増やし、不満は減らし分配は増やさねばならない。

刹那的な成功や玉座など御免被る。

建設的な思考こそ、次代への最高の財産だ。

できることならば。

山水もバアスにそれを伝えたい。

もしかしたら。

もうとっくに、手遅れだとしても。