軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調理

山水は貴族の子供から『どうしてその小さい刀を持っているの』と、脇差に関して聞かれた。

バアスは別の門下生が短剣を投擲する姿を見て『邪道だな』と、思って軽蔑していた。

「それでは、実際に試してみましょう。よろしくお願いしますね、バアスさん」

「……」

山水は割と攻撃的と言うか、実践的である。

言葉で示すよりも行動で結果を示してから、言葉で補足説明をする。

あるいは、バアスに合わせているのかもしれないが、バアス本人としてはたまったものではない。

山水が許している行動には、大抵意味がある。

あるいは、バアスが不満に感じることには理由がある。

つまり山水が正しく、バアスは間違っている。

基本的に強情なバアスは、自分が一方的に間違っていると納得させられることが不快だった。

苦虫をかみつぶしたような彼は、今度こそ説得されまいとムキになっていた。

貴族の前で恥をかかされてたまるものか、今度こそ上回ってみせる。

「それでは、短い剣の利点について」

貴族たちの稽古をしている道場の中に招かれたバアスは、本物の大剣を上段に構えていた。

その一方で、山水は腰に脇差を差しているものの、抜こうともしていなかった。

誰がどう考えても、山水が一方的に不利だった。

稽古を見学しているご婦人方は不安そうに、稽古に参加していた子供はおびえているようで。

そして、大人たちは山水がどう倒すのか、興味津々だった。

「武器という物は、基本的に長いほうが有利です。試しに長い槍と短剣で向き合ってみてください、と、これは言わずもがなですね」

バアスは、何時勝負が始まってもいいように気を引き締めていた。

山水は貴族へ詳しく説明をしていたので、バアスの方を向いていなかった。

「この短い刀は、脇差といいます。もちろん、長い刀が折れたときには代わりとして扱いますが、普通に長い刀を二本持っていたほうがいいと思うでしょう」

ここでようやく、山水は腰から脇差を抜いていた。

「ですが、携帯する、というのなら脇差の方が便利な時も多いのです」

そして、無造作にバアスに近づいていた。

予備動作がほとんどなく、バアスの間合いの内側に入っていた。

何時近づき始めたのかわからなかったために、バアスは反応ができなかった。

「おおお!」

慌てて、山水へ切りかかろうとするバアス。

しかし山水は慌てずに、脇差を喉元に突き付けて動きを制していた。

「戦争中ならまだしも日常で襲われた場合には、こうして大剣をもっていても鞘から抜く前に間合いを詰められることがあります」

これ以上動けば、喉に脇差が刺さる。

それは子供でも分かることだったが、バアスは心臓を握られているかのようだった。

「もちろん間合いをつぶすこと自体が、まず難しいことも事実。しかしそれは戦争の話であって、例えば街ですれ違う誰かから不意に切りかかられた場合……」

山水は、いったん脇差を喉元から引いた。

そのうえで、大剣の間合いの内側で構える。

戦闘の続行を確信したバアスは、説明を続けている山水へ切りかかっていた。

負けん気ではない、山水への恐怖だったのだろう。

「大きい剣では、どうにも不自由です。バアスさんは大柄で力もありますが、それでも大きい剣を狭い間合いで振り回すのは難しい」

それを、山水は体捌きで回避しつつ、小刻みに反撃していた。

「軽い武器は攻撃力が低いですが、相手がきちんと武装をしていないのであれば十分有効です。特に相手の指や手などを狙うと、ほぼ確実に傷を負わせることができます」

軽い武器を片手にもって、小刻みに手を狙っていく山水。

もちろん山水はバアスへ怪我をさせるつもりはないのだが、バアスにしてみればたまったものではない。

一撃で相手を断ち切る大剣も、間合いの内側に入られればただ重いだけだ。

つばぜり合いをしようにも相手は付き合わないし、振りかぶろうにもその隙が無い。

一旦、距離をとるしかない。そう思って大きく飛びのこうとする。

すると山水は、狙っていたかのように脇差を投げていた。

喉元へ直撃する軌道に、バアスも観戦者も息を呑んだ。

「こうして投げることもできますし」

しかし、身構えたバアスの手前で脇差は消えた。

縮地法、牽牛。

投げた脇差を回収すると、山水は再びバアスを制するべく間合いを詰めていた。

「たとえ相手が防具を着こんでいたとしても……」

この時バアスは、山水の投擲していた脇差にばかり神経が集中していた。

だからこそ、脇差が目の前から消えても、まずその脇差を目で追おうとしてしまう。

接近してくる山水にも気づかず、あっさりと服をつかまれていた。

「こうして転がしてしまえば、防具の隙間にぶすりと」

一本背負いのような、派手な技ではない。

ただ崩して、膝をつかせただけだった。

流石に剣を持っている人間を投げると、新築の道場が傷つくと思ったのだろう。

「このように、短い武器にも使いどころはあるわけですね。大きな武器だけを持っている場合、小さい武器で奇襲を仕掛ければそのままあっさり倒すことも可能なわけです」

いいようにあしらわれたバアスは、やはり悔しそうな顔をせざるを得ない。

周囲からすれば型稽古、あるいは殺陣にも見えただろう。

山水もさることながら、バアスも名演技だったとでも思っているだろう。

だが実際には、一切打ち合わせはなかった。山水の思うがままに、バアスが踊らされただけである。

しかし同時に、バアスは山水の強みの一端を理解せざるを得なかった。

自分への説得もそうなのだが、どうにも山水は相手を思うように誘導できる技術があるらしい。

希少魔法ではなく、これも体術の一環だろうと察することもできる。

仮に今の自分が、山水と出会う前の自分と戦ったとして……山水がやろうとしたことをある程度再現できる気もした。

逆に言えば、山水は一目見たときから、バアスのことをきちんと把握していたことになる。

丁寧に開示されているので、どの技術も理解できるものだった。

しかし、そうと知らなければ、いつでも殺されていただろう。

それは今でも同じであり……それが恐ろしいはずなのだが、だんだん怖くなくなっていくのも事実だった。

ある日のことである。

山水は夫人や子供を残して、貴人と門下を連れて石舟に乗っていた。

山水は仙人なので、宝貝である石舟を俗人よりも上手に扱える。

数隻の船を一人で操作しながら、空を軽やかに進んでいる。

そのうえで、すべての船へ聞こえる声で、主に門下へ話しかけていた。

その中には当然、バアスも入っている。

「武芸指南役と言うのは、基本的には戦闘を職務としていません。貴人の警備は護衛の兵が行うものであり、他に関しても同様で専門家がいるでしょう」

その話を聞いていると、バアスは嫌でも理解してしまう。

山水を含めて自分と一緒に稽古をしている面々は、貴族へ直接剣術を教える、こびへつらう輩なのだと。

正直に言って、面白くない話だった。

「しかし貴人にしてみれば、己へ指導を行う武芸指南役たちが本当に強いのか、時折確かめたくなるのも当然というもの」

通常の場合、老齢な軍人が貴族へお稽古するのが武芸指南役ではある。

そうした場合は、軍隊で重ねた戦績が強さの証明となる。

しかし、実際に戦わせてみたい、と思う者も多いだろう。

「そうしたときに、いかにしてご納得を得るのか、それもまた武芸指南役の腕の見せどころではあります」

話術であしらえ、というのを変化球気味に伝える山水。

もしもがあるのが実戦である以上、武芸指南役といえども極力避けるべきではある。

第一、あんまり実戦を繰り返すと、主が品性を疑われてしまうだろう。

具体的に言うと、ドゥーウェ・ソペードのことである。

「……私は元々、ソペード本家に護衛として雇用されました。奥様のそばに、幼少のころからお仕えする栄誉を得ていましたが」

微妙に、苦悶の表情を浮かべる。

それをみてバアスは、やはり貴族は駄目だなと想い……。

他の貴人は、ああやっぱりという共感をしていた。

「それ故に真偽定まらぬ噂が、巷に流れることもしばしばでした」

だんだん、舟に乗っている者たちの耳に『声』が聞こえてきた。

祭ではなく暴動であろう、とても攻撃的な声が多数だった。

「よって、その噂を聞いた方から『アレは本当なのか』と伺われることもあります。これにはいつも参っておりまして……」

山水の方をむきながら、貴人や門下たちは視線を下に向ける。

そこには武器を持って反乱している、外国から来たばかりの農奴たちがいた。

「噂には尾ひれがつくものですし、そう簡単に証明できるものでもありません。特にそう……多数を単独で殺したという噂など、口で言っても信じてもらえるものではありません」

山水は腰に差していた普通の剣をゆっくりと抜く。

空を進んでいた数隻の船は、ことごとく止まっていた。

「そして、私から指導を受けた方々も、真似をせよと言われるかもしれません。そうした状況に備えて……実演を致します」

曰く、山水は王女と主の前で、多数の悪漢たちを一人で、しかも斬首のみで殲滅したという。

残虐な異常者の如き、ありえざる逸話だった。

バアスも軽く聞いており、当人に会ってからはそれは悪意を込めた噂だと思っていた。

「いかにして実戦の場で、切りかかってくる相手の首を落とすのか。全体の立ち回りも含めて、よくご覧ください」

山水は石の船から、なんでもなさそうに降りて行った。

明らかに希少魔法とわかる、ゆったりとした落下。

数百人はいるであろう暴徒の中へ、たった一人で身を投じていた。

そうなれば、全員が真下を見るしかない。

船から落ちないようにしがみつきながら、山水を探していた。

「おおお……」

程なくして、全員が山水を見つけていた。

手にした剣を大降りしながら、暴れる農奴たちの首を落としていく。

中には槍や農業用のフォークを持った者もいるのだが、その彼らにさえ通常の踏み込みであっさりと間合いを詰めて、流れるように首を切り落としていく。

普通なら山水が縮地を使わなくても、その予備動作がない流麗な動きをすべて見ることはできない。

相手が大勢であり、しかも乱戦なら尚のことだ。

なにせ山水は大勢からの視線を感じつつ、その居場所を特定されないように立ち回っているのだから。

だが、真上から俯瞰してみていれば話は別だ。山水が言うところの、視野を広く持ち全体を把握する、というのを極めて直接的に行えている。

「そうか、サンスイ殿はこうやって見ているのか……」

ある程度の高度からなら、山水の周りにいる敵が、どこをどう見ているのかわかる。

その視界、視野を顔の向きから察すると、山水は見事に『消えて』いた。

たった一人で、極めて一方的に斬殺していく。

やがて全員が、絶叫して逃げ出していた。

「ソペードの切り札だ!」

「竜殺しだ!」

「け、剣聖だ!」

「勝てるわけがない、逃げろ!」

もとより統率の取れていない暴動である。

本気で切り札が暴れれば、勝ち目がないと悟って逃げ出すのは当たり前だった。

烏合の衆が、まさに分裂していった。

「これが、晒し首と恐れられた男の技か……」

ついさきほどまで、朗らかに笑いながら指導をしていた白黒山水。

その彼が、あまりにも猟奇的な殺人を、極めて鮮やかに繰り返していたことに、誰もが感嘆を禁じえなかった。

「我儘姫の屋敷を襲った悪漢を、斬首だけで殺戮し……その首を並べて飾ったというが……本当だったのか」

実際に斬首だけで悪漢暴徒を殺して見せろ、と言われれば山水は困っただろう。

なにせ、まず殺す相手を用意しなければならないのだから。

逆に言えば、殺す相手を用意できるのなら、山水にとっては面倒でも困ることでもないのだろう。

貴人も武人も一様に、国内最強の剣士の技に見入っていた。

その彼らを乗せている石の船は、ゆっくりと降下していく。

大量殺戮の現場へ、その実行犯の元へ近づいていった。

「お恥ずかしい手並みですが……いかがだったでしょうか」

そして、ようやく、改めて、山水を近くで見る。

多くの死体が散乱しているその戦場でひとり立つ彼は、先ほどまでと変わらない恰好をしていた。

傷を負っていないこともそうなのだが、返り血を一切浴びていない。

大量の血がまき散らされているにもかかわらず、彼は汚れていないのだった。

「れ、礼服の死神……」

曰く、オセオを落とす時。

結婚式に出席していた山水は礼服を着ていたので、そのままオセオへ攻め込んだ。

そして、オセオの軍を蹴散らしつつ、しかし血の一滴も服に滴らせることなく帰ってきたという。

もののついでのようにそれさえ再現されて、誰もが唖然茫然であった。

「もちろん、私の技をすべて覚えられては、それこそ私の面目がありません。ですが、戦う相手の首を落とすことに関しては、指導をさせていただきます」

そう言って、山水は仙術を使った。

「縮地法、牽牛」

瞬時に山水の手元へ、先ほど彼から逃げ出していた農奴が現れていた。

「え……え?」

いきなり周囲の光景が変わったことに、彼は大いに慌てていた。

左右を見て、状況を把握しようとしている。

「御覧のように、人間は首を良く動かします。殺すだけなら、左右に振ってもほとんど問題はありません。ですが、切断するとなるとなれば、左右を向かれているのはいささか問題です」

「ひ……?!」

慌てて、息を切らせたまま、逃げ出そうとする農奴。

その彼を追いかけるように、背後から襲い掛かり、すれ違うように首を落としていた。

「今の彼は、走っていました。しかも息を切らせており、姿勢はお世辞にも良いとは言えません」

そう言って、切り落とした首を拾い上げる。

その断面を、まるで料理の見本のように見せていた。

「よって……少々のいかさまをしましたが、それでも切断面はきれいとは言えません。御覧のように、骨がつぶれています」

その首を放り捨てると、また別の逃げた農奴を引き寄せていた。

そして、今更のように『観客』たちは苦笑いをしていた。

そう、山水は最初から、一人も逃がすつもりがないのだと。

「理想を言うのなら、ご覧のように……」

山水は、その農奴の首をつかんだ。

有無を言わさず発勁を打ち込み、その自由を奪う。

発勁法、饅頭。

いつだったか、師匠から受けた技である。

「ひ、ひぃ?!」

「いったん座らせて、首を下に向けさせて」

「か、体が……」

「処刑のようにするのが一番です」

大真面目に、山水は首の落とし方を説明していった。

「ですが、これでは戦闘中に相手の首を落としている、とは言えません。ですので……どうすれば首を綺麗に落とせるのかをお教えしましょう」

バアスが感じたように、相手の動きを支配する方法を、丁寧に説明していった。

「余技であり、児戯ですが……相手の動きを支配するのは剣術の極意です」

本人はちっとも楽しそうではないが、必要なことだからと真剣に指導していく。

「相手が多数の場合は、試すのは無謀ですのでおやめください。大勢を相手にこれができるのは、私以外には師であるスイボクだけですので」

今回の相手は、カネに目がくらんだ悪漢ではなく農奴。

おそらく何者かに扇動されたか、あるいは待遇の不満を訴えるものだろう。

だが、アルカナ王国は、ソペードはそれを許さない。

それならば、山水が殺人を躊躇することはありえない。

「ご当主が、信頼なさるわけだ……」

まるで盤上で戦術の指導をするように、山水は相手の御し方を教えていく。

それを見た貴人たちは、山水を雇用している当主たちの心境をいまさらながら理解した。

そう、大本をただせば、ドゥーウェはともかく当主たちが山水を雇ったのは、山水に犯意がないことが明らかだったからだ。

山水が殺す気なら、計略など一切使わない。

どこにいる誰だろうと、真正面から突破して、そのまま殺せばいいだけである。

尾ひれを付けるまでもなく、山水の強さは 本物(かじょう) だった。