軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

連携

やはり、話は少し遡る。

国王とステンド・アルカナは、右京と話をしていた。

今までは革命家や為政者としての剛腕をふるってきた右京が、いよいよ個人としての武勇による戦いに身を投じようとしている。

普通ならなんの心得もない男に戦闘用の神宝を持たせるなど論外だが、今回は相手が相手である。

山水やスイボクならまた別かもしれないが、巨大な竜を相手に体術もへったくれもあるまい。

巨大な竜を相手に一歩も引かない度胸さえあれば、人間としての性能は関係ないだろう。

そして、右京にはそれがある。神宝だのみではあるが、その性能を引き出せるだけの精神性を持っているのだ。

「改めて、息子よ……君が羨ましい」

竜殺し、ドラゴンスレイヤー。

それこそ、人間の武勇としては最上級の逸話だろう。

帝国を滅亡させ、自分の国を建国し、さらには竜まで殺す。

なるほど、男としてはこの上ない経歴である。

「気分はどうだ、これから竜を討つという偉業に挑むのは」

「相手が一頭なら、まあそういう気分にもなれたんですけどねえ……」

右京は素直に胸のうちを明かしていた。

これが一頭倒して終わり、という程度ならさぞ胸が躍る冒険だっただろう。

しかし今回は、最強の生物を片っ端から撃墜していく、という時間制限付きの作戦だ。

言っては悪いが、竜を一体倒すことに一々感傷へ浸ることができない。

「正直、物理的かつ軍事的に、国家を背負うことになるとは思いませんでしたねえ」

それでも、猛っている。

決して鍛えられているわけではない彼の体から、魂から、熱が吹き荒れているようだった。

「……ま、やる気はガンガン湧いてきますよ」

「それは、よかった。さすがだな」

「ええ、頼もしい」

精神的な強さ、という意味では山水を超えているのかもしれない。

そう思うほどに、今の右京は気力が充実している。

「……君を引き入れてよかったと思っている」

「隗より始めよ……か。こんな言い方はどうかと思いますが、俺との戦争をああ終わらせたことが、今回の一件と無関係だとは思えませんね」

今、栄華を極めたアルカナは滅亡の危機に瀕している。

にもかかわらず、右京の元には他国からの傑物が集いつつあった。

「多くの国から俺の国へ、亡命希望者が集まってきてます。そっちもそうなんでしょう?」

「ああ、そうだ。オセオ付近もさることながら、オセオから離れた国からも集まりつつある。もちろん、今のところはアルカナへの入国は控えてもらっているがね」

「……まあ今回の戦争で戦ってくれる人たちには申し訳ないですが、なんとかなるでしょう。ドミノで今仕事をしている人が、アルカナへ復帰しますから」

「今回戦う彼らが守りたいのは、アルカナという国である以上に、自分の家族だ……それをないがしろにはできない」

「それも大丈夫でしょう……なにせこれから、仕事は増えるんですから」

邪悪に笑う右京。

その瞳には、この戦争の先にある未来が見えていた。

「ようやく、楽になれそうです……」

「そうね、これでようやく『初夜』を迎えられそうだわ」

「……二人とも、仕事に熱中しすぎだぞ」

二人の関係が冷えているわけではないとしても、互いのことを仕事の相棒として見すぎである。

夫婦というか、ビジネスパートナー扱いだった。

「そうはいいますが、お父様。私が妊娠したら国が崩壊しますよ」

「そうですよ、御宅の娘さんが抜けたら、ウチの国回らないんですから」

「……ああ、そうだったな」

父親として嘆きつつ、しかし国王は納得していた。

「では、この戦争が終わったら孫の顔に期待させてもらう」

一万年前に人類を追いやった、旧世界の怪物たち。

それを相手に戦略を描ける己の義理息子に対して、国王は頼もしさしか感じられない。

こういう男こそが、本当の意味で英雄と呼ばれるのだろうと感じて。

その彼から信頼を受けている己を、少し誇らしく思えた。

制限を解除された神宝。それは旧世界の怪物を討つという、本来の役割りに戻ったことを意味している。

そして、ダヌアやノア、ウンガイキョウ、エリクサーのように戦闘とは一切関係ない神宝の場合は違うが、残る半分の所有者には神宝に加えて『マント』が装着されていた。

「本気モードだとマントが付くってのは陳腐だけど、結構燃えるな」

暗雲の下で、空に浮かんでいる右京は自分の背負っているマントをいじっていた。

例によってというか、マントと関係性があるのかわからないが、制限を解放された神宝によって飛行できるようになっていた。

( )

ダインスレイフとエッケザックス、パンドラは竜と戦うための神宝なので、飛行能力が標準装備されているのは当然と言えるだろう。

「 」

「そうだな……五つも紋章が付いてるから、ごちゃごちゃしてるんだよな」

五つも神宝を持っている証、ということなのか右京のマントには五つ分の紋章が刻まれていた。

本来マントが備わっていない、ダヌアやウンガイキョウ、エリクサーの分もついでなのか描かれている。

「っていか、そもそも三つも神宝もってるから、ゴチャゴチャ感が半端じゃないしな。普段よりはましだけど、ウンガイキョウが無いだけだし。これで戦闘ってのはなあ……」

右手でダインスレイフを持っているが、これは問題ない。妖刀ダインスレイフは、片手で扱う短い剣だからだ。

腰に下げているエリクサーも問題ない。一番小さい神宝だからだ。

問題は、左手で持っているヴァジュラだった。

何分両手で持つ槍なので、普通に邪魔である。

「ヴァジュラ……お前邪魔」

『酷いぞ! 我が主!』

「なんでウンガイキョウやダヌアと違って、手で持っていないと使えないんだろうな、お前」

『この偉大なる我へ、文句をつけるな!』

「機能に関しては文句ないんだけどなあ……」

敵味方識別式、というよりは人間とそれ以外を識別する天候操作。

気象を操るヴァジュラにあるまじき、非常に繊細な能力。

自陣を後押しし、敵には過酷な環境を与える力。

まさに天の時を掌中に握る力なのだが、ヴァジュラは手に持っていないと使えないのである。

『それなら、ダインスレイフを適当な誰かに渡せばいいだろう!』

『……ヴァジュラ、いくら何でもそれには我も異を唱えるぞ』

『はっはっは! ヴァジュラよ、いいではないか。我らが主は前線で戦う高揚を、笑いでごまかそうとしているだけだ。真に受けると冗談が通じないと思われるぞ!』

「いや、素で嫌なんだが……素人が槍を片手で扱えるわけないだろう」

現在、人気のない場所の上空で陣取っている春と右京。

普通に考えればこんなところで待っていても、なんの意味もないだろう。

相手の進行ルートもわからず、さらに言えば逃げる可能性の方が高い。

なにせエリクサーの所有者は幸運によって守られている。それを無理に殺そうとするのは、賢明とは言い難いのだから。

「そっちは楽そうでいいな。こっちは五人抱えてるからな」

「 」

「ははは! そうかそうか!」

それでも、春も右京も、なんの不安もなく空に浮いていた。

「 」

『 』

「お熱い二人だ……さて、そろそろか」

エリクサーの解放された能力。

それは生存のための幸運だけではなく、戦果のための幸運も拾うということ。

絶対にありえないことを起こせるわけではないが、可能性の範囲の中では最良の条件を掴むことができる。

加えて、パンドラの持つ『普段から人間相手にも発動する能力』によって、逃亡が不可能であることも大きい。

つまり、この地には竜の集団が飛来することが確定しており、更に一切の逃亡ができないことを意味していた。

「少し遅いと思っていたら……やっぱり準備をしていたのか?」

『そのようだ、我が主よ。竜にしては飛ぶ速度が遅い、おそらくパンドラ対策だろうな』

右京の懸念を、ダインスレイフが肯定する。

そう、今回の敵は最初から八種神宝のことを熟知している。

制限されていた能力に関しても詳しいし、それゆえに対策も万全で当然だった。

エリクサーの所有者がダインスレイフさえ持つのなら、パンドラの所有者と組むのは当然だろう。

その二つが合わされば、二重の意味で逃れることができない。

少なくとも、パンドラの所有者を殺すまでは。

「 」

「ああ、死にたいか? 確かにアレはちょっとなあ」

そして、パンドラの対策は八種神宝の中で一番簡単だ。

正蔵は放っておいても自滅するから、いつでも殺せるからと見逃されていたように。

パンドラの完全適合者である春もまた、いつでも殺せるからこそ謀反の可能性があっても危険な神宝の所有を許されていたのだ。

最初からパンドラと遭遇すると知っていれば、準備をしておくのは当然だろう。

散開せずに団体で飛行するのなら、必ず春と右京に接触できる。

その部隊にパンドラ対策をすれば、他の部隊はパンドラを気にせず戦えるのだ。

そう、パンドラは最悪の兵器ではあっても、最強でもなければ無敵でもない。

今のスイボクが春に勝てないのも、彼の美意識上パンドラ対策が取れないからでしかない。

それは制限が解除された今でも、まったく変わりはない。

ゆっくりと飛行している竜たち、その短い前足で何かの籠を掴んでいる。

その中に内が入っているかなど、考えるまでもない。

捕まったであろう、アルカナ王国の臣民だった。

「弾避けならぬ、玉避けか……」

同時に百の命を散らせるパンドラ。それを前にした時生存したいなら、死んでもいい命を百以上準備すればいいだけだ。

そうすれば、無力化とは言わないまでも生存率は劇的に上がる。

無差別に殺してしまうパンドラだからこその、どうしようもない対策といえるだろう。

しかし、それを見てもパンドラを纏った春は、死にたいと思う一方で笑っていた。

人質、玉避けの為につかまった無辜の人々。彼らを巻き込むことは心ぐるしいが、その一方で自分対策をしてくれた、自分を真剣に殺しに来た最強生物に期待が隠せない。

そう、エリクサーを持つ右京は殺せない。

だが、パンドラを着ているだけの自分は、十分に殺され得るのだ。

それを、右京は期待してやまない。

その精神状態が、皮肉にもパンドラの力になる。

目の前の破滅を前に、春は死にたいという気持ちがあふれ出していた。

「 」

「俺も俺だが、お前もお前だな……まあ、お互い全力で戦おうじゃねえか。お前だって、ディスイヤは守りたいんだろう?」

春は、無言で肯定する。

それだけは、まるでぶれていない。

他の切り札たち同様に、『考える男』浮世春もまた当主と盤石の絆で結ばれていた。

そうでなかったら、いかに死にたがっていると言っても、あんな汚れ仕事など続けていない。

「そうこなくっちゃな。それで、ダインスレイフ。どうだ?」

『……まだ少ないな』

「それは喜んでいいのか悪いのか……」

『ちょっと待て! 我は?! このヴァジュラの調子は聞かないのか?!』

戦況が悪化すればするほどに、威力をあげるダインスレイフ。その真価が未だに発揮でいないというのなら、それは味方の被害が一万年前に比べて軽微ということである。

もちろん、絶滅寸前まで追いつめられていた一万年前とは、いろいろな意味で比較できないのだが。

『我の力が、この国全体へ波及しているのだぞ?! 戦略的な価値を無視するな!』

「これからドラゴン退治なのにそんなこと一々考える余裕があると思うか?」

山水やスイボクならまだしも、これから『百頭近い竜』を相手にしながら国全体のことなど考える余裕があるわけもない。

「行くぞ、エリクサー、ダインスレイフ!」

『はっはっは! 我は意志の聖杯エリクサー! 苦境の中でなお輝く意志を持つ限り、その命をパンドラからさえ守って見せよう!』

『……我は復讐の妖刀ダインスレイフ。その心に喪失の苦しみがある限り、空と大地を血で染め上げよう』

『我は?! 我は?! 我が主、我は?! 反逆の天槍ヴァジュラは?!』

「やるぞ、パンドラ」

『我は破滅の災鎧パンドラ。生き腐ることよりも散るべくして散ることを望む限り、あらゆる命に破滅をもたらそう』

『パンドラ! お前ちょっと格好つけすぎじゃないか!? 狡くないか?! 普段はもっとふざけてるだろう?! 男に媚を売っているだろう?!』

『異邦の独裁官』と『考える男』

戦略家と執行人という前線で戦うことがあり得ない二人は、しかし肩を並べて竜を迎え撃つ。

『わ、我は! 我は反逆のてんや』

「ヴァジュラ、黙ってろ!」

『我にも見得を切らせてくれ~~~!』

「捨てるぞ」

『なぜぇええええええ!』

「 」

『 』

『お前たちにそんなこと言われたくない!』

チームワークはばっちりだ。