軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伏龍

リミッターの外れた神宝、それによって戦略は大幅に向上した。

具体的には、箱舟ノアによって交通の便が格段に向上した。

要するに、ワープできるバスだと思っていただきたい。そういう運用法によって、定期的に主要個所を移動している。

現在、アルカナ王国の首脳陣と右京は、王都と己の所有地を往復していた。

その上で、全員が集まるのはやはり王都である。

「電話が欲しい」

全員を前に、右京は不満そうな第一声を吐いた。

「ワープ装置は便利だけど、船に乗って降りる手間がある。電話でいい、無線でもいい、とにかく通話が欲しい」

「ウキョウ、話をしてほしい」

「ん、そうですね。大変失礼しました、御父上」

王家の切り札、風姿右京。

彼は首脳陣を前に現在わかっていることを説明し始めた。

「まず確定情報からです。オセオ近隣の諸国から要人がいらっしゃいまして、オセオが旧世界の怪物と全面的に手を結んでいることを把握しました」

オセオといえば、先日苛烈なほどに叩き潰した国だ。

場に出せば確実に勝利する切り札を三人も投入した、豪華な作戦と言っていいだろう。

その犠牲になった国と、旧世界の怪物が手を組む。なるほど、あり得ないとは言い切れない。

「各国はオセオと密約を結びました。つまり……アルカナ王国及びドミノ共和国と、オセオ王国の戦争を静観するというものです」

その言葉の意味するところは、この二勢力の全面戦争であろう。

背後を気にせずに殺し合い、片方を滅ぼす。

そのために、相手は根回しを怠らなかった。

驕れる強者は久しからず、とは言うまいが、多くの国が今回の件に関して手を出さずに済ませようとするだろう。

「さて、その上で想定される敵の目的ですが……」

相手が如何なる生物であるとしても、こちらへ対して有効な作戦を練って行動している。

そういう意味では、仙人よりもよほどやりやすい。

あっちは単独でいきなり国を亡ぼすので、処置も何もない。

「敵は八種神宝のことを良く知っているし、それだけを恐れている。だとすれば、連中の目指すこの戦争の落としどころは……最低限、八種神宝の全てを出させること」

もしかしたら、他に何かを要求するのかもしれない。

しかし、それでも八種神宝をすべて要求することは確実だ。

そしてそれは、それこそこの国を滅ぼさなければ成立しない要求である。

と、同時に。この国が滅びたら成立しない要求でもある。

「そのためには、この場の五人に死なれては困るわけです」

今のところ、各家の当主と八種神宝の所有者の関係は良好である。

よって、八種神宝を最も確実に手に入れるには、政治的に解決することだろう。

「特に俺は、意志の聖杯エリクサーを持っている。その上で、ヴァジュラはともかく竜をも殺せる復讐の妖刀ダインスレイフと、竜以外の怪物にとって恐れるべきダヌアやウンガイキョウも持っている。単純な話、俺一人が逃げ出してしまえば、また別の国をのっとってやり直せる」

右京は五つもの神宝を持っている。

エリクサーを持っているがゆえに殺せず、ダインスレイフを持っているがゆえに竜を討てる。

そんな英雄が逃げ出してしまえば、竜を復讐の対象と定めれば、際限が無くなってしまう。

それを彼らが恐れないわけがない。

「だからこそ、敵は貴方がたを殺せない。貴方がたを殺せば、誰も俺に命令できなくなる。それどころか、嫁さんを使ってこの国を乗っ取ることもできるだろう」

右京自身、この場の五人から命令されれば、それどころか国王から命じられればあっさり命を投げ出すつもりである。

今まで何人も敵を殺し、味方を死なせてきた。その程度には、恥を知っている。

「だからこそ、この王都には手を出すだろうが竜が焼くということはない。そんな手加減ができる相手じゃないそうだからな」

流れとしては、そうなる。

あくまでもこの国のトップは存命させ、降伏させ無ければならない。

そうでなければ、せっかく集まっている八種神宝が分散してしまう可能性さえある。

「少なくとも、八種神宝をすべて集めるまでは、戦線を拡げるつもりはないんだろう。だからこそ、このアルカナとドミノで決着を付ける……」

「それはわかった。確かに道理ではある」

敵はある意味まともだった。

まともだからこそ、戦局を想定することができる。

その一方で、それに対して有効な作戦を練ることができないのも実情だった。

「しかしだ、息子よ。具体的にはどうやって我らへ降伏を促すのだ」

例えば、各地に通信設備があるとする。それなら連絡が取れなくなるとか、敵に降伏したと報告することができる。

しかし、あいにくとそんなものは無い。ないからこそ逆に、皆殺しにしてしまえば報告が遅れる。

報告が遅れる分、この場の五人は降伏しようと思わなくなり、その分切り札たちが暴れる余地が生まれる。

もちろん、旧世界の怪物たちも、右京以外の三人に関しては極力殺そうとするだろう。

そうなればさらに、容易にアルカナを滅亡へ進められるからだ。

「各地を壊滅させ、その地の有力者を拉致し……この王都へ集めて訴えさせる。まあそんなところだろう」

「……降伏し、八種神宝を差し出すよう要求する。それはわかるが……我らが降伏しない、という可能性もあるぞ」

「確かに。しかし、王都の民衆へ竜が『降伏すれば、王都の民の命だけは取らない』とでかい声で叫べば……」

「文字通り、圧力をかけるというわけか……だが、竜がそこまで強いのなら、全てをこの王都にぶつける可能性はないのか?」

「確かに、それは俺の八種神宝も懸念していた。戦力を分散させるのは愚であり、集中して要所へぶつけるのは賢い。八種神宝はあくまでも竜に対抗できる武器であり、殲滅できる武器ではないからな。こっちを圧殺できるほどの数がいるのなら、そうするだろう。最初からな」

そう、そんなことができるのなら、最初の最初からそうしているはずだ。

わざわざオセオなどと手を組む意味がない。

事前にパンドラを襲うのではなく、しょっぱなから王都へ戦力をぶつければいい。

それをしなかったということは……。

「良くも悪くも、相手にはこっちを圧殺できるほどの戦力はない。特に竜はそこまでいないんだろう。だから根回しをして、戦う相手を制限している」

敵の兵力はそこまで過多ではない。

しかしこっちを普通に滅亡させられるだけの兵力はあるのかもしれない。

そういう意味では、相手の本気度がうかがえるだけ、厄介でもあった。

「そして、それはこっちも同じこと。仮にこっちがオセオへ正蔵を送り込んで焼き払っても、既に配置されているであろう国内の戦力を止める術がない。だからこっちは相手の頭を叩くわけにはいかない、そんなことをしたら泥沼だぞ」

頭を潰せば戦いは終わる、ということはないだろう。そんな簡単な話ではない。

なにせ、旧世界の怪物にとって主なのは、オセオの王ではなく最大戦力である竜。

オセオの王が殺されたからと言って、一目散に逃げだすということは考えまい。

「俺たちにできることは、相手の投入した戦力そのものを一刻も早くたたくことだ。アルカナ王国国内が戦場だから被害は半端じゃないだろうが、防衛戦なんてそんなもんだ」

相手の台所事情は知れないが、とにかく有限のはず。

そして相手がまともだからこそ、数が削れれば講和を持ちかけてくるだろう。

そこから先は、相手の事情次第である。

「おそらく、相手の戦力は竜の『羽化』に合わせてタイミングをそろえるはずだ。道中小さい町を襲って食料を調達することはあるだろうが、本格的に大都市を襲うのはそれこそ『日にち』をそろえるんだろう」

敵も生物、腹が減れば戦はできない。

道中の小さい村を襲って食料を調達する以上、大軍では問題がある。

「現時点では、発見のリスクも考えて戦力を分散させているだろう。ディスイヤで既に証明されているように、魔力による魔法なら、距離さえあれば一方的に叩けるからな。八種神宝が無くても、ある程度はどうにかなる」

「それで、打てる手は?」

「今のところは、今やっている手段ぐらいしか打てる手はない。つまり大都市に戦力を集中させ、兵士たちにダヌアとウンガイキョウの恩恵をもたらし強化する。それぐらいだな」

国王と右京の会話を、四つの家の当主たちは黙って聞いていた。

右京の予測は尤もで、しかも自分たちが知っている戦争と違い過ぎるからだ。

そのあたり、右京は知識や経験が違い過ぎるのだろう。

「ととと、失礼しました。ふさわしくないしゃべり方でしたね……」

「それはいい、本当にできることはないのか」

「大局的に、戦略的に、相手の数次第でしょう。ある意味では定石どおりに動かすしかない。仮にこっちがノアを使って大きく人間を動かせば、既に潜んでいるかもしれない敵への付け目になる。そもそも、相手の狙いが分からないのに、定石を崩すのはよくない。第一、人間を避難させるとしても、置き場がない」

周辺の村から都市へ避難させるならまだしも、都市に住む膨大な人間をどこへ逃がすというのか。

仮にドミノへ避難させるとしても、全体から移送させるには無理がありすぎる。

「ただ」

一つ、明るい材料があった。

「戦術的に限定をするのなら、分散した戦力を叩ける勢力はあります。既に動いている可能性さえある」

それは、この場の誰もが知っているが、しかし忘れていることである。

「希少魔法の使い手が大量に揃い、連携し合って戦術を組み立てている集団。その彼らを追跡し、打倒できる勢力の存在をエッケザックスが示唆しています。そちらへ接触しようとしたところ、既にいなくなっていました」

それは、世界最強の男であるスイボクをして、苦戦を味わわせた数少ない戦闘集団。

エッケザックスが記憶に残していた、強敵の中の強敵。

「いったいどこの戦力だ? まさか、マジャンか?」

「テンペラの里です」

アルカナ王国は広大な国家であり、それゆえに人口密集地ばかりというわけではない。

スイボクや山水が修業した地がそうであるように、手つかずの自然という場所も多い。

もちろん、豊かな自然というのは人間に対して易しいわけではなく、地形が複雑で通行が困難であったり、あるいは利用価値のない植生ばかりだったり、農耕や狩猟に不向きな地域、ということもある。

しかし当然ながら、それでも旧世界の怪物たちからすれば楽園である。

どこまで行っても不毛の荒野、命の絶えた星から来た彼らからすれば、当に天国であろう。

まあ、それでもしばらくいると飽きるのだが。

【さて、そろそろ次の村を襲撃だな】

【うむ、食料も少なくなってきたしな】

【いやはや、新世界の食事は大変美味い。つい食べ過ぎてしまうな】

【違いない】

それでも、美味しい食事というのは飽きないものである。

旧世界の怪物たちは、総じて貧困にあえいでいたので、その分食事に飢えていた(文字通り)。

彼らはこの世界の食事に夢中であり、食事こそが最大の楽しみになっていた。

そんな連中との付き合いである、オセオの将兵もそれなりに親近感を覚えていた。

これで人間をむしゃむしゃしていたら、それこそ逃亡兵が続出していただろう。

よほど飢えなければ、大丈夫。その情報を誰もが信じていたし、疑わないようにしていた。

確かに美食に飢えているのなら『人間を食べてもおいしくないよ』で文字通り解決できそうだった。

とはいえ、彼らの進軍は決して順調ではない。

如何に姿を隠せるとはいえ、八百人ほどの集団が動いていれば足跡やらなにやらでわかってしまうし、そもそもルートが一番通りやすい道なら、姿を隠す意味がほとんどない。

よって、道なき道を突破していくことになっていた。

武装した集団が、ぞろぞろと歩いていく。

それは当然そこまで早いものではないし、舗装されていない道ならなおのことだった。

当然騎乗できないし、馬車なども使えない。

食料を現地調達し続けるという暴挙に出なければ、ほとんど不可能な作戦だろう。

そして、彼らには致命的な欠陥があった。

強行軍であること、小数の兵であること。なによりも幻影によって身を隠しているからこそ、斥候を放って偵察をするということができない。

もちろん、彼らは姿を隠しているのだから、そう簡単に見つけられることはない。

だが、それは局地的に見れば間違っていたというほかない。

彼らは道なき道、傾斜のある山を進軍していた。

その彼らを、待ち伏せている集団がいるなど、一体どうして想像できようか。

「機だ、頼んだぞ爆毒拳よ」

「承知……」

斜面の上部にて、待機している『無手』の集団。

既に大地へ己の侵血を満たしていた彼らは、亀甲拳の使い手の指示に従って、全員で術を解き放つ。

「爆毒拳……軍式、崩層落!」

百人以上の術者が、呼吸を合わせて大地を爆破する。

深く、広く、強く。

爆破の威力が甚大であるからこそ、それによって起きる災害はまさに人間業を越えている。

つまり、土砂崩れに他ならない。

【ぬ、ぬぉおお!?】

【馬鹿な、土砂崩れだと!?】

【狙いすまし過ぎている……これは術か! 崩精か?!】

【言っている場合か!】

【逃れるぞ!】

身軽な怪物たちは木の上へ避難する。

巨大な雄牛が分身し、身軽ではない兵隊を持ち上げる。

如何に屈強な猛獣と言えども、膨大な質量の前には無力。

せめて埋まらぬようにと、高さを稼ごうとするが……。

「機だ」

「起爆!」

大量の土砂そのものが、爆発するとなれば防げるものではない。

膨大な火薬が直近で爆発、その威力は想像を絶する。

即効性が高いとは言えない術だからこそ、時間をかけて準備をすれば、その効果は劇的であった。

「さて……では次だな」

「おう!」

手袋をはめた、この上なく屈強な肉体を持つ兵士たち。

彼らは両手両足が多く露出した集団を掴み、今にも『投擲』しそうな構えだった。

「行くぞ…… 強血(ごうけつ) 嵐風(らんぷう) 拳! 下段投石!」

人間が、人間を投げる。

その無茶苦茶さに呆れることはできない。

尋常の域を超えた高速で放たれた人間たちは、そのまま弾丸のようにオセオの連合軍へ向かっていく。

「ぐ、ぐぅああああ!」

「な、て、敵だ!」

文字通り、投げ槍だった。投擲された拳法家たちは、その五体で敵を貫いていく。

飛び蹴りの構えで猛獣たちに激突していく彼らは、爆破でケガを負った将兵を殺傷していた。

【ぬぅおお!】

【人間風情が!】

それに対して、無敵の盾と矛を持つ犀が奮い立つ。

己の気血で盾と槍を硬質化させ、無謀な突撃を迎撃しようとした。

そう、この盾で防げぬものは無く、この槍で貫けぬ盾はない。

矛盾しているそれを、しかし犀たちは種族の特性として獲得している。

ゆえに、確信をもって防御しようとしていた。

人間には不可能な、武器の無敵化。

それは彼らの優位点なのだろう。

「玉血、四器拳」

だが、それは単に『手足しか硬質化』できない人間に対して、『手足で触れた物まで硬質化』できる犀、というだけなのだろう。

「足槍、破壁貫!」

鍛え抜かれた拳法家の足が、無敵の槍を砕き、無敵の盾を貫き、そのまま屈強な犀たちを貫いていく。

その光景を見て、オセオの将兵たちは愕然としていた。

切り札たちと遭遇したのなら、この状況も理解できる。

しかし、相手は明らかに軍勢だ。集団でありながら、しかし全員が露骨に希少魔法を使っている。

「バカな、旧世界の軍勢ならまだしも、純粋な人間でここまで希少魔法の使い手がそろうわけがない!」

「そんな連中が、無名なわけがない!」

「いったいどこから現れたというのだ!」

ことの発端は、二千年ほど昔の話である。

当時最強を誇っていた、千年不敗を謳っていた徒手空拳を身上とする傭兵集団が存在した。

その彼らの里へ、荒ぶる神が現われた。

荒ぶる神は逃げ出した亀甲拳の当主を除く、九つの家の当主を殺戮した。

そののちに、全員逃げ出した亀甲拳の使い手たちを除く、各家の戦闘可能な若者たち全員が挑んだ。

悪夢というほかない。

その全員を、荒ぶる神は返り討ちにした。

しかし、仕方がない。荒ぶる神こそ真の最強、誰がどう戦っても勝てるわけがなかった。

「牙血、動輪拳! 伏龍足断!」

「 弾血(だんけつ) 、 鮫噛(こうこう) 拳! 双手落とし!」

背面に細かい歯車を付け、天を仰ぎつつ高速で『走行』する拳法家が、敵の直近で全身を大回転させながら足を切り落としていく。

大海を高速で泳ぐ鮫の様に、地面を『泳ぐ』拳法家が、敵の足を掴みながら勢いよく離陸し、上空で地面へ敵へ放り投げる。

「ば、バカな! また別の希少魔法だと?!」

「いったいどれだけの使い手がいるんだ?!」

驚愕する兵士たちの前に、眠れる獅子が姿を現す。

「十だ」

十もの 希少魔法(けんぽう) を現代まで伝えた、最強の傭兵集団。

スイボクをして類を見なかった、世にも稀なる武闘集団が異世界の軍勢をせん滅する。

「諦めろ、お前たちはもう死ぬしかない」

分散された一部隊、その彼らに『可能性』は一切残っていなかった。