軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

攻防

改めて、よく晴れた空の下。俺たちは神社に来ていた。もちろん薬屋の三人は置いてきた。はっきり言って、同行させるのは罰ゲームであろう。

参拝客は一人もいないが、その代わりにたくさんの見届け人が並んでいる。

砂利の敷き詰められた境内の周囲には、沢山の『侍風』の姿をした剣士や、俺や師匠と同じ格好をしている仙人たちが並んでいる。

「ふむ、もしや大八州中から仙人が来ているのではないか?」

と、この大八州の長老であるカチョウ様が眉をひそめていた。

「っていうかカチョウ師匠、ぶっちゃけ大八州の剣士の偉い人も全員揃ってますよ」

ゼン君も少し青ざめていた。

多分師範とか師範代とか、高弟とかそういう実力者は全員来ているのだろう。

当然、礼装である。礼装のまま、砂利の敷き詰めらた庭に正座していた。

「おうおう、これほど剣士がそろっていると壮観であるな。これが全員フウケイの影響を受けているのだと思うと、儂も感無量である」

嬉しそうに笑う師匠。

しかしその理屈でいうと、アルカナ王国のソペードでは、師匠の影響を受けた剣士が大量にいることになるのだが。

とはいえ、先日の襲撃を思うとかなり流派の特色があるようだった。

俺は師匠が基準なので感覚が狂っているが、普通の人間はそんなにたくさん術を覚えないだろう。

なので習得する術を絞って特化している、とかそんな感じだった。

というかこういう考え方をしている時点で、普通の人間からすれば傲慢なんだろうなあ。

普通の人間は生涯をかけて一つの流派を極めるのに、俺や師匠は長い人生を使って全部学んでいくのだから。

祭我は仙気もやどしているけど『五百年も修業すんのは無理』という極めてまっとうな感性で仙術を学ぶことを断っていたが、彼らはきっと永遠の寿命があればそのまま修業するのだろう。

というか、そうしたいと思っている人もいる。

生涯を賭しても足りない修業をしている人たちなのだから、当然なのかもしれないが。

「失礼します、カチョウ様」

「おお、ジエズか」

「はい、不詳の弟子がとんでもないことを……」

仙人の中から一人がこちらへやってきた。

とても申し訳なさそうな顔をして縮こまっている一方で、しかし体はとてもたくましい。

なるほど、刀鍛冶系の宝貝職人で、ゴクの師匠筋のようである。

「お前が謝ることなど何もない。お前の弟子もずいぶん礼儀正しいではないか、直接会いに来て約束を取り付けるなど、このスイボクは滅多にやらなんだぞ?」

「カチョウ師匠、そんな昔のことを……」

「何をほざくか、お前のことでフウケイがどれだけ頭を下げてまわったことか……」

なんかポイントがズレているカチョウ様。

確かにゴクは事前に『明日決闘しましょうね』と言っていたけど、それは褒めていいのだろうか?

ゴクははっきりと『お前に恨みはないがむかつくからぶっ殺す』と言っていたので、それをジエズさんは気にしていると思うのだが。

俺は気にしていないし師匠も気にしていないしカチョウ様も気にしていないが、だからといって相手が謝っているところを正確にとらえていないのはどうかと思う。

だってカチョウ様は本気で『お前の弟子はちゃんと挨拶ができるし日時の約束ができるんだね』という点に感心しているんだから。

すげえなあ、解脱寸前の仙人って。

いくら何でも他の仙人を子ども扱いしすぎではないだろうか。

「で、ですが、我が弟子は、その……邪仙に堕ちたあげくこのような騒ぎを」

「儂の弟子などこの通り、巨大な島を叩き割ったのだぞ? それに比べれば些細であろう」

本当に些細で笑えない。

師匠は照れて恥ずかしそうだが、もうちょっと思い詰めてもいいと思う。

「見ての通り、スイボクの弟子も乗り気である。合意があるのなら、年寄りが首を突っ込むのは野暮であろう」

「……」

「案ずるな、失敗してもこの国が滅ぶことはない」

そんなのは師匠だけです。

師匠を基準に話を進めないでいただきたい。

「お前の弟子が邪仙に堕ちたのは、お前の咎ではない」

「カチョウ様……」

でもスイボク師匠がやんちゃして花札を壊滅されたのは、カチョウ様の咎では?

ちなみに俺だけではなく、ゼン君もフサビスも同じ心境である。

「……ジエズ、お前はただ見届けろ。それこそが義務である」

「わかりました、カチョウ様。ではスイボク様のお弟子よ、どうぞこれを」

ジエズさんは俺の手に、何の変哲もない刀を渡していた。

宝貝でもなんでもない、正真正銘ただの刀である。

ただし、悠久の時を生きる仙人の作った名刀である。

よく考えたら、普通の日本刀(日本じゃない)を使うのは初めてではないだろうか。

いやまあ、異世界で生活しているのに、日本刀があるっていうこと自体が既におかしい気もしているのだが。

「これはゴクから一方的に申し付けられたことで恐縮なのですが、まずは武神奉納試合の形式で試したいと。これは決勝で使うこともある、私の作った刀です」

「ありがとうございます」

「いえ……本当に申し訳ありません。本人が邪仙に堕ちるだけならまだしも、俗人をたぶらかしてこうするなど」

確かにまあ、そうかもしれない。

これから殺し合うのは、あくまでも俺とガリュウなのだから。

とはいえ、思うにだが……。

仮に俺が勝てば、その時は彼も相応の覚悟を決めるのではないだろうか。

「……師匠、例の物はいったんお預けします」

「うむ、そういうことであればな」

大天狗が作った捨てられない武器を、師匠に預ける。

相手が真剣で立ち会うことを望むなら、それは受けて当然だ。

「師匠、なにか助言はありますか?」

「何を言い出すかと思えば、自慢の弟子に助言などあるわけがあるまい」

もしかしたら最後の会話になるかもしれない。

そう予感しているのに、俺も師匠も朗らかに笑えていた。

「ただ、そうであるな。一つだけ、礼儀作法を教えてやる」

師匠はいつものように、物騒なことを言った。

「敵は、全力で殺せ。それが礼儀である」

俺はそれをにっこりと受け入れた。

きっと相手もそれを望んでいる。

「はい、全力で殺します」

砂利の敷かれた地面を、俺はゆっくりと歩いていく。

その視線の先には、一人の男が待っていた。

椅子に座り、腰に刀を差して、ゴクを控えさせて。

「目の前で長々と話し込んで申し訳ありませんでした」

「構わん、今生の別れかもしれないのだからな」

木を組んだだけの椅子から立った彼は、肉体年齢こそ若そうだが、その一方で目が鋭い。

それこそ月並みな言い方だが、彼は幾度も修羅場をくぐったような風格がある。

「……邪気の無い笑みだな」

不快そうに、彼は、ガリュウは俺へそう言っていた。

「影の無い、恐れのない笑みだ」

「失礼。正直、とても楽しみにしていたのですから」

「本当に失礼な奴だ」

まあそうだろう。

俺は真顔になった。

それでも涼し気な顔のままだろう。

きっと、裂ぱくの気迫だとか、そんなものはないのだろう。

「……ずいぶん急いでここまで来た」

語るということは、伝えたいということ。

それは決して分かり合いたいということではないけども、伝えたいというだけで価値がある。

俺は静かに耳を傾けた。

「長い日々だったように思えるが、過ぎてみれば一瞬に思える。だが、それでも俺の人生だった」

とても、とても重い言葉だった。

きっと俺たち切り札の誰もが、口にすることができない言葉だった。

いや、右京なら、あるいは。

「俺の、 人生(すべて) だった」

熱さがありながらも、寂しささえ漂っている、しかし重い言葉だった。

それらは決して矛盾せず、素直な彼の心中を表している。

「お前もそうなのだろう。フウケイ殿を倒すほどの仙人の、その弟子よ。その立ち振る舞いだけでわかる」

ここで礼を言うのは余りにも非情だ。

彼は決して褒めているわけではないのだから。

「お前は、強い」

敬意ではなく、軽蔑。

歓喜ではなく、激憤。

仙人が身近だからこその、どうしようもない嫉妬があった。

まあそうだろう。思えば、統括隊長も似たような感情を俺に抱いていた。

年齢を重ねているからこそ感じる、どれだけ鍛えても遠ざかっていく寂しさ。

それを彼はずっと感じていたのだ。

「ああ、強いだろう」

そろそろだ。

そろそろ、時間だ。

一番太陽が高くなる。

高度が高いこの地では、太陽も心なしか大きく見える。

その下で、俺は刀を抜く。

相手も同様に剣を抜いた。

「それを、確かめさせてくれ」

ゴクが下がる。

誰もが息をのむ。

「お前の強さを」

俺は、 それ(・・) を堪能する。

「それと戦う、俺の強さを」

とりあえず、互いに中段で構えた。

真剣を抜き合っている状態なのでやや趣は異なるが、それでも剣道の試合に似ていた。

違うのは、そう、決定的に違うのは。

審判がいない、ということだろう。

そんなことを、相手も俺も一々確認しない。

この戦いは最初からそういう話だ。

お前のことが気に入らないからぶち殺す。

それを動機としている以上、俺かガリュウのどちらかが死ぬしかない。

今更だが、俺は金丹を既に服用している。

それはそれでどうかと思うのだが、とても今更だ。

むしろ相手も、それを使わない方が怒るだろう。

その上で、刀を抜き合った俺たちは動けなかった。

相手の気配を感じ取れる俺にはよくわかるのだが、彼に隙が無い。

本当に、安定感をもって隙がない。

ランなど特に顕著なのだが、集中力に波があるとやはり隙が出やすい。

それが無いということは、精神的な安定感がしっかりしているということだった。

とはいえ、見合ってばかりでも仕方がない。

俺は前へ出ることにした。

「舐めているのか?」

俺が中段の構えから突き込んでくることを、ガリュウは既に読んでいた。

俺の刀の切っ先が動くよりも早く、ガリュウの体全体が動き始めている。

「うかつだろう」

半歩下がりながら半身になり、刀を使って突きの切っ先を逸らす。

それだけで俺の刺突は完全に回避されていた。

「そのまま死ね」

気功剣法、十文字。

俺の突きは腕が伸び切ったことで止まり、一瞬力が入らなくなる。

その機を逃さずに、ガリュウは受けている剣から気血を漂わせ、十手のように俺の刀を絡めた。

もちろん、引っ張ればそのまま抜ける。法術の壁と違って、そこまで強度が高くないので、いいところ粘土ぐらいだろう。

それでも、その一瞬をガリュウは逃さなかった。

俺の最も力が入らない一瞬を捉え、俺の体勢を崩す。

そのまま、流れるように切り込んでくる。

「気功剣法、数珠帯」

その流れを、俺は一瞬とどめる。

俺の刀と彼の刀が触れ合っている間、彼が反撃に転じる機をとらえて一瞬動きを止める。

「いやいや」

「……そうか」

その一瞬の間に、俺は体勢を整える。

俺が体勢を整えれば、相手も整う。

そのまま、鍔迫り合いの姿勢になった。

拳の間合いで、しのぎを削ることになっていた。

「お見事ですね」

「……黙れ」

体格はほぼ互角だが、押し合う力は俺が上だった。

おそらく、今の時点で相手は豪身帯を使っていない。

であれば強化分俺が上だった。しかし、このまま押し切れるとは思っていない。

というよりも、お互いにまた攻めあぐねていた。

「不愉快だな、こちらは必死だというのに」

名刀と名刀が、ぶつかり合って軋んでいる。

武器は消耗品なので当然だ、折れず曲がらずなどしょせんはただのうたい文句である。

「余裕が、余力がある。自信が、自負が、 小動(こゆるぎ) もしない」

俺たちは同時に、発勁法、震脚を発動させる。

それによって俺たちは弾き合って距離をとった。

「それは貴方も同じでは?」

「同じだと? 冗談だろう」

必死と自己申告する割に、波が無い。

連続で打ちあっている間にぼろが出るかとも思ったが、それもない。

俺だけではなく、ガリュウにも十分な余力がある。

「俺はお前に集中している。だが、お前は今も周囲を警戒している」

再び、同時に前進する。

日本刀と日本刀がぶつかり合い、火花が散った気がした。

「ずいぶんな余裕だ」

「それを見抜けるということが、貴方の実力を示している」

「上から言ってくれる」

腕を狙われた。切っ先で半円を描いて弾く。

そのまま逆に突き込むが、相手は手首を柔軟に使って刀の根元で捌く。

苛立っているようで、剣は冷静だ。

力で押そうとすれば流される、崩そうとしても柔軟に立て直す、虚を突いても虚にならない。

何をどうやっても、決定打どころか当てること自体が難しい。

守りに入っているのではなく、互いに攻防しているにもかかわらず、である。

「貴方は自分の強さを知りたかったのでは」

「……」

「いえ、失言でした」

強い。ああ、単純に強い。

俺は嬉しくて、面白くて、楽しかった。

彼の技量は、先日の三人を超えている。

俺や師匠の水準に達している。

その上で、肉体的に衰えていない。

「ずいぶんと急いでここまで来た。だが……それは神の領域に達したというだけのこと」

眼光は、相変わらず鋭い。

射抜かれそうになる中で、俺は笑っているのだろう。

「そこで暮らしているお前や、その師から見れば、さぞ面白い玩具なのだろう」

俺が笑っていることが、彼にとって不愉快の極みということだ。

「……正直に言って、自分の無力さが嘆かわしい。気功剣と発勁で拮抗するとは思わなかった」

先日同様に、俺は仙術を使っていない。

ほぼ対等な条件で、俺たちは戦えている。

つまり、俺が仙術を使えば、一気に優劣が付くことを意味していた。

拮抗は、つまり実力差が歴然としているということ。

彼にとっては、耐えがたいことだろう。

「しかし、だ」

それでも、彼は何かを隠していた。

発勁と気功剣しか使えないはずの彼は、それでも己に勝機があると疑っていない。

「 俺たち(・・・) は、 お前たち(・・・・) に勝つ」