軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

話題

さて、俺はソペードにあるブロワの実家へ『帰って』いた。

相変わらず、俺の娘は実にかわいい。名前がファンであることを除いて。

いや、もちろんそんなことを言い出せば、ブロワもドゥーウェも、可愛さのかけらもない。

レインが比較的マシという現実は、いかんともしがたい。

「うう……」

「おお、ファン。パパだぞ~~」

既に生後半年以上経過している俺の娘、実にかわいいのだが……よく考えるまでもなく、レインも赤ん坊のころから育てていたので、初めての父親感がない。

いやいや、というかレインの時も俺はほとんど子育てにはノータッチだったような気が……。

ファンが生まれても、しばらくは留守だった。うむ、父親とはこういう者だったか?

「……ファン、パパは自分の生き方に自信がなくなってきた」

「おおぅ……」

絨毯の敷かれた床の上に俺とファンが座っている。

遊んであげているというか、話しかけているだけなのだが、これはこれで楽しい。

さて、そんな俺の、上の娘と妻だが……。

「サンスイが、私の産んだファンと遊んでいる……」

「パパがファンと遊んでいる……」

俺がファンの手を握ったり、ファンが俺の手をしゃぶっているところをみて、感慨にふけっていた。

そうか、やっぱり二人から見ても俺はワーカーホリック気味だったのだなあ。

実際七年ぐらい前までは、飲まず食わずで休日もなく鍛錬だったし……。

「ファン……俺頑張るよ」

「あぅ」

俺の指をくわえて嘗め回している俺の娘。

実に赤ん坊である。レインも少し前はこんな感じだったのになあ。

「と、ところでだ。いよいよお前と私の結婚式だな」

「ああ、そうだな。お前のお父さんが手配しているんだろう?」

「それはそうだが、お前が個人的に呼びたい人間を挙げてほしいそうだぞ。さすがにお前の交友関係まではわからないしな」

ああ、確かにそれはあったな。

実際のところ、そこまで把握されていたら半端なく怖いし。

「……一応聞くがサンスイ、お前まさか結婚式に興味がないとか本当は結婚式じたいしたくないとか言い出さないか?」

ものすごく真顔で、とんでもないことを言い出すブロワ。

というか、レインも同じぐらい真剣に、俺の反応を待っている。

「おい、待てブロワ。お前俺がそこまでの男だと思っていたのか」

「お前はもう少し、女がお前をどう思っているのか考えるべきだぞ」

確かに、俺は無欲でたんぱくだと思われがちだからなあ……。

服は普段から質素だし、修行か稽古しかしていないし、特に趣味もないし。

「パパ、子供の視点からの客観もお願い」

うん、でもそれはあきらめてほしい。

レインよ、お前の父は少し前にお隣の国の王様をぼこぼこにして、無理やり『息子』を押し付けた身なのだ。

その娘であるお前が何を言われても、ある程度は仕方がないと思われる。

ぶっちゃけ、俺の行動は誇張や脚色を抜きにしたほうが、よっぽど現実離れしているからなあ。

「とにかく、俺は結婚式を結構楽しみにしているんだよ。なんだかんだいってお前とちゃんと夫婦になるんだし、晴れ姿を師匠やいままでお世話になった人へ見せられるからなあ」

あえて、自分の都合を口にする。

まあぶっちゃけブロワが喜ぶことをしてやりたい、と思っているのだがそれを言っても喜ばないだろうし。

「師匠もこれが終わったらいよいよ故郷へ帰るらしいし、場合によってはそのまま自然へ帰るかもしれないしな。どうせなら俺が立派になった姿を脳裏に焼き付けていただきたい」

「そうか……あんな強いヒトでも、自らの人生を終えるのか」

「……あの人、本当に人間なのかなあ」

失礼なことを言うレイン。気持ちはわかるが、それでもそんなこと言ったらいけません。

確かに師匠はありえないほど強いし、何よりもモチベーションが異常だ。

多分フウケイさんが故郷から復讐しに来なかったら、あの森でずっとさらなる高みを目指して修行していただろう。

五百年かそこらしか生きていないし、師匠には遠く及ばない身ではある俺だが、それでもこの人間社会で生きているうちに満足してしまった感がある。

師匠に発破をかけてもらわなかった場合、レインを一人前に育てたら自然に帰ってしまっていたかもしれないな。

世間で最強ともてはやされる程度で満足する俺は、まあ普通なのだろう。なんで師匠は今でも最強に対して貪欲でいられるのだろうか。

そのあたりが、あの人と他のあらゆる生物を隔てるものだろう。なんで四千年間ひたすら強くなることを志せるのだろうか。その精神構造が最大の謎である。

「とにかく、お嬢様の護衛を務めている人も含めて招待状自体は送ろうと思う。武芸指南役をしている面々は顔ぐらいは出してくれるだろうし、そうでなくても手紙ぐらいはくれると思うしな」

悲しいかな、他にはお嬢様やトオン、祭我と師匠ぐらいである。

五百年生きているのに、交友関係が貧困だった。

五百年生きていても、そのほとんどが森の中でずっと引きこもっていただけだしなあ。

「そうはいうがな、サンスイ。お前の生徒はほとんど出席すると思うぞ。お嬢様とトオン様は確実に出席するであろうし、そうなればお嬢様の護衛をしている面々も一緒に出席するだろう。武芸指南役になった面々も、お前の結婚式より優先されることなどないしな」

「そうか、そうだとうれしいんだが……そういえばブロワ。お前はどうなんだ?」

何気なく、俺は聞いていた。

彼女は貴族の娘なのだし、俺と違って社交界にも顔を出していたのだ。

きっと顔見知りぐらいいるだろう。俺はそう思っていたのだ。

「……」

「パパ! なんてひどいこと聞くの! ブロワお姉ちゃんに謝って!」

無言で泣き始めたブロワ、怒り出すレイン。

どうやら俺は彼女を悲しませてしまったようだ。

「パパはブロワお姉ちゃんとずっと一緒だったんでしょ?! だったらブロワお姉ちゃんにお友達を作る暇なんてなかったこと、知ってるはずじゃん!」

娘よ、俺が言うのもどうかと思うが、大概ひどいこと言うなあ。

そうか、ブロワは友達いなかったのか。俺はてっきり、お嬢様の護衛であるブロワにも、いろいろと声をかけてくる人がいると思っていたのだが。

しかし考えてみれば、ブロワも剣や魔法の稽古をずっとしていたし、そうではないときは護衛だったわけで。

なるほど、現実的じゃないな。実家へ手紙を書くこと以外では、手紙を書く暇もなかっただろうし。

そうか、ブロワは俺よりも人間関係が狭いのか。

「パパのバカ!」

「……ふ、ふぎゃあああああ!」

「お、おお……ほら、ファン。お姉ちゃんが怖かったか」

座ったまま泣き出した我が子を、俺はあぐらの上に乗せた。

そりゃあ自分の姉が大声でどなったら、びっくりして泣くだろう。

俺は慌てることなくあやし始めた。

泣く子と地頭には勝てぬとはいうが、今でも怒っているレインも黙るしかなかった。

「いいんだ、レイン……私だってこれからは友人も増えるだろう。今回だってそうだぞ、私の家もそうだがサンスイの生徒が武芸指南役をしている家の者が出席するだろうし、私とも積極的に友人になりたがるだろう」

こんなことを俺が思ってはいけないのかもしれないが、そんな経緯で友人ができるのが貴族の標準なのだろうか。

とはいえ、俺も友人となるとそれこそ少し前のブロワぐらいだったし。

祭我やトオンのことも友人だとは思っているが、お互いの立場があるしなあ。

対等の友人……いないな。そんなに必要でもないし、特にほしいと思っているわけじゃないけども。

「もちろん家には付き合いがあるとは思うが、それは両親が気を回すだろう。そんな基本的なことで失敗をするとは思えないしな」

確かに、まあそうだろう。

よく考えるまでもなく、今まで特につつがなく領主をやれていたのだ。

結婚式の手配とか、俺にもブロワにも無理だが、そのあたりは専門家にお任せだ。

「うう……」

「ああ、よしよし」

ファンを抱きかかえて、そのまま立ち上がって揺らす。

おなかが空いているわけではないし、眠いわけでもない。

ただ驚いていただけだ。だが誰が咎められるというのだろう。

……ああ、でもアレだな。

俺は自分の両親のこととか全然覚えてないしな。

俺は両親からとがめられてしかるべきかもしれん。

「とにかくだ、みんな来てくれると嬉しいな」

「ああそうだな」

「そうだね」

そう、俺はまだ知らなかった。

これから行われる俺とブロワの結婚式が『血で清める結婚式』と呼ばれることになるとは。

予想していたら、もうちょっとこう、あらかじめ『そんなに気にしてないよ』と言っておけばよかった。