軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真価

行きに半年費やしたのである、帰りが半年かかるのも仕方がない。

それで目的地に一日しかいない、というのはあまりにも問題だが、かといって長々滞在するのも問題だった。なにせ行軍ではないとはいえ、兵士たちも故郷に家族を残しているのである。それで帰りたくないわけがない。

帰りの道が長いからこそ、帰りたいと思う気持ちも強くなる。

そのあたりは、女をまるごと連れてきている祭我にはわからないことだった。

とはいえ、それをソペードの当主が見抜けないわけもない。彼らが不満を表に出す前に、帰国するということになっていた。

スナエは微妙に不満そうであるが、あと数か月真面目に頑張ったぐらいで最終奥義をあっさりマスターされるのも癪なので、仕方なく受け入れていた。

「さあ、今日は別れの宴だ。景気よくやってくれ!」

いよいよ明日帰国の途につくということで、マジャン=ハーンは別れの宴を開いていた。

返礼の土産を乗せた馬車に乗って、遠い異国へ己の息子と娘が婿入りし嫁入りする。

それは喜ばしいことであると、大いに笑っていた。

いまだにトオンのことを諦めきれない、ハンカチらしい小さめの布切れを噛んでいる女性たちも少なからずいるが、それを見て勝ち誇るあたりドゥーウェは大人物であった。

長くいた気もするが、帰るとなると名残惜しいもの。

宴に参加しているアルカナ王国の面々は、いつもの宴とは違う心境で料理を楽しんでいた。

「そういえば」

それは、マジャンの王も同じである。

アルカナ王国の面々にしてみれば、仙薬や宝貝を製作できる荒ぶる神にも、八種神宝にも、切り札たち五人にも会おうと思えば会えるのだが、マジャン王国の面々にしてみればこれが最後の機会になるのかもしれないのである。

「神が生み出した最強の神剣エッケザックスよ、その口から創世の神話を聞かせてほしいのだがな」

「酒の席で機能を発揮するなど、エリクサーではあるまいに……まあ武勇伝を語るのも我が宿業なのかもしれんが……」

広く、この世界で語られている八種神宝。その誕生にかかわる物語を、その口から聞かせてほしいとマジャン王はねだる。

それに対して、まあいいだろうとエッケザックスは応じていた。

「思えば、我が主にも語ったこともないしのう……スイボクにも語ったこともなかったが……なんで我が主たちは、己が剣に興味を持たぬのだろうか……」

微妙に傷つきながらも、エッケザックスは語り始める。

この世界に、どうして人間が生きているのかを。

「一万年以上前、つまり我ら八種神宝が生み出される前のことである。人間は他の知恵ある生物とともに、別の世界で暮らしておった。それを今は旧世界と呼んでおる」

この世界の誰もが知っている物語に対して、山水と祭我は初めて耳を傾けていた。

「その世界では、人以外にも言葉を操るものや文化を持つ者たちが多く生きておった。つまり人間などそのうちの一種族でしかない。その知恵ある生物たちの中でも最強とされておったのが、竜であった」

瞼を閉じればよみがえる。己が製造されて、初めて戦った相手のことを。

「驕り高ぶった竜どもは、己こそ最も偉大な生物であると公言してはばからなかった。神といえども己たちを罰することはできないと、高々とでかい声で吠えていた。それに対して、他の知恵ある者たちは皆賛同していた。なにせ、竜に挑み勝てる生物など、その世界には存在せんかった」

微妙に祭我や山水は、そっちの世界の方がファンタジーだなあと思っていた。

なにせ今生きているこの世界は、魔法以外は特にファンタジー要素が存在しないのであるし。

「しかし、これにただ一種族のみ異議を唱えたのが……人間であった。我らは神よりも偉いのだ、と叫ぶ竜に対して人間は怒っていた」

こほん、と一拍おく。

「何を言う、俺たちの方が偉い、と」

それを聞いて、祭我と山水以外の全員が「え?」という顔をしていた。

この世界の伝承では、『神よりも偉大な生物などいるものか』とか『我らこそ神に選ばれた霊長である』とか語られているらしい。

しかし、そちらのほうが人間らしいようにも思える。

「当然、他の種は竜に味方した。というか、人間の手助けをしなかった。竜は竜で威張り腐っていたが、人間も人間で威張り腐っていたからのう。そして、竜に対して人間は一方的に負けていった。滅亡寸前まで追い込まれても、空を飛べるだけのトカゲに降伏するなど人間の誇りにかけてもできん、と言っておった。それを聞いて、神は思った」

『うわあ……こいつらバカすぎ』

「自分を敬わぬ竜と一応形式上は敬っていた人間をはかりにかけて、人間へ力をくれてやることにした。それこそ我ら 八種(ヤクサノ) 神宝(カンダカラ) 、人間が竜と戦うための道具であった」

人間と竜なら、比較的人間の方がいいと判断した神は、チートではなくチートじみた道具を人間に与えたということだろう。

「それらを用いての戦いは、まさに天と地を割るほどのものであった。それ故に旧世界は荒れに荒れ、元々滅亡寸前であった人間はさらに数を減らしてしまった。それ故に、生存の箱舟ノアに残された人間は乗り込み、意志の聖杯エリクサーの加護にすがって新天地を目指したのじゃ。ただ三人を除いてな」

遠い、遠い過去に彼女は思いをはせていた。

「最強の神剣エッケザックス、復讐の妖刀ダインスレイフ、そして……破滅の災鎧パンドラ。これらの使い手は生存を逃走と断じ、息絶えるまで旧世界で戦い続けた。そうした我らを殿として、ノアに乗り込んだ者たちは神が用意したこの世界に落ち延びたというわけじゃな……」

淡々と語った彼女に対して、祭我は素直に聞いていた。

「ダインスレイフで殺せるって……竜ってそんなに弱かったのか?」

「そんなわけあるか!」

祭我にしてみれば、ダインスレイフとは右京の持っている短刀である。

追跡能力や血を吸う機能は確かに恐ろしいが、肝心の戦闘能力はというと、右京本人のイメージもあって強大とは程遠かった。

というよりも、八種神宝のうち七つを知る祭我にしてみれば、それらがどう戦ったとしても天地を割るとは思えなかった。

そう、はっきり言ってスイボクやフウケイ、正蔵あたりのほうが八種神宝よりも強大に思えるのだ。

「何を聞いていたのだ、我が主よ! 我ら八種神宝は、竜と戦う人間のために作られた道具なのだぞ! 人間が人間と戦う状況で、すべての機能を開放するなどありえん! ダインスレイフなど特に制限させておる! 人間以外の者と戦う時こそ、我らの真価と知れ!」

対人仕様では、本来の性能とは程遠い。

旧世界で竜と戦っていた時の自分は、それこそ天地を裂くほど凄まじかったのだと彼女は抗議していた。

「じゃあ、そんなお前を使ったら、俺でもスイボクさんに勝てるかな」

「……流石に、制限を取り払っても、スイボクには勝てぬな」

自嘲しながら、彼女は神の言葉を全員に教えていた。

「我が創造主たる神の座にスイボクが現れたとき……神はこういった」

『お前が旧世界にいたら、八種神宝を作る必要がなかったな』

「と……」

その当時、エッケザックスはずいぶんリップサービスしているなあ、と思っていた。

しかし、先日フウケイと戦った時のスイボクを見れば、流石に信じざるを得なかった。

あの域に達したスイボクなら、一人で竜を殲滅できたに違いない。

「スイボクを確実に殺せるのは、パンドラの完全適合者だけじゃ。他は知らんし、いたとしてもパンドラに吸われて殺されておるよ」

マジャン王国の面々は、スイボクとはいったいどれだけの化け物なのだろうか、と恐怖し。

アルカナ王国の面々は、ああやっぱりスイボクの方が竜より強いんだなと、どこか納得をしているのだった。

結局、八種神宝の株はあんまり上がらなかった。