軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

予定

武芸指南役の五人が、商家の集まりに全員で出席する。

それはさすがに地方領主に一応の了解を取らなければならないことだった。

まだ幼い跡取り息子に二人がついているなか、領主に対して許可を願っていた。

「ねえねえ、お父様と何を話しているの?」

「坊ちゃん……ちゃんと素振りしましょう」

「今坊ちゃんは、立派な領主になるために剣の稽古をなさっているんです。ちゃんと頑張りましょう」

変に熱血を演じて、手をたたくとか尻を叩くとか、そんなことはさすがにできない。

そもそも、武芸指南役といっても超一流の剣士に育てるほどの義務はない。

第一、相手は貴族で領主で、政治家であり役人なのだ。剣士として一流になってもいいことはない。

なので二人もそこまで大真面目に、真剣に教え込んでいるわけではない。

しかし、余所見はさすがにどうかと思う。

自分たちのように武芸を常に磨けとかそんな無茶は言わないが、剣の稽古をしている間ぐらいは集中していただきたいところである。

そもそも、剣の稽古中さえまともにできなければ、それこそ立派な領主になれるわけがないし。

「こんな地味なことやってても、強くなれるわけないじゃん」

「「いえいえ、そんなことはありません」」

「早いよ!」

まだ子供である次期領主様には理解してもらえないだろうが、世の中には素振りだけして国一番の剣士になった男もいるのだ。

まあ五百年ぐらいかかっているのだが。

「坊ちゃん、まずは正しい素振りができるようにならないと強くなれませんよ」

「そうですよ、これぐらい我慢できないと、強くなんてなれませんよ」

「その魔法の道具があればいいじゃん」

諭す二人だが、微妙に反論できないことを言われると閉口する。

確かにスイボク特製の宝貝さえあれば、とりあえず仙術をある程度使えるようにはなるのだ。

それはそれで、強くなっているとはいえるだろう。これらなしではそこまで極端に強くない二人としては、なかなか反論がしにくい。

もちろん、これがそこらのチンピラが相手なら、宝貝を使わずに圧倒して見せるところなのだが、流石に貴族の子息にそんなことをしても仕方がない。

「剣の稽古なんてやめてさ、それちょうだい! お父様に頼んでも『むしろ私が欲しいぐらいだが、無理なものは無理なのだ』とかいってさ~~」

「「絶対に無理です」」

「だから早いって!」

なにせ、相手が世界最強の仙人なのだ。金で釣ることはできないし、命令することもできない。

多少無理を言っても笑って流してくれるとは思うが、応じてくれるわけではないのだ。

脅そうものなら、それこそ悲惨な目にあうだろう。

「これは私たちに剣を教えてくださった方の師匠様が、私たちの任官祝いに下さったのです。いかに坊ちゃんとはいえ、これを差し上げるわけには……」

「そうですよ、これがあれば確かに希少魔法が使えるようにはなりますが、それだけで最強になれるわけでは……」

「だって、それがあれば飛べるじゃないか! 前に貸してくれたときは、本当に楽しかったんだよ!」

誰でも飛べる道具、それも比較的安全で、比較的疲労が少ないときている。

そりゃあ夢中になるし、ほしくなるだろう。持っている相手にねだるのも当たり前である。

「それをちゃんと使えるようになる練習をしたほうが、簡単に強くなれるじゃないか」

「坊ちゃん……別に戦うわけじゃないでしょう」

「そうですよ、剣の稽古ぐらいできるようじゃないと、恰好がつきませんよ」

そう、剣の稽古は貴族の男子にとっては礼儀作法のようなものである。

ちゃんと稽古をしている人間は体がたるむことはないし、自己管理の一環のようなものだった。

特にソペードやバトラブの傘下にとっては、やっても褒めてもらえることではないが、やらなかった場合の非難が半端ではない。特に跡取り息子がそれでは、大問題だ。

そしてそれは、武芸指南役である五人への評価にもつながる。

「だって、それがあれば……」

「坊ちゃん……確かにそうです。これがあれば坊ちゃんも強くなれます。ですがね……これを身に着けた坊ちゃんが、それをみんなに自慢したらどうなると思います?」

「みんな、今の坊ちゃんみたいに欲しがりますよ?」

「それは……まあそうかもしれないけど、でもだからいいんじゃないか。みんなが羨ましがる」

希少魔法が使えるようになる道具、それはもう周囲から羨望を集めるだろう。

それに対して優越感を感じることができる、というのは一つの心理だった。

しかし、それをよいことだ、と考えるのは少し想像力が足りない。

「そうですけどね、坊ちゃん……そのうち、周囲の方々も欲しいほしいって言いだして、無茶なことをしてきますよ?」

「そうですよ、俺たちはソペードの当主様からこれを持っていていいってことで相手も無茶を言えませんけど、坊ちゃんの場合はそうでもないでしょう?」

実際にはソペードの当主でも無茶を言えないスイボクから送られた品ではあるが、やはり実権があるソペードの当主の方が周囲に対して意味がある。

正式な装備として所持しているため、合法的な手段では彼らから奪うことはできないのだ。

「でもさあ……」

「坊ちゃん、これがあれば確かに坊ちゃんも空を飛べますけど、俺たちと違ってずっとこの格好をしているわけにはいかないでしょう」

「そうですよ、サンスイさんだって貴族になったら、今までみたいな恰好はしなくなるって聞いてますし」

護衛が多少とんちきな恰好をしていても、それなりには言い訳ができる。

しかし、貴族の次期当主が、異国の素人が作った服を着ていていいのかという話である。

「だったら、戦う時だけその服を着るよ」

「着てないときに襲われますよ、卑怯な奴はいますからね」

「俺たちはある程度強いですけど、坊ちゃんはそうもいかないでしょう」

「だったら、お前たちが守ればいいじゃないか」

「それはそうですけど……じゃあやっぱりこれはいらないじゃないですか」

「そうですよ、あくまでも礼儀作法として剣の稽古をしましょうよ」

強くなるために剣の稽古をするのではない、ちゃんと自己鍛錬ができる人間だと示すために努力をするのだ。

そう諭す二人だがなかなか納得してくれていない。子供を相手に物を教える、というのは特有の難しさがある。昔の自分を思い出しながら、自分よりはましだと思いながらなだめていた。

持つ者に対して、持たざる者がどう思っているのかを知っていながら。

その一方で、領主に対して三人が説明を行っていた。

優雅にお茶を飲んでいる領主に対して、恐縮しながら三人は許可を願っていたのだ。

「なるほど、商家の子息がな……お前たちの真似をしようとしていると」

「ええ、それが如何に無理であるかを説明するつもりでございます」

「確かに、無理だな」

ソペードの当主は、比較的挑戦者に寛容である。

だからこそ、山水という切り札を得ることができたのであるし、他の面々も同様だった。

しかし、もう無理なのだ。これ以上、この時代に誰かが成り上がることはない。既に満席で、出世の見込みはないのだ。

「ソペードの当主様は、挑戦するものを好む一方で堅実に働く者を軽んじることはない。既に武芸指南役の席は当然のこと、精鋭部隊とも言うべき当主様から優遇されるもの達もすでに選出されている」

「はい、我らは幸運でした。間に合ったのですから」

「そう卑下するな、お前たちはソペード様に認められた実力者だ。幸運だったということはない」

ソペードは競争主義ではあるが、それは領地をよく治めるためのものである。

領地の経営に悪影響をもたらすような、極端な立身出世は決して行わない。

ソペードが如何に裕福で金銭に余裕があるとしても、軍備に割ける予算には当然限度がある。

つまり、椅子取りということだった。

「しかし、言って聞くとは思えないが、やはり戦って見せるのか」

「必要とあれば」

「嫌味ではないが……卑しいものは、平気で厚顔な真似をするぞ」

「問題ありません。それを退けることができるからこそ、私たちは選ばれたのですから」

「そうか……」

おそらく、一対一の厳正な戦い、ではないだろう。

一度勝てばそれでいい、というような後先を考えない作戦を、名誉もへったくれもない策をためらわず実行するだろう。

それを、自分に与えられた部下がさっそうと倒す。

それは、いつか見た山水の戦いにつながる。

「それは、みたいな……」

「は?」

「その宴に私も参加したい」

この領主は、山水が近衛兵と戦うところを見たことがある。加えて、ランと山水が戦うところも見たことがある。

だからこそ、山水の弟子というだけで、お世辞にも褒められた生まれではない者たちも迎え入れたのだ。

「私はお前たちの実力を疑っていない。お前たちの実力を疑うということは、ソペードの当主様を疑うことだからだ。だが、まさかドゥーウェ様ではあるまいに、ソペードの当主様から推薦されたお前たちを誰かと無用に戦わせられるわけもない」

せっかく当主様から強い部下をもらったのに、戦わせることができない。

各地から彼らの武勇伝が報告されていて、彼らの名声が領地にとどろきつつあるのに、肝心の自分が見ることができない。

それを、そこそこ不満に思っていた彼は、これを好機と思っていた。なにせ自分たちは商家の集まりに参加するだけなので、そこで何が起こっても自分は一切悪くないのである。

「サンスイ殿の弟子であるお前たちの、その戦いをこの目にしたい」

「それは……大事になりませんか?」

「なに、お前の父には迷惑などかけん。宴の内々で済ませることよ。それに……」

山水の強さを己の目で見ていない、己の跡取りを見ていた。

「お前たちの戦い、決して教育に悪いということはあるまいさ」