軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

醜態

基本的に、武芸指南役というのは名誉職である。

この地方で一番強い、と領主が認めた一方で、既に強さを世間に認められているという事である。

つまり、既に地位も名誉も財産もある者が務めるのが普通なのだが、今回の五人はそういうわけにも行かなかった。

それでもその地方で認められているのは、ひとえにソペード当主の太鼓判あってのことである。

ともあれ、ソペードから土地を預かる地方領主。その敷地内にそこそこの大きさの、使っていない屋敷の一つや二つはある。

今までも空き家にしないように手を入れていたので、特に負担なく新しい武芸指南役を迎えていた。

「さすがに宿舎よりは立派だな」

「どこにする? 俺一階がいいんだけど」

「俺も一階がいいなあ……サンスイさんも窓から出たら怒られるとか言ってたし」

「何気に全員一階でも一応どうにかなるんだよな」

「この建物三階建てだろ、貧乏臭すぎやしないか?」

領主様からお屋敷をいただく、というか住ませてもらう。

そんな状況でも、五人は特に感動をしていなかった。

彼らはさんざん凄いものを見てきたので、大きめの屋敷をもらったなあ、としか思っていなかった。

「このバカタレは! 今までどんだけいい暮らししてたんだい!」

そんな五人の反応を見て、老婆は罵倒をするしかなかった。

それこそ、お話の中でしか知らなかった、実在するかも怪しかった大きい屋敷に自分の部屋がある。

それはそれこそ、とんでもない晩年における人生の大逆転である。

にもかかわらず、全員どうでも良さそうだった。

「なんでさっさと呼ばなかったんだい!」

「……ああ、ウチのババアは放置でいいぜ」

「気にすんなよ、俺も気にしねえから」

「元気な婆さんだな、大事にしろよ」

「で、誰がどこにする? 正直広いと落ち着かねえなあ……」

「婆さんに決めさせてやれよ、俺らそのあとでいいや」

全員、人間的に成長しているので流している。

金持ち喧嘩せず、成功者は老い先短い老婆の癇癪を真に受けたりしないのだ。

というよりも、こんな老婆を相手にいちいち怒っているようでは、武芸指南役は務まらないのだ。

「ふざけんじゃ……」

「ああ、ババア。今日は俺ら領主様のお屋敷でパーティーに参加するから、このお屋敷を独り占めしていいぜ」

「へぁああ?!」

良くも悪くも、常識というものを知っている老婆は孫の言葉を聞いて硬直していた。

「ご近所のお貴族様をお招きするらしいぜ」

「 能々(よくよく) 考えたらむちゃくちゃな話だよな。全員あわせてもソペードの当主様に遠く及ばないんだぜ」

「それでも俺達よりはずっと偉いしなあ」

「サンスイさんもそんな感じだったような」

「ショウゾウはまた別だし、サイガやウキョウの旦那はまた別だしな」

老婆の反応が普通である、と誰もが理解している。

しかし、仮にもソペードとバトラブ、加えてカプトの本家令嬢や彼女たちのそばにいる切り札達のことを思い出すと、相対的に格が違う。

自分が偉くなったのだと錯覚しそうになる。正しくいうと偉くはなったがこれから会う人たちに比べれば圧倒的に下だった。今まで頂点と触れ合いすぎていたのだろう。

「飯はもらってきてやるからよ、おとなしくしとけよ」

いきなり貴族のお屋敷で暮らすことになって、今晩はパーティー。

領主様がたくさんの貴族を招待して、私(の孫)を皆さんに紹介してくれるの!

遅い、五十年ぐらい遅い。

農家で夢を描いていた幼少の頃の夢が、ものすごく遅くにかなっていた。

人生に遅いということはないとしても、確実に遅いだろう。

「こらあ! こんのバカ孫! なんで爺さんと結婚する前にここへ連れて来なかったんだい!」

「爺さんと結婚する前だったら、俺生まれてるわけねえだろ。めんどくせえなあ」

近衛兵の統括隊長は山水に敗れたあと、なんでもっと早く会えなかったんだろうと後悔していたらしい。

多分、本質的に同じ悩みであると思う。もちろん、志の違いは著しいのだが。

「こんなシワシワのババアになってから、こんなお屋敷に住ませるなんて、どういう神経してるんだい! パーティーに出られない年齢になってからじゃあ、遅いだろうが!」

「じゃあ貧民街に帰るかよ、ババア。安心しろよ、シワシワじゃなくても、俺の婆さんだってだけの貧民がパーティーに出られるわけがねえだろ」

「その孫であるアンタは、なんで出られるんだい!」

「それが出世したってことだよ、成り上がったんだよ、俺は」

外国人から一国の主に立身出世した風姿右京に比べれば甚だ些細だが、これはこれで十分破格である。

そして、これが十分で過分だと思っていた。

「気が利かない孫だねえ! なんでアタシが着るドレスはないんだい!」

「……」

この婆さんも、山水に比べれば若いんだよなあ、と誰もが思っていた。

フウケイはまだなんか年齢を重ねている感じがあったが、山水もスイボクもその辺りが微妙である。

いや、ある意味超越者っぽいところはあるのだが。

「お前の婆さんは、これからこの屋敷で暮らすんだろ」

「貧民街で暮らさせてたら洒落にならないしな」

「今度内々のパーティーに参加させてやろうぜ」

「もちろん許可をとってからだけどな」

「そうだな、もうすぐ死ぬし冥土の土産ってことだしな」

「ふざけんじゃないよ!」

農家で口減らしということで家を出されて、多くの悪意や少々の善意に揉まれて、心身ともにクソババアになっていた。

そして、人生の最後の最後で棚ボタ、夢見ていた暮らしが出来る。

今更貴族様と結婚とか夢を見ることはないが、せっかくいい暮らしが出来るようになったのにこのまま寿命を迎えたら死んでも死に切れない。

「あと百年は生きてやるよ! ここで死んだらアタシの人生は何だったんだい! 故郷の奴らにアタシがいい暮らししてるところを見せてやるんだよ!」

「いや、婆ちゃんの故郷の奴らってもう死んでると思うぞ。長生きって意味なら、多分もう勝ってるんじゃねえか」

「長生きで勝ってどうするんだい! 私を追い出した故郷の奴らを見返して、復讐してやるんだよ!」

「……すげえなあ、未だに根に持ってるのかよ」

何が恐ろしいのかというと、本気の本気で故郷の人を憎んでいて、自分の孫に報復させようとしていることが怖い。

多分故郷の人たちはとっくに代替わりしていると思うのだが、それでも親の因果が子に報いなことになるのだろう。

なんで婆さんの恨みを、孫がはらさなければならないのだろう。

孫とその同僚は首をかしげていた。

「今幸せだから、いいじゃねえかよ」

「よかあないよ! 私がどれだけ苦労したと思ってるんだい! あいつら全員を、権力と武力で全滅させるんだよ!」

「孫の力でかよ……」

右京もこんなかんじだったのだろうか、と思う。

しかし、右京だったら婆さんになる前に、自力でどうにかしているに違いないだろう。

「たまたま偶然孫が出世したから復讐、ってのは今までどうでもいいと思っていたんだろう?」

正直うんざりしていた。

さすがにそんな復讐に付き合うつもりはない。

「毎夜毎夜恨んで呪ってたよ!」

「実行には移してなかったじゃねえか……」

自分たちの行動を客観視すると、ものすごく醜く見えてしまった。

まあ、彼女は格別みっともないのだとは思うのだが。

非常に今更ではあるが、山水は着流しと草履という格好であった。

今はソペードが抱える職人が作っているが、森の中では自給自足の生活なので着流しも草履も山水自作であった。

それはつまり、スイボクも着流しや草履を作っていたということである。

何が言いたいのかというと、スイボクはデザインに凝る気性ではないということだった。それは生活必需品である普段着だけではなく、宝貝にも言えることだった。

宝貝を製作する技術を学んでいても、専門家ではなく性格的にもさほど頓着せず、何よりも大量に作らなければならなかったスイボクは、性能面ではともかくパッと見た限りでは異国の田舎の農民同然の服などしか作れなかったのである。

「この格好で貴族様のパーティーに参加するのはちょっと恥ずかしいなあ」

「でもまあスイボクさんが作ってくれたもんだし、暑さ寒さも感じなくて快適だし」

「当主様にもこれ着ておけって命じられてるしな」

「それに、サンスイさんと似た感じの格好だし」

「そうそう、弟子って感じでいいよな」

特に両足首に取り付けられている車輪がダサい。

なんでこんなもんをこんな場所につけなければならないのかわからない。

石の刀も柄に紐を巻いているだけだし、鞘ぐらいはいい感じにしてほしいところだが、草木で色を付けているだけだった。

とはいえ、彼らの中で憧れの存在である山水も着流しに草履で木刀という格好なので、比較的好意的ではあった。

それに、今後山水に認められた戦士はこの格好をしていくことになるのだ。

今は誰も彼もが、自分たちまでもがダサいと思っているが、今後はこの格好こそが羨望の的になるのだ。

「なにせ飛べるしな!」

「そうそう、飛べるもんな!」

よく切れる剣や早く動けるようになったり力が強くなったりする帯、防御力に秀でて暑さ寒さも防げる服。

それよりなにより、飛べる輪っかである。この国では飛べるのはごく一部の、高位の魔法使いだけだった。そんな選ばれし者の世界に自分たちも参加できるのである。

まあブロワのように俊敏に飛ぶというよりは、山水のように浮くという表現が正しいのだが。その分技術の習得は簡単だったが、やはり見劣りしている。

しかし、それでもただの事実として彼らは飛べるのである。空へのあこがれは、祭我も彼らも変わらないのだ。

「さあ行こうぜ、俺らを楽しみにしているお貴族様たちのところへな!」

この後、地方領主に招かれた貴族たちから奇異や好機の目線を送られて、己の師匠の気持ちを味わうことになるのだが、まあそれはそれで仕方がないことではあった。