軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

接触

テンペラの里の四人とエッケザックスは、ドゥーウェの父や山水と同じ部屋で今日の試合を振り返っていた。

ちなみに、トオンとドゥーウェがどこにいるのかなど話題に挙げるべきではない。ソペードの前当主の機嫌が悪くなるだけである。

「私が言うのは筋ではないが、よくやったな」

切り札の二人とそれに準ずるランは、ある意味勝って当然だった。

しかし、テンペラの里の四人は確実に勝てるとは言えなかった。

すこしかけ違えが起きれば、法術使いの世話になっていたのは彼女たち四人だった可能性もある。

というよりも、巨大な獣と試合をするというのはとても勇気のいることだった。

そのあたりを含めて、バトラブ筋の臣下である四人のことを褒めていた。

「ありがとうございます、ですが……」

「正直、勝った実感が薄くて」

「思ったよりもうれしくないといいますか」

「自力で勝ったというよりは、勝たせてもらったといいますか……」

爽快な勝ち戦とはいかなかった。

彼女たちとしては、異国で己の武を示すという目標を達成したのではあるが、素直に喜べずにいた。

「私も武人だ、言いたいことはわかる。戦うことと勝つことはまた別だからな」

それを前当主は理解していた。彼女たちの不満、あるいは消化できないしこりに共感していた。

「尋常な勝負、とはいいがたい戦いだった。公正で公平ではあっても、対等な戦いではなかった。勝つべくして勝つ戦いというものは、お前たちには面白く感じられるものではない。というよりも、これを面白いと感じるものは、個人の技量を向上させようとは思うまい」

今回の戦いを突き詰めると、寝込みを襲うことや闇討ちが最強ということになる。

それはそれで警戒しなければならないし、もちろん需要はある。というか、霧影拳はたぶんそれを期待されている。

しかし、根にあるものが武術家である彼女たちは、それを好ましく思っていなかった。

「しかしだ、お前たちの心中は私からの称賛に関係ない。不満は胸の内にとどめておけ。お前たちはなすべきことをなしたのだからな」

今回、アルカナ側は相手に情報を知らせずに戦った。

後半の三人は知られていても全く問題ではなかったが、前半の四人は知られていれば対応されていた可能性もある。

そのあたりを自覚しているだけに、純粋に喜べない。

しかし、結果は結果。彼女たちは好ましくなくとも作戦を完遂したのだ、それは褒めなければならない。

「サンスイ、お前もよく戦ってくれた」

「光栄です」

「我がソペードの武名は、お前とともにこの地で語られるであろう。お前の師であるスイボク同様にな」

「恐れ多いことです」

控えている山水を、前当主は褒めていた。

礼節を保ち品位を保ち、技量を示し器量を示した。

「……本当に、強くなったな。以前のお前なら、相手が疲れるまで付き合うか、あるいは速攻で沈めるしかなかったはずだが」

「これも、師匠からの指導のおかげでございます」

「改めて、お前の師は遠いな。感服したぞ」

戦いの幅が広がり、懐が深くなった。

術が増えたことで相手への対応が状況に合わせてできるようになったのだ。

ドゥーウェの前では縮地の高等技で翻弄し、ハーン王の前では外功法で鮮やかに下す。

相変わらず派手さはないが、強さは増しているといっていいだろう。

というか、仙術で派手さを追求すれば、国が滅びてしまうわけであるし。

そもそも、過去に練習で滅亡させたことがあるらしいし。

「我が師こそ、殺すためでも勝つためにでもなく、戦うために鍛える方の極致でしょう。私は強いだけですが、師はそれこそなんでもできますから」

「そう卑屈になるな、そもそもそんなことは求めていない」

確かにスイボクは思った以上になんでもできた。

もともと才能があるうえで向学心もあり、千年費やしたことで大抵のことができるようになったのだろう。

思うに、スイボクが国を亡ぼすことになった原因のほとんどは、スイボクがなんでもできすぎたせいではないだろうか。

鍼灸術やら針術やら、人参果と蟠桃を抜きにしても有用な技が多い。

アルカナ王国にいるときにその術を披露していたが、最強の仙人にして最強の剣士、とは何の関係もなさそうな技でご婦人を魅了していた。

そりゃあ、彼があそこまで強いと知らなかったら、国に縛り付けようとするだろう。その結果、天変地異を手足のごとく操る怪物が牙をむくわけだが。

虎の尾どころか、比喩誇張抜きに天災が国家を敵に回すのだ。後悔する間もなく滅亡まっしぐらである。

「人間というものはな、任された仕事が一つできればそれで十分なのだ。お前に宝貝を作ることができなかったとしても、そんなことはどうでもいい。お前は一人の剣士として、十分すぎるほどの実力をもっている。であれば引け目に思うことはないだろう」

なんでもできる、というのは確かに自慢だろう。それが自分にしかできないのならなおのことだ。

しかし、それは必要ではない。山水に剣以外の取り柄がなかったとしても、なんの問題もない。

「光栄です」

「お前の場合、師匠が目標である以上志高いことは理解しているがな。今のお前はソペードの臣下だ。そう振舞うならば、そう口にしていればよい」

「ありがとうございます」

実際のところ、山水が卑屈にふるまえば他の者は居場所がないだろう。

他の者のためにも、ハードルを下げてほしいところである。

「……ん?」

そうしていると、山水が妙な顔をしていた。

何かを感知したのか、何の変化もない部屋の中で一人気付いている。

「すまんが、お前らって傀儡拳のことをどの程度知っている?」

唐突な質問が、彼の口から出ていた。ちょうどその場にいる、テンペラの里の面々に尋ねている。

この地にもなぜかいる、巫女道の使い手に変化でもあったのだろうか。

「傀儡拳に、動物を操る技があるか?」

「ありますよ、傀儡拳の使い手は犬とか猫とか鳥とかを使役できますから」

「細かいことは知りませんけど、そういう術もあったはずです」

「確か何頭か飼ってたような……」

「よその家のことはあんまり知らなくて……」

「エッケザックス……どうですか」

今まで黙り切っていた、エッケザックスに声をかけてみる。

多分知っているだろうけども、とんでもなく拗ねているのでなかなか声がかけられなかった。

「……あったの、たぶん」

どうでもよさそうな返答が返ってきた。

下手をしたら、こういう時しか出番がなさそうであるし。

妙に博識なところを見せれば、ただの辞書扱いにしかなりかねないので、あえてぞんざいに答えているのかもしれない。

「それがどうした」

「巫女道の使い手が、こっちにネズミらしきものを放って、向かわせているので」

「……あ、そういうことか?」

何か察することがあるのか、エッケザックスは思い出しているようだった。

「サンスイよ、お主たしかスイボクの弟子であると名乗っておらなんだか?」

「名乗りましたが……」

「巫女道の使い手はこの近くにはおらなんだはず。二千年以上経過しているがゆえに変化があるかと思ったが……もしや、あの『天狗』めの里の者か?」

「天狗? 天狗とは、その妖怪変化ですか?」

「旧世界ならともかく、この新世界にそんなものがおるか」

調子を取り戻したエッケザックスは、山水の勘違いを正していた。

尚何百年も生きている自分のことを棚上げにしている山水を見て、ほかの者はあきれていた。

何かを思い出しつつ、納得をしているようだった。

「天狗とは修験道を極めた者を指す言葉、つまり呼び名が違うだけでおぬしと同じ仙人じゃ。あの天狗が虚空法で作った秘境には、巫女道の使い手が暮らしていたはず。その縁なら、スイボクや我を知っていても不思議ではない。しかし……なぜ隔離された秘境の外に?」