軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

玉血

第一戦士 シヤンチ=エンヒ

第二戦士 シヤンチ=ケスリ

第三戦士 ドンジラ=ガヨウ

第四戦士 デイアオ=ヒンセ

第五戦士 デイアオ=ウトウ

第六戦士 マジャン=トレス

第七戦士 バイゴウ=シヨキ

マジャン国王、マジャン=ハーンの体調の回復。加えて各国からの来賓や代表選手の到着を待って、快気を願っての御前試合が始まろうとしていた。

王気の血を伝えている文化圏の連合軍のような編成を見て、マジャンの民衆は邪推をしていた。

きっと、トオン王子に惚れたお姫様たちが、異国の女にとられまいと良いところを見せようとしているに違いない、と。

実際、アルカナ王国側の面々も、第六戦士と第七戦士以外は全員女である。

マジャン周辺の価値観から言えば、これから起きることは王気を宿す女性達の、自己アピールの場なのだろうと察する他なかった。

各国の美しくも強い姫たちが、公共の試合場で王の前に並んでいた。ただそれだけで、マジャンの国民は大興奮である。

何せ、この場にそろっているのは他国の王位継承権を持つ者か、或いはマジャンの王家に属するものである。

その面々が、命の危険を晒してまで自分達の国の王子を奪おうとしているのだ。そりゃあ面白いに違いない。

そんな彼らは気づかなかった。

異国の戦士達、或いは異国からの兵士たちともまた違う服装の一団が、マジャン=スクリンの揃えた選手たちの控室に多く座っていることを。

元々、戦士の控室、あるいは球場のベンチのような場所に、侍従が待機しているのは当たり前である。彼女達もそうなのだろうと思って、まったくもって呑気にしていた。

さて、公共の試合場とはいっても、当然のように開けた平地でしかなかった。

ところどころに背の高い木が生えているが、それも森や林と言えるものではない。

その木に大量の見物客が上っているが、極めて些細な事だった。

決闘において、重要なことは戦う者たちだけである。

という風習ゆえか、アルカナやその周辺とは比べものにならない質素さだった。

しかし、野蛮人というわけではない。

それが証拠に、選手たちが待機するベンチ、というべき場所には掘っ立て小屋と呼ぶこともできないほど豪華な刺繍のされた布で屋根や壁を作ってある。

地面に置かれている座るための座布団も、土で汚すことがもったいないほどの一品だった。

各国の王族が座っている貴賓席も同様であり、国王のそれとなんの変わりもない。

もちろん、客用の模様、王の為の模様、戦士の為の模様と違いはあるのだが。

「……これより、我が前で十四人の戦士が、公正にして公平なる決闘を行う」

王気によるものなのか、力を込めているわけでもないのに大きな声がする。多くの民衆が集まっている広場全体に伝わるように、ハーン王は語っていた。

「我が快気を願って、若き戦士達が戦うのだ。多くの言葉は余りにも無粋」

整列している十四人の戦士達が、膝をついて礼の姿勢をとる。

同様に、民衆たちもぎっしりとした広場の中で、互いにぶつかりながらもなんとか膝をついていた。

「恥じることのない戦いに、ふさわしき勝利を。それだけを、我は願う」

第一試合の戦士達を除いて、十二人の戦士達は陣営のテントへ戻っていく。

それを見て、民衆たちは再び立ち上がり、歓声を上げる準備をしていた。

「……では」

国王は、その時を確認した。

二人の若き乙女が向き合い、構えている。他のものは一切ない。

そう見える、それならそれで十分だ。

「始めぇ!」

爆発したような歓声が上がり、同時にシヤンチ王国の王女、シヤンチ=エンヒの体が王気の高ぶりと共に膨れ上がっていく。

『王家を守護する偉大なる神よ、この身に宿りて敵を割け!』

虎や獅子に比べれば幾分か細身だった。彼女が転じたのは豹だろうか、それははっきりとはわからない。

しかし、余りにも巨大な獣に化けた彼女は、余りにもわかりやすく強大な存在だった。

それに対して、アルカナ側の女性は腰を落として手刀を構えるのみ。最前列やそれに近い者たちだけがその儚い姿を見るばかりで、余りにも心もとなかった。

「スナエ……貴方の部下は、勇敢ですね」

傍らに座る己の娘へ、スクリンは哀れみながら語っていた。

国王と同じ席には、マジャンの王族が並んでいる。父王はともかく、母親にとって二人しかいない息子と娘は、同じ方向を向きながら対立していた。

「勝ち目の薄い戦いに、己の体一つで臨むのですから」

「ええ、自慢できる臣下です。彼女達こそ、私の得た宝でしょう」

母親も娘も、似た顔をしていた。同じ表情をしていた。

互いに、己の陣営の勝利を疑ってもいなかった。

「私の 見(・) た(・) 限りでは、第七戦士に比べて、他の戦士はとても劣っています。特に、第一から第四までの戦士達は、精鋭とも思えません」

スクリンの言葉は、あくまでも印象を語るものだった。

先日山水が戦うところを、己の間者が見たわけではないと言外に否定したものだった。

なにせ、情報の事前収拾は許されていないのだから。

しかし、スクリンは戦士である。王の妻になるほどの女傑である。

であれば、技術体系が完全に違うとしても、第一試合に並んでいる二人の格の差がはっきりとわかっていた。

シヤンチ=エンヒは王家に恥じぬ実力を持つが、しかし 四器拳(しきけん) ヤビアはどうしようもなく未熟者だと理解していた。

そう、理解していたのだ。その印象は決して間違っていない。

それはハーンもヘキも、実際に彼女の事を知っているトオンも否定しないことだった。

「……彼女たちは若い。このように王の御前で戦わせるには、余りにも不適格ではないの?」

父王は、その口争いをあえて聞こえないふりをしていた。

あくまでも目の前の戦士に注目して、この二人の口論に参加せずにいた。

確かに、スナエ側の戦士は弱い。だとしても、既に戦いは始まっている。それならば、口論など意味を持たない。

主役はあくまでも自分の前で戦う戦士なのだから。

「だからこそ、なのですよ。母上、だからこそ意味があるのです」

巨大な肉食獣が、猛りながら小娘に襲い掛かった。

それを、王家の面々は誰もが見ている。

王気を宿すがゆえに王位継承権を持つ者も、王気を宿さぬがゆえに王位継承権を持たぬ者も。或いは、その母たちも。

誰もが決して目を放さなかった。何が起きるのかを、見届けようとしていた。

「その、誰の目にも明らかに未熟な彼女達が戦って勝つからこそ、意味があるのです」

巨大な腕が振るわれた。

先日山水は相手を移動させる技でそれを逃れたが、目の前の娘は有ろうことか右手と右足で受けの構えをとっていた。

右肘と右膝を合わせて、右手の指から右足の指まで一本の棒のように伸ばしていた。

片足で立っているそれが、踏ん張りの効かない構えであることは余りにも明白で、ヤビアを名乗る彼女が鮮血に包まれたことは、とても当然の事だった。

『ぐっ……!』

意外だったのは、 三(・) 本(・) の足で巨大な肉食獣が飛び退いたことと、彼女の腕が欠損していることだった。

「四器拳、右半、刃受け」

返り血、と呼んでいいのかわからない。

相手の攻撃を受け、その腕を切断した血を浴びていたヤビアは、右足を地につけながら技の名前を静かに口にしていた。

『ば、馬鹿な?!』

巨大な獣に転じていた、彼女の左手。切り離されたそれは、地面に転がり人間の手に戻っていた。

左手が半分、斬り飛ばされていたのである。

余りにも『痛い』その光景を見て、歓声は一斉に静まり返っていた。

「なるほど、己の五体を獣に変える、王気、神降ろし。凶憑きをも討ち取る力は、虚勢ではないらしい」

スクリンの顔から余裕が失われていた。

スナエの顔は、余裕を保っていた。

ヤビアは、左手を失った相手へ静かに語り掛ける。

いいや、この場に集まった面々へ、己の矜持を示す。

「しかし、我が体に流れる気血の名は、玉血。我が一族に伝わる拳法の名は、四器拳。その極意は、己の四肢を欠けることなき名刀に変えることにある」

巨大な獣が、鋭利な刃と知らずに全体重を込めて腕を振り下ろした。

そうなれば、拳法の腕など関係ない。ただ双方の術理の違いが現れるだけでしかない。

「我が四器拳、即ち 四(・) 肢を武 器(・) とする! それを成すは玉血、玉とは完璧であるという事!」

刀剣や槍、弓矢。それらが通じぬはずの、巨大な獣。

神の化身と見まごう力は、しかし所詮人間技でしかない。

「侮ったな、神降ろし! 我が拳足の切れ味、存分に味わうが良い!」

神降ろしの最大防御力と最大攻撃力を、四器拳は遥かに凌駕していた。

否、玉血による硬化、切断力は神剣さえも超越している。

この世に、斬れない物はない。