軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

失礼

『先んじて言っておくが……今回の相手を頭がいいと思うな』

『侮るな、と言っているのではない。こんなバカなことをするはずがない、ということを平気でやるのが馬鹿の恐ろしいところだ』

『玉座というものをなにか勘違いしている連中がやっていることであり、相応の対処や対策を練らねばならない』

『つまり、捨て身の特攻だ。確かに馬鹿の所業だが、私も若いころは煮え湯を飲まされた』

『その成果は大きい、良くも悪くもな。政治の場合は、大抵悪い方にしか動かないが』

『対処は単純だ、一番大事な場所の守りを厚くすればいい』

『相手はそこさえ攻略すればいいと馬鹿な突撃をしてくる。それを殲滅して終わりだ』

『ヘキは私を殺そうとはしないだろう。私が婿入りすることは道中の国で散々宣伝していたことであるし、ヘキにしてみれば他の兄妹の方が競争相手なのだ。態々私を敵にすることもない』

『だが、私を殺そうとする輩はいるだろう。ヘキの手の者、というよりはヘキの陣営に身を置くが、先走ったものだ』

『ヘキが既に玉座に座っているのならまだしも、今は代理だ。その立場は非常に危うい』

『だからこそ、無茶をする。リスクとリターンを考えず、ただひたすらに最悪の事を考えて行動する。つまり疑心暗鬼だ』

『何が言いたいのかというと、下手人を捉えるとヘキが不利になる。私はこの状況でそんなことをしたくはない』

『仮にヘキ以外の誰かが私を殺そうとしたとしても、そんなことをいちいち気にすることはない。確かに私が危険だと思うことは正しいし、万が一私が原因で内戦になればその行動は全面的に正しかったことになるしな』

『つまりだ、もしもの時は派手に殺してほしい。それだけだ』

さて、祭我がパレード中の下手人をひねり殺して街を出た後の事である。

馬車に戻った祭我は、政治の話をしているトオンとお父様以外の面々が揃っている大きな馬車で俺に泣き言を言っていた。

というか、かなり狭い。テンペラの里の面々は床に座っているが、それでもきつきつだった。

「……山水、皆どんびきしてた」

「……」

「まあ確かにエッケザックスを使うのはずるいと思うけど……正直傷ついたよ」

「そりゃそうだろ、目の前で人があっけなく焼き殺されたんだぞ」

お嬢様の前ではあるが、砕けた対応をする。

今突き放すと、かえってドツボだったし。

ハピネは面白くなさそうだが、祭我と全面的に話がかみ合うのは俺ぐらいだしな。

まあ二人っきりで愚痴を言うのではなく、周りの人にも聞いてもらうのは成長だと思う。

「天下の往来で人が死んで、それで歓声が上がる方が怖くないか?」

「そりゃあそうだけど……」

「そもそも、トオン……様の歓迎ムードだったんだぞ。いきなり乱闘が始まったら、そりゃあそうなるさ」

「……正蔵の気持ちがわかる」

あんな戦略爆撃機と一緒に考えなくていいと思うぞ。

まあやっていることは似たようなもんだが。

そもそも、人を殺して称賛されたいと思うことが、個人としてはどうかと思う。

もちろんきれいごと、或いは仙人の傲慢だとは思う。人間は、動物は、植物は、仙人と違って奪い合わないと生きていけないもんな。

「俺達の基準で言ったら、戦車を素手でひっくり返した後放り投げて爆破したようなもんだぞ? 普通の人は引くだろう。というか、俺だっていつもそうだぞ」

「……言われてみれば確かに?!」

「お前やっぱり亡命貴族より馬鹿だ、今更気付くな」

人間というのは、動物というのは基本的に臆病だ。自分が知らない物を見れば、怯えるのが当然だ。

ブロワやトオン程度、比較して優れているという程度ならみんな感動してくれるし称賛してくれる。

だが、正蔵のように限度を遥かに超えていれば、感動を覚えるのは少数派だ。というか、感動されることは嬉しくないし。

「正直、トオンが国民から人気で羨ましいとか思ってたけど……というか、ドン引きされるのも主人公っぽいけど……実際されると辛い」

「お前は一応生身の人間なんだから、そりゃあ傷つくだろう。周囲から恐怖されれば、傷つくのは当たり前だ」

「やっぱりアルカナ王国の方がいい……あっちだとそんなに白い眼で見られないし」

少なくとも、アルカナ王国の兵士は祭我に動じていなかった。

そりゃあそうだ、祭我の攻撃力の大部分は一般の兵士でも使える炎の魔法で、エッケザックスで増幅しているだけ、という理屈があるからな。

戦車に対戦車火器を当てた、という程度の認識なんだろう。それもそこまでは間違いじゃない。

学園長先生でも、当てられれば似たようなことはできるしな。あの人は戦闘経験なさそうだから、人に当てるのは嫌がるだろうけど。

幽霊見たりは枯れ尾花、とは言うが、幽霊が実際に幽霊だったとしても、色々と調べて理屈が分かれば幽霊は幽霊のまま大して怖がられなくなる。

「ぶっちゃけ、俺も近衛兵を壊滅させたときは似たようなもんだった。お父様やお兄様、お嬢様は喜んでくれたし、パレット様は褒めてくれたが……正直、あんまり楽しいもんじゃない」

「強者は孤独なのか……」

「それ師匠の前で言ってみろよ」

「インフレって辛いな……」

もう半年ほど前の事だが、俺達四人で師匠にボコボコにされたことは憶えているらしい。

結局祭我の孤独も、師匠が言うように周囲への被害や恐怖の方が深刻なんだろう。

自分で勝手に『不必要』に強くなって、そのくせ自分よりも『圧倒的』に弱い人たちに混じって、疎外されたくないというのは傲慢極まりない。

度を越えて強いというのは、嫌われて当然なのだ。

「もう身内以外に競える相手もいないのに、必死で強くなってる俺達が言う事かよ」

「……パンドラが言いそうなことをほざくな、スイボクの弟子よ」

黙っていたエッケザックスがようやく口を挟んだ。

とはいえ、スイボク師匠が最終的に自分を手放したことも含めて、使い手のメンタルケアも大事だとは思っているのだろう。

俺との会話を完全に断ち切ろうとはしていなかった。

「武人は向上心を捨ててはならない、強さに現状維持というものはないからだ。というよりも、現状を維持すればいいと思った時点で心が膿んでおる」

「エッケザックス、それはそうだろうが……それは俺達側の理屈だ。パンドラがどんな理屈で動いているのかわからないが……俺達ぐらい強いってのは、他の人から見れば怖いしずるいんだよ」

俺のように、五百年修行したことも、世界で一番強い人の弟子になれたことも。

祭我のように、あらゆる魔法の資質を持つことも、あらゆる魔法を増幅する神剣を持つことも。

正蔵のように、膨大な魔力を持つことも、箱舟に乗り込めることも。

右京のように、五つも神宝を持つことも、一つの国の支配者であることも。

今の俺たちは、苦労をしている。決して楽ではないし、悩みだってある。

そういう意味では、この世界に来る前と何も変わっていない。

きっと、春という男もそうなんだろう。

だが、それでも結局他の人から見れば『違法改造』に他ならないのだ。違法改造そのものを見て、尊敬されることはない。周囲に理解者がいて、近くに同じ相手がいるのを幸運に思うべきだ。

師匠には、それがまったくなかったんだから。

「対等ではないし、公平でも公正でもない……か。正にパンドラの理屈だな、我はそれを認められん」

「エッケザックスはそうでも、祭我はけっこう普通なんだよ。俺の場合はメンタルと強さが直結してるし、ぶっちゃけ師匠がいるからそんなに孤独でもないんだ。そういう意味じゃあ、ちゃんとやってる方だとは思うけどな」

というか、ハピネ達からの視線が熱い。

俺と祭我が自分達よりも互いに親身になっていることを、とても気に入らないようである。

というか、ハピネの視線が特に痛い。

「まあそのなんだ……ハピネ……さ」

ハピネ様と相談したら? と言って区切ろうとしたら途中で割り込まれた。

「ちょっと!」

見事な対の先である。

「な、なんでしょうか?!」

「サンスイ、貴方私の事を呼び捨てにしてない?!」

そこに気付くとは、やはり貴族令嬢である。

お嬢様も普通に気付いてるし、にやにやしてるし。

「貴方、パレットの事はパレット様で、ドゥーウェの事はお嬢様で、私の事だけ呼び捨てってどういう事よ!」

「あら、わからないの? 自分の胸に聞いてみたら?」

「なんですって?!」

お嬢様、代弁してくださってありがとうございます。正直、その通りです。

なんか心の底からまったくピクリとも、この少女に対して敬意が沸き上がらない。それがちっとも不自然に思えなかった。正直、俺は彼女の尊敬すべき点を一切感じられないのだ。

お嬢様への場合、敬意っていうか恩義だけど。

「おちつけ、ハピネ。どう考えてもお前が悪いぞ」

「スナエまで、なによ!」

「正直に言うが、お前から貴さを感じられん。お前本当に貴族令嬢か?」

「なんですって?! ねえ、そんなことないわよね、ツガー!」

「え?!」

「いいや、ツガーの方がまだ説得力があるぞ。お前、淑女らしさがない」

困っているツガーへの助け舟として、というか援護射撃として自分の意見を言う。

凄いなあ、一切否定要素がないぞ。

確かになんかラノベのヒロインっぽさはあるんだけど、それは決して高貴な生まれという感じではない。親しみやすいというか、高級感がない。ぶっちゃけ安っぽい。

仙人である俺がそう思っているのだから、大概なのではないだろうか。

「そ、そんなことないですよ……ハピネ様は貴族の御令嬢ですよ……」

「そうよね?!」

「では、親が金持ちであること以外に、令嬢らしさがあるか?」

「……ごめんなさい」

「なんで泣いて謝るのよ?!」

ハピネとスナエに挟まれて、遂にツガーは泣きだしてしまった。

そりゃあ一人だけ身分が違うし、中々言いにくいだろう。特に、他人の欠点なんて。

まあ、ぶっちゃけスナエに対しても、内心では敬語を使っていないのだが。

「ああ、駄目だろハピネ! ツガーが泣いてるじゃないか!」

「サイガ、私だって泣きたいんだけど?!」

「自分が泣いてるからって、泣かせていいわけないだろうが!」

ツガーを抱き寄せて、慰める祭我。確かに適切な沙汰である。

トオンの言うように、ツガーに対しては特に気を使わねばなるまい。

下手しなくても、自殺しかねない。

「私の下僕が正直でごめんなさいね? でもそろそろ王宮に到着するようだし、そろそろおさめたら?」

と、お嬢様がおっしゃるように、半年ほどかけた長い旅はようやく折り返し地点についていた。

目的地、マジャンの王宮である。