軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

欲求

「お主は既に発勁、気功剣、縮地、軽身功を完全に会得しておる。その上位に位置する技や近い技なら、比較的簡単に習得できるであろう。具体的には発勁法『振脚』『鯨波』気功剣法『十文字』『数珠帯』縮地法『牽牛』『織姫』内功法『重身功』『瞬身功』外功法『投山』『崩城』であるな。本当はお主がレインを独り立ちさせた後で、森の中で再び教える所存であったが……今のお主なら術に溺れることはあるまい」

どうやら俺の表情などからいろいろと読み取ったらしく、俺の成長ぶりを褒めてくれた。

そうか、弟子入りしてから苦節五百年、ようやく能動的に術を教えてもらえるのか……感動で胸が熱い。

長かったなあ、五百年。あんなこともあった、こんなこともあった。具体的には素振りして素振りして素振りしてばっかだった。

「ありがとうございます。新しい術を学べることも嬉しいのですが、やはり貴方に認めてもらえることはこの上ない誉です」

「うむ……まあ正直お前には余り多くの術を授けなかったからのう。お前が去った後、こうなるのならもっと教えておけばよかったと後悔したものじゃ……」

師匠……そのお心がまぶしいです。

国を滅ぼしたとか同門に恨まれていたとか、さっきまで気にしていた辺りの事がどうでもよくなるほどです。

よく考えたら俺も近衛兵を半壊させるとか五百人ぐらい晒し首にするとか、山賊を獣の餌にするとか自慢できないことが沢山ありますし。

「自分で言うのもどうかと思うが、儂でさえ千年は師の元で数多の仙術を習った。その弟子であるお前は、昔の儂に似ず我が弱く育ってくれたゆえに世間一般に置ける最強になってから少々の術を教え、世間へ送り出し、その帰りを待つつもりであったが……要らぬ心配であったな。とはいえ、流石にフウケイを相手にするのは無茶であったろうが」

うむうむ、と頷いている師匠。

そうか、師匠の同門はそこまで極まったお方だったか。

「そこまでの使い手でしたか」

「然り、お前が指導したサイガ、トオン、ランはいずれも相当の実力者であった。千五百年前の儂でも不覚をとりかねんほどのな。その三人をして、我が兄弟子フウケイは抑えきれぬほどの猛者になっておった」

兄弟子を讃える一方で、その顔はとても曇っていた。

兄弟子を思い出すと、いろいろと辛いのだろう。

「ふっ、まあ年寄の寝言である。我が弟子よ、儂の悪いところなど真似せんでくれ」

「はい」

「それはそれとして……調度多くの者が揃っていることであるし、儂がこさえる錬丹法の薬効をお見せしよう」

予め準備していたらしい果実を詰めた袋を取り出して、侍従の方が用意したお皿の前に持っていく。

袋の中から果実を取り出して軽く息を吹きかけると綺麗に切り分けられていった。おお、ああいう仙術もあるのか。

「さささ、どうぞ賞味して欲しい、力がみなぎること間違いなしである」

本来なら毒見とかするところだが、誰も疑っていない。そりゃそうだ、俺の師匠が一々毒殺なんてする意味がない。俺がお嬢様の護衛を務めることが許されているのと同じ理屈である。

「と、その前に。我が弟子よ、お前は金丹を食っておけ。欲が湧くぞ」

「……あの、師匠。体形が変わる術って大分不自然なのでは」

「然り、確かに金丹の術は余り良い術とはされておらん。しかし……仙人というものは、ある程度行が成っておればだんだんと若くなってしまうものなのだ。儂もエッケザックスと共に旅をしていた時期よりも大分幼くなっておる」

「え、そうだったんですか?」

「むろん、百年や二百年で目立った変化はせんがな。お主も五百年の修行でごくわずかに若返っている程度でしかない」

うむうむ、と頷いている師匠。

そうか、そうだったのか……。

「とはいえ、心がよどんでいる邪仙はよどんでしまう。我が友も三千年の濁りがたまっておった」

「つまり、仙人の心中は見るからに明らかだと」

「然りであるな。とはいえ、散々世に迷惑をかけた儂がよどまなかった辺り、あくまでも己の心の在りようでしかないのであろうが」

配られていく蟠桃。

それを受け取った面々は、やや緊張の面持ちで切り分けられたそれを前に、生唾を呑んでいた。

流石にこの場でむしゃぶりつくのは行儀が悪いが、芳醇な香りと果実から感じる気配から美味を察してしまうのだろう。

所謂本能を刺激される香だった。俺はその辺りが共感できない。金丹の術を受ければ、改善されるのだろうか。

「そも、仙人とは自然の気を己が内にとりこむもの。それは儂もお主も同じことであるが、儂もお主も派手な術を使わん分、己の消費に気付かぬ。しかし、大掛かりな術や持続して発動させる術の場合、否応なく疲労する。その疲労を補うために、意図して自然の力を集める術を集気法と呼び、それを形にして蓄える術を錬丹法と呼ぶ。仙気の使い手のみならず、他の力を蓄える者にも有効な術じゃ」

そう言って、我が師は丹田に気を集め始めた。

何事と思っていると、師匠の体格が変わっていく。

レインと変わらない程度の子供だった師匠の姿が、見るからに俺より成長していた。

それを見て、露骨にレインが興奮している。

「とまあ、金丹の術を練ると仙人であればある程度肉体を操作できるわけじゃな。今は体の内側で練り上げたが、体の外側で練り上げれば丸薬の形になる。これを常人が食えば一時の活性化と引き換えに命を落とす猛毒故、扱いには気を付けるようにのう」

シェットお姉さんからの圧力が強かった。

何か、こう、無いのかという胆力を感じる。

それを感じ取った師匠は、俺に丸薬を手渡しつつもシェットお姉さんへ話しかけていた。

「俗人が若返る術、であるが……賢人の水銀なる錬丹法があった。これならばそちらの期待に沿えるであろうが……」

「そ、それについて詳しく!」

「専用の宝貝が必要であるし、そもそも儂は作り方を習っておらん」

「そ、そんな……」

「期待に応えられず申し訳ない」

手に金丹をとってみる。なるほど、おびただしい仙気が籠った丸薬に見えた。

失意しているシェットお姉さんを他所に、期待の目で俺を見ているブロワとレイン。

そうか、俺の背がブロワより低いことを、その内レインにも抜かれることを二人とも気にしてたのか。

「それではさっそく」

ゴクリ、と呑んでみる。

味わうもへったくれもなく呑んだそれは、体の中へ吸収されていく。

込められていた膨大な力が、速やかに体の中を巡っていく。冷えていた体が熱されていくのを感じていた。

これは、悪血の効果に近いものがあるのかもしれない。

「むむむ……」

「どうであるか?」

「これは、確かに仙人以外が食べれば死にますね……」

全身に駆け巡る仙気、自然の力。それを俺の体の害にならないように制御しつつ、肉体の状態を観察する。

すると、師匠がそうだったように俺の体も大きくなっていく。

手足が伸びるだけではなく、筋肉までもが太くなっていく。

頭一つ分大きくなった、という程度の背の高さになったところで、成長は止まっていた。

「あの……師匠、なんか声も変わってませんか?」

「変わっておるな」

「なんかいきなり成長したので落ち着きませんね。効果はどの程度続きますか?」

「明日の朝には戻っているであろうさ」

別に師匠ほど背が低かったわけでもないので、そんなに不満はなかったのだが。

なのに、なんかブロワやレインからの視線が熱い。あと、お姉さんからの視線が痛い。

「仙気や身体能力の向上とかも効果なんですか? 気が昂るのがどうにも落ち着きません」

「然りであるが……大分骨格も変わったな。あとで、体を慣らした方が良いであろう」

パワーアップしたはずが、精度が落ちているので一気に弱くなったようにも感じられる。

体が火照る感覚が、どうにも不便というか不可解というか、きつい。

「あと、やたら喉が渇いて空腹を覚えるのですが……」

「久しい欲求である。生の喜びをかみしめながら、我が蟠桃を食うが良い」

どうせなら五百年前にその気を使ってほしかったです。

五百年ぶりに空腹感と戦いながら、俺は甘く瑞々しい蟠桃を、みんなで食べるのだった。

その効果はまさに劇的の一言。

御老体であるディスイヤの当主など、枯れていた手足や指にハリが戻ったことに困惑さえしていた。

「こ、ここまでの効果があるとは……古の女王が求めたのも納得だな……」

国王陛下も、体格こそ変わらないものの肌に艶が出て二十は若く見えるようになっている。そして、同時に何か後ろめたさも感じているようだった。

「妻に見られたら、なんと言えば良いのだろうか……」

他の女性陣も、年齢を重ねている人ほど効果を実感しているようだった。

なるほど、師匠が友人と自分の迷惑料として差し出すだけの事はあるのだろう。

女性陣の誰もが、ありえない、と感動していた。とくにシェットお姉さんが。

まあ、流石にライヤちゃんやレインはそんなこともないようだったが。

「どうであるか、弟子よ」

「美味いですけど、正直今はがっつりと肉が食いたいです」

「であろうなあ、我らにしてみればそんなに薬効を実感できるものでもないし」

けらけら笑う、アダルトな我が師匠。

確かに美味しいとは思うのだが、仙気を常に体へ巡らせている俺達仙人には、そんなに凄いものとは思えなかった。

というか、肉、肉食いたい。