軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還

特に事件が起きるわけではなかった俺達の新婚旅行も終わり、帰りの馬車は、もうすぐ王都にたどり着こうとしている。

「サンスイさんのお師匠様に会えるなんて、嬉しいわねえ」

なんといっていいのかわからない。そんな顔で、申し訳なさそうにヒータお兄さんとライヤちゃんが身を縮めている。

ちなみに、レインもブロワも、恨みがましい眼でほくほく顔のシェットお姉さんを見ていた。

元をただすと、暗雲が消えた後で走った閃光を見て、『師匠が戦って勝った』ということを俺が説明したことが問題だった。

俺と違って、師匠はあらゆる仙術を習得している。その師匠の術だと説明したところ、シェットお姉さんは目を輝かせていたのだ。

一応新婚旅行なのに、ついていくと言って聴かなかった。

まあ師匠は俺の父親みたいなもんなので、家族同士で顔合わせというのはある意味自然だったのだが、目的があけすけだった。

今度こそ姉の暴走をいさめるために、ヒータお兄さんやライヤちゃんも同行してくれているが、馬車の中はアレ過ぎた。

おかしいなあ、一応新婚旅行なのに。

とはいえ、あの閃光を見てこのまま帰りも予定通り、とはいかないことは明白だった。

なにせ、師匠が国土を切り裂いたのである。弟子としては、一応説明に向かうべきだろう。

「パパ……こんどのお休みは何時になると思う?」

「五年後かな」

「……ぶぅ」

娘よ、そんなに気にするな。五歳のお前からすれば五年後は十歳だし、そんなに気に病むことではないだろう。

俺の隣でとんでもなく落ち込んでいるブロワを見れば、そんな不満は……というか、ブロワの反応を見て、レインは不満なのかもしれないが。

「……ああ、そろそろ馬車を一回止めてください」

「なにもありませんが?」

「いえ、結構ですんで」

既に王家直轄領地に入っている馬車を、周囲に人里のないところで止めてもらう。

一旦外に降りて少し前に進むと、そこには一本の『線』が走っていた。

東から西へ、まっすぐに土の焼失している箇所がある。

「失礼ですが……これはもしや、先日の閃光の跡ですか?」

一緒に降りてきた面々も、それを覗き込む。

ヒータお兄さんが代表して聞いているが、全員もなんとなく察しているようだった。

「そうですね、これが師匠の術でしょう」

東の彼方から王国領地を縦断し、そのまま海の彼方まで切り込んでいる。流石師匠、頭おかしい。

この線は底なしに深く、加えて地の果てまで続いている。

とんでもなく収束されており、一切歪みや幅が広がっていることもない。

細くまっすぐに、大地と大海を切り裂いたのだ。

「師匠曰く、こんな術で大地を切り裂いても、何も面白くないとかなんとか」

その話を聞いて、レインもブロワもその兄妹も絶句している。

俺も昔そんな顔をしていたので、とても共感できる。

そう、今の俺にはどちらの意見も共感できるのだ。

「暗雲を束ねて剣として、そのまま放つ閃光の剣。大空を握りしめたそれは、大地を切り裂き大海をも断つ。しかし、そこに敵はいない。その剣で斬らねばならぬ敵は何処にもいない、故に俺に教えてくれませんでした」

ちなみに、この術は暗雲があれば暗雲を束ねるが、昼間なら太陽光を束ねて剣にするらしい。昔はなんでその術を教えてくれないのかと思っていたが、しかし実際に見てみると確かに何のための術なのかさっぱりわからない。

なんでも切り裂く剣が欲しいと思っていたが、『なんでも切り裂く剣』を『実現するための術』になってしまっている。

途中で間違いに気づいても、一応完成させて改良の余地がないのか検証する辺りは、師匠も大分律儀である。

「それに、作るのに数分必要だから、実戦では使い物にならないとも言ってましたねえ」

「まあそうかもしれないが……お前の師匠、スイボク殿は本当に強いのだな……」

戦慄しているブロワには悪いが、俺が本当に驚いたのは縮地の奥義を見た時だった。

草鞋を作るから野草を集めて乾燥させよう、という話になったときに、師匠は時間がないからと一瞬で大量の草を集めていた。

今の俺が習得している縮地は、ランが見抜いたようにあくまでも一瞬で移動する技であって、高速移動ができる技ではない。

つまり、移動自体は一瞬でできても攻撃の動作までは高速化しないのだ。

しかし、師匠は違う。通常の縮地は移動前と移動後の姿勢が変わることはないのだが、師匠の場合それを通り越して縮地の最中に攻撃も終えているのだ。

細かい原理は大分違うのだが、傍から見れば時間停止能力を身に着けているとしか思えないだろう。

まさに、次元が違うとしか言えない究極奥義だった。

「国土を切り裂くとは……スイボク殿とは、本当に神の如きお方なのですね」

ヒータお兄さんが、なんか勘違いしているのか俺に恐怖を抱いていた。

違います、お兄さん。俺はそんなことできません。習ってないし、できる気もしません。

師匠も多分、必要だと思ってこの技を使ったのではなく、なにか思うところがあって使用したのだろうと察することはできる。

「噂に聞く『傷だらけの愚者』も、ここまでは……」

ライヤちゃんも、見渡す限り続いている大地に刻まれた線におびえていた。

そりゃそうだ、ついうっかり師匠が横に斬れば、どうなっていたかなど考えたくもない。

「これだけの術が使えるのですもの、私を若返らせることぐらい……」

シェットお姉さん、他に感想はないんですかい。

これを見てそれを期待するのは、流石にどうかと思います。

「そろそろ王都です。師匠の気配も感じますし……皆さん馬車に戻りましょう」

まさか、こんな形でスイボク師匠と再会するとは思っていなかった。

スイボク師匠もそう思っているらしく、少々複雑そうな気配を発している。

未だに遠い王都で待つ師匠は、なんとも居心地が悪そうだった。

「早くしないと、怒られてしまいそうです」

お前は休暇だから、と言った手前俺を早く呼び戻すことができないけれども、それを思いっきり後悔している。さっさと戻ってきてほしい。

そうした気配を、王様やお父様、他の首脳陣から感じていた。

そりゃそうだ、国家を切り裂く相手が城にいるんだったら、怖くて仕方がないだろう。

「パパ、今度はもうちょっとちゃんとしたお休みもらおうね」

娘よ、今回の時点で大分がっつりしたお休みだったんだが、それは……。

「……おい、なんだアレ。スイボク殿の住んでいた森が、その……」

「ああ、浮いてるな。師匠が持って来たんだろう」

進む馬車の外を見ると、王都そのものよりも大きい俺が過ごした森が、王都近辺で浮いてた。

日照権とか、苦情こないんだろうか。洗濯物が乾きそうにない。

「……あれも仙術か?」

「ああ、師匠が千五百年過ごした森だからな。そりゃあ浮かべるなんて簡単だ」

「簡単の定義がわからんぞ」

「千五百年かければ、アレぐらいできそうだろう? 俺の人生の三倍も頑張ってるんだぞ、師匠は」

どっちかっていうと、俺の方が普通の仙人とは大分違うわけなので、師匠がやってることの方が普通の仙人なのであった。