軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不和

「おおおおおおお!」

「……」

フウケイは天を握り、地を握っていた。肉体的な強さに関しても、どうしようもなくスイボクを越えていた。

その強さを、すべて個人に向けている。にもかかわらず、フウケイはスイボクに攻撃を当てることができなかった。

無尽蔵の力を発揮しても、届かない場所には至れない。そう語り掛けるように、スイボクはフウケイを打ちのめす。

「天動法、弾雨!」

皮肉にも、『個人ではどうにもならない存在』への恐怖が、ヴァジュラをより一層強化する。

天はまるで恐怖におびえるかのように鳴動し、その現象を一点へ向けていた。

上空まで浮かせた土塊。それを雨に混ぜて、弾丸として降り注がせる。

祭我ならば法術の壁で凌いだであろう、圧倒的な死の雨。

それを前に、スイボクは縮地を行った。

「馬鹿め、焦ったな!」

身をかがめているスイボクは、フウケイの足元へ移動していた。

当然、槍の間合いの内側であるが、フウケイにも発勁の技はある。打撃に乗せて打ち込もうとしたところで、頭上からおびただしい攻撃が降り注いでいた。

「こ、これは、牽牛か!」

「すまん……」

スイボクは縮地を使った。自分が移動する通常の縮地ではなく、相手を引き寄せる縮地の高等技牽牛。通常なら彼我の距離を詰めるだけで違いはないのだが、弾雨の射程へフウケイを引き寄せる意味はあった。

つまりは、フウケイを笠にして弾雨を凌ごうとしたのである。

「ぐがああああああ!」

「本当に……いや、どうかと思うんだが……」

上からは既に自分が放ってしまった弾雨が絶え間なく降り注ぎ、下からはスイボクが小刻みに発勁を放って動きを止めている。

流石に、硬身功を使おうが使うまいが、小石などが混じった雨で人体を貫くわけはない。

痛みはあるが、致命傷ではあるのだが、フウケイを貫いて下のスイボクを殺すことはなかった。

「ぐ……がああああああ!」

「おっと」

自らが放った弾雨が終わり、フウケイはヴァジュラで反撃に転じる。

空からもヴァジュラ自身からも、風の刃を大量に放って攻撃する。

それをスイボクは、縮地や瞬身功を使って回避していく。

「まだ、続けるのか……」

「おおおおおおおおお!」

戦場全体に降り注ぐ風の刃と、フウケイ自身が横向きに放つ風の刃。

かすらせることも、危ういと思われることもなく回避しているスイボクは、相変わらず申し訳ないという顔をしていた。

勝ちを譲ることが侮辱になることはわかっている。しかし、戦って負けることはないということも、うんざりするほどわかっている。

他ならぬフウケイこそが、一番うんざりするほどわかっている、ということもわかっているのだ。

「とったあああああああ!」

風の刃は、縮地と違い放った瞬間に命中するものではない。

その速度差を利用して風の刃が着弾するよりも先に、縮地を用いて相手の逃げ込む場所で迎え撃つ。

術理としてはトオンの真影の舞と同じであるそれを、更に広範囲で行うフウケイ。

渾身の力を込めて、死に体となったスイボクの背後へヴァジュラを振り下ろそうとする彼の視界を、何かがふさいだ。

「君は、本当に素直だな」

スイボクは、フウケイが仕掛けてくるタイミングを計っていた。その場所に向かって、予め木刀を投げておいた。

当てる必要はないどころか、むしろ当てれば無視されたであろう投擲は、狙い通りに縮地で移動したばかりのフウケイの視界を遮る形で力なく落下していた。

「目くらまし……」

「そうだ、これもな」

落ちてきた木刀を手に取りつつ、動きが硬直したフウケイの左目に切っ先を向けた。

そして、右手は柄を持ち左手は柄頭に沿えていた。それが何を意味するのかと言えば、右手で気功剣を行い、左手で発勁により木刀を押し出すということである。

「あ……!」

「流石に、即死すれば硬身功も解けるか」

外しようもない刺突は眼球を貫き、その先の脳を砕いた。スイボクは『体液』のついた木刀を引き抜き、即死して尻餅をつこうとしているフウケイの両ひざを殴打する。

両ひざの皿を割られ、立ち上がることができなくなったフウケイ。その頭部が再生するのを待って、兜割で振り下ろした。

「少し思ったんだが……剣術を見せてないよな」

攻撃が命中する瞬間にだけ、重身功を発動する。

それによって得た重さを、すべて剣先に込める。

瓜を割るように砕けた頭部は、しかし急速に戻っていく。

「君の槍は見せてもらったし……ここからは剣でいこう」

妙な律義さを発揮しつつ、フウケイの回復を待つスイボク。

血ぶりによって体液が木刀から離れて地面に落ちる。

その姿に、一切の油断も隙も無い。

絶対の回答など必要ない。何をどう立ち回っても、それが全て正解となる。

それこそがスイボクが、弟子に託す価値があると定めた唯一の絶招だった。

「スイボク……お前はどこまで……」

「君が諦めるまで付き合おう。君が僕から勝利を奪うことはできない、それを納得するまで付き合おう」

立ち上がるフウケイ。

やはり、体術では余りにも実力差がありすぎる。

スイボクがこちらの術を破る手段は数多あり、そのどれ一つとして自分には防ぎきれない。

それでも、まだできることはある。

不屈の闘志を燃やすフウケイは、縮地の予備動作に入った。

「まあ……そう簡単には諦めないだろうけども」

それを見てから、スイボクは縮地で移動する。

縮地の移動先で、誰もいない虚空へ向けて、木刀を振りかぶって横薙ぎの打撃を見舞う。

「なっ?!」

「ここに移動する」

一拍遅れて縮地で移動したフウケイの顎関節に、スイボクの木刀が命中した。

フウケイにしてみれば縮地をするぞと身構えて、自分が縮地を始める前に先にスイボクが消えて、縮地が終わった瞬間にスイボクの一撃をもらっていたのだ。

先ほどのように、スイボクによって移動させられたのではなく、フウケイが自分の意思で移動したにもかかわらず先回りされた。

その事実に、顎が外れたフウケイは戦慄を隠せない。

「顎が外れれば、気も体も満ちることはない」

そこから先は、一種滑稽なほどまっとうに打ち込んできた。

外された顎が戻るまでのわずかな時間、スイボクはヴァジュラで防御しようとするフウケイを木刀で殴打する。

硬身功で受けることで致命傷は免れるが、フウケイの必死の防御をスイボクの打撃はすり抜けていく。

極めてまっとうに、両者の武術の技量差が明らかになっていく。

「おおおおあああああ!」

「友よ、力が入りすぎだ」

顎が戻り、反撃に転じるフウケイ。

打ち込まれた怒りを込めた反撃を、スイボクは回避しながら側面へ回り込む。

「……痛いぞ」

当然だが、両手で槍を持っているということは両手がふさがっているということである。

反撃に転じるということは、体が前に傾き、更に片足が地についていない瞬間があるということである。

スイボクは重身功で自重を増しつつ、フウケイの後頭部を掴んで地面に顔面を叩きつけていた。

「ぐぁ……」

「追加だ」

さらに、頭部へ発勁。

脳を破壊する連続攻撃によって、フウケイの体は幾度目かの死を迎えていた。

「……本当に、心苦しいな」

気と力が抜けたフウケイの頭を掴んで、高く持ち上げる。幾度となく殺されて尚、手からヴァジュラを放さない姿は、いっそ滑稽だった。

そして、フウケイの意識が戻る機を狙って、もう一度地面にたたきつけた。

「そろそろ、諦めて欲しいんだが……いやはや、本当に君は俺のことを恨んでいたんだなあ」

フウケイが自分の状況を確認するより先に、スイボクは地面を叩いた。

すると、フウケイがやっていることよりもよほど小規模で、くりぬかれた地面が浮き上がる。

「戦うということは、傷つけるという事。それを不快に思ったことはないが……君に行うとなると心苦しい」

さらに、その土を圧縮して石に変える。

「ぐ……!」

そのタイミングで、フウケイは意識を取り戻していた。

自分がスイボクに頭を掴まれていること、地面に顔を叩きつけられていることを、改めて認識する。

フウケイは、とにかく立ち上がらねばならなかった。死に体のままでは、まともに仙術が発動できない。

「軽身功……」

「瞬身功」

重身功で身を重くしていては、立ち上がることに支障をきたす。

そう判断したフウケイが軽身功で身を浮かせたその瞬間に、スイボクは自分の動きを早くして、浮かせた石に頭頂部からフウケイを叩き込む。

「手抜きをせずに戦うということが、こんなに哀しいのは初めてだ……」

友は自分に、全力で戦うことを求めている。

だからこそ、全力で戦っている。容赦なく圧倒する。

それが、どうしようもなく哀しかった。

行動と思考が一致していないが、スイボクは本当に悲しんでいた。

この戦いをノアから見ている面々も、哀しかった。

「スイボク……千五百年前と比べて、強くなりすぎじゃ……」

エッケザックスの言葉は、『今のスイボク』がどれほど進化していたのかを端的に表していた。

フウケイは強い。正蔵以上の広範囲攻撃と祭我以上の攻撃力と防御力、技量を兼ね備え、更には無尽蔵の再生能力まである。

それを『虐待』しているスイボクは、祭我並みの万能さと山水以上の技量、なによりも豊富な戦闘経験を持っていた。

スイボクはフウケイに何もさせていない。いいや、仮に攻撃をさせても一蹴しているだけだった。

当たりさえすれば勝てる、その前提は崩れていないが、大人と子供以上の差が両者に現れている。

「うへえ……嫌な光景だ……」

遠距離攻撃、広範囲攻撃を専門とする正蔵は、目の前の光景に痛々しさしか感じない。

どれだけ広範囲攻撃、遠距離攻撃をしても、いともあっさり破って反撃してくるスイボクは、彼にとって悪夢の様だった。

「しかし……本当に不死身だな。どうするんだ、この戦いの決着は」

右京はそうつぶやいた。経験上、一度燃え上がった復讐の炎は消えない。

相手が反省しようがどれだけ強かろうが、その相手が自分にケンカを売ったことを後悔するまで追い詰めるしか、復讐の終わりはないのだ。

しかし、このままでは復讐もへったくれもない。今のままで勝てない事は、他ならぬフウケイが一番よくわかっているだろうに。

「あの、右京様……貴方ならどうしますか?」

「俺なら逃げる。逃げて、本人を殺すことを諦めて、弟子とかその周辺を狙う」

祭我の質問に対して、右京の回答は衝撃的だった。

だが、それはそれで正しいと納得できる。少なくとも、このままスイボクとフウケイが戦い続けても、何か変化があるとは思えない。

「そもそも俺の場合、個人の力で戦おうって思ってなかったが……」

フウケイにとって復讐とはスイボクと戦って殺すこと、勝つことなのだろう。

その為に三千年を費やした。千五百年前のスイボクよりははるかに強くなっている。

しかし、今のスイボクには、到底及んでいない。

「なあ、エッケザックス。このまま戦ってたら、スイボクも疲れるのか?」

祭我の質問は、核心をついていた。

非常に今更だが、スイボクは疲労や消耗をするのだろうか。

するのであれば、最終的にはフウケイが勝つだろう。

この暴力に耐えることにも、意味はある。

「……昔のスイボクなら、疲れていたのう。今のスイボクは、お主たちが良く知るサンスイと変わらん。フウケイと違い、殆ど自己強化の仙術を使わずに戦っておる。消費も消耗も、普通に行える集気によって補えるレベルじゃ……というか、それを目指した結果でもあるのじゃろうな」

専門用語が少々混じっているが、言いたいことは大体わかった。

仙人は普通に過ごしているだけでもある程度仙気や体力が回復するようだが、フウケイの場合どういうわけか尋常ではない量の仙気をため込むことによって、攻撃や強化や蘇生を行えている。

スイボクの場合は別で、自然回復できる仙気の量で立ち回っている。

両者ともに、このまま永遠に戦い続けることもできるのだろう。

「それは、もうフウケイも悟っておるはずじゃ……それでも、諦めきれずに……」

「んん……こうなると、暗雲で国が亡ぶ方が先かもな……日照がなさすぎる」

「あり得るのう、スイボクは一度それで国を滅ぼしておるし……もしかしたらその辺りの事を気にしておらんかもしれん」

右京の懸念を、エッケザックスは大真面目に肯定していた。

ここで八種神宝以外の面々は、ようやく『二人の決着がつくより先に国が負ける』という可能性を認識するに至っていた。