軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不明

すべての神宝で身を固めた右京は、ステンドと共に城内を歩いていた。

その間もずっと、戦闘の音は止むことはなかった。その上、常に一つの方向からのみ音が聞こえてくる。

これが何を意味するかと言えば、一方向から力づくで誰かが突破しようとしてきているということだった。

「ご報告いたします、現在城内に侵入者が入ってきております! 現在、我らアルカナの精兵が排除を試みておりますが、未だに拘束することもできない状態です。どうか、お二人には安全な場所か、大事を取って避難を……」

ほとんど素人の集まりであるドミノの兵と違い、ステンドの護衛として同行してきたアルカナ王家直属粛清隊は、当然のように精鋭部隊だった。

その彼らが、未だに戦闘を続けているということは、ステンドの脳裏に山水との戦いを思い出させていた。

それは報告した者も同様の様だったが、その一方で強く言っていた。

「相手は、あの日の『雷切』ほどではありません、勝算は十分にあります!」

何か根拠でもあるのか、歩みを進めようとする二人を、ステンドの側近を務める騎士がそう言っていた。

ならば安全か、と思った彼を、右京は押しのけていた。

もちろん武装している騎士を、机仕事しかしていない右京が押しのけられたわけがない。

右京に体を押されたことで、騎士が道を譲ったのだろう。

正しく言えば、右京の迫力に押されて道を譲らされていたということだった。

「ここは俺の城だ。起こっていることは自分の目で確かめる」

その彼の後をステンドも着いていく。

彼が何をしようとしているのか、この城に何が入り込んだのかを見届けるために。

仕方なく、二人を止めようとした騎士はその後に続いていった。

そうしてしばらく進むと、粛清隊の放つ魔法の乱れる、中庭での戦闘に遭遇していた。

「止めろ、これ以上城内に入れるな!」

「連携しろ、倒せん相手ではない!」

「相手を休ませるな!」

五人ほどの粛清隊が、手に矛を持った大男を包囲しながら戦っていた。

炎を纏った剣が真夜中の城を灯しており、その炎が相手を照らしている。

「手練れが揃っているな……この己と渡り合うとは……」

他国の刺客でもなさそうであり、ドミノ帝国の兵というわけでもなさそうだった。

どちらかというと浮浪者の様な、とても粗末な服を着ている男だった。

防具は身に着けておらず、武器は手に持った槍だけだった。

その装備でアルカナの精鋭を相手に立ち回り、余裕を維持している。

それが侵入者の強さを明確に示していたが、逆に言って粛清隊の面々は敗北など欠片も意識していなかった。

勝てる、勝たねばならぬ。そう思っていた彼らは、更に打ち込もうとして……。

「そこまでだ! 全員手を止めろ!」

王者の気迫を持つ男の怒声によって、動きを止めていた。

ほぼ戦闘能力を持たない、この国の主は気迫を放ちながら彼らの元へ進んでいく。

ドミノの兵達も、アルカナの兵達も、侵入者を包囲していた面々はその圧力に動きを止めざるを得なかった。

「この城の主か」

「如何にもだ、ここは俺の国であり、ここは俺の城だ」

包囲していた粛清隊は、息を荒くしながらも警戒を解かずに、やや包囲を緩めていた。

如何にエリクサーを持つとはいえ、偉丈夫という他ない目の前の男に主を近づけることはためらわれたが、しかしもはや信じるほかなかった。

「こんな夜中に踏み込んできやがって……まさか、ただ挨拶しにきたとかほざくんじゃねえだろうな」

余りにもわかりやすく怒っていた。

余りにもわかりやすく不機嫌だった。

仮に、彼の部下がこの視線にさらされていれば、そのまま心臓が止まるのではないかという眼力だった。

しかし、相手も凡庸ではない。その眼光を受けても、ひるむ様子を見せなかった。

「……要件を言え」

「お前が持つ神宝、天槍ヴァジュラをよこせ」

その言葉を聞いて、誰もが驚いていた。それこそ、右京さえ驚き目を見開くほどに。

天に挑む者に、強大な権力や国家に挑む者に、天候を操作する力を与える天槍ヴァジュラ。

その性能を知る者たちは、誰もが緊張を隠せなかった。

「要件はそれだけだ。仮に差し出さねば、渡すまでこの城を荒らすのみ」

確かに、この城を態々襲って手に入れる価値がある物は、右京やステンドの命を除けば五つの神宝ぐらいだろう。

しかし、復讐の妖刀ダインスレイフでも、複製の実鏡ウンガイキョウでも、不死の聖杯エリクサーでも、無尽の恵蔵ダヌアでもなく、気象の天槍ヴァジュラというのは余りにも意外だった。

「分かった。これだけで良いんだな?」

『ちょ、ちょっと、我が主?!』

右京は迷わず手に持っていたヴァジュラの柄を差し出していた。

余りにも迷いがないことに慌てるヴァジュラだが、エッケザックスではない彼女にはそれを拒絶する手段など一切なかった。

「賢明だな」

「お前は馬鹿だがな」

周囲の誰もが、ポカンとするほどに受け渡しは行われていた。

国家規模で見れば、これほど有用な道具もないヴァジュラが、賊の手に渡されようとしている。

しかし、それを誰もが見ていることしかできなかった。

『ま、待て主! 我が主! ちょっと、これ、ちょっと?!』

強いて言えば、ヴァジュラが騒いでいたぐらいだろう。

『頑張れ、ヴァジュラ。我らが主なら必ずや奪い返すことだろう』

『がんばってねえ、ヴァジュラ。貴女なら耐えられるでしょう?』

『うむ、しばしの別れだぞヴァジュラ!』

「早く帰ってくるだよ、ヴァジュラ!」

そんな彼女を、他の神宝たちは送り出していた。

主が譲渡したならば、道具は従う他ないのである。

『お、憶えてろ~~~!』

「とまあ、そんなことがあってな」

その話を聞いた面々は、一重にヴァジュラが可愛そうだとしか思えなかった。

なんでこの男は、人間のように喋ったりする人間の姿に変われる道具を、そうホイホイ他人に渡せるのだろうか。

「どうにも粛清隊の連中は勝てると思ってたみたいだがな……俺の目には、勝ち目なんてなかった。勝ち目がない戦いでアルカナの精兵を死なせたら、ステンドにも国王にも申し訳が立たん」

戦闘面では素人でも、戦術面や戦略面では一国家を滅ぼしたベテランである。

一目見ただけで、覆せない何かを感じ取ったのだろう。

そして、それを全面的に信じて行動したのだ。

「仮に俺が逃げても、確実に追いかけてきたな。あの場ではアレが最善だった」

逃げても無駄で、時間を稼いでも援軍は期待できない。

だからこそ、一旦泳がせようとでも思ったのだろう。

「だから驚いたぞ、お前や山水、正蔵の力を借りようと思ってきたんだが……道中確認してたら、この国を目指してゆっくり前進してたんだからな」

他ならぬ右京が、ヴァジュラを奪った男を切り札でもなければ勝ち目がないと判断していた。

その切り札のいる国へ向かって来ているのだから、とても都合がいいが、ある意味不気味ではある。

なにせ、どう考えてもアルカナ王国の者ではない。服装や人種の問題ではなく、天候を操作して利益を得ることができるのは国家ぐらいで、他の組織では余りにも使い勝手が悪すぎる。

「はっきり言って、ダヌア以外は差し出すつもりがあった。しかし、あいつはヴァジュラ以外は眼中になかった。その辺りもよくわからんな。どう考えても、組織のもんじゃない」

「組織の者じゃない……個人で動いているってことですか?」

「ああ。さっきは国ごと亡ぼすとか一族郎党皆殺しとかそういうことを言った気もするが、顔を見た感じや行動を見るに自分以外の何かを信じているようには見えなかった。移動もやたらゆっくりだしな。誰かを待たせてるとかそんな感じじゃないぞ」

祭我の問い返しに、見たままを伝える右京。そうした人を見る目は、彼の過酷な革命の中で培ったものなのだろう。

「これは、我の経験によるものだが、てっきり我を所望しているのかと思った。あれは私怨で動いているぞ。復讐者の目だった」

「そうであったな、我が見た限りでは自棄になっている印象を受けたぞ。死んでもいい、という人間の目だったな」

ダインスレイフとエリクサーは、その長い人生と自分を使ってきた者たちとの比較でそう伝えていた。

余りにもざっくりしすぎているので、はっきりとはわからないが。

「ちなみに、ウンガイキョウもダヌアも、あいつには自分達を使いこなすことはできないとか言ってたな。使えるとしても道具に依存する気もないし、食料を他人にくれてやる気もないらしい。実際そんな感じの奴だったな」

「もしやとは思うが……そいつはヴァジュラを槍として使うつもりか?」

エッケザックスは、いぶかし気にそうつぶやいていた。

以前エッケザックスは、ヴァジュラを『棒』と言い切っていた。そんな『棒』を欲しがる奇特な相手がいるとは思えないようだったが。

「なあ、エッケザックス。ヴァジュラって武器としては強いのか?」

「そこそこには頑丈で、そこそこには切れ味も良い。しかし、柄が長いことを除けば我はおろかダインスレイフにも劣るであろうな」

武器としては自分が『最強』である。祭我にそう言い切るエッケザックスを、ダインスレイフは呆れながら見ていた。

「エッケザックスよ、そのいい方では何も伝わるまい。エッケザックスの主よ、ヴァジュラは武器としては少々固く、少々切れ味が良いだけだ。人間の作る業物より、僅かに上と思えばよい」

ダインスレイフの補足を聞いて、一同もようやく納得する。

なるほど、武器としては際立って強くはないと。

「お前の予知通り、周囲の天候を操作してデカい雲を作りながら、ゆっくりこっちに向かって来ている。あと数日で到着するが、トオンたちはともかくディスイヤの切り札は間に合いそうにないな」

粛清隊の騎士では、傷を負わせることがやっとだった。それほどの実力者を相手にすることこそ、自分の役割である。

強く闘志を燃やす祭我を見て、右京は獰猛に笑っていた。

「やる気が有って結構だ。だが無理はするなよ、まだ何もわかってないんだからな」

「……はい、でも頑張ります」

「ああ、期待しているぞ。それでエッケザックス、実際のところは?」

「相手が空を飛ばねば、まず勝てるじゃろうな。飛ばれたらまあ、うん」