作品タイトル不明
反響の行きつく先
「あなたの疑問になんでも答える北国大衆新聞」
公爵令嬢失踪! 誘拐? 出奔?
王太子(当時は王子)らによる前代未聞の冤罪事件。渦中の公爵令嬢の行方がわからなくなっている。公爵家は頑として認めないが、関係者によると公爵令嬢の姿が屋敷のどこにもないというのだ。これはもしかするともしかするのではと、社交界も神殿も巷も大騒動になっている。
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あの悲劇の卒業祝賀会以来、公爵令嬢は神殿にいた。公明正大と称えられる前大神官の庇護を求めたからだ。前大神官は神殿法と良心に従い、王太子の側近らによる冤罪を神聖証言で暴いて公爵令嬢の無実を証明した。その翌日には自ら王宮を訪れ、王太子と公爵令嬢の双方合意による婚約破棄を成立させている。その後、王太子は後日神殿に出向いて冤罪事件の神聖証言に応じると宣言した。
だが4日後の神殿で行われたのは前大神官の罷免投票だった。前大神官は罷免され、いずこかに去った。おまけに同日の神官長会議で、因縁の子爵令嬢が聖女となっている。
公爵令嬢が神殿にいる理由はなくなった。それどころか今の神殿は敵地だ。彼女は公爵家に戻っているはずだった。ところが何日経っても戻ってこない。神殿に問い合わせても令嬢はすでに去ったの一点張り。公爵家が隠れて必死で探すが見つからない。知らぬ存ぜぬの神殿も、騒動の震源地である王家も、正統派も改革派も某国も、報道機関も町のおばちゃんも犬のぽちも、いろんな勢力が表では静観しつつ裏で走り回って探しているのに見つからない。
公爵令嬢は世紀の冤罪事件の当事者である。生き証人である。
前大神官の罷免と同時に、なぜか神殿と王家の会談記録や神聖証言の公開記録が非公開になっているが、生き証人の口は塞げない。王太子や聖女にしてみれば目の上の瘤だ。
そんな些末事だけでなく、政治的にも公爵令嬢の身柄は重要だ。どこかの誰かと結婚していれば王位継承権に変動が起こりかねない血筋だからだ。
西の国も血眼になって探しているだろう。西の国公爵令息からの婚約申込は公爵家から正式に拒否されたが、公爵令息は本人の返答以外は納得できないと面会を求めているそうだ。冤罪事件で体調を崩したので会えないとされているが、いつまで誤魔化せるだろうか。
西の国以外にも彼女の血筋を手に入れたい勢力は多い。それだけならまだましで、亡き者にしたい勢力も……。
前大神官が令嬢を逃がしたか、二人が手に手を取って逃げだしたならいいが、もし失踪が二人の意志でなかったら?
本誌取材班も犬のぽちを随行して行方を探しているが、目撃情報はすべて空振りだった。せめてお二人の無事を祈るのみである。
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目撃情報募集中! 公爵令嬢と前大神官の行方を捜しています。見かけた方は本誌まで。
「世の不正を告発する正義の新聞 月刊キタグニ」
総力特集! 連載 噂の聖女の正体 王家の不正介入によって誕生? 聖女と王子の裏の顔
王子と聖女によるいじめ捏造、それをもとにした婚約破棄と私刑、外交交渉での大惨敗と王位継承問題。さらに発覚した聖女推薦への王家介入と神殿籍の改竄が政教分離を真っ向から蹴っ飛ばし、神殿と王家との対立は深まる一方だ。ことは王子と聖女による貴族家の乗っ取り疑惑であり、新たな王家対貴族家の争いも勃発した。火種が多すぎてキャンプファイヤー状態である。
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聖女と王子の疑惑を語るなら避けて通れないのが、聖女認定と大神官罷免投票への介入事件である。事件は脅された神官長の勇気ある告発により白日の元にさらされた。
いわく、王子の配下に患者が誘拐された。持病があって毎日服薬させないと命の危険もある患者だ。大神官様はすべてをご存じで、神官として命を守りなさいと命令してくださった。私の大神官罷免投票は脅迫による不正である。大神官罷免は不正により無効であると。
彼の告発を受け、脅しを受けた他の神官らも後に続いた。罷免に反対票を投じた神官長らが賄賂で懐柔された神官長らを芋づる式に逮捕。神聖証言を経て神殿幹部多数が破門される大惨事となった。
この神聖証言、神に十回偽証すると即破門という厳しいものである。しかし、そこは腐っても神官長、神殿幹部として神聖証言の仕組みはよく知っていたはず。偽証を避けることなど簡単そうに思えたのだが……。
「×年×月×日、大神官罷免投票において、私は投票権を委託された神官長として、神殿法に乗っ取り大神官が聖女認定の妨害という職位に相応しくない逸脱行為を行ったため、罷免に賛成した。これを事実と証言する」
ビカー
「ぎゃあ」
「もう一度、事実を正確に述べてください」
「×年×月×日、大神官罷免投票において、私は投票権を委託された神官長として、神殿法に乗っ取り大神官が相互不可侵の王家王子への神聖証言要請という職位に相応しくない逸脱行為を行ったため、罷免に賛成した。これを事実と証言する」
ビカー
「ぎゃああ」
「もう一度、事実を正確に述べてください」
件(くだん) の神官長は五回目で「神殿法に乗っ取らず罷免に賛成した」と証言し、やっと偽証判定から逃れた。だがしかし。
「続いて、聖女顕彰推薦選挙投票について証言してください」
絶対に破門してやるという強い意志を感じる。彼らの証言は偽証が十回目に到達するまで続いたのだった。
どうせ大神官罷免選挙不正で首なんだから、後の罪は素直に認めれば痛い思いをせずにすんだのに、と思ったあなたは甘い。
正直にすべてを話せば肥やした私腹もごっそり神殿に取り返されるし、貴族や王家からの賄賂だとか癒着だとかで貴族法でも裁かれる。老後のためにも着服金の隠し場所は譲れない戦いだった。
ちなみに破門を言い渡された後も神聖証言は続いた。偽証十回で終わるなんて言ったっけ? 着服は神殿法における刑事事件だったので、破門されても終わらなくていいのである。豆知識。
現在は破門された上に神殿公金横領罪で収監中である。神殿法って破門しても異教徒でも神殿関係の刑事犯はきっちり裁けるのだ。当然といえば当然か。破門されたら無罪放免なんてうまい話はない。
檻の中で使えない着服金の在り処を聞かれ続ける毎日はどうですか? 神聖証言は最後は昏睡で逃げられたけど檻からはねえ?
なお、今回の神聖証言は、冤罪事件関連と違ってきちんと公開中である。神殿の中央掲示板に見に行くと掲示期間は誰でも見られるし、期間終了後も申請すれば見せてもらえる。
冤罪事件関連も一応公開はされていたのだけどね。神殿の中央掲示板周辺が工事中(嘘)で立ち入り禁止となっていただけで。実にせこい妨害工作である。しかし物理的手段ほど確実なものはない。物理こそ最強。
閑話休題。大量の神官長ら幹部の破門や更迭を受けて招集された新神官長会議は、王子の破門を絶賛協議中で、これが通れば現役の王太子として初となる。
本誌としては、王太子破門の不名誉を防ぐために、早急に王族籍の剥奪をお勧めする。おっと「王子は国境を超えた大恋愛の末に生まれた愛の結晶」だったっけ? 唯一の王子だからで誤魔化せる段階ではないと愚考しますがね。
王妃の実家である東南の国からの擁護があっても、国内での王子への風当たりはもはや暴風雨と化している。親として為政者としてスパっと介錯する勇気も必要ではないか。国王の英断を期待する。
そうそう、心優しい読者諸氏にお知らせしておくと、人質となっていた病人は無事助けだされたそうだ。当該神官長が言いなりになっている間は薬を与えられて体調に著しい変調もなかったそうである。神官としてのなけなしの良心が発揮されたのか。他の人質やら 物質(ものじち) やらもどうにかこうにか無事らしい。だからこそ告発に至ったのだが。
ところで、大神官罷免選挙が無効となれば、前大神官が返り咲くのだろうか? 神殿法的にはそうなるのだが、現状難しいそうだ。
肝心の前大神官の行方がわからない。罷免を受けた当日、汚職神官長らが罪を捏造して収監しようとしたらもぬけの殻だったそうだ。側近たちも忙しくしていて誰も目撃しておらず、それ以来前大神官の姿を見たものは一人もいない。
ご無事ならいいが、冤罪が晴らされてなお神殿に戻らないのは、どこかの誰かに亡き者にされたのではという疑惑もぬぐえない。
さらに問題なのは、渦中の公爵令嬢が一緒に行方不明になっていることだ。令嬢は貴族法による血の正当性を宿す身、それこそ敵味方入り乱れての争奪戦状態だ。その身の安全があらゆる意味で危ぶまれる。
巷では、前大神官が命がけで令嬢を逃がしたとか、二人で駆け落ちしたとか、どこかで身を潜めるうちに恋に落ちて戻れなくなったとか、聖別され神のしもべとなったとか、おとぎ話か大衆小説のような噂で持ちきりである。
編集部は、二人が神の国に駆け落ちし子どもも出来て幸せに暮らしている説を押す。あんまりにもあんまりな事件だ、少しくらい夢があってもいいじゃないか。お二人の幸せを祈る!