軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話~デートの後意図せずプロポーズしました~

日が落ちる前、予定より若干早く凱旋した俺達を道行く人々が歓声で迎えた。

騎士団が仕留めたトロールの首と死体を持って凱旋したからだ。街のちょっと手前で俺がストレージから出して、みんなで引っ張ってきた。

重いもんな、ずっと引っ張るのは。

命を落とした冒険者に祈りを捧げる人も居る。

俺達は騎士団の詰め所前まで凱旋行進し、ワルツ隊長の解散の号令で晴れて自由の身となった。

とりあえずは冒険者ギルドに行って報告しなきゃならんな。

「マール、大丈夫か? 俺はこのままギルドに報告に行こうと思うが、ついて来れそうか?」

「大丈夫です、行きましょう!」

人々の歓迎に興奮覚めやらぬ、といった様子のマールを引き連れて俺は冒険者ギルドへと向かう。

他の冒険者は俺達と同じようにギルドに向かう者と、解散して街に繰り出す者とに別れたようだ。

イーサンは報告に行くらしい。

「パーッと騒ぐための金を貰ってから行こうと思ってな!」

なるほど。

「おう、よく戻ったな。お前らが行った後ゴブリンが街の近くまで出てきてな、何かあったんじゃないかと心配してたんだぜ?」

ウーツのおっさんが帰還した俺達を見てホッとした表情をする。

しかし、俺達は残念な報せも届けなければいけない。

「3人やられたのか…」

騎士団が引き取っていった死んだ冒険者の遺体は、冒険者ギルドが連携して葬るという話だった。

遺品を回収し、遺族が居れば届けるらしい。

遺体は街の共同墓地に葬られる。

冒険者カードがドックタグ代わりになっているらしく、ベテラン冒険者の一人がウーツのおっさんに死んだ三人の冒険者カードを渡していた。

「全員、冒険者カードをチェックさせてくれ」

おっさんの言葉に素直に従い、冒険者達は各々の冒険者カードを提出する。

ギルド職員が一つ一つをチェックし、討伐報酬をそれぞれ支払うのだ。

「おい、こいつは本当なのか?」

ウーツのおっさんが俺の冒険者カードを確認し、驚きの声を上げる。

そりゃそうか、トロールの撃破記録が三つも入ってるもんな。

「おやっさん、そいつは本当だぜ。俺はその時一番前に居たんだが、その坊主は魔法を使って騎士団と一緒に一匹仕留めた後に、更に三匹のトロールを魔法で燃やした」

「ああ、私も見てたよ。間違いない。その後は自分が燃やしたのを一撃で仕留めて、更に出てきた二匹も仕留めてたね」

「つか殴り殺してた、素手で」

「ウソだろ?」

「マジ。トロールにマウント取ってオラオラしてた」

「というかトロールの死体持って来てただろ? あれ出せよ」

討伐に参加してた冒険者達が口々に俺の戦果を証明する。

はっはっは、そんなに褒めるなよお前ら。

俺達はギルドの倉庫に案内され、ぞろぞろと移動する。

「驚いたなこりゃ、一財産になるぜ」

倉庫の床に並んだ三体分のトロールの死体を眺め、ウーツのおっさんは唸った。

冒険者が持ちこんだ魔物の死体は素材として市場に放出される。

市場にはもちろん買い取り価格よりも高値で流れるのだが、その儲けの一部は冒険者ギルドに還元される。

要は冒険者が魔物の死体を持ち込めば持ち込むほどギルドは潤うのだ。

「どれくらいになるんだ?」

「トロールは皮や骨が有用な武具の素材になるし、脂も錬金素材になるし、肉も高値で売れる。どれも頭が損傷してるのは残念だが、それでも一財産だぜ。精査してみないとわからんが、一体あたり金貨30枚くらいにはなるはずだ。討伐報酬も一匹辺り金貨5枚だから、単純計算で金貨105枚くらいになるんじゃないか」

「ちょっと想像できない稼ぎだなそりゃ」

金貨105枚ってことは単純に日本円換算すると1050万円相当の稼ぎということになる。

冒険者ボロ儲けってレベルじゃねぇぞ。

「冒険者に! かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」

杯を掲げ、ぶつけ合う。

討伐報酬を受け取った俺はその場で打ち上げを宣言し、討伐に参加した冒険者とその場にいた冒険者総勢20名ほどで酒場をひとつ借り切って打ち上げをしていた。

貸し切り飲み放題食い放題ということで金貨が5枚吹っ飛んだが、これくらいのお大尽は問題ないだろう。

稼ぎすぎて妬まれるよりはずっとマシだ。

色目を使ってくる女冒険者が何人か居たが、マールさんが俺に(物理的に)ピッタリとくっついてガードしてくださった。

ああ、ぷるんぷるんのおっぱいよさようなら。

その晩は大いに食って飲んで騒ぎ、宴が終わると宿に戻って泥のように眠った。

明くる日の朝。

起きてからマールに悪戯をしていたら火がついてしまった。

行軍と戦闘のせいで溜まってたらしい、朝からハッスルである。

マールはうん、ちょっと体力差が出てしまってアレなことになったけど。

今は俺の腕枕で寝て(?)いる。

しかしアレだな、俺もチョロいよな。

何だかんだいってもうすっかりマールの事を受け入れちまってるし。

そらもう自分好みの女の子と毎晩同衾して擦り寄られたりしたら、アッー!と言う間に篭絡されるのも已む無しだとは思う。

うん、俺は悪くない。男の子だしね?

とりあえず生活魔法でベッドとお互いの身体を綺麗にしてのんびりする。

メニューを開いてチェックしてみるとレベルが12になっていた。スキルポイントも42溜まってるな。

確認しているうちにマールが復活してきた。

「もー…朝から激しすぎますよぅ」

とか言いながら擦り寄ってキスしてくる。

おいやめろ馬鹿、またパオーンしちゃうだろうが。

どうなっても知らんぞーッ!

「むふ、タイシさんはもう私にメロメロですね」

「うるさい馬鹿、いじめるぞ」

「あっ…んっ、ちょ、タイシさん」

再びいちゃつき始めた瞬間、凄い音と共に扉が開いた。

開いた扉の方を見ると、青筋を浮かべたピニャが立っている。

「お取り込み中すみませんがねぇ、お客さん。そろそろ掃除したいんで部屋から出てくれませんかねぇ…?」

サーセン。

「うふふ、避妊してなかったらここ数日で絶対孕まされちゃってますねー」

生々しいことを言いながら幸せそうに笑っていらっしゃるマールさん。

何でも女性冒険者は希望があればギルドのサービスで予め避妊の魔法をかけてもらえるらしい。

色々なトラブルに巻き込まれやすく、また魔物の中には人間の女性を母体とする卑猥なものもいるらしいので、必要な処置であるとか。

しかし卑猥な魔物か…夢が広がるな。

他には、冒険者を続けたい女性が妊娠して冒険者を辞めざるを得ないという事態を防ぐためでもある。

男女混合四人のパーティーのうち一人の女性が妊娠したため、パーティーを解散しなければならないという事が避妊魔法の普及以前はよくあったのだとか。

望まれた妊娠や愛し合った上での妊娠であったとしても、それでパーティーが解散したら他の二人ないし三人は路頭に迷ってしまうのである。

新しいパーティーを探すことができれば良いのだが、これが意外と難しいらしい。

月のモノも症状が軽くなるそうで、今は一般人にもかなり普及しているとのことだ。

こちらとしても色々と遠慮なしにできるので助かる。色々と。

「さて、今日はどうすっかね。トロールの売却益で懐も暖まるし、デートでもするか?」

「えっ?」

マールがぽかんとした顔でこちらの顔を見上げてくる。

なんですかその反応は。

もしかして俺、訓練か仕事かしかない人間と思われてる?

「なんだよ、嫌か?」

「いえっ! いえいえいえ! 行きましょう!」

興奮した様子でマールがぐいぐいと俺の腕を引っ張る。

おお、目がキラキラしておる。可愛いのう。

ちなみにトロールの死体は一体辺り金貨35枚で売れていた。

ゴブリンの討伐報酬も含め、今回は大儲けである。

「それで、なんで最初に来るのが武器屋なんですか…?」

マールがジト目でこちらを見てくる。

「や、昨日の戦闘で俺の剣砕け散ったじゃん。マールは腰に剣を下げてるのに、男の俺が腰に剣を下げてないとカッコつかないだろ?」

バトルスタッフ担いで歩くのはめんどいしね。

自分の腰を見て、それから俺の腰を見て、マールは小さく頷いた。

「確かに、女性の私が剣を下げてるのにタイシさんが剣を下げてなかったら舐められますね」

だろ? と言って俺は店の奥のカウンターに進む。

今日はルイスが居るようだが、既に接客中のようだ。

俺はカウンターで煙管を燻らせている猫の店主に声をかけた。

「イラッシャーイ、今日はどうしたネ?」

「おう、剣くれよ。魔力通してもトロールの頭カチ割ろうとしても砕け散らないヤツ」

俺の注文に猫の店主はピクリと片眉を上げた。

あ、これはバカにしてるな。空気でわかる。

「ちょっと前まで魔力撃のことも知らなかったぺーぺーには早いネ。修行して出直し――」

俺は店主が言葉を言い切る前に指先に魔力を込め、店主の顔へと突き出した。

店主は即座に反応して煙管に魔力を込め、俺の指先を迎撃する。

パンッ。

弾けるような音がして店主の煙管が軽く弾かれた。

店主の細い猫の目が大きく開く。

「…驚いたネ」

店主としては俺の指先を叩き返すつもりだったんだろう。

逆に煙管を弾かれて驚いたようだ。

今ので煙管の中身が完全に弾けて消滅してしまったためか、店主は煙草を吸うのを諦めて懐にしまった。

「でも高いヨ? 予算はいくらくらいネ?」

「んー、そうだな。とりあえず金貨10枚くらいだとどんな感じだ?」

「ンー、そうネ」

店主がカウンターから出て、ぽてぽてと歩き始める。

なんだこれ、後姿が可愛いんだけど。

そういや猫は居るけど犬は居ないんかね?

俺どっちかと言えば犬派だから是非愛でたいんだが。

マールを見てみるとなんだかとても熱い視線で猫の店主を見つめていた。こっちの世界の人から見ても可愛いのか。

「コレとかコレとかこの辺ネ。もう少し高いのもあるけど、金貨10枚じゃ足りないネ」

店主が持ち出してきたのは今まで使っていたショートソードと同じような刃渡りの剣だった。

三本あるので、それぞれ鞘から剣を抜いて重さや握り心地を確かめる。

「んー、サブウェポンには良いがちょっと軽すぎるな。マールには丁度いいんじゃないか?」

そう言ってマールにも剣を持たせてみる。

そのうちの一本が気に入ったらしく、熱心に見ている。

マールが選んだのは湾曲した刀身に風を表しているような文様の彫られた、緑がかった金属の剣だ。

柄頭にも同じような文様が精緻に刻まれている。

「それが気に入ったのか?」

「へ? あ、綺麗だなって思って。見た目よりも軽いですし」

そう言ってマールは剣を鞘に収める。

ふむ、気に入ったみたいだな。

「店主、もう少し刃渡りがあるのは?」

「そうネー、お兄さんならコレが良いと思うネ」

そう言って店主が持ってきたのはしっかりとした造りの長剣だった。

受け取って鞘から抜いてみると、曇りの無い純白の刀身が露わになる。

持ってみた感じの重さも申し分ないし、これだけの刃渡りがあればトロールの首くらいは飛ばせるだろう。

何より無駄な装飾の無い無骨な感じが良い。

「良いな、気に入った。これとこれ、2本買うから値引きしてくれ」

俺はそう言って店主が薦めてきた長剣と、先ほどマールが見入っていたショートソードを手に取る。

マールは新しいクロスボウの品定めをするのに忙しいらしく、こっちにはまるで気づいていない。

「なら二本で金貨25枚のところを24枚にしてあげるネ。でもウチはツケは効かないヨ?」

「ふはははは、舐めるな。こんなもん即金だ即金」

そう言って俺は店主にきっかり24枚金貨をくれてやった。

店主の目がまた大きく見開く。

「驚いたネ…こんな大金どうしたネ?」

「トロールを三匹ほどぶっ殺してその死体を売り払った。近々トロール素材とかその防具が市場に出てくるんじゃね?」

「アイエエェェ、お兄さんにはビックリネ」

俺は長剣を腰の剣帯に差し、具合を確かめる。

ショートソードの方はあとでタイミングを見てマールにプレゼントしよう。

「ふぅん、こいつはミスリル製なんだな」

「そうヨ、どっちの剣もミスリル製ネ。ミスリルは硬く、折れず、曲がらず、朽ちず、刃こぼれもしないという強い金属ヨ。オマケに魔力との親和性も高いから、魔力を通してもそう簡単に砕けるようなことは無いネ」

長剣を鑑定眼で見てみるとミスリルソードと表示された。

特別な魔力付与は無いようだが、武器としての能力は高いようだ。

「もう一本の剣は風の魔力を込めてある逸品ネ。より身軽に動けるように速度強化と、武器の軽量化の魔力が込められてるネ」

鑑定眼で見てみると、ショートソードの方はミスリルショートソードと表示された。

猫の店主の言うとおり風属性の付与と速度強化、軽量化の魔法が付与されているようだ。

「サンキュ、ルイスによろしな」

「毎度アリネー」

ひらひらと肉球を振る店主と別れ、マールと連れ立って武器屋を出る。

ルイスはまだ先ほどの客に捕まっているようだ。なんか機嫌悪そうだな。

今はマールとのデート中だしな、敢えて関わるような真似はやめておこう。

それから先は至って普通のデートとなった。

ブラブラと歩いては買い食いしたり、中央広場の大道芸人を見たり、服やアクセサリーを見て回ってみたり。

「そういやマールって荷物少なかったよな。服とかどうしてるんだ?」

女の子ならいろんな服が欲しいだろうに。

ましてやこいつは正真正銘のお姫様だしな。

「あまり多いと荷物になっちゃいますから…本当は私ももう少し服が欲しいんですけど」

そう言って苦笑いする。

確かに、俺みたいにストレージを持ってなかったらそうそう服なんて何着も持ってられないよな。

家を借りるとか拠点を構えて活動するならともかく。

「俺のストレージに入れてやるから大丈夫だぞ」

「えっと…」

まだ遠慮をしているようだな。

ここはもう一押しか。

「それに可愛い服着たマールも見たいしな」

結論から言おう、押し過ぎた。

あれやこれやと古着屋を回りに回り、気がついたらもう夕方である。

俺としては露出度高めの踊り子風衣装を買わせることが出来たので、満足だ。

満足度よりも疲労度の方が上だけど。

ついでと言ってはなんだが俺の服もそれなりに買った。

今は中央広場の隅に設置されているベンチで休憩中だ。

「あー、楽しかった! こんなにお買い物したの久しぶりです!」

マールがソファーに身体を預け、グッと伸びをしながら満面の笑顔を浮かべる。

笑顔で居ることが多いマールだが、こんなに晴れやかな笑顔は初めて見るかもしれない。

もうじき夕方の鐘が鳴る。

その鐘が鳴ったら殆どの店は終了。人々は家に帰って家族団欒するなり、酒場に繰り出すなりするのだ。

マールにはトロール退治の報酬として金貨10枚を渡していた。

この前のトロール戦では事前に弱点を教えてもらったし、矢で援護もしてくれたしな。

ちょっとあの援護は危なかったけど。

その他に生活資金として金貨20枚を供出した。

ちなみに今回の服に関してはこの生活資金からお金を払っている。

衣食住に関しては全部ここから出すという取り決めにしたのだ。

「だな、俺も色々勉強になった」

この世界には既製品の服と言えば古着屋しかない、というのが衝撃だった。

しかも同じものが一つとしてない。

考えてみれば当たり前なんだが、全ての服が手作りだからだ。

大量生産の仕組みが無いので一つ一つが手作り。

自分で作らない場合は当然仕立ててもらうことになるので、新品の服というのはべらぼうに高くなるらしい。

なので庶民は自分で服を作る。

着なくなったら売る。

それを他の人が買って使う。

着なくなったら売る。

と言うことで古着を専門に扱う商人ってのが結構いるのだ。

基本的に地味で長く着られるような服が多いのだが、中には可愛いのとか際どいのとかもある。

「あの、タイシさん。あの服、本当に着るんですか?」

「折角買ったんだから、着て貰わないとな」

きっと今の俺はニヤニヤしていることだろう。

仕方ない、どう見てもそっち系の職業の人が着るのであろう際どい衣装を購入させたのだ。

マールは可愛い系なんだが、そういうエロ系の衣装を着せた時どういう化学反応が起こるのか楽しみである。

「そうそう、もう一つお前にプレゼントがあるんだ」

そう言って俺はストレージから武器屋で手に入れたミスリルショートソードを取り出し、隣に座るマールへと渡す。

受け取ったマールは口をあけてポカーンとしていた。

おう、喜べよ。

「ちょっ!? えっ!? 本気ですか!?」

そう言って俺は腕組みをする。

返却は受け付けないポーズである。

「色々理由はあるが、あんまりグダグダ説明するつもりもない。何も言わずに貰っとけ。わかったな?」

気に入ったみたいだったから買ってやりたかった。

それが一番の理由だけどな。

「…は、はい」

マールは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

なんだ? なんだか様子がおかしくないか。

周りの人もなんかこっち見て微笑ましい視線を送ってきている。

解せぬ。

そのまま剣を胸に抱いて俯いているマールをなんとか引っ張って灼熱の金床亭へと戻ってきた。

目ざとく俺達を見つけたピニャが近寄ってくる。

「おかえり、どうしたの…って、ほほう」

マールがミスリルショートソードを抱きしめるように持っているのを見て、ピニャはニヤニヤとし始めた。

なんだろうか、何か嫌な予感がする。

「へっへっへ、何だかんだいってお兄さんも隅に置けないなぁ。よりによってミスリルの短剣を贈るなんてね。良かったじゃない、マール」

ピニャが外見に見合わないオヤジ臭い笑みを浮かべて俺を肘で突付いてくる。

見た目はどう見てもローティーンの少女なんだが、この少女驚いたことに俺よりもずっと年上で、ここの女将なのである。

いや、俺はてっきり亭主の娘だと思ってたんだが、実は妻だった。

先日知った衝撃の事実である。ドワーフぱねぇ。

しかし解せぬ。

なんなのだろう、この反応は。

「なぁ、ミスリルの短剣を贈るのって何か特別な意味があるのか?」

『えっ』

「えっ」

何故か場の空気が固まる。

「ええっと? じゃあタイシが贈ったのってどういう…?」

「? なんかマールが気に入ったようだったし、身を守るのにも良いだろうからと思ったんだが」

俺の言葉にピニャは引き攣った笑みを浮かべ、マールは剣を胸に抱きながら今にも泣き出しそうな顔をした。

「ああ、よくわからんが泣くな泣くな。ピニャ、済まんが事情を説明してくれ」

とりあえず泣きそうなマールを抱きしめて頭を撫でつつ、ピニャに説明を求める。

この反応は恐らく、俺の知らない特別な慣習でもあるのだろう。

マールはと言うと俺の肩に顔を押し付けてグズグズと泣き始めてしまった。

ううむ、異世界文化は難しい。

「あー、んー、本当に知らない? 常識だと思うんだけど」

「すまんが本当にわからん。俺は田舎で師匠とずっと修行をして過ごして来たんでな、正直一般常識というものが皆無だ」

俺の言葉にピニャは自分の額をぺしっと叩いた。

そして呆れたような声で――

「普通、男が女にミスリル製の短剣を贈るってのは『俺のものになれ、貞操はこれで護れ』って意味だよ?」

「えっと、それって所謂求婚? プロポーズ?」

「それ以外に何があるのさ?」

常識だろ? と言うピニャに俺は天井を仰ぐことしか出来なかった。

知らんかったんや、わいは無実や。

泣き腫らした顔のマールがベッドに座り、俺は向かい合うように椅子に腰掛けている。

「…晩飯の仕込みとかあるだろ、仕事に戻れよ」

「女の子を泣かすようなのと二人にはしておけないよ」

何故か俺達の傍に仁王立ちしているピニャがそう言って睨んでくる。

別に泣かそうと思って泣かしたわけじゃないんだけどなぁ。

「あー、マール。俺の話を聞いてくれるか?」

ミスリルの短剣を膝の上に置いたマールが俯いたままコクンと頷いた。

どうやら話は聞いてくれるらしい。

「正直に言おう、俺は慣習の事を知らずにお前にその剣を贈った」

俺の言葉にマールがまたスンスンと鼻を鳴らし始める。

もうやめて、俺の心のHPはゼロよ。

「だがそのなんだ、あー…」

こんな時、なんて言ったら良いかわからないの。

落ち着け俺、こういう時は素直にストレートにいけばいいんだ。

俺はマールの膝の上からミスリルの短剣をひょいと手に取った。

俺の行動にマールはバッと顔を上げて絶望に染まった瞳を向けてきた。

チラリと横を見るとピニャは凄い顔で絶句している。

「…改めて受け取ってください」

俺は両手でミスリルの短剣を捧げ持ち、マールに差し出した。

マールは一瞬何が起こっているのかわからずポカンとしていたが、

「…はい!」

泣き腫らした顔に満面の笑みを浮かべて受け取ってくれた。

ピニャはあーはいはいご馳走様とか言いながら部屋を出て行った。

だから最初から出て行けと言ったのに。

マールの隣に座り直し、ストレージからハンカチを取り出してマールの顔を拭いてやる。

マールはくすぐったそうな顔をしながらも素直に拭かれてくれた。そして抱きついて押し倒してくる。

「嬉しいです」

「そうか」

頭を撫でてやるとキスの雨を降らせてきた。

今日は長い夜になりそうだ。