軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十一話〜高速土下座をしました〜

「また随分とボロボロになって帰ってきたな」

俺の姿を見るなりデルフィーダさんがそう言って編み物の手を止め、眉を顰めた。

「大活躍だったのよ」

エルミナさんはデルフィーダさんにそう言って弓と矢筒を出入り口近くに立てかけ、さっさと自分の部屋の方に歩いていってしまった。うーん、怒ってるのかな?

首を傾げているとエルミナさんが服を持って戻ってくる。

「大事にしなさいよ?」

「すみません、折角貸して貰った服を……」

「違うわよ。いや、違わないけど服よりも貴方自身のことよ。貴方、メルキナの旦那なんでしょう? それが本当ならあんな無謀なことしちゃダメじゃない。貴方が死んだらどうするの? ただでさえあなた達は私達を置いていっちゃうんだから、せめて天寿は全うしないとダメよ」

エルミナさんは少し怒っているようだった。確かに少々迂闊であったというか、考えなしであったかもしれない。多分大丈夫だろうという感覚はほとんど確信に近かったが、初見の魔物なのだから万一ということも有り得るわけだし。

「軽率でした」

「そうね、反省なさい」

俺が頭を下げるとそれで満足したのかエルミナさんは微笑みを浮かべてくれた。うむ、こうしてみるとやはり母娘だな。笑った顔はメルキナにそっくりだ。というかマジでお母さんに見えん。お姉さんで十分通るな。

「あー、それじゃ着替えてきます」

「はい、行ってらっしゃい」

なんだかエルミナさんを見ているとメルキナを思い出して切なくなってきたので貸し与えられた寝室に戻り、服を着替えることにする。

しかし焼け焦げてボロボロだな。でもある程度原型が残っているのにも驚きだ。魔力の炎に炙られても燃え尽きないとか特殊な布なのかね?

『防御する時に身体に魔力を通したでしょ? 多分服にもある程度魔力が通ってそれで焼けずに済んだんだと思うよ』

魔力を通さなかったらZENRAだったかー、危ねぇ。

新しく渡された服をベッドの上に広げ、アレス君から貰った剣帯もトレジャーボックスから取り出す。

うーん、やっぱり不思議だ。何故エルミナさんの寝室に男物の服があるんだろ……うん? ああ、そういう。あれ? それってヤバくね?

『そうだね。思い出の品を迂闊に燃やしてボロボロにするなんて君は鬼畜だなぁ』

あああああああああああああ!? これもしかしなくても服エルミナさんの旦那さんの服じゃねぇの!? うわああああああああああやっちまったうわあああああああああ! 謝るしかないけど謝って許されることじゃねぇえええええ! 許してくれるだろうけど罪悪感が! うわああああああああ!

下着姿で悶えていると唐突に寝室のドアが開け放たれた。何事かと思って振り返ると、そこにはなんとも言えない表情のエルミナさんが。

「タイシくんなにやって……って」

「すいませんでしたぁ!」

光の速さで土下座した。いや、光の速さどころか音速も超えてないだろうけどそれくらいの勢いで土下座した。こんなに見事な土下座はマールにもしたことがない気がする。

「えぇ……? どうしたの突然。というか服着てよ」

「いやほんとすみませんこれ旦那さんの服ですよね? 大事な思い出の品を」

「何を騒いで……エルミナ、タイシ君、そういう特殊なのは私が外に出ている時にでもやってくれないか?」

騒ぎを聞きつけたデルフィーダさんまで現れてもうしっちゃかめっちゃかである。しかもかなり斜め上方向の勘違いをしてらっしゃる。そういうのじゃねぇから!

「違うわよ! いいから、服を、着なさい!」

「イエスマム!」

最初に貸してもらった服よりも幾分厚手で丈夫そうな服をささっと着込む。厚手なのに通気性が良いのか着心地の良い服だ。剣帯もしっかりと装着する。いや、今は良いか? まぁいいや。着けとこう。

着替え終わって居間に行くと、頭にたんこぶを作ったデルフィーダさんとプリプリと怒っているエルミナさんがいた。

「第一タイシくんはあの子の旦那よ? 私がどうこうするわけ無いでしょ」

「そうなのか? まぁお前がそう言うのならそうなのだろうな」

「含みがある言い方ね……」

「私も一応お前の親なのでね。久々にお前が楽しそうで何よりだと思っているよ」

頭にたんこぶを作っても淡々としているデルフィーダさんである。俺どうにかされちゃうの? ちょっと怖いような期待しちゃうような不思議な感覚だな。

『君、業が深すぎない?』

なんでやエルミナさん美人やろ。

『ダブルスタンダード乙』

貞操は守ろうと思うが、こういう類の男のロマンを考えることまでやめるつもりはない。美人で若いお義母さんとかロマンじゃん? ファンタジーじゃん? エルフだからこそ成せ……いや、人間でもいたわ。イルさんとかあれおかしいよな。

『あー、あの娘はちょっと特殊だからねぇ』

駄神がイルさんについて何か知っているような感じだったが、対価を求められたら面倒なのでスルーしておく。今はそんなに重要な案件でもなさそうだし。

『もっと頼っていいのよ?』

お断る。

何やら喧々諤々とやりあっているエルミナさんとデルフィーダさんを横目にキッチンに立ち、竈に火を入れる。朝のアレみたいなのはごめんだからな! アレみたいなのが出てくるくらいなら俺が作るよ!

「デルフィーダさん、ベヘモスの肝とか肉ってしっかり火を通したほうが良いんですか」

「ああ、そうした方が良い。臭みがあるから臭み消しを忘れずにな」

「ちょっとタイシくん、料理なら私が」

「「いや、結構です」」

まずはキッチンに備えられている調味料を吟味する。塩、砂糖、胡椒のようなスパイス、カレー粉のような混合スパイス、ごまっぽい匂いのする油、ニンニクめいた匂いのする油、壺の中に入っているドロリとしたソースめいた何か――味見をしてみるとウスターソースみたいな味だ。醤油や味噌は残念ながらなかった。

野菜は青い色をしたタマネギのような何か、キャベツのようなもの、どう見てもニンジン、紫色のダイコンめいた根菜、ニラのような葉っぱの束、色とりどりのキノコなどが見つかった。

どれも使ったことのない野菜だ。困った。とりあえずニラのような葉っぱを少しちぎって口の中に入れる。うん、ニラだな。多分ニラ。

とりあえずレバニラ炒めにしよう。

あとはキャベツのようなものと薄切りにしたベヘモス肉とキノコと塩でスープをでっちあげるか。このキノコ、食材だよな? まさか毒キノコをキッチンに置いてあることはあるまい。無いよね?

「このキノコ、食用ですよね?」

「勿論だ」

安心した。

なかなかデカいしいたけのようなキノコをスライスしておく。軸もスライスして一緒に入れちゃおう。キノコは最後にあまりグラグラと煮立っていない状態のスープに投入することにする。

スープを作っている間に大きなレバーの塊を一口大にスライスし、塩水に浸して臭み取りをしておく。

黒パンの塊があったのでそれも適度な数をスライスしておく。主食は大事。

そして臭み抜きをしたレバーをごまっぽい油で炒めて軽く塩を振る。そこそこに火が通ったらザク切りしたニラを投入して炒める。ここでまた軽く塩胡椒。そして仕上げに謎ソースをほんの少し垂らして絡めれば完成。

スープは塩胡椒で味を整えて煮ただけだ。アクはちゃんと取ったぞ。

エルミナさんに食器を出してもらい、三人で食卓に着く。

「意外とまともね」

「お前が言うのは失礼だろう」

「私だって本気出せばこれくらいやれるわよ」

雑な男料理なんですが本気が必要ですか、そうですか。やはりエルミナさんをキッチンに立たせてはいけない。

レバニラ炒めの味はまぁ無難だった。本当は醤油が良かったのだが、ウスターソースっぽいやつでも十分美味しい。レバニラ炒めにはご飯が欲しいところだが、まぁ黒パンに乗せてもいける。スープはキノコかベヘモスの肉から良い出汁が出たのかなかなかに良い出来だ。

「じゃあ夜は私が」

「いや、私が作ろう」

「そう?」

デルフィーダさんによって晩餐の危機は救われた。塩振って焼くだけのエルミナさんにあれだけの調味料は必要ないだろうから、あれらの調味料はきっとデルフィーダさんのものに違いない。ならきっと大丈夫だ。

「それじゃあ色々と聞かせて貰おうかしら。昨日は本当に軽く聞いただけだし」

「ああ、メルキナの話ですか。俺も出会う前の話は寝物語に聞いただけなのでどこまで正確な内容なのかはわかりませんけど、それで良いなら」

「それで良いわ。飲み物を用意しましょうか」

そう言ってエルミナさんがお茶を用意し、そのままリビングで俺が聞いたこの森を出てからのメルキナの話をすることになった。昨日はメルキナが俺の嫁に鳴った経緯を本当にサクっと話しただけだったからな。