軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十四話~未来に向けて奔走してみました~

約一週間の間、俺はイルさんにこれでもかと使い倒された。

雨にも負けず、風にも負けず、オーク共の黒鋼の矢の雨や魔物の魔法の弾幕にも負けぬ。

東で魔物由来の伝染病が発生すれば、大量の救援物資を抱えて現地で魔物の殲滅と傷病者の治療を行う。そして現地の爺さん婆さんに拝まれたり、孫娘を差し出される。

西で魔物の群れが街道を寸断、破壊したという報告が上がれば現地に飛んでいって魔物の殲滅と街道の修繕を行う。そして現地の領主や豪商に歓待され、自分の娘を嫁にどうかと差し出される。

南で王国軍が敗走したという急報があれば現地に飛んでいって魔物の殲滅と負傷者の治療を行う。そして夫を失った未亡人や命を助けた女性騎士や女性兵士に迫られる。

北でゲッペルス王国に近しい貴族が謀反を企てているという情報が入れば、現地に飛んでいって魔物の殲滅を兼ねた示威行為を行う。ついでに首謀者のクズ貴族が何の痕跡も残さず行方不明になる。そしてクズ貴族に慰み者にされていたエルフやドワーフ、ラミアなどの違法奴隷の女性に惚れられる。

そんな感じでこの一週間を過ごした。

「働きたくないござる! 絶対に働きたくないでござる! もう無実の罪でマール達に搾り取られるのは嫌でござる!」

「ワンモアセッ、ファイトよータイシ君。帰ってきたらマールちゃんをフ◯ックしていいわー」

「ファ◯クされるのは俺なんですがねぇ!?」

そうしてさらに一週間。

というかワンモアセッ、とか言って本当にもう一週間こき使われたよ! 嫁の実家がブラック過ぎる……田舎に引きこもりたい。

「というわけなんだよ。酷くね?」

「外の世界はおっかねぇなぁ。でもまぁ、因果応報って言葉もあるし諦めろよ」

「俺が一体何をしたというんだ……」

「綺麗な嫁さんが三人も居てその上複数の女に言い寄られてるんだろ? 世の中の男どもから妬みとか嫉みが集まってるんだろ」

木片をナイフで削りながらソーンが気のない返事を返してくる。

暖かな日差しが差し込む昼下がり。超絶ブラックな二週間の苦行から解放された俺は獣人村を訪れてソーンを相手に愚痴っていた。

生活に余裕ができたからか、周りには俺たちと同じようにお茶を飲みながら談笑している獣人達の姿がある。テーブルも椅子も茶を飲むカップも全て木製で、辺りに漂う木そのものの香りが心をリラックスさせてくれる。

まぁ、テーブルと椅子はほぼ丸太なので素朴というよりは質素と言った方がしっくりくるくらいだが。

「で、今日はどうしたんだよ。まさか姑のいびりの愚痴を聞かせに来ただけか?」

「それもある。後はシータンとかシェリーを愛でたり、結界のチェックをしたり、物資の在庫を見たり、村の状況を調べたりだな」

「相変わらず忙しないやつだなぁ……もっとのんびりしろよ、早死にするぞ」

ソーンはそう言って苦笑いを浮かべながらテーブルの上から木屑を払った。手に持っていた木片はいつの間にか花や草を彫り込んだ手のひらサイズの板になっていた。微妙に湾曲しているが、なんだろうか。

「上手いもんだな、何に使うんだ?」

「あん? ああ、趣味の彫り物だ。シェリーにせがまれてな、髪留めが欲しいんだとよ」

「ふーん、ちょっと見せてくれよ」

ソーンから彫り物を受け取り、いろいろな角度から観察する。鑑定眼で見ると『未完成の木彫りの髪留め(良質)』と表示された。完成したら普通に売れるレベルだな。

「完成させたら王都でも普通に売れるレベルの出来だと思う、すごいと思うぞ」

「そうか?」

そう言われて悪い気はしないのか、ソーンがニヤニヤする。ソーンは二足歩行する狼、つまり人狼みたいな見た目なのでニヤニヤすると鋭い牙やら何やらが見えて威圧感がある。本人は気づいてないだろうが、子供が見たら泣くな。

ソーンを伴って備蓄倉庫に移動すると熊と馬がいた。

見覚えのあるごっつい金棒と体躯、あれはデボラだな。見た目の割に乙女チックなところがある可愛いやつだ。いや、いい歳の女らしいけど。

馬の方は確かヤマトだったか。できる男の雰囲気を持つ馬男である。正直あまり深く接していないのでよくわからん。

「よう、調子はどうだ?」

「あら、久しぶり。良い所に来てくれたわ」

「おお、タイシ殿」

ヤマトの手にはいつか見た帳面のようなものがあった。確か備蓄している物資を記録しているものだったはずだ。

「んーと、そろそろ一ヶ月か? 物資が足りなくなって来たか」

「今日明日どうにかなるわけではありませんが、心許なくなってきています」

「そっか、ならサクッと用意してくるかな。王都の商業ギルドに手配はさせてあるんだよ」

「そうしていただけると。それとこちらにお持ちいただきたいものが」

ヤマトはそう言うと俺を備蓄倉庫の中に案内した。

備蓄倉庫を埋め尽くす勢いであった物資はかなり目減りしていたが、代わりに村で作ったものと思しき干し肉や木の実などが増えている。他には乾燥させた植物や陶器で作られた小型の甕のようなものが並んでいた。魔物から剥ぎ取った素材のようなものもある。

「これは森で取れた薬草を乾燥させたもので、こちらの甕にはビッグホーネットの蜜が入っています。他には魔物から剥ぎ取った皮革や牙、爪や骨などの素材です」

「くれるなら貰うが、別に俺は対価を求めてないぞ?」

「それは承知しています。しかし、一方的に寄りかかり、依存するような関係は不健全です。ソーンやデボラから貴方の思惑は聞いています。貴方は私達に安全と物資を提供し、我々はその対価にこういった品を納める。そうしてこそ我々の関係は健全で、かつ対等なものになるのではないでしょうか」

ヤマトはそう言ってブルルンと鼻息を荒くした。

確かに、全部が全部俺におんぶにだっこというのは不健全な関係かもしれん。今は大氾濫の影響で村そのものの生産性が落ちているから俺が支えなければ自立できなくなっているだけで、本来は自給自足が成り立っている村らしいしな。

しっかり予算を管理させて、俺と共同で村を運営して行くって形にした方が良さそうだな。

「わかった。俺に納める物資の目録はもちろん作ってあるよな?」

「こちらです」

ヤマトがそう言って俺に納める物資の目録を差し出してくる。フォーマットは前回俺が物資を持って来た時に渡した商業ギルドのものに倣ったらしい。なんてデキる馬なんだ。

「じゃあ商業ギルドで品物を引き取って貰って、その明細も貰ってくるとしよう。管理はお前に任せるが、良いか?」

俺の問いにヤマトは頷いた。やる気は十分のようだ。後々領地の運営を本格的に始めたらマールと相談して色々と仕事を任せても良いかもしれない。

「村の方は特に変わったことはないか?」

「平和なものよ。畑や家の修繕もひと段落して少し余裕ができてからは活気が出て来たわ。貴方の張ってくれた結界のおかげで魔物に怯えることも無くなったしね。狩人達も行動範囲を少しずつ広げて狩猟で得られる獲物や採取できる植物や木の実も増えて来たわ」

「なるほど、良い傾向だな。さっき見せて貰ったんだが、ソーンの彫刻はなかなか良い腕をしてるな。きっと街で売れると思う。余裕が出てきたならああいう売れそうなものを作って見るのも良いかもな。必要な道具や素材があるなら用意するから話し合ってみてくれ」

俺の提案にデボラとヤマトは頷いて答えた。俺はそれを見てから次の話題を切り出す。

「で、カレンディル王国だけでなくミスクロニア王国の了承も取り付けることに成功したぞ。なんと俺はミスクロニア王国の子爵位を頂いた、つまり貴族様だぜ。凄いだろ?」

「普通なら法螺話だと笑い飛ばすところなんだろうがなぁ」

「タイシだものねぇ」

「確固とした権威をタイシ殿が手に入れたというのは喜ばしいことですな」

狼、熊、馬の反応は三者三様である。まぁ一応好意的に受け取られたようだ。半ば呆れているようなソーンとデボラの反応は気になるけど。解せぬ。

「早速移住するのですか?」

「まさか。流石に俺も魔物が跳梁跋扈する未開の原生林にお前らを移住させるような無理はしないよ。正式に領地と爵位を貰ってからアルケニアと話をつけて候補地を選定、俺が魔法である程度整地と開墾をしてから少しずつって感じになるだろうな。完全移行には半年から一年はかかるんじゃないか?」

「んじゃこっちも移住に向けて人員を選んでおいた方がいいな。差し当たっては家作りと畑作りか?」

「そんなところね。護衛も必要でしょうから、狩人組にも話を通しておくわ」

ソーンの言葉にデボラが頷く。この三人はこの村のまとめ役みたいだからな。人員の選別なんかは任せておくのが良いだろう。

できることはできるやつに任せて楽をする。働きたくないでござる。

「じゃあそういう方向で。俺は王都で物資の調達をしてくる……前にモフモフしてくる」

「早く治るといいな……」

ソーンが可哀想なものを見る眼で俺を見つめてくる。別にこれ病気とかじゃねぇから、正常だから。そこにモフモフした少女がいたらモフりたくなるのは世界の真理だから。

「久しぶり、今日は随分顔色がいいな」

モフモフを堪能した俺はカレンディル王国の首都アルフェンにある商業ギルドへと足を運んだ。

今日も商人や冒険者、依頼者である貴族の使いらしき人々に丁稚であろう少年少女など商業ギルドは人で溢れかえっている。

「この世の天国を見てきたからな」

ヒューイの言葉にそう答えて俺は思わず笑みを浮かべる。

今日は犬娘のシータンだけでなく狐娘のシェリーと羊娘のカレンもモフらせてくれた。ほぼイきかけました。もうね、ヘヴン状態でしたよ。

エルフのメルキナに汚物を見るような目で見られたり兎獣人のパメラに生温い目で見られたりしたが、俺は気にしない。いや、パメラのあの長い耳や尻尾のふさふさは一度触らせてもらいたいので少し気にしよう。何かプレゼントでも持っていったら触らせてくれるだろうか。

「なんかよくわからんが突っ込まないぞ」

「おう。物資の用意は出来てるな?」

「ああ。正直集積場を圧迫してて肩身が狭いんでな、とっとと回収してくれ」

早速立ち上がって歩き始めたヒューイの後ろをついて行き、商業ギルド裏手の物資集積場へと移動する。窃盗を警戒してなのか、集積場の周囲には現地人厳重な警備体制が敷かれていた。

雇われの冒険者ではなく専属の警備スタッフが警護についているのだろうか? 警護の人員は全員がお揃いの制服と警棒を手にしているし、動きもキビキビとしていて規律も高そうに見える。冒険者なら普通装備も格好もバラバラだろうし、あそこまでキビキビとはしていなさそうだが。

「ああ、彼らは一応軍人だよ。街を守る衛兵と同じだ。彼らは商業ギルドの警備専属だけどな」

「衛兵、警備兵か……」

まだ先の話だが、街を作って交易を始め、外部の人間が街に出入りし始めるとなればそう言った存在は必ず必要になってくるだろう。法整備もしなきゃならないな。それに衛兵や警備兵は法律を有る程度覚え、判断するためにも有る程度の教育も必要になるだろう。ううむ、やるべきことは多いな。

「着いたぞ、ここからあそこまでが用意した物資だ」

「すげぇ」

山のように積み上がった物資が商業ギルドの物資集積場のかなりの範囲を占拠していた。いったいどれだけあるんだ、これは。

「この前引き渡した物資の二十倍だ。どこかと戦争でもするつもりか?」

「そんなわけないだろ。俺が戦争するのにこんなに物資が必要だと思うか?」

「それもそうか。ならなおさらわけがわからん」

首を傾げているヒューイをよそに俺は次々と集積されている物資をストレージに格納していく。先日受け取った物資、正規兵五十人が一ヶ月間活動できる量を一つにまとめてあるコンテナが二十個、つまり一千人分。

「まぁ未来への投資ってやつだな。ここだけの話だが、ミスクロニア王国でまともな交易路も持たない小さな村と縁が出来てな。まぁその土地を収めている領主にも了承を得て俺の租借地って形にしてもらったんだよ」

「へぇ、じゃあ将来に向けての勉強ってところか。嫁さんが第一王女なんだから、そのうち領地を運営することになるんだろ?」

「まぁな。だから今のうちに俺にゴマすっておけば後々得になるかもしれんぞ」

「平穏な生活と天秤にかけるとちょっとなぁ」

そこは卑屈に媚びるとこじゃないのかよ。真顔で悩むなよ。商人らしく野望と大志を抱けよ! まぁいい、予定も詰まってるし用事をさっさと済ませよう。

「ああ、あと買取り頼むわ。その村で採れた薬草とか魔物の素材が結構有るんだ。それと取引できる商品の目録も用意しといてくれないか? チョイスは任せるが、娯楽も何もない辺境の村で喜ばれそうなもの中心で頼むわ。次回来た時に注文するからさ」

「わかった、用意する……ってなかなか良い薬草だな。数もかなりあるし、助かるぜ。薬草は需要に供給が追いついてなくてな、品薄なんだよ」

「そうか、あとで明細をくれよな。俺は冒険者ギルドと贔屓にしてる防具屋回ってくるから、よろしく頼むわ」

薬草やら魔物素材やらを鑑定しているヒューイにそう告げて俺は商業ギルドを後にした。次に向かうのはお向かいさんの冒険者ギルドである。

「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこ……ひっ」

相変わらず受付嬢は俺を見るなり喉の奥で悲鳴を上げやがる。ちょっと絡んできた冒険者を一捻りしたり鋼鉄製のメイスを握り潰したりしただけなのに。

「おっす。前に出してた依頼、報告上がってきてる?」

「ふぇっ!? あ、あの、あひゃぁっ!? わったった!?」

めっちゃテンパって書類の山を崩したりその上にインク壺の中身をぶちまけそうになったりしてるんだが、大丈夫かこの子。

ようやっと目当ての書類を見つけたのか、それを手にとって俺に差し出してきた。なになに?

「ビエット村の人々は現在新市街に建てられた集合住宅で生活中、バイソン氏は数名の老人とともに村に残り、その後の消息は不明、か」

俺はストレージから血痕のついた壊れたクロスボウを取り出し、銀貨二枚とビッグホーネットの蜜が入った瓶と一緒にカウンターの上に置く。

「もういっちょ依頼だ。この壊れたクロスボウと蜂蜜をビエット村の人の所に届けて欲しい。俺が直接行きたくは有るんだが、忙しくてな」

壊れたクロスボウとビッグホーネットの蜂蜜を見ればきっとあの村の人なら解るだろう。いずれあの村に戻るんだろうか……あ、そういやソーン達が微妙に略奪めいたことをしていたな。

うーん、まぁ置いていったものだし大丈夫だろう。バイソンさんの遺品とビッグホーネットの蜂蜜で許してほしい。

「は、はい、承りました。あ、それと先日持ち込んでいただいた魔物ですが、悪魔族であることが判明しました」

「悪魔族?」

ソロモン七十二柱とかそういう類のやつだろうか。あんまり詳しくないんだけど、そういうの。

「はい、召喚術師の召喚に応じて喚びだされ、使役されると言われる強力な魔物です。魔法を使う種も多く、力も強く、しかも狡猾であると言われています。召喚術師が呼び出す他には大氾濫の際に何処かから湧き出てくるとか。稀に古代遺跡の深部で見かけられることもあるようですね」

「なんというか、らしいとか言われていますとか不確かな情報ばかりだな」

「ひっ、す、すみません! すみません!」

「いや別に怒ってはいないからそんなに怯えるなよ。大方召喚術師の数が少ない上に目撃例が極端に少ないとかそういうことなんだろ?」

俺の言葉に受付嬢は涙目でガクガクと首を縦に振る。

そういうのやめてくださいませんかマジで。傍から見たらまるで俺が受付嬢にクレーム入れて泣かせてるみたいじゃないですかやだー。

「あー、んー、わかった。わかったから泣かないでくれ。納めた素材はどうなったんだ?」

「ひぅっ、あ、あの、申し上げにくいのですが、貴重なサンプルということでギルドで買い取らせていただきたく……」

「まぁいいけど……いくらで?」

「さ、三体分で金貨二十枚ではいかがでしょうか……?」

は? あの強靭な皮膚を持つ竜魔人を入れてたったの二十枚? 確かにトロールよりは小さいが、その頑丈さはトロールの比じゃなかったしかなり良い素材になるはずだ。

トロールでさえ一体で金貨三十枚なのに、竜魔人だけでなくもう二匹いた黒い不気味な雑魚も合わせて二十枚はないだろうよ。

「話にならん、上の者を呼べ! と、言いたい気持ちがいっぱいだが俺は忙しい。それでいいからととっと金持ってこい、はよ」

「は、はいいぃぃぃぃぃっ!」

受付嬢が泣きながらギルドの奥へとダッシュして行く。なにやら非難めいた視線が向けられている気がするが、無視する。

確かに今の俺は金持ちさ。だが、だからと言って金のやり取りで細かいことを気にしないとかそういう感じになる訳にはいかないのだ。それは間違いなく金銭感覚崩壊の序曲だからな。

今更感もあるが、領地を運営して領民になる奴らを不自由させることなく食わせていかなきゃならんのだ。今後は財布の緒を緩めっぱなしにしておくわけにはいかない。

最近サボってたが、一回自分の資産をしっかり把握しておくべきだな……ストレージに金貨が16209枚入っているのはわかっているんだが。

えっと、日本円換算で大体十六億二千九十万円くらいか。個人の資産としてはとんでもない額なんだろうけど、領地の運営資金としてはどうなんだろうな?

後でヒューイとかジャックさんあたりにでも聞いて見るか。

資金の運用に関しては専門家を雇った方が良さそうだなぁ。やり手の商人か、財務系の役人か……おそらく最初は資金の運用って言っても交易や必要な資材、物資の買い付けとかになるだろうから相場に詳しい商人が適しているかな。

資金の多寡の件と合わせてヒューイに聞いて見よう。

顔面を蒼白にしてチワワみたいにプルプル震えている受付嬢から金貨を二十枚受け取り、その足でペロンさんの防具店に向かう。

「まいどー、ペロンさんい……る?」

「だ、だめだペロン! その金は結婚記念日を盛大に祝うためのへそくりなんだ!」

「ええい! うるさいよ! あいつに出来てあたしにできないなんて業腹じゃないか! あたしも神銀を作るんだ! 邪魔するんじゃないよ!」

ペロン防具店に入ってすぐ目に飛び込んできた光景。それは金が入っていると思われる皮袋を手にしたペロンさんに半泣きのリッツ氏が取り縋っているというものであった。

なんだこれ、どういう状況だよ。

「だめだぁ! そんなこと言ってまたミスリルとオリハルコンのインゴットを駄目にするんだろ!?」

「もうちょっと! もうちょっとでできる気がするんだよ! あたし達ドワーフの悲願を横から掻っ攫われたままじゃいられないんだ! そのためだったら結婚記念日くらいなんだってんだい!?」

ここまで聞けば大体理解できる。恐らくペロンさんは俺が渡した神銀に触発されて自分でも作ろうと躍起になった挙句、失敗を続けて身を持ち崩しかけているんだろう。

そこまで入れ込むとは、流石はドワーフというべきかなんと言うべきか……結婚記念日は大事にした方がいいんじゃないかな、うん。

「そんなこと言うなよ! あっ!? いいところに! ペロンを止めてくれ!」

「来たね!? ブツは出来てるよ! さぁ、代金を寄越しな! それと神銀の製造法を……いや、これはあたしが独力で到達しないと。でも、背に腹は代えられない……くっ! なんでもするから教えなっ! 教えてくれるなら煮るなり焼くなり好きにすれば良い!」

ペロンさんの言葉に俺の中の黒い部分が鎌首をもたげる。自然と口が笑みの形を作り出した。きっとリッツ氏はニタリ、と嗤う俺の顔に戦慄していることだろう。

「ん? 今なんでもするって言ったよね?」

「あぁっ! そんなに掻き混ぜちゃだめっ……!」

俺の動きにペロンさんが悲痛な声で抗議してくる。しかし、俺はその言い分を無視してより一層動きを激しくした。

室内は熱気に包まれ、ペロンさんは汗だくだ。俺はまだまだ余裕がある。レベルが違うんだよ、レベルが。

「駄目じゃない、もっと強くいくぞ。そらっ!」

「だっ、そ、そんなに乱暴にしたら壊れちまうよぉ……」

ペロンさんはもう半泣きだ。それはそうだろう、大事な場所を俺に好き勝手に使われているんだから。だが、それを望んだのはペロンさん本人だ。よって俺は彼女の泣き言を一切考慮しない。

「これくらいで壊れるようには出来てないだろ。ほら、出すぞ」

「えっ? あ、熱っ! あ、あぁ……す、すごいぃ、これ凄いよぉ!」

ペロンさん感極まって恍惚とした声を上げる。目の端から涙が零れ、顔は興奮で紅潮しきっていた。だが、俺はこれで終わらせるつもりはない。こういうのは何度でも、身体が覚えこむまで何度でも教え込んでやるのが大事なのだ。

「まだまだ、もう一回いくぞ。お互いが満足するまで、何度でもだ」

「そ、そんな、満足するまでなんて……それじゃ今日は寝られないじゃないか。それに私の大切な場所が壊れちまうよ」

「その時は俺が責任取ってやるよ。ほら、いくぞ」

「も、もうかい? あんなに出したばっかりなのに……あんた、底無しなんだね。素敵だよ、リッツはすぐに出し切ってヘタっちまうのに」

「俺と普通の男を比べるのが間違いだな、俺は勇者だぞ。何度でも、満足するまで出してやるよ。壊れちまうまでな」

そして俺はペロンさんの大切な場所に――。

「うおらぁぁぁぁぁっ!? お前ら一体ナニやっとんのじゃああぁぁぁぁぁっ!?」

そうしていると何故か泣きながら包丁を持ったリッツ氏が鍛冶場に乱入してきた。一体なんなんだ。

「「えっ? 神銀の精製だけど?」」

掻き混ぜていたのは精製炉で融解していたミスリルとオリハルコンで、ペロンさんが心配していたのは俺の作業によって精製炉が壊れないかということだ。鍛冶屋にとって金属を熱したり融かしたりする精製炉は大事な場所だからな。

とりあえず一回手本を見せたが、神銀を作り出すのには細かな温度調整が必須なので、一回で覚え切るのは不可能だろう。だから何度も反復しなきゃならない。

無論、そのためには何度も精製炉を稼働させなきゃならないわけだが、意外と精製炉は魔力を食う。オリハルコンを融解させるような出力では常人だと一日にせいぜい一回か二回しか動かせない。俺の魔力は底無しだから何回でもいけるけどな。

「どうしたんだい? 昼飯は作り終わったのかい?」

「うっ、うう、ちきしょおおぉぉぉぉっ!」

泣きながら走り去って行くリッツ氏。それを見送ってから俺はぼそりと呟く。

「夫婦の営みにあんまり口を出そうとは思わんが……いいのか、これで」

「あっはっは、あのナリで子供みたいに甘えてきて可愛いんだよ。さ、真面目に続きをやろうか」

「ハイレベル過ぎるわ……まぁいいけど」

ちょっと俺も楽しかったしな。合法ロリの姉御肌で且つ人妻でしかもドSとか色々と属性詰め込みすぎだろう。リッツ氏もそうだが、この夫婦業が深すぎるわ。

「神銀製造方法の対価、忘れるなよ」

「わかってるよ。あんたのとこなら面白い素材には事欠かなさそうだからね。ま、リッツは説得するよ。じっくりとね」

ペロンさんはそう言ってペロリと自分の唇を舌で湿らせ、意味ありげな笑みを浮かべる。これが人妻の色気か……見た目幼女なのにドキッとしたぞ。

こうして俺は優秀な防具職人を未来の俺の領地に誘致することに成功した。