軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十三話~獣人の皆さんと出会いました~

「じゃあ、行ってきますねー」

「おう、気をつけてな」

ドレスアーマーを着込み、俺の作ったミスリル製の双剣を腰に差した疾風の剣姫スタイルでマールが馬車の中から手を振る。

俺はと言うと、普段着のまま手を振ってそれを見送りだ。行き先は王城だし、ことここに至ってカレンディル王国の連中がマールに向かって妙なことをしでかして俺の怒りを買うような真似はしないだろう。むしろ俺やミスクロニア王国の機嫌を損ねないようにこれ以上無い待遇と警備が行なわれることが予想できるので安心して送り出すことが出来る。

そもそも、今のマールは下手すれば近衛騎士とも切り結べるレベルに達しているから街中、それも王城で滅多なことにはなるまい。

リビングに戻り、メイベルの淹れてくれたお茶を飲む。

今日、マールが王城に登ったのは情報収集と今後の俺達の待遇に関する交渉のためである。

情報収集というのは主にミスクロニア王国の情勢に関してだ。

数は少ないながらも長距離通信を行なえる魔動具は存在しており、カレンディル王国はミスクロニア王国との間にホットラインを設けている。あわよくばそのホットラインを使ってミスクロニア王国の家族、というか王家と連絡を取るつもりらしい。

使用許可が下りなかったとしても必要最低限の情報交換は行なっているはずなので、最低でも現在の情勢くらいは聞きだしてこようということだ。

今後の俺達の待遇というのは、大氾濫での俺の活躍に対する報酬の交渉などを含んだ話だ。

実の所、要求する報酬というのが今の所思いついていなかったりする。

名声は既にこれ以上ないくらいに高まっているようだし、金銭面に関しては俺が剣なり槍なりを打って売り捌くだけで左団扇なのだ。

名声、金と来れば次は女だけれども、俺にはマールもいるしマール公認の側室としてフラムも居る。なのでこれ以上は必要ないというか、カリュネーラ王女とか押し付けられても困るしいらない。

勿論男としては様々な容姿の美女をとっかえひっかえの酒池肉林というものにロマンを感じないでもないが、そういう爛れた肉欲を満たすなら高級娼館にでも行ってお大尽すればなんとでもなりそうだし。何となくだが、マールも正直に言えば許してくれそうな気がする。いや、刺されるかもしれない。でも絶対バレるだろうし、もしそういうのを味わいたくなったら正直に言ってみよう。うん。

思考が逸れてしまった。

とりあえずそんな感じで報酬というか待遇についてはこちらからの要望がそんなに無いという現状なので、逆にカレンディル王国が『どれだけ出すつもりか』というラインをマールに見極めて貰おうというわけだ。

何で俺が行かないのかって? 手玉に取られていいようにされる未来が見えるからだよ。こういうの交渉事はマールの方が二枚も三枚も上手なので、任せることにしたのだ。

俺とマールの中ではミスクロニア王国に帰った際にスムーズに結婚できるよう『実績』を確固としたモノにしておきたいという思惑もある。

現時点での俺とマールの名声だけでも十分な気はするのだが、マール曰くもう少しミスクロニア王国に寄与できるような『実績』があった方がミスクロニア王家としても認めやすくなるだろうということだ。

とは言っても俺にはどういったものがそれに当たるのかさっぱりである。

鉱山の採掘権とか領土の割譲とかが思い浮かびはするが、そんなところだろうか。領土とか貰っても別に嬉しくないんだけども。

爵位を得て領地を貰うとかいうのも微妙である。爵位を得るってことはつまりカレンディル王国の貴族になるということだからね。

つまるところカレンディル王国を会社、国王を社長、領地を部署と置き換えれば、爵位を得て領地を貰うってのはヘッドハンティングされて部長とか課長に任命され、一部署を任されるみたいなもんだろう。

勿論俺はカレンディル王国株式会社(いや、株式会社ではないだろうが)に入社することになるし、上司と部下みたいなしがらみもできるわけだ。自由を満喫したい俺としてはそれは勘弁願いたい。

今の俺の立場はやたらと腕の経つ派遣社員みたいなもんだろうか。

仕事は超できるので会社としては抱え込みたい。でもこっそり社内に入り込んで働いてた上得意様の取引先の令嬢と結婚を前提とした良い仲で、社長の愛娘を使って篭絡しようにも取り込むのが不可能。

強硬手段に出ようものなら寧ろ返り討ちで会社が焼け野原。そのくせしっかりと給料だけは要求してくる。要求してきたのを突っぱねるとやっぱり焼け野原。

取引先の令嬢をどうにかしようものなら焼け野原だけでなく上得意様と戦争確定。というか一回どうにかしようとして返り討ちにされてる。

あれ? 俺とマールってば超めんどくさいヤツじゃね? というかゾンタークの立場って超板ばさみな中間管理職だよね。

あまりぞんざいに扱って無茶を言い続けたらゾンタークに本気で刺されるかもしれん。

「ちょっと出かけてくる」

何故か俺に熱い視線を送ってウズウズしていたメイベルにそう告げ、俺はリビングのソファから立ち上がった。なんですかメイベルさん、その露骨にがっかりした顔は。そんなに踏みたいんですか、踏みたいんですね。

「うん、今晩こそは風呂上りに頼むからな」

「はい!」

喜色満面とはこのことか。メイベルの輝くような笑顔に思わず温かい気持ちになりそうになる。しかしこの娘の笑顔の理由が俺を踏むことだと思うとなんとも言えない微妙な気分だ。

「……完全に特殊な性癖に目覚めてしまっておりますな」

リビングを出たところに待機していたジャック氏が珍しく非難がましい視線を俺に向けてくる。

俺は悪くねぇっ!

第三城壁を抜け、壁内から新市街へと足を向ける。

今の俺はミスリルチェインにトロールハイドアーマーというどこにでもいそうな冒険者の格好だ。

腰に提げているのは贈答用に作ってあったミスリルソードである。デザイン的にはクロスロードで買ったような実用一辺倒の無骨なものにしてあるので、これもまた目立ちにくい一品と言える。

結果として即座に俺が今話題の勇者であると看破されるようなこともなく、ブラブラと新市街を歩けているわけだ。

たまに俺に視線を向けてくるような人も居るが、まさか勇者が地味な革鎧を着てこんなところをぶらついているとは思わなかったのか、他人の空似とでも思ってくれているようだ。

新市街を行き交う人々を見ていると、やはり周辺の農村から疎開してきたと思われる人々が多い。

一応はカレンディル王国から大氾濫の収束宣言もあり、壁外の復興も始まっているからか大氾濫直前あたりのピリピリとしたような空気はかなり薄まっている。

行き交う人々の会話や、露店の傍で話している人達の会話等を総合してみると未だ疎開者の殆どは王都アルフェンに留まっているらしい。

村に帰って復興するにも生き残りの魔物の危険があり、また村の状況がどうなっているのかもわからないとなると中々帰ることもできないということだ。

今は壁外を復興するための労働力として働き、生活資金を溜めている人が多いようだ。

各農村から疎開してきた人々は離散しないようにカレンディル王国がしっかりと管理しており、王都周辺の復興が終わり次第順次農村の復興をしていくらしい。

その時には農民だけで農村に帰すのではなく、兵もそれなりの数をつけて護衛と復興の手伝いをするのだとか。

今回の大氾濫は勇者の大活躍によって短期間で主要な魔物の集団が駆逐されたため、村に戻るのもそんなに時間がかからないだろうということだ。

前回の大氾濫では王都でも多数の犠牲者が出たせいで復興が遅れ、結局村に帰れなかった人々も多かったらしい。

そんな話を聞いているうちに、俺は一人の老人のことを思い出す。クロスボウを手に笑っていた彼は、今どうしているんだろうか。

村を最後まで守って死ぬ。そう言ってはいたが、もしかしたら王都に避難してきて無事ではないだろうか。

思い出すと、気になり始めてしまった。確かあの村はビエット村という名前だったはずだが、さて。

避難してきているということであれば、先ほど聞いた話から考えてどこかに固まって疎開しているはずだ。

しかしこの広い王都の、それも多くの地域から疎開してきている農民達の中から彼らを見つけ出すのは難しそうだ。国が管理しているのだからゾンターク辺りに言えば調べてくれるかもしれないが、こういうことで彼の手を煩わせるのは流石にまずいだろう。

「いらっしゃいま――しぇっ!?」

「おう、ちょっと依頼をしたいんだが」

何故か涙目でカタカタと震えているアルフェン冒険者ギルドの受付嬢にビエット村の人々の疎開先調査の依頼を出す。

報酬は銀貨5枚。恐らく足で探すことになるだろうし、数日かかる仕事になるだろうということで少し多めに張りこんでおく。期限は一週間としておいた。

基本的に危険のない調査系のクエストなので、恐らく駆け出しの冒険者が請けることになるだろう。

「ええと、前に貴方が依頼を受けた村ですよね?」

「ああ、どうしているか気になってな。別に過剰に肩入れするつもりはないが、袖振り合うも多生の縁と言うし」

受付嬢は納得したのか頷き、依頼票を発行してくれた。判明次第、壁内の館に連絡をくれるということだ。

俺は受付嬢に礼を言って冒険者ギルドを後にする。

他に打てる手となると、直接行ってみるってのもアリだな。うん、そうしよう。

俺は人気のない路地に入り込み、周囲に人が居ないのを確認して長距離転移を発動する。

一度行った場所であれば基本的にいつでもすぐに移動できるのは便利の一言だよな。風情とか色々なものが失われる気はするけど。

「うわぁ……」

ビエット村はほぼ壊滅していた。

多くの魔物が押し寄せたのだろう。畑は踏み荒らされ、家屋も大半が半壊している。

しかし、見る限り戦闘痕らしきものは見当たらない。魔物の死体も、人間の死体も見当たらないのだ。いや、もしかしたら魔物の餌になったのかもしれないが。

ストレージから神銀棍を取り出し、荒れ果てた村を歩き回る。

戦闘痕らしきものはやはり見つからず、踏み荒らされた農地では生き残った作物がたくましく実っている。中には熟れすぎて落ちてしまっているトマトのような野菜もあるが。

村人達とビッグホーネット料理を食べた広場へと足を向ける。

広場の中心にあった井戸は破壊されて半ば埋まってしまっていた。ここから見える家屋の殆どはやはり半壊している。

歩き回っていると、地面に何かが落ちているのを見つけた。

「これは……」

見覚えのある、壊れたクロスボウだった。

弓床の部分には血らしきどす黒いしみがある。弦は切れていたが、板ばねは無事だ。

バイソン氏はここで最期まで戦ったのだろうか? しかしそれにしては戦闘痕が無い。跡形も無く痕跡が踏み荒らされ、死体は食い尽くされたのか。

とりあえず壊れたクロスボウをストレージに回収する。

いくつかの半壊した家を覗いてみたが、気になる点は特に無かった。めぼしい金目のものや食糧の類が見当たらないのは疎開の際に持ち出したからだろうと予測はつく。

それにしても生活雑貨の類が綺麗さっぱりなかったり、タンスなどが開けられて中身がやはり綺麗さっぱりなかったりするのは多少違和感を感じないでもない。

盗賊の類がまだ魔物が居るかもしれないビエット村に来て火事場泥棒を働くとも思えないし、魔物がそういったものを略奪していくとも思えない。

その後に何となく農地をよく見てみると、明らかに最近収穫されたような痕跡があることに気がつく。意味がわからない。

「うーん……?」

農村の状況調査に来た冒険者やカレンディル王国兵の仕業だろうか? それにしては足跡が何か変な気がする。

この足跡を見る限り、たぶん素足なのである。冒険者や王国兵が素足という事はあるまい。

更に言うと足跡がどうも人間っぽくない。なんというか、肉球があるように見える。やはり意味がわからない。

「わけがわからんなぁ……」

とりあえず現時点でバイソン氏の生死に関しては調査結果待ちだろうか。

そろそろ昼食時になってきたので広場に面した適当な家の軒先に腰を落ち着けてストレージを展開する。

「どーれにしよっかなー」

食肉として使える魔物の部位や市場で買い込んだ保存食や果物の類、他にも冒険時にアツアツの状態ですぐ食べられるように露店で買った串焼きだの焼きたてパンだのがストレージには入っていたりする。

野営時に残った料理とかもある。主にスープとかポトフ的な煮込みとかだけど。

とりあえず残り物のスープと露店で買ったモリトカゲの肉の串焼き、焼きたてパンと水を取り出してもしゃもしゃと食べ始める。

魔物の気配もない、人の気配も無い。完全に無人かつ何のイベントもなさそうなビエット村のお昼である。

気配察知も5とかになってくるとかなり広範囲の気配を詳細に把握することが出来る。

あまり気合を入れて限界範囲まで気配を探ったことは無いが、現状で半径3kmくらいの範囲で把握している。

何故限界範囲まで探ったことが無いのかと言うと、首都でやろうとしたらあまりに詳細がわかりすぎて気持ち悪くなったのだ。情報量が多すぎて情報酔いをしたとでも言えばいいのか。

一応察知対象を絞り込んだりもできるようなので、おいおい練習していきたいと思う。

能力に感覚が追いついていかない辺り、スキルポイントで一気にスキルアップした時の弊害と言えるかもしれない。性能に振り回される。

そんなことを考えながら気配察知の範囲を広げたり対象の絞込みをしてみたりと練習していると、半径3kmの気配察知圏内に人間らしき反応が引っかかった。

それも一人や二人ではない、その数なんと八人だ。

しかし近づいてくる方向が妙である。以前俺とマールがビッグホーネットを倒したのとは別方向ではあるが、森の深部の方向からだ。

確かあっちには村とかそういう類のものは無かったように思う。

それに人員構成が妙だ。確かに全員人間っぽいのだが、微妙に違う。あと子供っぽいのもいる、

有体に言うと、クロスロードや王都アルフェンでは殆ど見かけない獣人達である。それが八人もビエット村に接近してきている。

俺は別にケモナーとかネコミミ萌えとかではないのであまり気にかけていなかったが、獣人を街で見かけることは殆ど無い。

ドワーフはよく見るし、エルフなんかもそこそこ居るのだけれども。俺が見た限り、獣人の殆どは奴隷だったように思う。唯一の例外はクロスロードの武器店の猫店主くらいじゃないだろうか。

一口に獣人と言っても結構色んな人達が居るのは知っている。猫店主のように二足歩行の動物そのまんまみたいなのも居れば、人間にネコミミとかウサミミとかの獣のパーツが生えているようなのも居る。

俺が見たことあるのはクロスロードの猫店主、狼男みたいなやつ、アルフェンの奴隷市場では猫店主と同じ猫人間、小柄な二足歩行の犬っぽいコボルド的なやつ、二足歩行のウサギっぽいのとかミノタウロスっぽいのとか。あとは爆乳牛耳つきお姉さんとかネコミミ娘とかウサミミ娘。これくらいか。

ネコミミ娘ウサミミ娘辺りには多少興味が沸いたけれど、節操無くそういうのもどうかと思ったので手を出す気にはならなかった。買った以上責任持って養わないといけないし、俺にはマールもフラムもいるしね。

自分ではそう思っていないつもりだけれども、意外と本能的なところとか深層心理的なところで奴隷売買に抵抗があるのかもしれない。

色々と今更なんだがなぁ、もう人も殺してるわけだし。

ああ、なんかこんなことを考えていると気が滅入ってきた。とりあえず今は接近してくる獣人達のことを考えよう。

とりあえずそこらのものを利用して座れるものでも用意しておくか。

二十分くらいで獣人達はビエット村に到着した。人間の歩く速度は時速ほぼ5kmくらいだったと思うので、子供も含めてなかなかの健脚であるらしい。

村の手前で数分停止し、大人と思われる数人が散開してゆっくりと村の様子を窺い始めた。こっちが風上だから、もしかしたら俺の匂いを嗅ぎつけたのかもしれない。

用意した木箱に腰掛けたまま待つこと数分、広場の様子を窺いに来た獣人に手を振ってみる。

俺と目が合った獣人はぎょっとした顔でこちらを見て、すぐに引っ込んでいった。アレは狼男っぽい感じだったな。

気配察知が獣人達の様子をリアルタイムで伝えてくる。どうやら集合して話し合っているようだ。

対応が決まったのか、五人の大人の獣人達が一塊になって広場へと入ってくる。子供らしき獣人二人と大人一人が広場から見えない場所に待機しているようだ。

獣人達は身体の要所だけ守るようなどちらかといえば粗末革の鎧を着込み、手には剣や槍などの武器を携えている。

剣を抜いていないところを見ると、どうやら話し合いの通じる相手らしい。

「よう、こんにちは。とりあえず座って」

「……ああ、こんにちは」

集団の代表っぽい狼獣人が一瞬ぎょっとした顔をしたが、気を取り直して挨拶を返してきた。うむ、掴みはおっけー。

「俺はタイシ、タイシ=ミツバ。カレンディル王国の首都アルフェンに滞在している冒険者だ。そっちは?」

獣人達は顔を見合わせ、肩を竦めたり頷いたりしながら俺の用意した木箱だの椅子だのに腰掛けた。

武器は手放さない辺り用心深い。

「俺はソーン、住んでる場所は言えない。こいつらは俺の住む村の衆だ」

狼獣人のソーンがこの集団のリーダーらしい。

大柄な牛獣人がマルクス、小柄な兎獣人がパメラ、痩躯の豹獣人がレリクス、もう一人の狼獣人はブレイクとそれぞれ名乗った。

全員ガチの獣人というか二足歩行の獣って感じだ。二足歩行はしているものの、身体の構造的には人間というよりは獣に近い。獣のように四肢を使って走ることが出来るんじゃないだろうか。

「獣人が珍しい?」

兎獣人のパメラがそう言って耳をピクピクと動かす。ちなみに彼、ではなく彼女である。声は見た目に反してハスキーな大人の女性という感じだ。ギャップがはんぱない。

「ああ、実は山奥で暮らしていた期間が長くてな。所謂一般常識ってのには疎いんだ。気を悪くしたなら謝る」

そう言って軽く頭を下げると獣人達から訝しむような雰囲気が伝わってきた。

「獣人に頭を下げるなんて、変わり者だなアンタ」

「? どういう意味だ? 悪いと思ったら謝るのは普通だろ?」

俺の言葉に獣人達は顔を見合わせる。どうやら彼らの常識と俺の常識に激しい乖離があるようだ。

「人間ってのは俺達獣人を魔物の同類か、奴隷としてしか見ないもんだろ」

「えっ、何それ怖い」

よくよく話を聞いてみると、世間一般の常識では獣人は被差別種族なのだそうだ。

特にカレンディル王国とゲッペルス王国ではその傾向が強いらしい。ドワーフの王国であるマウントバスが一番獣人差別が少なく、ミスクロニア王国では一応人権が認められているのだとか。

カレンディル王国では一般的に国民として認められておらず、辺境の農村の片隅で細々と暮らしているか、ソーン達の集落のように獣人達が寄り集まって人里離れた場所で暮らしているそうだ。

この人種差別の起こりはソーン達も知らないらしい。勿論俺も知らない。

ただ、事実としてそういう扱いを受けているという事実は厳然としてある。そう言えば冒険者ギルドの依頼で奴隷狩りとかいうのがあった気がする。スルーしてたけど。

獣人を街中で殆ど見かけず、見かけたとしても奴隷ばかりというのもつまりそういうことなんだろう。

むむ、これはマールとかフラムとかジャック氏あたりに詳しく聞いてみるべきだな。さっきの獣人差別の件についてもソーンの情報は口伝らしいから、正確かどうかわからんし。

「知らなかった。確かに街では殆ど見ないし、見たとしても殆どが奴隷だったな。クロスロードって街の武器屋の主人が猫の獣人だったから、そういう差別とかがあると思ってなかったぜ」

「猫の獣人っていうと、これくらいの大きさのヤツか?」

そう言ってソーンはあの猫店長の身長くらいの大きさを手で示す。俺がそれに頷くとソーンは苦笑した。多分。

いや、表情がわかりにくいんだよね。

「それは俺達のような獣人とはちょっと違う、ケットシー族だ。大陸北西の大森林や海の向こうの砂漠の大陸に住む妖精族の一種だよ。どっちかというとエルフやドワーフに近い」

本当の猫獣人はレリクスに近い姿形をしているそうだ。なんとややこしい。

「なるほど、色々とよくわかった。教えてくれてありがとう」

「ああ、それでお前はここで何をしていたんだ?」

「この村はちょっと縁のある村でな。大氾濫の後どうなったか気になって見に来てたんだ。あんたらは?」

「わかるだろ?」

「まぁな。俺は別に咎めるつもりは無い。どうせここに彼らが帰ってくるのはまだまだ先の話だろうし、色々と雨ざらしでダメになるんだろうから有効に使った方がいいだろ」

俺の言葉にソーン達はどこかほっとしたような雰囲気だ。俺も別に事を荒立てたいとは思わないし、どうせダメになるなら役に立った方が良いだろ。

そもそも、ここに置いていかれているのはビエット村の人々が持っていく必要はないと判断した品々だろうし。

倫理的にはどうかと思わないことも無いが、彼らも生活がかかっているのだ。話を聞く限り、まともな商取引ができるとも思えないから自給自足で生活しているんだろう。

わざわざこんなところまで足を伸ばしている理由も察しがつく。

「カレンディル王国の大氾濫はほぼ収束してるが、やはり被害は酷かったのか?」

「ああ……大人の半数以上がやられた。死んだ者はそう多くないが、重傷者が少なくない」

「大群が襲ってきたんだろ? むしろ全滅しなかったことが驚きなんだが」

「俺達獣人は人間よりも力も強いし、俊敏だからな。それに森のことは知り尽くしてる。子供や老人は洞窟に隠れてなんとかやり過ごしたんだ」

「ということは食糧と医療品か」

俺の言葉にソーンは頷いた。

ビエット村には多少作物が残っているようだから、食糧はいくらか手に入るだろう。

しかし医療品となると厳しい。恐らく包帯などに使える布などを探しにきているんだろう。

「俺を村に案内してくれるなら解決できるが」

「……どういうことだ?」

「俺はこう見えて腕の良い魔法使いなんだ。回復魔法も使えるし、実はトレジャーボックスに山ほど食糧を溜め込んでる。味は悪いが、回復薬もあるぜ」

そう言って俺は保存食や果物、マール謹製の回復薬をストレージから取り出して見せた。

俺の取り出した品々にソーン達は目を剥いて驚き、そして不審なものを見るような目を向けてくる。

「ありがたいが、返せるものは何も無いぞ。お前は何を狙っているんだ? 俺達を奴隷として捕らえて売り払うつもりか?」

うん、そう思うよな。俺も逆の立場だったらそう思う。

しかし俺はソーン達の話を聞いて思いついたことがあったのだ。色々と解決しなきゃならない問題とか調べなきゃいけないこととかあるわけだが、折角の俺TUEEEEEEE状態なんだから色々とやってみたいよな。

「いや、そういうわけじゃない。もっと大それたことを考えている」

「……どういう意味だ」

ソーンが牙を剥き、グルルと唸る。良い表情だ、感動的だな。

しかしお前は次に「は?」と言う。

「お前ら、俺の国の国民にならない?」

「……は?」