軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十五話~第二王女を押し付けられることになりました~

翌日、俺は不機嫌だった。

何故不機嫌かと言えば、いくつか理由がある。

まず、今日は完全休養にしようと思っていたのに王城に呼び出された。

しかも俺一人しか招待されなかったのでマールを連れて来る事が出来なかった。

更に言えば、俺を呼び出したのはゾンタークでも国王でもなく、誰が呼び出したのか聞いても迎えの者は決して口にしようとしない。

もっと言えば、なら俺は帰るぞと言うと『困ったことになるのは貴方ですよ』と半ば脅しのような言葉を吐かれた。

「私の夫にしてあげても良くってよ? 嬉しいでしょう!」

極めつけにこれである。

冷静に目の前の物体を観察しよう。

まず、髪の毛は輝くような金髪だ。頭の後ろで纏めているので、恐らく髪を下ろせばかなりの長髪だろうと思う。

魔法兵のリネットちゃんも金髪だったが、やはり身分が身分だからかよく手入れされていてこちらのほうが髪の毛の先までよく輝いている。率直に言えば美しい金髪だ。

そして顔立ち。

化粧を施しているのだろうけれどそこまでケバケバしくないし、顔立ちも整っている。マールと良い勝負だと思う。

何より勝気な印象を持つちょっと釣り目気味の視線が実に嗜虐心をそそ――可愛らしい。

体つきを見ればマールよりもボリュームのある胸、それに形も良さそうだ。

多少武術の心得があるのか、身体も引き締まっているように思う。ゾンタークが貴族の娘を相手にするときは偽プロポーションに注意しろとか言ってたが、これは本物っぽい。

まぁ一言で表すと、まんま貴族のお嬢様と言った具合の美少女である。まぁ、貴族じゃなくて王族なんだけども。

「またまたご冗談を、カリュネーラ王女」

俺の目の前にいるこの物体の名前はカリュネーラ=ザン=カレンディル。年齢は十五歳。

このカレンディル王国の第二王女で、国民の間では『我侭姫』と呼ばれている娘だ。

ちなみに、二十歳の第一王女は既に隣国ミスクロニア王国の公爵家に嫁いでいる。おっとりとした包容力のある性格で国民にも人気の王女だったらしい。

この王女の評判については国民からの呼び名でお察しである。

やれ家庭教師が気に入らないからと、国内外で有名な学者や魔法使い、剣士をとっかえひっかえしてるだとか、お茶会で貴族の子女がつけていたアクセサリを欲しがって無理矢理譲らせたとか、突然『お花見がしたいわ』と言い出して市民の憩いの場となっている公園を占拠しただとか、そういった類のエピソードに事欠かない。

「それに、私めは既にマリエール王女に身も心も捧げておりますので」

この鼻っ柱を圧し折って泣かせてやるのは楽しそうだが、相手が相手だしそうもいかない。

なんというかこういう手合いは泣かしてやりたくなるのだが、穏便に済ませなければ色々と後が怖い。

「もっと気楽に話してくれても良くってよ?」

「……俺はマーリエル王女が好きなんだよ、カリュネーラ王女も美人だとは思うがね。用件がこれだけなら帰っても良いか?」

「せっかちですわね。折角王城まで上がってきたのだから、お茶くらい飲んでいきなさいな。少し話すくらい良いでしょう?」

カリュネーラ王女がそう言うと、傍で控えていたメイドがお茶を注いで俺とカリュネーラ王女の前に置いた。

お茶が置かれたこのテーブルは、この世界では初めて見る透明なガラステーブルだ。ガラスじゃない部分には豪奢な装飾がされている。

ティーカップを手に取ったところで危険察知が反応した。香りを愉しむふりをしながらお茶を鑑定眼で視てみる。

『最高級マウントバスティー(毒) 睡眠薬(最高品質)入り』

ほう、眠らせてどうしようというのか。

どうせ毒耐性でレジストできるし、いっぱい食わされたフリをして出方を見てみるか。

俺はそう考え、お茶を一口飲んだ。

「なんだか不思議な味だな、あまり飲んだことの無い味だ」

「最高級のお茶ですのよ。カレンディル王国でも一部の貴族か、王家でもないと口にできないと思うわ」

そう言ってカリュネーラ王女は微笑む。

あの顔は計画が上手く行ってほくそえんでる顔だ、俺にはわかるぞ。

「そうなのか。香りも独特だな」

もう一口、二口と飲んであくびをする。勿論演技だ。

何をするつもりか知らないが、事を起こそうとしたら制圧すればいい。

「悪いな、遠征の疲れがまだ残っているのかもしれん。このソファも座り心地が良いな」

「良いのよ。貴方が私のモノになってくれるのであれば、いつでもそのソファに座れるようにもなるわ」

「それ、は――」

くたり、と寝たフリをする。

十秒ほどの沈黙の後、深い溜息のようなものが聞こえた。位置からしてカリュネーラ王女のものだろう。

しかし目的がわからない。私の夫になれとか言いながら睡眠薬を盛ってくるくらいだから、やはり暗殺狙いだろうか?

「やったわ、ステラ。早く例のものを」

「はい、ネーラ様」

冷静沈着な声でステラと呼ばれた人物が返事をして動き出す。恐らくお茶を注いでくれたメイドだろう。カリュネーラ王女は親しい人物をネーラと呼ばせているのか。

何か金属質なジャラジャラという音が鳴り、ステラと思わしき人物の手が俺をソファに倒す。

危険察知が俺に警告を伝えてくるが、武器でどうこうしようという事ではないらしいので敢えて無視してそのままにする。

カシャン、カシャン、と何か嵌められるような音がした。人肌に温まった金属製の手枷のようなものを両手首に嵌められたらしい。

後ろ手になってしまっていて、身動きが取りづらくなった。

ステラらしき人物は俺の両手の枷を確認すると、なんと俺を担ぎ上げたようだ。

「んっ、んん……」

俺が声を漏らすと担ぎ上げた人物がビクリと震えた、面白い。

どこに連れて行こうというのかね? 地下牢とかか?

「大丈夫ですわ。三刻くらいの間は何をされても起きないという話ですのよ」

「はい、ネーラ様」

そして担いだまま運ばれ、廊下に出て少し歩き、新しい部屋に入って――放り捨てられた。

柔らかいものの上だ、体がぽよんと弾む。この感覚は……ベッド? 何故ベッドの上に放り出すんだ、謎だ。

「次はこれを飲ませるのよ」

「はい、ネーラ様」

カチャカチャとガラスか陶器を弄るような音が近くで聞こえたかと思うと、急に鼻をつままれた。

何かどろりとした甘い液体が俺の口に入ってくる。危険察知は反応しないので、大丈夫だろう。というか反応して毒だとしても俺には効かんのだが。

しかしなんだこれは、妙に喉に絡みつくというか、嚥下しにくい液体だな。

「五分ほどで効果が出るらしいですの」

「では、お召し物を」

シュル、サラサラ、と衣擦れの音が聞こえる。

え? 何してるの? ちょっとなんだか嫌な予感がしてきたんですけど。

チラリと薄目を開けて見ると、ステラらしきメイドに手伝われながらカリュネーラ王女が服を脱いでいた。

「げほっ! ごふっ! ごふっ!」

「あら大変、咽てしまったようよステラ」

「大丈夫です、ネーラ様。オークの睾丸から作った精力剤は溺れるほどの量は投与していません」

目に入った光景にびっくりして咽たんだよ! というか何飲ましてくれてんの!? オークの睾丸ってつまりキンタマだよな!? おえぇぇぇ!

と叫びだしたいのを必死に堪える。

まだだ、まだ叫びだす時じゃない。

なんだか嫌な予感が加速していくが、まだ決定的な事態ではない。

「では、私も」

またカチャカチャとガラスか陶器を弄るような音が響いた。

おい、何やってる。

「んくっ、んっ……喉に絡みつきますわね」

「それを飲めば生娘でも痛みも少なく楽しめるという話ですから。ネーラ様、頑張ってください」

「うふふ……誰にモノを言っているのかしら、ステラ。私は欲しいと思ったものは絶対に手に入れますのよ。何をしてでもね! べ、別に怖くなんてありませんわ!」

気配察知がカリュネーラ王女らしき反応が俺の元へ近寄ってくるのを教えてくれる。

ベッドに上がってきたのだろう、ベッドは軋むような音は一切立てずにただ沈み込むことによって俺を揺らす。

カリュネーラのものと思しき手が、俺の頬や胸板を撫で始めた。

「顔は……まぁ、普通ですわね。うん、体つきは逞しいですわ。でもこの身体でどうやってあの醜いトロールやオークを倒すのでしょう。不思議ですわ」

そしてその手は脇、腹、そして下半身へと滑っていく。

おいやめろ、らめぇ。

「お腹も足も引き締まってますわね。それに、殿方の身体ってなんだか固いのですね」

「女性と違って筋肉質になりやすいらしいです。それよりネーラ様、そろそろ効いてきたようです」

「わ、わかってますわ。見てる間にこれだけ膨れ上がってきたら嫌でも目に入りますもの。い、行きますわよ」

ちゃうねん。

それはな、ちゃうねん。

薬のせいやねん、俺は悪くない。

ってか毒扱いじゃないからレジストされないのか。そういや危険感知に引っかからなかったもんなぁ。

なんてことを考えていると、ついにカリュネーラ王女が俺のパンツを下ろし始めた。

「こ、こんな凶悪な……これが入りますの?」

「は、はい、そのはずです」

「す、ステラ、先になさい。本当に入るか試すのです」

「えぇっ!? ね、ネーラ様がそう仰るなら……あの、精力剤を頂いても?」

おい、ツンツンすんな。カチャカチャ音してるぞ、何をする気だ。ナニをする気ですよね、はい。

マジで洒落にならん。

「おい、何をする気だ、貴様ら」

「「っ!?」」

突然俺が声を上げたことに驚き、固まる二人。

っておい! 掴むな! 握り締めるな!

メイドの方は今にも精力剤を呷ろうか、というところで固まっている。

「ふ、ふふ、さすが勇者ですわね。あと三刻くらいは目を覚まさないはずですのに。でも、好都合ですわ! 今から貴方は私のものになるのです! 覚悟なさい!」

そう言ってカリュネーラ王女は俺に覆い被さってきた。

俺は足を使ってそれに抵抗する。

「おいやめろ馬鹿! 何でこの世界の王女ってのはこう性的な意味でアグレッシブなんだよ!? もう少しおしとやかにしやがれ下さい!」

「ぐむむ! ステラ!」

「はい、ネーラ様」

ステラと呼ばれたメイドが抵抗する俺の足を抱えて抑え込もうとしてくる。

二人がかりはズルい。というかヤる気満々の女の子二人とベッドの上でくんずほぐれつするとか男の夢まっしぐらなんだが、俺にもプライドがある。

どうやら本気を出す時が来たようだな。

「この程度の拘束、破れないとでも思っているのか?」

「ふふっ、解いてみなさい?」

よかろう、ならば戦争だ。

俺は腕に魔力を込め、拘束を解除――あれ?

「あっるぇー?」

「貴方が魔力を使って身体を強化するのはお見通しですのよ。それは吸魔の手枷、魔力を吸い取って魔法を使えなくする魔法使い用の拘束具なのです!」

「説明ありがとうよ!? おいコラやめろ! 触るな弄るな!」

気配察知がこの部屋に近づいてくる反応を察知した。

そのうち二つはよく覚えのあるものだ。

やばい、なんとしてでも拘束を逃れなければ俺の平穏とか尊厳とか信用とか大切なものがピンチだ。

「はぁ……はぁ……観念なさい、痛くはしませんわ」

「天井のシミを数えている間に終わりますよ」

ヤバい、犯られる。

魔力を吸い取るって言ってたな? 俺を舐めるなよ、近衛騎士の皆様も驚く魔力放出を見よ!

「うおおおぉぉぉ! 燃え上がれ! 俺の小宇宙!」

全力全開で手首の拘束具に魔力を込める。より多く、速くだ。

手首の枷が熱を持って震え始めた。

バキンッ!

吸い取れる魔力の限界量を超えたのか、手枷が弾け飛んだ。

今の一瞬でMPを250くらい一気に消費した。なんてヤバい拘束具だ。

「っしゃぁあぁぁ! おらぁぁぁぁ!」

「きゃあっ!?」

俺に跨ろうとするカリュネーラ王女を横にどかし、ステラの拘束からも脱して素早くパンツを上げて衣服の乱れを直す。

ぐおお、マイサンが暴れん坊になっておる。精力剤ぱねぇ。

「はっ、んっ……! に、逃げるのかしら? この臆病者! 女がここまでして逃げるなんて、男として情けないと思いませんの!?」

「クスリ盛って無理矢理貞操を奪おうとするようなのは一人で間に合ってるよ! いろいろ被ってるんだよ馬鹿!」

「なっ!? 私があのお馬鹿と被ってるですって!? 訂正なさいっ!」

ガーターベルトだけをつけたカリュネーラ王女がベッドの上に立ってむきー、と叫ぶ。

うん、すっごい色っぽいのは認める。マールよりも大きい胸がぷるんぷるんしてそれはもう眼福だ。

「だが断る。とにかく俺はマール専用なんでな、諦めろ」

そう言った瞬間、俺の背後の扉がバァンと音を立てて開いた。

接近していた気配がやっと到着したらしい。

「流石はタイシさんです! ド腐れビッチが誘惑なんて土台無理な話でしたね!」

「あ、あ、あばばばばばっ」

「陛下、お気を確かに」

振り返ると、そこに立っていたのはドヤ顔で腕を組んでいるマールと口を開けたまま振動する国王、そしてそれを支えるゾンタークだった。

ステラがそっとカリュネーラ王女にシーツをかけて肌を隠す。

「パパッ! そこの勇者に貞操を奪われてしまいましたわ! だからもう責任を取ってもらうってことで良いわよね!?」

「何を言っているんですか。タイシさんが相手にしたなら貴女はそんなに元気に立っていられませんよ! タイシさんは生娘だろうと関係なく失神するまで責める鬼畜ですから!」

「それフォローなの? ねぇ、それフォローなの?」

マールの言葉に思わず突っ込む。

王様は茫然自失となって何かうわ言を呟いているし、ゾンタークは何か悪い顔で考え事をしている。おい、何を考えているんだコラ。

「ぐぬぬ! いいからそいつを寄越しなさいよこのお馬鹿! なんで私より先に貴女が男を作ってるのよ!」

地団駄を踏みながらカリュネーラ王女がマールに指を突きつける。

おい、シーツ被ってるだけなんだから激しく動くなよ。お前には恥じらいが無いのか。

「ふふーん、私は城に引きこもって我侭三昧の貴女とは違うんです! お城を飛び出して自分の足でタイシさんを見つけたんですよ! 他人から取り上げるばかりの貴女との間に差がつくのは当然ですね!」

「アンタだって我侭三昧のお転婆だったじゃない! そんなのズルいわよ! ズルいわ!」

「それは過去の私です。私は尽くす女ですよ? ねー、タイシさん!」

「お、おう……」

なんなのこれ。ナンデ!? シュラバナンデ!?

というかカリュネーラ王女、口調のメッキが剥がれてますよ。

そんなことを考えていると、俺の腕に抱きついていたマールが俺の暴れん棒に気付いた。

がっしと握る。やめてください死んでしまいます。

「コレはなんですか? タイシさん」

「オレ、ワルクナイ。クスリ、モラレタ。オークノコウガン、イッテタ」

思わず片言になる。今のマールの声にはヒュンッ、ってなった。

というかあなた、愛人OKじゃなかったの? 宗旨替えしたの?

「アレはダメです。性根が腐ってます!」

「アンタに言われたくないわよ!? この前アンタの妹から手紙が来てたけど、アレ相当恨んでるわよ!」

「あー、あー、きこえませーん!」

ぎゃーぎゃーと口喧嘩をするマールとカリュネーラ王女。というかこれ、話を聞く限りアレだよな。

「お前ら、知り合いなのね。てか、幼馴染?」

「「こんなのが幼馴染だなんてとんでもありません(わ)!」」

ああ、そう。仲良いね君達。

あ、取っ組み合いを始めた。でもカリュネーラ王女、そんな手と手を合わせて組み合ったりしたら。

「!? ひゃあぁぁぁぁぁぁんっ!?」

「勝利! 悪は滅びました!」

腰砕けになってガクガクと痙攣するカリュネーラ王女と、それを足蹴にしてガッツポーズを決めるマール。

お前、それは反則だろ。

駆けつけたメイド達が前後不覚に陥っている王様を連行して行き、俺とマールはゾンタークに連れられて以前滞在した応接室のような場所に連れてこられた。

腰を落ち着け、メイドが出したお茶を飲んで一息つく。

「今回の件に関する侘びは後ほど」

「いらない」

俺の言葉に含まれた意図を感じ取ったのか、ピクリとゾンタークが身を震わせる。

というか帰らせて欲しい。

睡眠薬は効かなかったからいいんだが、精力剤の方は効いてるんだよ。

「王女はいらない、ノーセンキュー」

「……まだ何も言っていないのだが」

「カリュネーラ王女を押し付けるつもりでしょう?」

俺とマールの言葉にゾンタークが汗を垂らす。マジで押し付けるつもりだったのか、こいつ。

「そこをなんとか」

「断る。俺にはマールがいるんだよ。マールだけでいいの、OK?」

「そうですよ。もし妾を作るにしてもカリュネーラ王女はないです、いりません」

何でそんなに俺に王女を押し付けたいんだよ。こいつは。

性格的な問題か?

「確かに少々じゃじゃ馬なのは否めないが、カリュネーラ王女の美しさは男にとって魅力的だとは思わんかね? あれくらいのじゃじゃ馬を乗りこなしてこその男の甲斐性、勇者というものだよ」

「どうしてそこまでプッシュするんだよ。その辺りを詳しく話せ」

ゾンタークは溜息を吐き、お茶を一口飲んでから訥々と語りだした。

彼女に対する縁談はそれこそ十二歳頃から何度もあった。

王女を国内の貴族に嫁がせると国内のパワーバランスが崩れかねないため、基本的に他国の王族や有力貴族が嫁ぎ先の候補となる。

だが、カリュネーラ王女の性格が性格であり、しかも無駄に行動力があるため手に負えない。

国王やゾンタークら側近が持ってくる縁談を次から次へと蹴り飛ばし、既に嫁の貰い手がいないのだそうだ。

しかもやり方がエゲツない。

婿候補を街に連れ出して宿に連れ込み、恥ずかしいからと目隠しをさせ、目隠しを取ったらあっちの気があるお兄さんに囲まれてるとかそういうの。

そんなことを数件やらかし、噂が広がった結果そうなったらしい。

トラウマになるってレベルじゃねーぞ。俺もそんな女は嫌だ。

「だから、王女自らが自発的に嫁に行きたいというのは千載一遇の好機なのだ」

「そんなのを嫁に取れと言うか、貴様。俺の後ろの純潔が奪われたらどうしてくれる」

「マーリエル王女に慰めてもらってくれ」

そう言ってゾンタークが俺から目を逸らす。

おい、こっち見ろよ。おい。

「カレンディル王国としてはどうなんだよ。俺は大氾濫が終わればミスクロニア王国に行ってマールと正式に結婚することになるだろうし、もし万一俺がカリュネーラ王女を娶るとすればその次だぞ。世間的には妾、というか側室扱いだろ」

「そこは問題ない、タイシ殿は勇者だからな。勇者が王族の娘を娶るという前例は枚挙にいとまが無いし、複数の王家の娘を娶った勇者もいる」

英雄色を好むってやつか。

いや、複数の王女が嫁いだってのはそれ以上に政治的な色合いが濃そうだなぁ。そういうめんどくさいのは嫌なんだが。

俺はマールと二人で冒険したりイチャイチャしたりしていたいだけなのに。

「やっぱやだ。なんで俺が引き取らなきゃいかんのだ。間に合ってます、帰って、どうぞ」

「まぁまぁ勇者殿。ここで我が国に恩を売り、王女と言う繋がりを持っておくのは決して損にはならんよ。名目上だけでも良いのだ。正妻と妾ということであれば別居するというのは珍しいことではないし、一緒に行動しないのも武術や魔術の心得が無くて勇者殿と一緒に行動するのに適さないと言うことであれば仕方ないしな。私と勇者殿の仲ではないか、ここは私の顔を立てると思って、な? この通りだ」

そう言ってゾンタークは俺に頭を下げた。

ぬぅ……確かにゾンタークにはあれこれとお世話になっている。

屋敷に関しては暗殺の件に関する対価としても、ジャック氏やメイベルを派遣してくれたのはゾンタークのおっさんだ。

それに武器を他国にも流すという件に関してはゾンタークのおっさん任せだ。俺一人じゃ絶対に他国に供給することはできなかっただろう。

「だ、だめですよ! タイシさん! だめったらダメです!」

俺が考え込んだのを見て、マールが慌てたように俺の腕を引っ張る。

「むぅ……しかしだな、マール。色々あれこれ差し引いたとしてもゾンタークには世話になってる。名目上だけなら良いんじゃないか? それに、マールだって大量に作った回復薬をゾンタークのおっさん経由でミスクロニア王国に送ってもらっただろ?」

俺の腕を引っ張って抗議するマールを諭す。

マールも溜め込んでいた回復薬をミスクロニア王国に送っているのだ。マールにだってゾンタークには義理がある。

そのゾンタークが頭を下げてまで頼み込んできているのだ。

「俺達の生活に影響が無いなら、ここは義理を果たすのもありじゃないか?」

「む、むむむ……だ、だめです」

苦しげな表情をするマール。

ここはもう一押しか。

「心配するなって、別居しても良いということだし名目上なら問題ないだろ? な?」

「ぐ、ぐぐ……」

遂にマールが折れた。

ゾンタークが満面の笑みを浮かべる。

「そうか! 引き受けてくれるか! いやぁ、良かった良かった! ハッハッハ!」

こうして俺はカレンディル王国の第二王女と婚約することになった。

「それにしても滞在中は全く接触が無かったのに、なんでまた今更接触してきたのかね」

「例の発表が切っ掛けだと思います。城に滞在していた頃はカリュネーラ王女に私とタイシさんの存在が知られないようゾンターク侯爵が情報を遮断してましたしね」

帰り道、馬車の中でマールはそう言った。

そして物憂げな表情で溜息を吐く。

「あの子は昔からそうなんですよ! 私みたいな同年代くらいの子が自分の持っていないものを持っているのを見ると、我慢が利かないんです! 今回の件だって私がタイシさんとよろしくしているのを見て羨ましくなったに違いありませんよ!」

興奮気味に断言するマール。

やっぱり幼馴染なんだな。まぁ隣国の王女同士だからありえるのか。

そんなことを考えていると、マールが俺の腕を掴んでジッと俺の顔を見つめてきた。

「ダメですからね。一番は私ですからね」

「心配しすぎだろ……」

苦笑しながらマールの頭を撫でてやる。

屋敷に帰ってもマールがぴったりくっついて離れなかったので、そのまま寝室に連れ込んでイチャイチャした。

精力剤の効果は凄かった、とだけ言っておく。水道の蛇口かよ。