作品タイトル不明
第111話〜討伐軍を追撃しました〜
「うーん、今日も良い朝だ」
自分を含めて部屋の中全体に浄化をかけながらグッと伸びをする。いや、ほんとにこの生活魔法の浄化ってのは便利だよね。どうやって汚れとそうでないものを区別しているのか、そして汚れはどういう原理で消えるのか不思議でならない。まぁ解明する気もないけど。
「あんなことまで……このケダモノぉ……」
「そんなこと言って最後の方はノリノリだったじゃん? 蕩けた顔で」
「わーっ! あーっ!」
顔を真赤にしたネーラが一糸纏わぬ姿のまま俺の口を塞いでくる。ははは、可愛いやつめ。朝から怒らせても仕方がないので子犬みたいにプルプル震えているネーラを落ち着くまで抱っこしてなでなでしてやる。
「うう……なんだかあなた、私には意地悪じゃありません?」
「可愛いからついな」
「むー!」
膨れたネーラがポコポコと胸を叩いてくる。何この可愛い生き物。そんな感じで朝からネーラといちゃついていたらステラが起こしに来て寝室から追い出された。お姫様のお召し替えをするということだが、そのために俺をパンツ一丁で部屋の外に追い出すのはどうかと思う。
「なんちゅー格好で徘徊しておるのだ、主殿」
仕方ないのでパンツ一丁のままリビングに行ったら速攻でクスハに見咎められた。
「いや、ステラに部屋から追い出されてな」
「どこかで着替えてくれば良いじゃろ……」
「だってリビングのが暖かいし」
ストレージから服を取り出していそいそと着る。うん、クスハの織ってくれたシャツは肌触りが最高だな。着替えたら身支度を整え、デボラ達の作ってくれた朝食を食べて出陣である。
今日の装備はミスリル製の鎧という目立つ装備だ。ミスリル製の防具はね、キラキラしちゃうんだよね。仕方ないね。またペロンさんと一緒に魔王っぽい意匠の鎧でも作るかね。今度は魔物素材をふんだんに使ってさ。魔物の頭蓋骨を無意味に両肩に配置したりして。
最後に極光剣の刀身を確かめ、砲撃モードへの変形も試してから鞘に収める。
「んじゃ行ってくるわ」
振り返ると、嫁達が全員見送りに来ていた。うん、こうやって総出で見送られるとなんというか感慨深いものがあるな。皆を守って何不自由無い生活をさせられるように頑張ろう。
「タイシさん、無事に帰ってきてください」
「大丈夫大丈夫、神々が相手でもなければ俺が遅れを取ることなんてありえないから。安心して待っててくれ。フラム、受け入れ準備を頼むぞ」
「はい、おまかせください」
今日はフラムも鎧や剣を身に着けた騎士モードだ。くっ、殺せ! とか言いそう。なんだかんだで一番衣装のバリエーションが多いよね、フラムは。
「他の皆も危険のないように、注意してくれ。捕虜が暴れだしたりするかもしれないからな。マールとメルキナは特に危ないことしちゃだめだぞ」
「はい!」
「わかってるわよ。そっちこそ気をつけてね」
「ああ、それじゃあな」
魔力を集中し、飛行の魔法を発動してふわりと浮かび上がる。手を振る皆に手を振り返し、十分に高度を取ってからクローバーの北に向かって加速した。
クローバーの城壁の外、戦場となった更地に何匹かの魔物の姿が見える。恐らく戦場にまだ残っている血臭に誘われて大樹海から出てきたんだろう。始末していこうかとも思ったが、戦場に死体は残っていないはずだし、あの程度の魔物がクローバーの外壁に何かをすることができるとは到底思えない。ここは放置していくとしよう。
クローバーの北には侵攻軍が切り拓いたと思われる道がずっと北まで伸びている。一体どうやってクローバーに向かって進軍してきたんだろうか? クローバーから東西に街道を伸ばすのは簡単だ。コンパスがあればそれだけで何とかなるし、そもそも俺にはメニューのマップ機能があったからな。
だが、大樹海の外からクローバに向かってまっすぐ道を切り拓いてくるというのはちょっと異常だ。どこにあるかもわからないはずの街に一直線に向かってくるなんてことができるわけがない。
「これは明らかに手が入ってるよなぁ」
切り開かれた道の上をまっすぐに飛びながら独りごちる。いや、もしかしたら何か未知のマジックアイテム的なサムシングを利用した結果かもしれない。神々の介入ががあったんじゃないかと決めつけるのは早計だ。
そうして暫く飛んでいると、落伍者らしきモノが転々と見えてきた。行軍に耐えられなかったのか、それとも行軍中に魔物に襲われて助からなかったのか……決して少なくない数の遺体の痕跡がポツポツと現れだしたのだ。それは地面に広がる血溜まりと骨片の痕跡だ。
骨も殆ど原型を留めていない。恐らく骨も貪り喰われたんだろう。ああはなりたくないもんだな。
北へ飛び始めて大体一時間経った頃だろうか、ついに前方に撤退する侵攻軍が見えてきた。向こうからもこちらが確認できたのか、蜂の巣を突いたような騒ぎだ。そんな彼らを観察しながらぐるりと回りを何周かしてその数や状態を確かめる。んー、大体千人弱といったところだろうか。もし全員が一斉に降伏してきたら捕虜収容所を拡張しなきゃならないな。
空中でそんなことを考えていたら切り拓かれた道の左右から魔物達が現れて侵攻軍を襲い始めた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!? 魔王の下僕が襲ってきたぞー!」
「ひぃぃぃっ!? 死にたくない! いやだぁぁぁぁぁっ!?」
「いだいっ!? だずげでぇっ!?」
上空の俺に注意を払っていたせいで初動が遅れ、阿鼻叫喚である。別に俺が魔物を操ってるわけじゃなく、お前らが騒ぐから魔物が誘き寄せられてきただけだと思うんだが……しかし見捨てるのも可哀想になってきたな。兵の大半は徴用された農民だって話だしな。うーん、仕方ない。
魔力を集中し、 魔砲(マジック・カノン) の魔法で魔物達を薙ぎ払う。魔砲は収束した魔力を極太のレーザー状に発射する魔法だ。着弾地点で大爆発を起こす極大爆破と違って攻撃範囲が限定的で、こういう状況での援護に向く。薙ぎ払えるから爽快感もあるしね。
俺の魔砲で薙ぎ払われた魔物達が塵も残さずに蒸発し、撫でられた地面が高温でガラス化していく。流石に魔物達も何度も薙ぎ払われてたまらないと思ったのか、散り散りになって逃げていった。
後に残されたのは負傷者多数の侵攻軍と、上空に留まり続けている俺だけである。侵攻軍の兵達は俺の一挙一投足に戦々恐々としてるんだろうな、これ。今の戦闘で俺が自分達を一方的に蹂躙できるというのは解ったはずだし。
「あー……降伏して武装解除するなら捕虜として扱ってやるが、どうする?」
ガチャガチャガチャン、と金属音がさざ波のように広がっていく。うん、そうなるよな。なんか声を張り上げている奴が何人かいるようだけども。めんどくせぇなぁ。
集団の中心で何事か喚いている連中を無視して俺の背後に魔物避けの結界を構築する。魔力を篭めた神銀製の杭を適当に投擲して基点としたので形が微妙に歪だが、ちゃんと結界としての機能を持っているなら問題あるまい。
「投降するやつは俺の後ろの結界の中に移動しろ! 魔物避けの結界だ。負傷者も連れて行ってやれ。重傷者は俺のところに連れてこい。さぁ、動け!」
俺の言葉に従って多くの兵が移動を開始する。泣きそうな顔をしながら結界へと駆けていく者、負傷者に肩を貸して結界へと入っていく者、数人がかりで重傷者を運んでくる者、そして結界へと入っていく兵達に向かって喚き声を上げる者。
何かしら具体的な行動に出るかと思って警戒していたが、そんな度胸も無いようなので手早く半死半生の重傷者を治癒魔法で治療していく。手足の欠損があるやつもいるようだが、とりあえず傷だけ塞いで手足の欠損はクローバーに戻ってからだな。あれはちょっと時間かかるし。
最後の重傷者を治療しようとした時だった。
「シッ!」
重傷者に付き添ってきた男が腰の後ろからダガーを抜き、俺の腹めがけて突き出してきた。うん、こういうやつも居るよね。
「悲しいなぁ」
ダガーを持った手首を左手で掴み、魔力を篭めた右の拳で突きかかってきた男の顔面をぶん殴る。棒でスイカを叩き割ったような音が響き渡り、男の首から上が血煙となって吹き飛んだ。
血飛沫を浴びないように死体を風魔法で吹き飛ばす。
吹き飛んだ死体が湿った音を立てて地面に落ち、水を打ったように場が静まり返った。
「悲しいよ、こうして慈悲を見せたってのにこれだ。素直にお行儀よくしていてくれればよかったのにな」
心の底が冷えていくのを感じながら、最後の重傷者を治療する。
「お前達も、今のやつの仲間か?」
俺の質問に今しがた重症を治療された男と、もう一人の付き添いがブンブンと首を横に振る。
「ならよし。結界の中で待ってな」
実際の所本当にそうなのかどうかはわからないが、今の光景を見てもなお刃向かってくるなら大したもんだよな。ああ、やだやだ。こんなことはしたくないね。
俺は振り返り、結界の中で震えている男達に宣言する。
「いいか、お前らに言っておく。お行儀よくしろ。迷惑をかけるな。そうすればメシも食わせてやるし、治療もしてやるし、最終的には国に帰してやる。俺は慈悲深いし、できることなら人殺しはしたくないんだ。だがな、俺の家族に、クローバーの住人に刃を向けるなら話は別だ。あそこで転がってる阿呆のように無惨にぶち殺してやる。いいな? どうした? 返事をしろ」
「「「「はい!!」」」」
「よろしい」
再度振り返り、投降しなかった侵攻軍に視線を向ける。ふむ、半分くらいかな? こうして同じ高さで見ると正確な数がわからんな。
「投降しなかったお前らは俺の敵ってことになる。だから皆殺しだ」
魔力を集中し、燃え盛る火球を無数に作り出す。一発一発が十分に人間を焼き殺せる威力だ。
「ほら、逃げろ逃げろ。でないと焼き殺すぞ? ほらほら行け!」
侵攻軍の近くに何発も着弾させ、火の海にしてやる。敢えて直撃はさせず、追い払うつもりだ。今から投降した奴らを収容しなきゃならんし、こいつらに構っている時間が惜しい。
一思いに殲滅するのは容易いんだが、こいつらにはクローバーに攻め入ったことを死ぬほど後悔してもらわなきゃならん。昨日の話し合いの結果、すぐに投降しなかった奴らはこうやって追い払って死の行軍を続けてもらおうということになったのだ。残酷な仕打ちではあるが、そもそも攻め入ってきたこいつらが悪い。
俺は奴らの姿が豆粒のように小さくなるまで火球で脅かして追い払い、残りの怪我人を大雑把に治療してから現場に残された武器を回収し、クローバー行きの転移門を開いた。やれやれ、ここからが本番だ。
☆★☆
帰ってからが大変だった。捕虜収容所の拡張、治療、並行して炊き出し、食料逼迫のピンチ、急遽肉を狩りに樹海に飛ぶ俺。帰還二日目の悪夢再びである。ただでさえ五百人も捕虜がいたのに、更に四百人ほどの捕虜が追加された。なんとクローバーの人口より捕虜が多いのである。由々しき事態だ。
「捕虜が多すぎるのう」
城壁の上から夕日に照らされる捕虜収容所を見下ろし、クスハが呟く。
「ほんとにな」
このままではクローバーの食料備蓄がマッハで尽きる。人口の二倍近い捕虜が食う食料の量は莫大だ。明日、明後日に尽きるということはないが余裕があるわけでもない。自分達が必死に集めた食料が攻め込んできた敵兵に浪費されるという状況は国民感情的にも大変よろしくない。
「出身国別に分けて首都に送りつけてしまいましょう。面倒見きれません」
フラムの目が据わっている。確かに、俺達がそこまで責任を持つ必要はないんだよな。経緯を考えれば着の身着のままで放り出しても非難はされないだろう。
「んじゃ、今日中に国別に分けてもらうか……フラム、悪いが手配を頼む。クスハはネーラに言ってカレンディル王国にその旨伝えるように言ってきてくれ。具体的な人数は追って伝えるということで」
「わかりました」
「うむ」
俺は独り城壁の上に残り、眼下の光景をじっくりと目に焼き付ける。自身の命がとりあえず安泰であることに胸を撫で下ろし、炊き出しに列を作る男達……彼らは、このクローバーを侵略すべく武器を持って押し寄せてきた男達だ。
もし、このクローバーに彼らを撃退するだけの力が無かったとしたら……この街は彼らの手によって完膚なきまでに蹂躙されていただろう。
彼らの目的はこの街の占領と、亜人奴隷の収奪だった。抵抗する者は容赦なく殺されただろうし、人間に近い容姿の者であればもっと酷い目に遭ったかもしれない。殺し合いの狂気は人を容易くケダモノにしてしまうからな……俺にとっても苦い記憶だ。
もしかしたら、嫁達の誰かがその手にかかっていたかもしれない。俺の子供を宿したマールやメルキナだけでなく、他の嫁達もだ。考えるだけでゾッとする。
結果として、神々との試練に臨む前に城壁を急ピッチで完成させ、飛翔魔弾や携行型魔導砲の開発を終えていたことが功を奏したわけだ。いや、クローバーの住民には高い戦闘能力を持つ者がそれなりにいるから、意外と撃退していた可能性もあるけども。
「んー……」
互いの無事を喜びあい、笑顔すら浮かべている男達を見下ろしながら考える。果たしてこれは正解だったのだろうか、と。こうして助けた男達が再びクローバーを侵略しにくる、なんて未来も十分にあり得るのだ。
ネーラも言っていたよな。王族や貴族の力の源泉は、結局のところ民なのだと。民にダメージを与えることが結果的に王族や貴族の力を削ぐことに繋がると。働き盛りの男達が大量に死ぬ、というのは国家にとって手痛いダメージに違いない。およそ九百人の男達が生み出す労働力は莫大なものだ。
いっそ皆殺しにしたほうが勇魔連邦にとっての利益に繋がったかもしれない。そう思わないでもない。だが、どうしてもそこまで割り切って考えることはできそうになかった。人死には少なければ少ないほうが良いよな、という意識がどうしても抜けきらない。我ながら甘いな。
俺は一応勇魔連邦の国家元首なんだよな……こんなことでいちいち思い悩んでいて良いんだろうか? こんな甘い考えは捨てて、非情に徹したほうが良いんじゃないだろうか。
「旦那様?」
左腕にそっと何かが触れる感触。首を巡らせてみると、ティナが心配そうな表情で俺の顔を見上げていた。もしかしたら何回か呼びかけられていたのかもしれない。
「ああ、どうした?」
「いえ、何か思い詰めたような顔をしていたので……大丈夫ですか?」
「うーん、大丈夫っちゃ大丈夫。ちょっと悩んでただけだ」
「それは大丈夫じゃないのでは?」
「かもな。聞いてくれるか?」
頷くティナに俺は先程まで考えていたことを吐露してみた。つまり、捕虜なんか取らずに皆殺しにしてしまったほうが良かったのではないか、ということをだ。回り回って解放した捕虜が再びクローバーへと攻め寄せてくるかもしれない。それが心配だと。俺は非情になりきれない、中途半端な奴だと。これでこの先やっていけるのかと。
「そうですね、確かに旦那様は甘いです。砂糖菓子や蜂蜜のように。或いは、幼い子供や穢れを知らぬ乙女の夢のように」
「そこまで甘いかな!?」
「甘々です。旦那様、これは戦争なんですよ? 相手はこのクローバーやそこに住む住人達を狙って襲い掛かってきたケダモノです。本来魔物に向けるべき力を人間に向けてくる、魔物よりもたちが悪い大罪人達です。そんな者達にまで慈悲をかけ、更に手にかけたことを悩む旦那様を甘いと言わずに何を甘いと言えば良いのでしょうか?」
「あ、いや、なんかすんません」
ティナの気迫に気圧されてついつい謝ってしまう。ティナはそんな俺を見て微笑み、表情を緩めた。ティナの小さく、柔らかい手が俺の手を温かく包み込む。
「でも、このクローバーは、勇魔連邦はそんな旦那様の甘さ――優しさでできた国です。旦那様は優しいです。優しすぎます。でもそれはこの世界にっとってはとても稀有で、尊いものです。捨てる必要はありません。それで傷つくこともあるでしょうけど、その時は私達が旦那様を支えますから。独りで悩んだりせず、私達に打ち明けて、頼ってください。甘えてください。いいですね?」
「お、おう……」
「それに、旦那様の優しさがこれだけの人を生かしたのです。それで良いじゃないですか」
「そう、かねぇ?」
「そうですよ。旦那様以外の誰もこんな人数の捕虜を安全にここまで連れて来られません。私や姉様、クスハさんが指揮を執っていたら捕虜なんて取らないでしょうし」
捕虜を取らないということは、つまり皆殺しということだよな。サツバツ!
「そうだな……うん、悩むのはやめた。今まで通りで行く。でも今回の侵攻を企んだ奴らはぶっ殺す」
「はい、それでいいと思います」
ティナの笑顔を見てなんとなく心が晴れたような気分になる。言い包められたような気がしないでもないが、ティナの言うことももっともだよな。殴りかかってきた相手を殴り返してる、ただそれだけの話といえば確かにそうだ。それにこれは子供の喧嘩じゃなく、ガチガチの殺し合い、戦争なわけだし。
でも戦争だからって思考停止してぶっ殺しまくるのはちょっとどうかと思うから、出来る限り人死には抑える。しかし首謀者殺すべし、慈悲はない。あとこっちの善意につけこんで来る奴にも慈悲はかけない。そういうスタンスでいこう。
「うん、腹は決まった。ありがとう、ティナ」
「どういたしまして。館に戻りましょう、今日はデボラさんがご飯を作ってくれている筈ですよ」
ああ、と返事をしながらティナの手を握って歩き出す。今日の献立はなんだろう、と予想しあいながら夜の帳が降りつつあるクローバーの道を歩く。今日、俺のやったことがこんな穏やかな時間を守る一助となったのかな、と思うと満更でもない気分になった。
食後は久々に工房に篭って色々な小道具作りに邁進した。ネーラに言われてたトレジャーバッグとか、非殺傷武器(痛くないとは言っていない)とか。
今日の夜のお相手? ご想像におまかせするよ! おっぱいって最高だよな。