軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第98話  欧州議会議員選挙

外出は途中で中止となり、生徒たちは全員修道院へ戻ってきた。

「怪我人が出たと聞いてましたが大丈夫でしたか?」

修道女(シスター) はホールに集まっていた俺たちに慌てた様子で声を掛けてきた。

「ええ、なんとか全員無事です」

エミリーの怪我は回復魔法で治しておいたが、ショッピング・モールは大騒ぎになり警察や軍隊まで出動してしまう。

後から警察が事情を聴きにくると 修道女(シスター) は告げ、俺とフィリップ先生は 修道女(シスター) と共に院長室に行くことになった。

【修道院長室】

「何があったんですか? 我々も断片的な情報しかないので、どうしてこうなったのか分からないですが」

院長が深刻な顔で聞いてきたことに、フィリップ先生が答えた。

「突然知らない男が子供に危害を加えまして、驚いたエミリーが能力を暴走させたんだと思います」

院長は俺にも聞いてきたので‥‥‥。

「俺が付いていながら申し訳ありません。騒ぎを抑えきれませんでした」

「いえ! 五条先生がいたからこれくらいで済みましたが、下手をすればもっと被害が出ていたかもしれません」

フィリップ先生は俺をフォローしてくれたが、俺の失敗であることは間違いない。それを聞いていた院長と 修道女(シスター) が顔を見合わせる。

「そうですね‥‥‥五条先生がいてくれたのは不幸中の幸いでした」

修道女(シスター) はそう言ったが、院長は厳しい表情で 呟(つぶや) く。

「子供たちに怪我が無かったのは良かったですが、今回のことが大きな問題になるかもしれません」

「問題ですか?」

「この施設のことを良く思わない住民の方は多いんですよ。実際、修道院が異能者の子供を受け入れることを表明した時は、かなりの反対署名が集まりましたから」

やっぱり異能者に対して抵抗感を持つ人は多いんだな。仕方ないことかもしれないが‥‥‥。

結局このニュースはフランスだけじゃなくEU圏内を始め、世界中で報道された。これを見た人たちは、より異能者に対する警戒心を強くしていくんだろうな。

ショッピング・モールで拡大していく黒い玉を見た時は、最悪ヒュドラを召喚して消滅させようかとも考えたが、やらなくて良かった。余計、 大事(おおごと) になる。

修道院は警察の調査を受け、当面の間子供たちの外出は禁止とする命令が出た。その内容を教室で子供たちに伝えなきゃいけないと思うと気が重くなる。

「――っというわけで、しばらくは外出できなくなった。なるべく早く再開できるようにするから、あんまり気落ちすんなよ」

明るく言ってみたが、子供たちは思った以上に落ち込んでいる。それに――

「エミリーはどうだ。宿舎にいるんだろ?」

「ずっと落ち込んでるよ‥‥‥しばらくは出てこられないと思う」

「そうか‥‥‥」

後からノアが教えてくれたが、傷つけられたことより自分のせいで他の子供たちが外出できなくなったことを相当、気にしてるようだ。

なんとかしてやりたいが‥‥‥。

◇◇◇◇◇◇◇◇

五条先生の話を聞いた後、僕たちは宿舎に戻ってきた。授業はしばらく中止するよう要請が出ているため、他の生徒も疲れた様子で自分の部屋に入っていった。

僕のせいだ‥‥‥。エミリーは外に出るのを嫌がっているように見えた。何か不吉な予感でもあったのかもしれない。

だけど僕が無理やり連れだして‥‥‥。なのにエミリーを守ることもできなければ、暴走するエミリーを止めることもできなかった。

自分の無力さに腹が立つ!

五条先生はどうやってエミリーの暴走を止めたのか分からないけど、僕も先生みたいに強ければ‥‥‥。でも“賢者”って職業でどうやって強くなればいいんだ?

「あんまり気にするなよ。ノア」

相部屋のアーサーが声を掛けてくれた。よほど思いつめた表情だったかな‥‥‥。

「ああ、分かってるよ」

今は分からなくても、いつかエミリーが‥‥‥異能を持つ子供全員が差別されない世の中になるように、できることをやっていこう。

◇◇◇◇◇◇◇◇

修道院の食堂でフィリップ先生とテレビを見ていた。相変わらず、ショッピング・モールでの出来事をどのテレビ局も取り上げている。

「報道の仕方も修道院や政府を批判するものが多いですね」

異能者の子供を一般施設に出入りすることを許した政府に対する批判がほとんどだが、修道院の存在そのものを問題視するコメントなどもある。

「今、テレビを見ると批判一辺倒に見えますが、みんながみんな修道院に反対なわけではないんですよ。応援してくれる住民の方も大勢いますし」

意見が真っ二つに割れてるのか‥‥‥。

「ただ今回のことは時期が悪かったかもしれません」

「どういうことですか?」

「五条先生は欧州議会議員選挙のことをご存じですか?」

「いえ、よく知りませんが」

EUの選挙か‥‥‥? 日本ではほとんどニュースにもならないな。

「来月選挙が行われるんですが、一つの争点を巡って勢力が割れてるんですよ」

「それって、まさか‥‥‥」

「異能者の扱いについてです」

そこでも問題になってんのか‥‥‥欧州議会ってどれくらい影響があるんだろう。この修道院の運営にも関わるのか?

「欧州議会の選挙は五年に一度行われますが、今回の選挙は異能者の社会的排除や隔離を主張する議員が票を伸ばしてるんです。フランスは中道派の議員が多かったんですが、次の選挙では左派の議員が増えるんじゃないかと‥‥‥」

「フランスも異能者に対して排他的になるってことですか?」

「必ずそうなるとは限りません。しかし影響がありそうなのが次の欧州議会議長ですね。最有力なのがドイツのハンス・ベレントですが、この人は異能者に厳しい発言をすることで有名です。フランスも影響は避けられないと思います」

うわ~なんだか、めんどくさいことになりそうだな。

◇◇◇◇◇◇◇◇

【ドイツ・ベルリン ―ハンス・ベレント―】

「票の取りまとめは問題ないか?」

「はい、つつがなく。ドイツ国内での投票では我々の会派で議席を独占できるでしょう。他の国でも異能者排除の議員が伸びてきています」

「フランスはどうだ?」

「中道派と拮抗していましたが、今回フランス国内で起きた異能者の事件の影響で票が減ることが予想されます」

「ありがたい時に問題を起こしてくれた。異能者に感謝しなくてはな」

私が以前から主張してきた異能者の危険性がようやく社会で認知されてきた。欧州議会で私の意見が多数派となれば、異能者に対する本格的な立法も可能だ。

「しかし、EUでは依然として 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) の人気は絶大です。彼らに賛同して我々に対抗する議員も根強いかと」

「 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) か‥‥‥目障りな連中だ」

だが、奴らが功績を上げているのも事実だ。排除するためには 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) が、もはや必要ないということを欧州の人々に知らしめないといけない。

「まあ、奴らを社会から退場させる方法は考えてある。 人(・) 間(・) で(・) は(・) な(・) い(・) 連(・) 中(・) に名誉など必要ないからな」