軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第88話  矛盾

「フレイヤに行かせるのか?」

グレスから神竜についての話を聞いた。戦っている五条に伝える必要はあるだろう。だが、フレイヤに行かせるのは危険すぎる。

「レオ、私は行く。魔法は使えないけど、ゴジョーを呼びに行けるのは私しかいない。自分にできることをしたいの」

グレスから聞いた話が本当なら確かに五条に勝ち目はない‥‥‥ここにいる全員が五条の凄まじい強さを目の当たりにしている。その五条が勝てないなど信じたくはないが、そんなことを言っている場合じゃない!

「分かった。俺たちも援護する。気を付けろよ」

フレイヤは 傍(かたわ) らにいた飛竜に 跨(またが) り、その場を飛び立った。

◇◇◇◇◇◇◇◇

炎竜王は口に魔力を集めた。ヒュドラが仕掛けてくる前に一撃で決める。口から破壊の火球を放つ――

「――破滅の息吹――!!」

真っ直ぐにヒュドラに襲い掛かった火球は凄まじい光となって広がり、ヒュドラを炎熱の中に飲み込んだ。とてつもない爆発が空を覆い尽くす。

タイタンほどの魔法防御が無ければ効くはずだ。そう思っていると――

「きゃああああーーーーーー!」

悲鳴で気づいたがフレイヤが飛竜に乗って、こっちに来ていた。爆発に巻き込まれて吹き飛ばされている。

「何やってるんだ‥‥‥」

瞬間移動で助けに向かう。近くに行くとフレイヤの周りに風の防壁があり、フレイヤを守っていた。レオの力か‥‥‥。

レオたちも爆発の影響で飛ばされかけていたが、エリアスの“結界術”のシールドでなんとか耐えている。

「何でこんな所まで来たんだ! 危ないだろ!!」

「ゴジョー‥‥みんなの所に戻って、グレスがあなたに伝えなきゃいけないことがあるって」

「伝えなきゃいけないこと? なんの話だ!?」

「黒いドラゴンについてよ。このままだとあなたはあのドラゴンに勝てない。お願い! 私たちを信じて」

正直よく分からないが、何か重要なことを伝えようとしてるんだろう。

「分かった」

瞬間移動でフレイヤや飛竜と共にレオやグレスのいる場所へ戻った。突然、目の前に現れたため、かなりビックリした様子だ。

「五条!! あの竜と戦っても勝ち目はないぞ!」

グレスは鬼気迫る表情で訴えてきたが、勝ち目がないと言われてもな‥‥‥ヒュドラは今、爆発の煙幕の向こうにいる。

さすがに無傷ではないだろうと思っていると――

三つの首の雄叫びによって炎と煙は吹き飛び、黒銀に輝く巨躯を見せつけるように大空で翼を広げ威圧するように羽ばたいた。

莫大な魔力を集め三つの口から光り輝くブレスを放つ!! 光が直撃した炎竜王は為す術なく消滅していく。

炎竜王を一撃で‥‥‥強すぎる。

それに攻撃自体が効いてない!?‥‥‥‥おかしい、手応えが無いぞ‥‥‥単に防御力が高いだけじゃないのか?

「あいつへの攻撃は無駄なんだ。お前の力でも‥‥‥」

「どういうことだ!?」

「あの竜は“絶対防御”の固有スキルを持ってる。どんな攻撃も無効にするんだ」

「絶対防御!?」

それが本当なら攻撃しても手応えがない理由にはなるが‥‥‥。

「グレスはヒュドラのステータスが見えるのか!?」

「見える。俺の持つスキル“魔眼”はあらゆるステータスを確認できる。絶対防御だけじゃない、あいつが放つブレスはあらゆる物質やエネルギーを原子分解する。防御不能の攻撃だ」

防御不能の攻撃‥‥‥思ってた以上にとんでもない奴だ。

最強の 盾(たて) に、最強の 矛(ほこ) をあわせ持つ、 矛盾(むじゅん) か‥‥‥。俺たちが話していると、ヒュドラはこちらに気付いたようだ。消滅の光を放つ。

光は大地をえぐり、そこにあった全ての物質を消滅させる。

俺は時間を止めて全員を移動させた。ヒュドラの背後、かなりの距離を取ったので少しは時間を稼げるだろう。

唐突に移動させたのでみんな驚いているが、二度目の経験なので俺の能力だと理解してるようだ。

「だとしたら俺でも勝てない。ここは撤退するしかないだろう」

俺の言葉にグレスを始め、レオやフレイヤも 俯(うつむ) き反論する者はいなかった。ここにいる人間を逃がすくらいは難しくないからな‥‥‥。

ヒュドラはこちらに気づき空中で旋回して向かってくる。俺は全員を逃がすため亜空間に瞬間移動するための亀裂を作った。

攻撃される前に避難しようと思っていたが、ヒュドラは空中で止まりこちらとはまったく別の方向を見つめている。

「どうしたんだ‥‥?」

レオが 怪訝(けげん) そうに言うと、竜は三つの口に魔力を集める。見つめている方向に凶悪な光を放つ、何をしてるのか分からなかったが‥‥‥。

ヒュドラが光を放った方向を“千里眼”で確認してみる。

かなり離れた海に戦艦の残骸のような物が沈んでいくのが見えた。炎上している部分もある。これは‥‥‥。

レオも、ルカに頼んで“千里眼”を使ったようだ。ルカは一目見て状況を理解した。

「NATO軍の海上部隊だ。全滅している」

ルカの言葉にレオは苦々しい顔になり、絞り出すように呟いた。

「あの距離を攻撃できるのか‥‥‥もしアイルランドやフランスなどに行かれたら壊滅的な打撃を受けてしまう。俺たちが逃げるわけにはいかない」

「そうはいっても倒す方法が無い以上どうすることもできないぞ」

俺もできれば逃げたくはないが、それ以外どうしていいか分からなかった。ヒュドラもこちらに向き直り鷹揚に羽ばたき襲ってくる。

緊迫した空気の中、グレスが口を開く。

「一つだけあいつを倒す方法があるかもしれない。サルマンの――」

ヒュドラは三つの口から光を放つ。何が何でも俺たちを殺したいようだ。あるいは 俺(・) を(・) 殺したいのか?

消滅の光が周りを飲み込んだ時には、時間を止めて全員を移動させていた。

「おおう!?」

グレスやレオたちが相変わらず驚いている。止まった時間の中で強制的に動かされるんだから当然、違和感しかないだろうな。

「それで、ヒュドラを倒せる方法ってなんだ?」

「あ、ああ、俺たち 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) に武器を与えてくれたサルマンという奴がいるんだが。持っている武器の中に“竜殺しの剣”というのがあるんだ」

「それは神竜でも殺せるのか!?」

「恐らく‥‥使いこなせればあらゆる物を切り裂けると鑑定に出ていた。“絶対防御”を確実に破れるかは分からないが、もし神竜に勝てる可能性があるとしたら、あの武器しか考えられない」

グレスの話に何か思い当たったのか、レオが口を 挟(はさ) んだ。

「それは、魔力を吸収する剣のことか?」

「ああ、レオの旦那。あの誰も扱えなかった剣だ」

魔力を吸収する? そんな変わった剣があるのか‥‥だとしたら――

「だがグレス、アレはもの凄い魔力を消費するんだぞ。五条はすでに大量の魔力を消費している。これ以上消費すれば命にも関わるんじゃないのか?」

「いや‥‥五条なら大丈夫だ。この男は“無限魔力”のスキルを持ってる」

それを聞いて周りがざわついた。異能者であれば魔力を無尽蔵に使えるということがどういうことかはすぐに分かるはずだ。

「凄いな‥‥俺のステータスも確認できるのか?」

「ああ、お前が異常な能力を持ってるのは分かってる。最初は恐怖しか感じなかったが、五条! もう、お前に頼るしかない」

「分かった。それでその剣はどこにあるんだ?」

「ドイツのドレスデンにあるサルマンの研究所だ。お前の瞬間的に移動する能力で行けないか?」

ドレスデンか‥‥‥行ったことがないな。ベルリンならあるんだが、瞬間移動は明確なイメージができないとその場所に行けない。こんなことなら“厄災の日”の前に色々な場所に行っておけばよかった‥‥‥。

「ベルリンからは遠いのか?」

「だいぶ距離があるな‥‥」

ベルリンまで移動して高速で飛行すればなんとか行けるか‥‥‥。

「最速でも20~30分はかかる。やはり一旦全員で避難しよう」

俺の意見にレオは首を横に振った。

「今あいつから目を離せば、どこに行くか分からない。人がいる所に行けば甚大な被害が出るし、深淵の穴に戻ってしまったら追跡が困難になるだろう。俺なら大気を操ってあいつを飛べなくすることができる。グレスを連れていってくれ!」

レオからは明確な決意を感じる。他の 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) のメンバーもレオと同意見のようだ。レオのことを本当に信頼してるのが分かる。

「行って、ゴジョー。ここは、私たちがなんとかするから」

「頼んだよ。五条、俺たちが死んじゃう前に戻ってきてね」

フレイヤとカルロが明るく言ってきたが、強がってるのは明らかだ。

「五条、ここにいる人間は簡単には死なない。お前が剣を持って帰ってくれば、あいつを倒せると信じてる。頼んだぞ!」

王が力強く背中を押してくれた。俺ができるのは全力で剣を取ってくることだけだ‥‥‥だったら、やるしかない!

俺はグレスの手を取った。

「行ってくる」

振り返ったとき笑顔で送り出そうとするみんなと、その後ろから高速で向かってくるヒュドラが見えた。

唇を噛んで亜空間を通り抜けベルリンに向かう――