軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第83話  竜の王

“深淵の穴”から数キロ離れた場所に、燃え盛るように赤い体表のドラゴンの“統率者”は悠然と降り立った。

そうとう重量があるせいか着地した時、地響きと共に竜の足が地面にめり込んだ。

土煙を上げ、一呼吸したかのような動作をすると口を大きく開き、遠くの空に向かって咆哮した!! あまりの音と衝撃で、身体がしびれるほどの圧力を受ける。

「おいレオ! どうするんだ、あんな化物!! 人間が勝てるような相手じゃないぞ!」

王は凄い剣幕で怒鳴ってきた。

「分かってる。俺たちも無策でここに来たわけじゃない!」

ドラゴンがしっかりと地面を踏みしめているのを確認して叫んだ!

「グレス! 測定しろ!!」

「分かったぜ、旦那!」

グレスはドラゴンが降り立った 場(・) 所(・) を“魔眼”で測定した。魔眼は単に鑑定の精度を上げるだけのスキルではない。

あらゆる物を正確に測定することもできる。今ほしいのは竜が降り立った場所の正確な位置情報、緯度と経度だ。

グレスの測定が終わり、その情報を紙に書く。その紙をルカに渡し、ルカは紙を細く折りたたんだ後、自分が持つ矢の 元矧(もとはぎ) の部分に結び付けた。

「頼んだぞ! ルカ」

「まかせろ!!」

ルカは大きく弓を引き狙いを定める。

「千里眼!!」

ルカの持つスキル“千里眼”は、かなりの魔力を消費するが、そうとう遠距離にある物でも間近にあるように見ることができる。

渾身の力で弓を引いていたルカが「見えた!」と叫び、淀みなく矢を放った。

矢は一瞬で見えなくなる。

◇◇◇◇◇◇◇◇

なんだいったい!? 俺や王、劉さんは呆気に取られる。グレスが突然ドラゴンを鑑定したと思ったら紙をルカに渡し、その紙を矢に結ぶとドラゴンではなく 明後日(あさって) の方向に矢を放ってしまった。

「今、何をやったんだ?」

真剣な表情でドラゴンを観察していたレオに聞いた。

「情報をNATO軍の海上部隊に送ったんだ」

「海上部隊?」

意味が分からなかったので、詳しく聞こうとしたが‥‥‥。

「五条、悪いが時間が無い。詳しくは他の者に聞いてくれ。フレイヤ!!」

「分かってる!」

フレイヤは、そう言ってレオを竜の背中に乗せ、そのまま炎竜王に向かって飛び立った。何をする気か分からなかったので、近くにいたアレクサンダーに聞いた。

「どうなってるんだ?」

「とりあえずここは危ないから向こうに行こう‥‥‥」

そう言ってアレクサンダーは竜とは逆方向に歩き始める。一定の距離を取った所で今回の作戦を説明してくれた。

「元々、俺たちだけでドラゴンの“統率者”を倒せるとは思ってない。軍との連携が示されたからこそ今回の討伐を引き受けたんだ」

「海上部隊に何があるんだ?」

「軍が用意した切り札がある」

「切り札? なんだそれは」

「しばらくすれば分かる。時間さえ稼げれば俺たちの勝利だ」

◇◇◇◇◇◇◇◇

イギリス海峡・海上部隊 1個空母打撃群――

「本当にくるんですかね‥‥‥この距離ですよ?」

「分からん‥‥だが奴等は異能者だ。“統率者”を見つけることさえできれば、やってのけるんじゃないか?」

一隻の巡洋艦の甲板に木でできた 的(まと) が用意されていた。的はロンドンに向かって設置されている。その的を監視しているのはNATO軍の若い軍人だ。

対“統率者”用に海上で待機する艦隊は、ただひたすら 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) からの連絡を待っていた。

その時――

「うわっ!?」

甲板の上の的に、凄い速さで矢が突き刺さった!! 深々と刺さった矢には細く折りたたまれた紙が結び付けられている。

「確認しろ! ここからは時間との闘いだ!!」

紙に書かれた情報を司令部に伝達する。

「来たか!」

NATO軍・海上部隊 海軍大将ジェームスは、各艦にデータの共有を命令した。

「チャンスは一度だけだ」

部下から各艦の準備が完了したことが報告される。

「外すなよ! 発射ァ!!」

その命令と共にイギリス海峡に展開していた巡洋艦3隻から対艦ミサイルが一斉に発射される。

40発以上の対艦ミサイルは遥か上空へと消えていった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「高純度ミスリルを使ったミサイル?」

「そうだ。異形の大地から極稀に採掘された高純度ミスリルで造られた“ 榴弾(りゅうだん) ”と言われる物だ。事前の実験では大型の飛竜も一撃で殺せたらしいが、高純度ミスリルは採掘量が少ないため使えるミサイルの数は少ないんだ」

そんな物が開発されてたのか‥‥‥それにしても連絡手段が矢文って! 文明の力が使えなくなると、アナログが一番強くなるんだな‥‥。

「あとはミサイルが着弾するまで、“統率者”をその場に留めておく必要があるが、その役をあの二人がやってくれている!」

俺とアレクサンダーは炎竜王の周りを飛び回るフレイヤとレオに目を向けた。彼らは飛竜に乗り、一定の距離を取りながら竜を 牽制(けんせい) している。

不思議なことに炎竜王が飛び立とうと羽ばたいても、うまく飛べないようだ。

「アレは何かしてるのか?」

「レオの持つ剣、デュランダルは“風の加護”という特殊な力を持ち主に与えるんだ。それによって大気を操ることができる。ドラゴンは大気を魔力で操って飛ぶから、それを妨害することができるんだ。そして――」

フレイヤは飛竜を駆りながら光魔法で炎竜王の視界を奪っていっている。

炎竜王も動きが遅いわけではないが、フレイヤの手綱さばきが絶妙で炎竜王は、その場をほとんど動いていない。しかし‥‥。

炎竜王が大きく口を開けた。辺りの魔素が、より一層濃くなり大気の温度が一気に上昇する。巨大な火球が竜の口から放たれる!!

フレイヤの飛竜はギリギリで火球を 躱(かわ) した。風圧で大きく体勢を崩したが、なんとか立て直す。外れて飛んでいった火球は遠くの町に向かった。

それはロンドンを見下ろす小高い丘にある町だ。

火球が町に落ちた瞬間――

とてつもない光が辺りを飲み込む!! 後から聞こえた爆音と共に大地が揺れる! 改めて着弾した場所を見ると町が蒸発し、巨大なきのこ雲ができていた。

「嘘だろ‥‥町が一つ消滅したのか?」

あまりの威力にアレクサンダーが驚愕して言った。確かにあんな奴を野放しにしたらイギリスの地形が変わってしまう。

そう思った時――

上空に数十発のミサイルが飛んできた!! 風を切り裂き炎竜王に向かって降り注ぐ!! 着弾の直前フレイヤの飛竜はその場を離脱する。

ミサイルは炎竜王に直撃した!! ミサイルのほとんどが命中しているように見えるが‥‥‥。

凄まじい爆発による炎と煙で覆われ、炎竜王の姿は見えなくなる。

攻撃が終わったようだ‥‥‥アレクサンダーが言うには、これで仕留められなかったとしてもダメージはあるはず‥‥‥弱ったところを 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) で止めを刺す。 それが作戦のようだが‥‥‥。

「どうだ‥‥」

アレクサンダーが祈るように炎竜王のいた場所を見ていた。