作品タイトル不明
第142話 四神将
俺は血を吐き、地面に倒れた。
だが、クロノスは 止(とど) めを刺すどころか少し離れた場所の岩に腰を掛け、こちらを 安穏(あんのん) とした表情で見ている。
「……なぜ殺さない?」
『ん? つまらないだろう、すぐに殺してしまっては……私は暇を持て余していたんだからね』
クロノスは 然(さ) も当たり前のように言った。
完全に俺を 舐(な) めているってことか……確かに力の差は歴然だ。俺は剣を地面に差し、それに寄りかかるようになんとか立ち上がる。
「……時間を止めたのか?」
『ああ、そうだ。私は時間と空間を操る能力をもつ魔神だ。こと一対一の戦いなら“王”の次に強いと言っていいだろう』
俺は自分の傷口を押さえて、回復魔法をかけた。傷口が深いので簡単には治らない。少しでも時間を稼がないと……。
『 焦(あせ) らなくても、ゆっくり治せばいい。気長に待ってあげよう』
「そんなに余裕ぶってると足をすくわれるぞ」
『ハハハ、それは面白い。私を倒せる人間がいるなら是非出会ってみたいものだ。君は私を驚かせることができるかな?』
くそ……こいつが他の仲間たちの所にいけば全滅もありえる。なんとか、ここで食い止めなければ……五条……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【半月前――】
俺と五条が剣を交えた日。力やスピードに圧倒されたのはもちろんだが、剣技においても俺を大きく上回っていた。
そのうえ、魔法や能力まであるわけだからな……。
「時間を止める能力もあるんだろ? 一度見せてくれないか」
「ああ、いいよ。体感するだけになると思うけど」
俺は剣を構えて五条から目を離さなかったが、次の瞬間、五条は消えていた。持っていたはずの剣も無くなっている。
「こんな感じかな」
そう言って五条は俺の後ろに立っていた。手にはデュランダルを持ち、自分の剣を俺に向けている。
「これでは勝負にならないな」
俺は苦笑いを浮かべながら、五条から剣を返してもらう。
「それにしても、そんな能力があるんなら無敵だろう」
「いや、そんなことはないよ。どんな能力にも弱点はある」
「弱点?」
五条の言葉は意外だった。この能力に弱点があるとは思えなかったからだ。
「例えば俺には関係ないけど、魔力の消費はかなり大きい。それに時間を止めた状態だと魔法や能力が使えないのは痛いな」
「そうなのか」
どんな能力にもデメリットがあるってことか……。
「時間を止めても、どうにもならないこともあるしね」
「どうにもならないこと?」
「例えば――」
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は立ち上がり、剣を構える。傷はまだ完全に治っていないが、 舐(な) められっぱなしで終わるわけにはいかない。
「簡単にはやられんぞ」
『フ、そうか』
奴が視界から消える。気づくと俺の左の太ももがバッサリと斬られていた。
「ぐあっ!?」
足から血が噴き出し、膝をつく。
地面に剣を刺しなんとか体を支えるが、意識が飛びそうになっていた。まともに戦って勝てる相手じゃない。
後ろに回り込んでいたクロノスは、こちらに歩いて近づいてくる。
『 辛(つら) そうだな、命乞いするなら助けてやってもいいんだが……』
「見え透いた嘘だな。お前は人を助けるような性格じゃないだろう」
クロノスの口元が 歪(ゆが) み、笑いを浮かべる。
『圧倒的な力の差を 以(も) って、相手を 甚(いた) ぶるのは楽しいだろ。この気持ち分かってくれるかな?』
「全然分からんな、分かりたくもない」
『そうか……君も強者だから共感してくれるかと思ったが……』
クロノスは更に俺に近づき、剣を振り上げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『君を殺したら、君の仲間を探しに行こう。やはり獲物は多い方がいい、きっと楽しめるはずだ』
私は時間を止める。
時間を止めなくても容易に殺すことは可能だが、反撃されても面倒だ。気づかないうちに両手両足が無くなっていれば絶望しながら死んでいくだろう。
短い時間ではあったが少しは楽しめた。この男の仲間が他の神将の所へ行ったのが分かった以上、ここで守っていても意味がないな。
こちらから出向いて全員殺せば“王”の意向に背いたことにはなるまい。
そんなことを考えながら剣を振り下ろそうとした時、地面が揺れた。どうしたんだ? と不思議に思っていると自分が膝を突いていることに気づく。
『……なんだ?』
倒れた……? 何が起きたのか分からない。何故、私が膝を屈したんだ。こんな状況、今まで経験したことがない。
見るとレオ・ガルシアは立ち上がり、私を見下ろしている。いつのまにか時間が勝手に動き出していた。
『なんだ……何をした……!?』
「俺の周りだけ、 酸(・) 素(・) 分(・) 圧(・) を高くした。【デュランダル】の大気操作と風魔法を使えば、酸素分圧をコントロールすることが出来る。超高分圧の酸素は猛毒だからな、強靭な体のお前に効くか賭けだったが効いて良かった」
『さ……酸素だと……』
「時が止まった世界でも、 お(・) 前(・) は(・) 自(・) 分(・) で(・) 猛毒の酸素を吸い込んだはずだ。どうした? 時間を止めることができないのか」
手が震えだし、体が動かない。バカな……この私が……人間 如(ごと) きに。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「お前は戦う相手を見下し過ぎた。たとえ自分より力が劣っていたとしても、相手に敬意を持つことができれば、お前が負けることなどありえなかった」
俺は剣を振り上げる。
『ま……待て!』
「命乞いをしても俺は助ける気はない。全力で敵を倒すのみ」
『やめ…ろっ!!』
振り下ろした【デュランダル】がクロノスの首をはねる。“神殺し”の力を持った剣はなんの問題もなく、魔神と名乗った者を絶命させた。
胴から離れて転がる首を見ながら、剣の血を払い 鞘(さや) に納める。
「まず一人……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【モンゴル・着陸した四つの戦艦の南東――】
このエリアを任されたのは、フレイヤと 王(ワン) の二人だ。数百人はいた一般の兵士と思われる者たちを倒し、奥へと足を進めていた。
巨大な戦艦の船尾にあたる部分の近くに一人の男が立っている。
男と言っても 兜(かぶと) を 被(かぶ) っているため顔が見えず、大柄というだけで二人は男と判断したが実際は男か女かは分からなかった。
「アレ……どう見てもヤバイ奴だよね」
「ああ、そうだな。だが奴を倒さないと先へは進めないようだ。私が斬り込むからフレイヤはバックアップを頼む」
「分かった」
敵に近づくにつれ、二人は違和感を覚える。相手は武器を持っていなかった。 徒手空拳(としゅくうけん) で仁王立ちしているので武道家タイプなのかと 王(ワン) は予想する。
『これは、これは。お美しいお嬢さんたちだ』
「話した! 英語が分かるの?」
「待てフレイヤ、私には中国語に聞こえるぞ」
『こんなかわいらしい子たちを殺すのは忍びないが、仕方ありません』
二人はこの声が、すぐにスキルによるものだと理解した。そして声質から男だということも確信する。
そんな時、上空に一機の戦闘機が来ているのが目に入った。こちら側の戦闘機なのは分かったが、それを見て鎧の男は手を上げる。
『やれやれ、邪魔な虫けらがブンブンと……』
戦闘機は地面に引き寄せられるように軌道を変え、そのまま墜落してしまった。ただ手をかざしただけで、それ以外男は何もしていない。
「なんだ今のは……」
「魔法……それとも能力なの?」
『さあ、邪魔な虫はいなくなりました。ゆっくりお話ししましょう』
神将ガイア
魔神種 Lv4216
【固有スキル】
重力支配
◇◇◇◇◇◇◇◇
【モンゴル・着陸した四つの戦艦の北西――】
『なんだ貴様ら……大勢でくれば俺に勝てると思ったのか、浅はかな!』
「いや~戦力をかなり 割(さ) いて来たんだけど……簡単にはいかなそうだね」
南東を任されたカルロは、ルカやアンナ。子供たちや、王以外の“朱雀”の団員とほとんどの戦力をつぎ込んでやってきた。
だが、彼らの目の前に立ちはだかったのは2メートル半を超える獣のような大男だ。鎧を着ているが、それよりも目立つのは 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう) の体だった。
あまりにも見た目が強そうなため、カルロは溜息しかでない。
「ここが一番抜ける可能性が高いと思ってたのに……大丈夫かな?」
『一人残らず 捻(ひね) り潰してやる』
神将アレス
魔神種 Lv3991
【固有スキル】
森羅無双
◇◇◇◇◇◇◇◇
【モンゴル・着陸した四つの戦艦の北東――】
『あらあら、かわいらしいお嬢ちゃんだこと。どうしたのこんな所で迷子かしら?』
「……あの……できれば、通してもらいたいんですけど……」
『ウフフ、そんなわけにはいかないわ。それに、ここまで来たってことは千人近くいた兵士を倒したってことよね。まったくかわいい顔して怖いわ』
神将デメテル
魔神種 Lv4307
【固有スキル】
二重結界防御
この幼い少女がこの世界の異能者であることは間違いないだろう。だが不気味な威圧感を放っていることに、デメテルは少し戸惑っていた。
黒いローブを 纏(まと) い、その小柄な体型からは似つかわしくない大きな杖を持っている。デメテルは自分と同じ魔術師タイプだと判断した。
「……どうしても、どいてもらえませんか……」
『どうしてもダメね。ここを守るのは“王”の命令だもの』
「……そうですか……できれば、殺したくなかったんですが……」
エミリー・シモン
大魔王 Lv13
【職業スキル】
闇の加護 Rank SSS 称号“闇へ誘う者”
魔王召喚 Rank E