軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第113話 疑念

「異能者だ。それ以外考えられない」

スイスのベルンに集まった 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) の前で、俺はハッキリと言った。それはアレクサンダーの殺害の仕方を見て確信したからだ。

「異能者って………アレクサンダーはただの異能者じゃないのよ。上級職の魔法戦士、その中でも最強に近い実力者なのに……」

同じ魔法戦士のアンナが声を震わせて言った。

「分かっている。だが普通の人間や魔物にはできない殺し方だ」

この場所にいる七人のメンバーは全員が沈黙した。長く一緒に戦った仲間を失ったことは言葉にできないほどのショックだったんだろう。

「他にも異能者が何人か殺害されてるみたいだ。“朱雀”の行方不明者も 四角形(スクウェア) にバラバラにされた遺体が見つかったらしい」

エリアスが不快な表情を浮かべながら報告してきた。

「異能者が異能者を殺して回ってるのか……なんのためだ?」

「理由は分からないけど、異能者を狙ってるなら俺たちも狙ってくるかもしれない。これからは最低でも二人以上で行動したほうがいいんじゃないかな?」

俺の疑問にカルロが冷静に答えてくれた。確かに今は理由を考えるよりも、どう対策していくかの方が重要だ。

「各自、必ず武器を携帯しろ! アレクサンダーも剣があれば今回のようなことにはならなかったはずだ。そして情報は“朱雀”や五条とも共有していく」

◇◇◇◇◇◇◇◇

【東京・慶朝新聞社】

「連日、五条の話題で持ち切りですね。松田さんの出した記事からですよ」

「まあ、そうだろうな」

松田は五条の名前を一早くスクープしたことで業界の中では有名になっていた。

「称賛する人が多いですが、一部では化物を出して世界を混乱させてるのは五条なんじゃないかって声も上がってますね」

「あんだけ巨大な化物をポンポン出してりゃ、そう思うだろうな」

「松田さんはどっちだと思います?」

「さあな、正直どっちでもいい。重要なのはネタとして面白いかどうかだ。この五条って奴は追いかけるには最高のネタだからな」

「そう言えばゴシップ系の週刊誌が書いてる『五条将門、魔王説』なんてのが人気らしいですね」

「世間なんてのはな、面白ければなんでもいいんだよ」

松田は 弄(いじ) っていたカメラとICレコーダーをバッグに詰めて、立ち上がった。

「取材ですか?」

「岐阜だ。五条は自衛隊の岐阜基地に出入りしてるのが目撃されてるからな。なんとしても単独インタビューを取ってくる」

「そんなにうまくいきますかね」

「やるんだよ! 五条将門の正体は、俺が必ず暴いてやる」

◇◇◇◇◇◇◇◇

翌日、国連のプレスセンターで異能者の殺害事件が正式に発表された。メディアや人々に衝撃を与えたが、中でも問題になったのが 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) のアレクサンダーの死だ。

異能者の中でも強いとされていた人物だけに、誰がどうやって殺害したのか? 国連の報道官に質問が集中した。

「犯人は分かっているのでしょうか? やはり異能者の犯行ですか」

「現在、調査中です」

「世界中にいる強力な異能者が次々殺されているとのことですが、そんなことができる人物は 極(ごく) 限られるんじゃないでしょうか?」

「まだ何も分かっておりませんので、お答えしかねます」

「一部に犯行は、五条将門氏が関係しているのではないかと疑う声があるようですが、どうお考えですか?」

「ありえない話ですね。五条氏は国連や各国政府に対してとても協力的で、我々も助かっております。何よりそんなことをする理由がありません」

国連の報道官は記者の質問を一笑に付した。

しかし、この五条犯人説は一部のマスコミが面白がって取り上げたため、静かにだが確実に広がっていくことになる。

◇◇◇◇◇◇◇◇

岐阜基地の一室に坂木さんが用意してくれた衛星電話があった。まだ完全に通信が以前のように戻ったわけではないので海外との通信方法は限られてくる。

「レオ、聞こえるか?」

『ああ、大丈夫だ。悪いな、時間を作ってもらって』

レオから緊急の用件だと電話が掛かってきた。

『今、国連で記者会見が行われているんだが、なんの話か聞いているか?』

「記者会見があるのは聞いてるけど、詳しくは知らないな」

『アレクサンダーが殺されたんだ』

「アレクサンダーが!? 誰にだ!」

『まだ分からない。目撃者によれば黒い鎧を着ていたらしい、情報はそれぐらいしかないが我々はそいつを“黒騎士”と呼ぶことにした』

「黒騎士……」

ショックだった。イギリス討伐の時には気さくに話しかけてくれたことが印象的に残っている。かなり強かったはずだが………。

『世界中の異能者が狙われてるんだ。“朱雀”からも一人犠牲者が出てるし、他の国の異能者も二人殺されている。計四人だ」

「四人もか……。何が目的でそんなことしてるんだ?」

『まったく分からん。そもそも、そこまで強い異能者であれば国の方で把握されていてもおかしくないんだが……君の例もあるからな。まだ把握されてない異能者がいるんだろう』

「犯人を捜すのか?」

『当然だ。アレクサンダーの 仇(かたき) でもあるが、何よりも世界にとって危険だからな。捕まえるか、できなければその場で始末する』

そうとう頭にきてるな。レオの怒りが伝わってくる。

「俺も手伝うよ。合流しよう、どこに行けばいい?」

『いや、五条。君は動かない方がいい』

意外な反応に少し驚いた。

「どうしてだ? 手分けして探した方がいいんじゃないのか」

『君は 滑稽(こっけい) だと思うかもしれないが、一部の人たちから今回の事件は君が起こしているんじゃないかと言う人もいるんだ。ヘタに動いて犯人の行動と一致したら疑われかねない』

俺が!? 少し驚いたが、確かにアレクサンダーを倒せる異能者となるとほとんどいないか……。

『君が今いる自衛隊の基地なら、君の行動を証明してくれる。しばらくは我慢してくれ』

「……分かった。ただ一つ、お願いがあるんだ。いいかな?」

『なんだ? なんでも言ってくれ』

◇◇◇◇◇◇◇◇

電話を切った後、俺は少し考えていた。

「五条はなんだって?」

後ろにいたカルロが聞いてくる。

「五条からの頼みだ。フランスにいる修道院の生徒たちを一時的に保護してほしいと言っている」

「五条の頼みは断るわけにはいかないね。彼には借りが山ほどあるし」

「確かにな……」

「だけど今回の相手は、子供なんて狙うだろうか?」

「そうだな。考えにくいが、フランスには数名かなり強い能力を持った子供がいると聞いている。念のためだろう」

「それにしても五条はすっかり先生だね。彼がこんなに子供思いだったなんて」

カルロと一緒に笑ったが、元々やさしい性格なんだろう。

「保護となると問題は場所だな」

「ここに連れてきても、俺たちが常にいるわけじゃないからね。もっと安全な場所じゃないと」

二人がしばらく考えたが、あまりいい場所は思い付かなかった。

「やっぱりイギリスの諜報機関に頼むのが無難かな。彼等なら、イギリスの政府や王室の人間を迅速に避難させた実績もあるしね」

イギリスか……ドラゴンの出現も激減して今は落ち着いてるしな。

「分かった。すぐに連絡を取ってみる。カルロはアンナと一緒にフランスに行って子供たちの保護を頼む」

「分かった……すぐに 発(た) つよ」