軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話 Side南雲②

「ううむ」

ガキが風呂に入っていくのを見ながら俺は思った。いくらなんでもあれはない。初めてダンジョンに潜ってあんなの見たらトラウマだ。

さすがに俺だって助けてやろうかと少しは思った。しかしそれをすると経験上、加害者側全員を殺すぐらいの覚悟がいる。

何度か見たことある光景だが、何しろダンジョン内は無法地帯なので、最初正義感に駆られて助けた時は本当に酷い目にあった。

加害者全員殺すしかなくなって、加害者の遺族からも恨まれて復讐しに来られて、遺族まで殺さなきゃ仕方なくなった。

『人殺し! あんたのしたことこそ人殺しよ!』

『お前の親父が悪いことをした。だから俺が殺しただけだ』

『私のお父さんは悪い人じゃない! だいたいあんたに何の権利があってそんなことするのよ!』

今でもあの声が忘れられない。高校生ぐらいの少女が俺を殺しに来た。あの時は俺もまだまだレベルが低くて余裕がなかった。

その上、向こうもダンジョンでレベルアップしていて結構強くて、手加減できず、殺してしまった。ダンジョンの中だから何の罪にもならなかったが、もう二度と人なんて助けないと思ったものだ。

「自分の実力でどうにかできない奴なんて、死ねばいいと思ってたはずなんだけどな」

「あの子はどなた?」

自分も20歳でそこまで大人というわけでもないのに、15歳のメンタルケアをどうするべきかと考えていたら、昨日一緒に寝た女が目を覚ましていた。

「お前、名前なんだっけ?」

「春香です。私結構この部屋来てるんだから、いい加減名前覚えてよ」

強くなって急にモテ出して、やたらめったら女が寄ってくるようになり、いつ頃からか女を女という記号でしか覚えられなくなった。

自分でも最近心が擦り切れてる気がして、久しぶりに純粋な子供を見てついつい可愛くて構ってしまった。

「はあ、こういうのが面倒だから、あんまり人と関わるのが好きじゃねえんだよ。でもなんか情が移っちまったなぁ」

「ちょっとこっち見てよ」

「お前さ。あいつ祐太って言うんだけどよ。慰めてやってくんない?」

ステータス画面で見た名前を思い出す。漢字の読み方はゆうたで合ってるよな。

「え? あんな若い子いいの?」

確かこの女、30ぐらいだったな。嫌がることもなくむしろ喜んで引き受けますという感じだ。駄目だなこの女。

「いや、やっぱり駄目だ。余計なトラウマが増える」

童貞を捨てるなら相手は初めての女がいい。慣れた女なんて最初の相手にした日には、女の価値観が変わってしまう。18の春にアラサー女に食べられた俺が言うのだから間違いない。

「ええ、優しくしてあげるのにー」

「うるさい。今日はもういい。金やるから飯でも食ってこい」

俺はアイテムボックスから、お金を取り出して女に渡した。女はルンルン気分で出ていった。そういう女の姿を見るたびに、あのモテなかった時に描いていた女というのは、こんなものだったのかと思わされる。

「ちゃんと恋愛した方がいいよな。でも今更寄ってくる女って言ったらな」

どの女を見ても、金と権力が目的で寄ってくるようにしか見えない。ちゃんと相手を好きになって、相手もこっちを好きになってくれる恋愛ってどうやったらできるんだろう。

「随分色々手に入れてる気がするんだが、未だにそれがよくわからん」

ガチャ

思わず人生について考えていたら風呂場の扉が開いた。

「南雲さん、服が血だらけなんですけど、替えの服あります?」

裸を見られるのが恥ずかしいのか、顔だけのぞかせた祐太がいた。

「お前、男同士で照れるなよ気持ち悪いな。と言うか着替えぐらいないのか?」

ダンジョンに来るのに備えのないやつである。

「この服でダンジョンに入る気ありませんでしたもん」

「もん、って、お前」

女よりもよっぽどこいつの方が可愛いなと考えかけて慌てて頭を振った。

「やべえな。擦り切れ過ぎてだいぶ頭が沸いてるな。えっと着替えか」

俺はクローゼットを開いて、ズボンと上の服を出した。

「うわー、これブラッ〇・レーベルですよ。ブランド物なんていいから、もうちょっと安いのでいいですから」

「そんなこと言われてもブランド以外の服は持ってないぞ。ルイ・〇ィトンとかでもいいか?」

ルイ・〇ィトンってブランドだったっけ? いつ頃からか部屋に外商が来るようになって、外商が勧めてくる服を言われるままに買っているだけである。ブランドかどうかなんて知ったこっちゃない。

あまりに金が山のように入ってくるので、自分で処理しきれず、会計を丸投げした姉から『服代が10億超えてる!』と怒られたことだけは覚えてる。

「これでいいです」

なぜか恨みがましい目で見られた。

「悪いな。もうちょっと付き合ってやるつもりだったんだが、さすがに池袋の1階層は、明日はやめとけ」

おそらく穂積たちは、池袋ダンジョンの1階層は、ゴブリンの間引きでもない限りは、誰も入らないと思ったのだ。一口にダンジョン崩壊と言っても今まで2番目の入り口以降からダンジョン崩壊したことはない。

2番目の入り口は11階層から下の階になるのだが、下に行くほどモンスターは強くなり、それに連れて繁殖力が低くなる。一番弱いゴブリンが一番繁殖力が強くて、放っておくとダンジョン内の草食獣を食べ尽くして外に出てくる。

だから、ダンジョンでは定期的に間引きが行われる。それはいつも月初めの1日に決まっていて、その時はやりたいやつが勝手にやる。しかしそれ以外では1階層は誰もいない。

特にDランができてから、初心者がいなくなって滅多なことでは人の訪れない場所になっている。だから、あそこで犯行に及んだはずだ。いやダンジョン内では犯行ですらない。ただ殺しただけで、罪はない。

「やめるのは明日だけでいいんですか?」

「難しいな。ずっとダメだと言えばダメだし、行けると言えば行ける。そうとしか言いようがない。結局のところどこに行っても危ない奴等はいて、怖がっていたら行く場所がなくなっていく。それが嫌なら大人しくDランに行けってことだ。お前はあれを見てもまだやれそうか?」

「え、ええ、人は人。自分は自分。俺はDランに行かないと決めたし、探索者になりたいと決めてます。この道をしっかりと歩いていくつもりです」

「そうかよ」

こいつ結構しっかりしてるな。もう2、3本ポーションやろうかな。そう考えかけたが、クソババアの言葉が思い出された。俺もまだ20歳だ。

人生の酸いも甘いも分かってるあのクソババアの言うことを聞かずに酷い目にあった事が何度もある。

「なら頑張れ」

祐太の頭をポンポンと叩く。

「それとな。呼び方、祐太でいいか?」

「あ、はい」

「じゃあ祐太。まずは仲間だ」

「仲間って必要ですか?」

「必要だな。まず一人だと下の階に行けない。 行けば死ぬ。お前ゲームはよくやるか?」

「結構やります」

「俺もやる。そんで死にゲーとかもやる。で、死にゲーとか言われるやつでも、仲間がいてくれるだけで、タゲが分かれて随分楽になるだろ?」

「そうですね。いるといないじゃ大違いです。特に最高難易度とかだと雑魚敵が強くて10時間頑張っても無理なのが、仲間がいると1時間くらいでクリアできたりします」

「お前大概だな。でもわかるぞ。最高難易度、雑魚敵の方が強いよな」

「もはやクソゲーです。製作者を訴えたいです」

「ダンジョンも一緒だ。 製作者(クリエイター) がいると言われているが、 下に行くほどひどい。訴えたいレベルだ。だから、一人より二人がいいし、二人より三人がいい。理想は四人だ。もちろんそれ以上の方が安全ではあるんだが、経験値が分散してレベルが上がりにくくなる。俺のパーティーも四人だ」

「もしかしてさっきのすごいお尻を見せてた女の人?」

「あれは違う。俺のパーティーの女があんな感じで俺の部屋にいたら、俺は速攻で南極まで逃げる。まあそれはいいんだが、とにかく仲間っていうのは、ダンジョンに好かれてると不思議と見つかるものだ。お前は多分そうだよ。縁を信じろ」

面倒を見ようと思ったのはただの気まぐれだった。

それでもこいつの目は本気で、誰がどれほど言ったところで止まらない。そういう目をしていた。それなら、ちゃんとアドバイスしとかなければいけないだろ。

「仲間ですか……」

「ダンジョンに一人で入って、不思議なほどすぐ仲間が見つかった俺だから言える。何か知らんが製作者様は気に入ったやつらをくっつける癖がある。俺は不思議なほど自分の持ってない物を持ってるちょうどいいのが三人現れたんだ。お前も多分そうだ。見つけたら逃すなよ」

「……分かりました」

友達、仲間、そんなものがいたら、ダンジョンに一人で来たりしない。自分がそうだったからわかる。それでもダンジョンで生きていくなら仲間がいるのだ。願わくばそういう相手が現れてくれることを、そして1%でも生き残る可能性があることを願った。