軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十四話 溶岩

こいつらは一人一人がちゃんと強い。それに2階層のゴブリンよりもよく考える。1対1で敵の方が強いと判断すると、すぐに数体掛かりで向かってくる。1階層のような猪突猛進型がおらず、急激に手強くなる。

「って、デビットさんたちが言ってたな」

基本的にネットで言っていることは、虚実入り混じっていると思って、デビットさんたちにも確認を取った。

『2階層ではまだ軍用のライフルさえあれば楽だった』

『そこから、もう一つ下に降りるぐらい、なんてことないと思ってた』

『だが、もう3階層ぐらいで銃の効果が怪しくなってくる。ストーンエリアは、たとえ10階層でも一応、現代兵器は通用するって話なんだ。だが、それはおそらく戦車とか戦闘機とか軍用ヘリとか、そういうのを持ち出せばっていうことなんだと思う』

『ユウタ、油断してあっさり死ぬなよ。俺たちは素手が無理だと判断して、すぐにライフルを再び持ったが、それでも命からがら逃げ帰ったんだぜ』

いざという時、ライフルに頼るのも、もう終わりなのかもしれない。何よりもだんだんとスキルや魔法が充実してきて、そちらを頼るなら、自分でやった方が早くなってる。つまり、いざという時の保険がなくなってきていた。

「いた」

そんなことを考えていた俺は建物の陰からゴブリンソルジャーを見つけた。一目見て、でかいと思った。監視櫓から見ているのと地面で見るのとでは、やはり迫力が違う。デビットさんたちよりもまだでかい。

そのソルジャーに俺は後ろからゆっくりと近づいていく。

ソルジャーぐらいから、モンスターは生命力が高くなり、心臓を一突きしたからといってすぐには死なない。行動不能にしたいなら首をきっちり切り裂いて、中枢神経を断たなきゃいけない。たとえ後ろから不意打ちするとしてもだ。

ソルジャーは地面に座ってダンジョンの暑さに辟易としているようだった。その後ろからすっと近づく。抜き足、差し足、忍び足。ソルジャーの真後ろに立った。少しでももの音が聞こえれば振り向くはずだが、こうするのも慣れたものだ。

さて。

ただただ静かにソルジャーの口を後ろから抑えた。ソルジャーは不意打ち過ぎて体がビクッとしただけだった。しっかりと力をいれて首にあてた短刀を横に引く。脊髄まで完全に切断する。そのすべてを流れるようにできた。

「よし」

ゴブリンソルジャーの筋肉質な首が中ほどまで斬れた。そのままデカい体を引っ張って建物の裏に放り込む。バレないように後始末をして、建物の陰から覗き込んだ。不謹慎な話だが、ゲームと似ていて面白かった。

「こういうゲームよくしたな。そういえば 石(・) 投(・) げ(・) って通用するのかな?」

俺はゲームでやっていたことを思い出した。手頃な小石を見つけると拾い上げた。

「ふふ」

これは本当に通用するのか?

ゲームと同じことをして通用するのか、試したくてやってみる。2体いるゴブリンソルジャーを見つけた。並んで歩いていた。その片方の近くに小石を投げて落とした。ピクリっと2体共が反応する。

ソルジャーの知能はメイジほどよくない。メイジならこの時点で仲間全体に警戒を促したかもしれない。そこまでしなくても、ほかの仲間に連絡してからこっちに来ると思う。

「ギャギャ?」

しかしソルジャーはそういうことはせずに歩いてきてくれた。でも2体。現時点での2体同時討伐はやめておいたほうがいい。ステータスのために無理したいところだが、メイジでもあれだけ力が強かったのだ。

ソルジャーはもっと力が強いはずだ。油断してデビットさん達と同じ目に遭うのはごめんである。俺は近づいてくるゴブリンに気づかれないように静かに隠れていた木造の建物の上へと登った。

ゴブリンソルジャー2体は、警戒しながら建物の裏を確認している。

頭の中で殺す流れをイメージした。

少しでもイメージ通りに進まなかったら、きっとかなり危ないことになる。【剛力】のスキルは念のためにかけておく。【加速】も忘れることなくかけておいた。

「ギャ」

「ギャギャ」

誰も見当らないじゃないか。と、話し合っているように見えた。俺は音が鳴らないように、建物の上から落ちる。そのまままっすぐに右側にいたゴブリンソルジャーの頭の上に静かに乗る。

しゃがんで首を突き刺した。

これで確実に中枢神経を断ち斬れたはずだ。左のやつはまだこちらを見てない。上からの襲撃を予想出来てない。マジックバッグからもう一本予備の短刀を取り出す。

「ギャ!?」

左側のゴブリンソルジャーが上だと気づいて、俺を見た。でも上を見たから弱点の喉ぼとけが丸見えだ。大剣に手をかけて抜こうとしている。こちらの狙いに気づいて首を隠そうとしている。

「ふふ」

そうくると思ったぞ。

予想通りに動かれると、ついつい嬉しいと思ってしまう。

生物を殺そうとしているのに楽しくなるなんて妙だった。

俺は寸前で狙いを変える。短刀で右の目玉を脳に向かって突き刺し、すぐに捻る。

ソルジャーの体がピクピクと痙攣して地面に倒れた。

「ふう」

やっぱり反応が早い。少しでも対応が遅れたら、きっと完全に戦闘態勢を整えて来た。これはリーンだと2体同時は不意打ちでも無理だな。リーンが心配になる。やっぱり同じことをさせようとするのは無理があるか?

しかし、そうなるとかなりリーンのレベル上げが難しくなる。どうしたものかと考えながらも、処分できたゴブリンの死体を隠した。美鈴はどうしているだろう? 予定通り進んでいるだろうか?

4体、5体とゴブリンの死体を積み上げていく。

20体殺し終えたところだった。

【レベルアップのお知らせをします】

新しい敵と戦い始めた最初のレベルアップは結構早い。そして次からはもっとたくさん倒せと要求しだす。ステータスを開いて、悪い上がり方をしていないことを確かめて安堵した。

少し体が軽くなったのを感じる。

苦戦するかしないかは本当に少しの違いなんだと思う。もう0.1秒だけ、速く相手を攻撃できる。その違いだけで随分と変わる。急激に多分できるということが、増えたことが自分の中で分かった。

俺はそのまま影からこっそりと順調にゴブリンを殺していく。人間が悪なのか、ゴブリンが悪なのか。30体を超える頃には、そんな事も考えなくなった。ただただ順調に殺して行き、

「うん。多分、このやり方は駄目だな」

そしてその結論に到達した。流れ作業のように、ただただゴブリンを影から殺しているだけになってる。美鈴ならばジョブ的にそれでいい。でも俺は侍だ。このスタイルでどれだけ楽に殺せても、良いレベルアップができる気がしなかった。

だから、

「時間的にも、もういいよな?」

隠して積み上げたソルジャーとかメイジの死体の傍で、俺は自分の装備をきっちりとすべて装着した。ちょうどいい。やり方を変えよう。みんながこの集落で正面から戦う前に俺が確かめておくことが一つあった。

それはソルジャーやメイジと正面衝突して、実際、勝てるのかどうか。

俺が勝てなかったら話にならない。おとなしくこっそりレベル上げをしつづけるしかない。不意打ち作戦で数は十分に減らすことができた。あとはその確認だけできれば、自分の第一段階の役目は終りである。

俺は一つの建物に目をつけ、中を確認した。そして堂々と建物の中に入った。この中に居るゴブリンは一体だけ。

「ギャ?」

中に一体だけいたのは、ソルジャーだった。ソルジャーの強さはまだハッキリとつかめてなかった。

「ギャ!?」

ソルジャーは一瞬理解が遅れて、それでも俺が人間だと気付くと、目の色が変わっていく。

「お前だ。お前にちゃんと勝てるかどうかだけは確かめなきゃいけない。【加速】【剛力】」

向こうが口を大きく開けた。仲間を呼ぼうとしている。そんなことをさせる訳がないだろうと美火丸を抜いた。一気に距離を詰める。

「そんな体格してギャーギャー喚くな!」

一気に斬りかかる。ソルジャーも仲間を呼んでる場合じゃないと、いつも背負っている大剣を抜いてきた。俺の美火丸とぶつかり合う。火花が散った。剛力を使っても拮抗している。

しかし、そうか。

こいつらと力勝負になっても一方的に負けたりはしないんだな。そのことだけが分かればいいんだ。それじゃあ、次に、

「スピード!」

刀を引いた。

「【二連撃】!」

二度の攻撃が同時に放たれる。ソルジャーが受け止めようとしてミスをする。受け止め損ねて腕を切り裂いた。

「ギャッ」

動きが鈍る。それでもタフだから向かって来ようとする。

俺は短刀を左手で抜く。大剣を斬り下ろしてきたソルジャーの動きがよく見えた。そこまで速いわけじゃない。横に避け、短刀を振り上げ、ソルジャーの腕を斬り落とした。そしてすかさず美火丸で、首をはねとばした。

「よし、やっぱり美火丸を装備したら1対1もそんなに苦労しないな。1体でこれなら、ソルジャー2体でもなんとかいけそうだ」

でも、これにメイジが入った時、どうなるか判らない。それに集団戦はまだ全然無理。でも、これなら第二段階に入れる。美鈴とエヴィーはリーンとラーイも入れた4人で行動するから、予定どおりでいけそうだ。

「ギャ!?」

「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

そのときソルジャーがいた家の中にメイジが現れた。何か騒がしいと思ったのかもしれない。そして遠くから叫び声も聞こえた。建物に入ってこようとしたメイジが、その大声に気を取られた。それを見逃さず一瞬で首を撥ねた。

「ほ。でも、誰かがバレたな。まあいい。ちょうど真ん中の方にはこれた」

池本を殺してから妙に思い切りが良くなったように思う。俺は外に出た。もう隠れるということも一切しなかった。叫び声のした方に、ほとんどのゴブリンが走って行こうとしていた。

しかしゴブリン達は足を止めた。

ポツンと人間が集落の真ん中に現れたからだ。

「ギャ?」「ギャギャギャ」「ギャー?」

なんだこの人間は? どうしてこんなところにいる? きっとそんな感じでしゃべっている気がした。俺は作戦の第二段階を発動するためにマジックバッグを開けた。そして、

「昨日の間にたっぷり魔力を入れておいたんだ」

赤く光を放っている魔法陣が描かれた羊皮紙をとりだした。探索者の間で、

『金カプセルから出てくるものに外れはない』

と言われている。どれもかなり有用で、専用装備だったり、増強アイテムだったり、ポーションにしてもかなり良いものが出てくる。

そして一度使えばなくなるもの。そういうものにも優秀なものが多かった。俺が取り出したのは金カプセルから出てきた魔法陣。金カプセルから出てくる魔法陣は銀色や銅色から出てくる魔法陣と一味違う。

【溶岩】

この魔法陣には、事前に魔力を込めることができた。

『調子に乗って魔力を込めすぎるな。絶対に後悔する』

そう言われるほど魔力を込めることができる。

「ダンジョンはもしかするとお前達にこそ意地悪なのかもな」

俺はそんな思いが湧いた。何度も何度も殺される為に湧き出てくるモンスター。人間にはまだレベルアップという旨みがある。でもお前たちには何もない。

だからって同情するような気持ちは欠片もない。

所詮は相容れない間柄だ。

「この時点でこんなに貯め込めるなんてな。MP200分」

本当にお前たちを気の毒に思う。

俺は魔法陣が描かれた羊皮紙を地面に投げた。

「【溶岩】」

瞬間。巨大な直径10mほどの赤い魔法陣が地面に描かれた。本来ならすぐに攻撃してくるはずのゴブリン達がこちらの様子を見ている。あまりに巨大な魔法陣が現れて動揺している。何をしやがったこの人間みたいな顔でこっちを見ている。

「お前達をこれで全滅させたいわけじゃないんだから、ちゃんと逃げろよ。俺も逃げるから」

地面が揺れだした。立っていられないぐらい揺れだした。本来なら一直線に人間に向かってくるはずのゴブリン達が、よほどやばいと思ったのか、逃げることに専念しだした。無理もない。だって俺だって必死に逃げた。

地面に深い亀裂が走った。

その亀裂から灼熱したマグマが吹き出した。