軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十八話 米崎秀樹

「エヴィー、レッドゴブリンも問題なくなってきてるね」

「レベル10になるとただの雑魚。上のレベルの人たちにはきっと私たちもそう見えてるんでしょうね」

「レベル100でも私たちの10倍のレベルだもんね。私たちが探索者でもなんでもない人たちを見るのと、同じ感覚ってところかな?」

そう考えると恐ろしいことだ。レベル10になってみて、自衛隊が探索者にボロ負けした理由がよくわかる。レベル10の今ですら、戦車の一台ぐらい圧倒できそうな気がしていた。

それがレベル100とか200とか、場合によってはレベル500以上の人とか。そんなのと戦えと言われた自衛隊の人たちには同情する。探索者を認識したと思ったら、もう目の前に探索者がいるというレベルだったんじゃないだろうか。

「世界中がおかしくなるわけよね」

美鈴が何気なくアカシアの木に向かって矢を放ってつぶやいた。放たれた矢は弓なりになることもなく、まっすぐ飛んでいき、アカシアの木を穿ってしまい、そのまま突き抜けて穴をあけた。

「本当。なんでダンジョンって軍隊とか警察を中に入れないんだろうね」

更に美鈴が言う。秩序を守るべき警察や軍隊がダンジョンの中に入れず、なんの束縛も受けていない人間しかダンジョンには入れない。だから世界中で急激に治安が悪化した。今や日本も安全な国とは言い難い。

警察や軍隊がダンジョンの恩恵を受けるには、ダンジョン崩壊を起こして溢れ出たモンスターを倒して、レベルアップするしかない。裏技として軍隊を公式にはやめてレベルアップしてから、また所属し直すということも行われた。

しかし、これもすぐにダンジョン規制が働いて、警察や軍隊に最初から戻るつもりで、ダンジョンに入ろうとしたものは入れなくなってしまった。必然的にダンジョンが怖くなってドロップアウトした探索者を警察や軍隊は大金でスカウトするしかなくなった。

そしてそれが、警察や軍隊の最高戦力である。ダンジョンが怖くなってドロップアウトしたものに、治安維持への意識が高いものなどいるはずもなく、探索者に関しては秩序を守る公式の組織は現在存在していなかった。

「理由なんてあるのかな?ただ単に世の中を混沌の渦に巻き込もうとしてるとか」

美鈴はどこかのアニメから引っ張って来たような話をした。

「俺はなんだかそれも違う気がしてるんだけどな」

「そうかしら? 私にはダンジョンに抜け道みたいな問題があれば、すぐにダンジョン規制をかけてくるところとか、場当たり的な対応にも見えるけど」

エヴィーが口を開いた。昨日は結局エヴィーとは何もなかった。そして朝になるとエヴィーはいつもどおりだった。エヴィーこそ簡単にハーレムを認めるはずだったのに、ここに来て彼女が一番考え込んでいるようだった。

人の心はままならないものだ。

どうして俺は実際そうならないと気付かないのだろう。そんな簡単にハーレムなんて納得などできるわけがない。ずっと選ばれて生きてきたエヴィー。それが美鈴の許可を得て俺と関わる状況。

「それは確かに。でもずっと入ってて思ったんだけど、何か統一されたような思惑的なものを感じるんだよね」

話しながらも緊張してきているのもわかっていた。ゴブリン軍との戦闘がある。ラーイに乗ったエヴィーも、その後ろに乗っている幼女も油断はしてなかった。俺と美鈴は並んで歩き、美鈴が索敵魔法もかけていた。

「まあ、とにかく美鈴もエヴィーもかなり綺麗になってるから、ほかの探索者の姿が多くなるはずの11階層とかでは、もうずっと天変の指輪で変装しなきゃいけないかもね」

「サファイア級の装備なんかつけて、ステータス大丈夫かな?」

もともとそれが気になって常に姿を変えるのは止めていたのだ。

「ナグモは何か言ってた?」

「聞いたら『知らん』って、言ってた」

南雲さんも魅力値はかつて80だった。そのことで、かなり苦労したそうだが、南雲さんのときは、南雲さんよりも強い人間がそもそもいなかったらしい。つまり、ダンジョンが現れた初期の頃すぎて、俺たちみたいに極端なレベル差のある人たちがいなかったのだ。

「それに『今と状況が違いすぎて参考にはならないだろうな』って」

「まあ、それはそうよね」

「実際、2人が天変の指輪で変装して一つだけレベルを上げてみるしかないかな」

「変装しなきゃいけない一番は祐太だからね」

「俺は男だよ」

「はあ、自分の顔に『好き』とか言っておいてよく言うわよ。私にはいつ言ってくれるのかな?」

「……」

伊万里に言えた勢いで美鈴にも言ってしまえる気がしていた。エヴィーにだって言ってしまえる気がしていた。

「ユウタ、探索者に男とか女とか関係ないから。12英傑も半分女でしょ。むしろ女の方がレベルが上がると相手してくれる男がいなくなって男に飢えてるのよ。男がそんな綺麗な顔でうろついてたら『どうぞ僕を食べてくださいお姉さま』って言ってるようなものよ」

「大げさな」

俺はそんなことを口にしながらも神楽さんたちのことを思い出した。榊さんが神楽さんたちのことを『行き遅れで、相手をしてくれる男もいなくなった寂しい女』とかひどい言い方をしていた。

実際、あの人たちはダンジョンペットなんておっかないものを平気で育てていた。男はレベルが上がると寄ってくる女はたくさんいるのだが、女の場合は逆だという話を聞いたことがあった。

レベルが上がると、頭のキレが良くなり、力も馬鹿みたいに強くなる。そんな女を好んで相手にする男はなかなかいない。結果としてダンジョンペットなどに逃げ場所を求めることになる。

「じゃあユウタ。昼間のダンジョンショップにその顔で入ってみなさいよ」

「……や、やめとくよ」

一生女の人に飼われる生活。ダンジョンに入る前の自分なら、相手の女の人次第では別にいいかと思ったかもしれない。しかし、伊万里も美鈴もエヴィーもいるこの状況でそんなものになりたいと思うわけもなかった。

「………きゃ。急…………。いつ………世……瞬………逃………ま………」

そして、それは、突然だった。

「2人ともシマウマ」

美鈴がそう言った。

瞬間、俺たちは動揺した。

『2人ともシマウマ』

それは3人で、あらかじめ決めていた隠語だった。隠語の意味は、『索敵魔法に 人(・) 間(・) が引っかかった。すぐにエヴィーはラーイとリーンを還して、3人でシマウマの姿に変装しろ』だ。

その際に美鈴への確認は一切取らない。

人間がいるとしたら高確率でレベル100以上である。自分達には想像できないぐらいの速度で近づいてくる可能性もある。ほとんどこの階層では警戒は必要ないだろうと思えたが、それでも一番危険なことに対する段取りだけは決めていた。

俺は急いでマジックバッグから天変の指輪を出した。そして自分の姿をシマウマに変えて、2人も間に合っているか確かめた。エヴィーが召喚獣を還さなければいけないので、若干モタついたが、それでも変装する事には何とか間に合っていた。

しばらくして俺の耳にも声が聞こえた。

「先生、そんなに急がなくてもいいじゃないですかー」

その声はこちらに気付いた様子のものではなく、とりあえずホッとした。天変の指輪は南雲さんが貸してくれているサファイア級のアイテムである。最初に姿を見られているのでなければ、見破る探索者はいないはずだ。しかし、

「ぶひひん(シマウマが突然3頭でかたまっている。不自然ではないだろうか?)」

そう口にしようとして、漏れた声は馬の鳴き声だった。

一応ネットでシマウマの行動を調べてみた。シマウマは群れで行動することが多いが、必ず群れで行動するわけではなく単独行動をとる者もいたり、サバンナでは意外と、いろんな行動をとっているシマウマを見かけるらしい。

それでもレベル100以上になると五感もかなり鋭くなるはずなので、俺たちは緊張した。不自然にならない程度に動き出す。四足歩行。死ぬほど歩きにくい。うっかりすると転けそうになる。美鈴とエヴィー、どちらなのか分からないが、2頭が後ろに付いてきていた。

「君たち呑気だねー。もしも子供が出来てたらどうするんだい。出産に立ち会いたいと思わないのか?」

「あんまり思いませーん」

「はあ、これだから凡人は」

「大学でゴブリンの子供を産む人を募集する感性を持つぐらいなら、凡人のままでいいですよ」

「なんで? 人間が全く別の種族を産むことができるんだよ。僕が女なら喜んで産むのに」

「うげー」

この会話。ストーンエリアをうろつく可能性のある探索者。会いたくないようで会いたい気もしていたあの探索者ではないかと思った。

「……」

できればその姿を見ておきたいし、ちゃんと確認しておきたいところだ。しかし、目線は向けないようにと2人にも徹底して伝えていた。

「……」

「先生、どうかしました?」

「……」

「先生?」

「はあ、それにしても国はDランなんて無駄なものなんで造っちゃうかな。おかげでゴブリンの集落で飼われる幸せな女の子たちが、ほとんどいないじゃないか」

多分、間違いなさそうだ。その会話からかなり頭のおかしな人なのは間違いなさそうだった。こんな人に美鈴とエヴィーがいる状態でばれるわけには絶対いかない。

「どうしたんですか突然? まあ、その感性は意味不明ですが、政治家は何かやってるってところを国民にアピールしないといけませんからね。そうじゃないと選挙で負けちゃうから」

「卒業レベルが30になるかどうかも怪しいのに? 僕の予想だと25が平均値の限界だと思うよ。まあ一部の天才がいるだろうけどね。その一部も普通に入った方がはるかにいいよ」

「25か……。超微妙」

「俺らにとったら25も1も一緒ですもんね」

「魔眼病が言ってましたよ。来年Dランを卒業して、意気揚々とダンジョンにやってきた新人にこう言ってやるんだって」

「『盛大な遠回りご苦労様。あなたたちに教えてあげましょう。これがダンジョンよ』だろ?」

「先生、知ってたっすか?」

「あの子が言いそうなことだよ。大体想像がつく。相変わらず人を試すことが好きな女だ」

「卒業レベル100って聞いた時はびっくりしたんだけどな」

「生徒の9割殺すつもりかってね。ねえ、先生もそう思うでしょ?」

「そうだね。Dランは安全確保に重きを置きすぎたね。せめて半分ぐらい殺すつもりなら、ダンジョン高校としてもうちょっとまともに機能しただろうに。人はどうしてなんでも平均的にしようとするのかな?」

「きっとその方が安心できるからじゃないっすか? 俺、みんなと一緒だとめっちゃ安心しますし」

「君はいっそ哀れだね」

美鈴とエヴィー。不自然な目線の動きにならないように気をつけようと話していたのに、動揺してあちらを見ている。そりゃそうだろう。自分たちがDランに通わなかったとしても、今時、知り合いの1人や2人はDランに通っている。

その人たちが無駄な時間を過ごしているだけだと言われたら、自然体ではいられないだろう。しかし、なぜこのタイミングでこんな話をしている?

「まあともかく早く来年になってほしいな。そうすれば僕もこんな苦労しなくていいしね」

そして俺も思わずその人を少しだけ見てしまった。その人は探索者には見えなかった。背骨が曲がっていて前かがみの姿勢だった。顔は不健康そうで色白だ。40代ぐらいだろうか?目が落ち窪んでいて、かなりひどいクマがあった。

おそらく探索者の中でも見た目が良くなる者の真逆のタイプ。全く見た目が良くならなかった人。俗にダンジョンに"嫌われている"と言われる人だ。

「おや、珍しいね。女だ」

「女!?」

「どこですか!?」

「かわいい子ですか!?」

男4人組であとの3人は若かった。ほかの3人はちゃんと装備を身に着けているのに、先生と呼ばれた男だけが白衣を着ていて装備をまとっていない。こんなサバンナのダンジョンの中で研究者のような姿をしてる。それがなんだか異様だった。

「君たち本当にバカだね。まあ今更か。僕についてきてくれたのが君たちみたいなバカ3人だったことだけが、僕の不幸だ」

「「「ひどっ」」」

「どうしようかな。あまりレベルが高そうじゃないな。あれぐらいだと今すぐだと死んじゃうかな」

そして彼はしっかりと"こちらを見ていた"。

ああ、最悪だ。

完全にそうなるように"誘導"された。どこでバレた? テレビで見たままの姿。米崎はこちらを見て不健康そうな顔で笑っていた。

「先生、シマウマ見て何を言ってるんですか?」

「動物が好きすぎて、ついにシマウマにも欲情するようになったんですか?」

「君たちは先に行ってなさい。私はちょっとあの子たちに用がある。話してから後で追いかけるよ」

「え? シマウマでも実験するんですか?」

「もう十分だと思うけどな」

若い男たちがさっさと姿を消した。白衣を着た男だけがその場に残っていた。背骨の曲がった男は、それにしては軽やかにこちらへと歩いてきて俺たち3人の目の前に立った。

「こんにちは。いや、おはようかな。今は朝の4時だよ。こんな時間からこんなところで君たちみたいな若い子がいるなんて、どういうことかな? Dランは課外授業でも始めたの?」

ばれてる。間違いなくバレてる。きっとシマウマとして動き方が不自然だったんだ。ほかの人なら気付かなくても動物学者でもある米崎にはバレたんだ。

そして確かめられた。

自分たちの会話を理解しているかどうか。

若いとわかったのはどうしてだろう? 女だと言ったのはどうしてだろう? ああ、そんなことより、何をどうするべきか考えるのが先だった。

「返事がないね。いつまでそんな四つん這いでいるのかな? それともそれは君たちの趣味かな? シマウマの姿で交尾実験でもするのなら、是非とも観察させてもらいたいね」

「……どうして気づいたんですか?」

一応最後の抵抗として俺はかなり不細工な、元の俺よりもさらに見た目の悪い男になって、姿を現した。美鈴とエヴィーも変装する時の40代夫婦の姿になっていた。

「僕は若い子と言ったよね? 君たちは耳が遠いの?」

「……」

俺はそれを聞いていたから、年齢はごまかしてない。15歳の少年の姿にはなっていた。でも2人は慣れた変装姿になった。美鈴とエヴィーの動揺が分かる。一番いいのは、年齢をごまかさずに違う若い女の姿になること。

きっとそれ以上は見破れない。そう考えてみたが3人で、姿を合わせる方法が思いつかなかった。どんな合図を送ってもきっと気づかれる。次に本当じゃない姿になってそれがバレたら、この人を本当に怒らせるかもしれない。

「耳は遠くありません」

俺は本当の姿になった。俺が本当の姿をあらわした事に美鈴とエヴィーは動揺したようだが、それに続いた。

「ほお、これは正直驚いたよ。ずいぶん見た目の良い女3人組だ。特に君は……ああ、失礼。君は男だね?」

「は、はい」

「素直でよろしい。甲府のこの階層に人がいるのは久しぶりに見たよ。以前は18歳の女の子2人組だった。とてもいい子たちでね。今は3階層でゴブリンと共同生活をしてるんだ」

「あ、あの、俺たちをゴブリンの集落に連れて行く気ですか?」

それだけは嫌だ。そんなことをされるぐらいなら俺はともかく、美鈴とエヴィーはこの場で死を選ぶ。2人がそう話し合っているのを俺は知っていた。2人が密かに短刀を握った。

『絶対に死に損ねるな』

ゴブリンに連れ去られそうになった女の人たちの注意事項だ。死に損なったら死ぬよりもつらい状況で永遠に生かされる。

「どうして僕がそんなことをしなきゃいけないんだ? そんな自然の摂理に反することをこの僕がすると思うかい?」

「自然の摂理?」

何を言いたいんだこの人?

「いや、ああ、そうか! 君はひょっとしてゴブリンが好きなのか!? わかるよその気持ち! 良いよね! ゴブリン!」「いや、違」「彼らは生命体として非常によく完成されている! 何しろライオンでもサイでもキリンでも人間でも誰でも妊娠させることができるんだよ! しかも、その種族の子供も孕ませられるし、自分たちの子孫だって孕ませることができる! 不思議なことに相手の種族の場合はメスが必ず生まれるんだ! 自分たちだと絶対にオス! なんて神秘的な生物だろう! それなのにゴブリン好きの女の子がなかなかいなくて、この間もせっかくゴブリンを産んだというのに子供を殺してしまうし! なんてひどい親なんだ! そう思うよね!?」

「お、思いません……」

俺は答えた。思うと答えたらゴブリン集落に2人が放り込まれる気がした。

「なんだ君も凡人か……。どうしてゴブリンの良さが理解できる人間がこの世にはこんなに少ないんだろう」

少ないというよりきっとお前だけだと思った。

「はあ」

「でもモンスターは不思議だとは思います」

ただ、完全に否定する気も起きなくて、俺はつぶやいた。人間だとありえない生態を持つモンスター。それを不思議なことだとは思った。

「おや、どの辺が?」

それはこちらを試してくるような含みを込めて聞こえた。賢い人特有の喋り方。親父もたまにする喋り方だが、親父のそれは劣等感も混じっていた。でも少なくともこの人は純粋だと思った。

「そもそもどうしてゴブリンを殺したらレベルが上がるのかとか。ゴブリンがどう考えても勝てない相手に向かっていくところとか。何を目的にして生きているのかとか。どこから来たのかとか。それともどこからも来てなくて、この場で生み出される存在なのか……」

「それが不思議だと?」

「え、ええ」

「ふむ……他に不思議だと思うことはあるかい? ダンジョン関連ならなんでもいいよ」

「あ、あと、ダンジョンには統一した意思のようなものを感じます。その意思がどうして警察や軍隊をダンジョンの中に入れないのかが不思議です」

「ふむ、そういうふうにダンジョンを捉えるのは僕と似ているね」

この人と似ていると言われるのはとても心外だった。でも興味がひけた事にはほっとした。今一番大事なのは、この人に嫌われないことだ。

「米崎さんですよね?」

「正解。まあ、テレビにも出てるしね。それより先ほどの疑問の答えだけどね。教えてほしいかい?」

「理由がわかるんですか?」

米崎はダンジョンについて語るようで語らない。テレビでも見たことのある顔。米崎はいつもどこかつまらなそうだった。

「うん、いいよ。理由は簡単だよ。警察や軍隊をダンジョンの中に入れないのは、ダンジョンがしてほしいことと、警察と軍隊がしたいこととが相容れないものだからさ」

「つまり治安維持がダンジョンにとっては迷惑な行為だと?」

「そう。ダンジョンの中ではね。外でやる分にはどうぞご自由にって感じだろうね。だから軍隊や警察は外ではレベルが上げられるだろう」

「やっぱりダンジョンには意図があるんだ」

そういう意見が聞けたことを俺は不覚にも喜んでいた。

「当然だ。これほどのものを創り上げる存在が、なんの意図もなしにこんなことをしているとしたら、それこそ不自然だろう。ちなみに1階層の意図が君にはわかるかな?」

間違いない。米崎はこちらを、もう一度試している。これにちゃんと答えられたらご褒美でもくれるだろうか? 少しそれを面白いと感じている自分がいた。

「少し考えてもいいですか?」

「うん、いいよ。でも、ちょっとこれから出産に立ち会わなきゃいけないから忙しくてね。でも君ともう少し喋ってみたいな。探索者用のスマホは持ってるかい?」

「も、持ってます」

「ちょ、ちょっと祐太!」

美鈴が思わず声を出した。俺はそれに構わずマジックバッグからスマホをとりだした。どうしてか、この人に興味を惹かれたのだ。

「ユウタ。こちらをどうにでもできる相手よ。ちょっと気が変われば何をするかわからないわ」

「ふふ、心外だな。僕がそんな頭の悪いことをすると思われてるなんて」

「だって女の人が2人。ゴブリンの集落にいるって」

「いるよ。"自分たちの意志"でね。何か問題が?」

普通で考えたら問題ありまくりだが、この人の頭の中では全く問題ないようだ。でも俺は少しその気持ちもわかった。

「そうなりたくないのなら、そうならないようにするべきだ。ですよね?」

「うんうん、その通り」

俺はスマホで連絡先が交換できるように準備した。向こうも準備が終わって、電波通信をする。連絡の交換が終わった。名前の欄に、

【米崎秀樹】

そう表示された。

「六条祐太か。これからどうするんだい?」

「ゴブリン軍です」

「ああ、そうか、死ななかったらまた会おう。それとここから先2キロほどのところ。先程、僕のデータを送るついでに地図情報も送っておいた。マークのある場所で女の子たちが2人。半年ぐらいゴブリンと共同生活している。わかってると思うけど邪魔しちゃだめだからね」

「……わかってます。彼女たちは望んでそこにいる」

地図アプリを一応確認した。米崎とここで会ってなければ確実にその集落と俺たちは遭遇していた。そしておそらくゴブリン軍を倒すことができれば、その女の人たちを助けてしまっていた。

「分かってるならいいんだ。この間もくに丸っていう。バカな探索者が妙な因縁をつけてきてね。『倫理に反している!』とか。『お前には人の心があるのか!』とか。本当に意味不明な男だった。苦労してなんとか始末したところなんだ。君たちはそんな苦労を僕にかけないよう、よろしく頼むよ」

俺はその言葉には何も返すことが出来なくてただ黙っていた。きっと18歳の女の人たち2人はゴブリン軍に負けたのだ。そしてとらえられた。それを米崎は自分から望んでそうなったと言う。

くに丸さんは人としてそんな意見には賛同できなかった。だから助けてあげようとして逆に返り討ちにあった。ということ……。そこまですぐに予想できた。俺は人としてどうするのだろうかと思った。