軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十五話 祝福

2階層で発見した階段を俺たちは降りて、3階層へときていた。そこで偵察に出ていたゴブリンライダーの群れを見つけただけで一旦2階層に戻った。3階層で偵察に出ているゴブリンライダーのレベルは12だ。

それと戦うことをお預けにしたのは2階層の時と同じ理由だった。3階層で戦う前にクエストを確認したかったのだ。2階層に戻って、2階層の弱いゴブリンライダー達を簡単に殺して安全圏を作る。

3人ともステータス画面を開いた。

クエスト:レベル16以下でのフロアボス、ゴブリン大帝のパーティー討伐。

使用武器:刀剣類。自身の魔法とスキル。美火丸の炎刀、胴鎧、籠手。

使用禁止:拳銃や現代兵器。その他の美火丸装備。

成功報酬:ストーン級【 意思疎通(テレパシー) 】

A判定で力、素早さ、防御、器用+7。

S判定で力、素早さ、防御、器用+14。

「やっぱりこれか」

俺はクエストを見てつぶやいた。

3階層では倒しても倒さなくてもいいフロアボスが現れる。3階層に一体しか存在しない。3人以上のパーティーで挑んだときにあらわれるボスで、ここの階層のレベル限界である16から、次の階層でレベル17になるとコイツの出現条件が満たされなくなる。

つまり、レベル17になると、ゴブリン大帝の出現は一切なくなる。不思議と現れるのもたった一度だけで、ゴブリン大帝と戦えるのは一つのパーティーにとってたった一度だけである。

そしてコイツ以上に強いゴブリンは存在しない。4階層になるとそもそもゴブリン自体が現れない。それを揶揄してラストゴブリンなどと呼ばれることもある。

「3人でやるパーティークエストってやつだよね。これって伊万里ちゃんは大丈夫なの?」

美鈴がそのことを気にしてくれていることに、ホッとしながらも俺は答えた。

「大丈夫だ。ゴブリン大帝は3人以上のパーティーじゃないと現れない。ひとりの場合は、全く別のクエストが用意されるんだ。まあそんなこと絶対ならないようにとは思ってるけど、パーティメンバーが欠けた時に補充する必要がある。そういう一人で挑まなきゃいけないときは違う条件が現れるんだ」

「ゴブリン大帝があらわれるのってパーティーメンバーが5人までなのよ。6人以上になると、そもそもクエストが出てこないから、クエスト自体ができなくなるの」

「6人以上だとそういうのが多いって言うよね。ダンジョンは基本的に人間に厳しいよね」

例えば軍隊の小隊規模で挑めば、ダンジョンは楽勝である。もちろんストーンエリアに限っての事ではあるが、そうすれば何の苦労もなくレベルが上がる。そういう仕様ならば楽勝である。しかしダンジョンは真逆の仕様だった。

完全に効率化を否定したようなシステムでダンジョンはできている。

「確かにそうだね。俺の意見としては、人智を超えた力を手に入れるんだから厳しくて当たり前だろって感じはするけど」

今までの人類の歴史の中で死線を乗り越えた人が一体どれほどいるだろう。死ぬほどもがき苦しんだ人生を送った人だって、きっと山ほどいる。でも、その誰もが、ダンジョンが現れるまで人智を超えた力など手に入れた事がなかったのだ。

それを た(・) っ(・) た(・) こ(・) の(・) 程(・) 度(・) で手に入れることができている。それは物凄いことだ。そして世界で12人も1000年生きる権利を得られた。むしろ俺はダンジョンはどうしてここまで人類への祝福を与えているのだろうと思うぐらいだった。

「そう言われたらそうか……」

「美鈴、俺はね。世間ではいろいろダンジョンについて言われてるけど、ダンジョンは平等で、ダンジョンが現れた事で、世界は平らに戻ったって思ってる」

「どうして?むしろダンジョンは格差を生んでいるように、私は思うんだけど」

「でもダンジョンには誰でも入ることができる。おまけに人に命令されたら入ることができない。つまり、権力者が自由にすることができないんだ。それどころか、レベル2になる瞬間が一番すごいって知ってる?」

「まあ……聞いたことはあるよ。その瞬間だけはエリクサークラスの効力が発揮されるんだよね?」

「そうだ。ダンジョンは挑戦するものを誰だろうと歓迎する。お爺さんだろうとお婆さんだろうとダンジョンに入ってゴブリンを10体倒すことができれば、それで健康な体まで与えてくれる。腕のない人の腕が生えたって話もある。これって物凄いことだって思わないか?」

「でも、そもそも、お年寄りとか腕のない人がゴブリンを10体殺せる?」

ダンジョンは挑戦者を拒まない。だからどんな人間だろうとチャンスを与える。ゴブリン10体を殺す。それでダンジョンへの挑戦権が満たされる。

ダンジョンの提示した条件を満たしてゴブリンを10体殺せたら、レベル2になる瞬間だけ、あらゆる身体的不調を回復させてくれると言われているのだ。

身体的に劣った人がダンジョンに挑戦することなどないから眉唾臭く思われているが、俺はそれを本当だと思っていた。ダンジョンは、どんなに身体的に劣ったものにもチャンスを与えてくれるのだ。だからこそ米崎はダンジョンを、

『神が人に与えた祝福だ』

と言ったのではないだろうか?

「できる人はできるよ。実際、万年樹の木森は90歳のおばあさんだったっていう噂があるしね」

「それって本当かな?だって木森は12英傑で一番魅力値が高いって言われてるんだよ。つまり世界で一番綺麗な人ってことでしょ?」

「まあ木森は公に一度も素顔を晒したことがないから、本当のところは分からないのだけど」

美しさの話になるとエヴィーが黙っていることができなかったのか、口を挟んだ。俺たちは自分でもかなり余計な話になっているのがわかっていた。でもついついこういうのが楽しくて話してしまうのだ。

「えっと、話を戻そうか。とにかくゴブリン大帝はレベル16以下の人間が3人から5人でゴブリン集落を殲滅することができればあらわれると言われてる。逆に言えば、それまでは現れる心配はないんだ。だからゴブリン集落をレベル16になるまでに殲滅してしまうのは自殺行為だ」

「ゴブリン大帝のレベルって30だっけ?」

「そうだ。そして特殊能力も3つある。【剛力】【咆哮】【加速】。探索者に生えた場合はどれもかなり有用スキルと言われている3つだ」

「ゴブリン大帝って頭おかしいのかってぐらい強いから、ほとんどのパーティーは挑まずに下に降りるって言われてるよね」

「うん」

「祐太は勿論」「挑むよ」「そう言うと思った」

「美鈴、今はとにかくゴブリンライダーを殺してしまおう。偵察しているレベル12のゴブリンライダーを殺してレベル10まで上げる。まず、そうして次に行くんだ」

「わかった。あまり悩んでも仕方ないもんね」

美鈴が俺の言葉に頷いてくれた。エヴィーを見る。なんだかかなり疲れて思い詰めたような顔をしていた。

「エヴィー。大丈夫だよね?疲れてるなら眠ってからでもいいよ。マークさんから聞いたよ。休みの間もずっと仕事だったんでしょ」

「まあね。無茶苦茶してくるんだから腹立つわ」

「ボスって人、休みぐらいゆっくりさせてくれないの?」

「というよりレベル10までで十分っていう感じね。それ以上になるとボスが簡単に言うことを聞かせられる存在じゃなくなるし、死ぬリスクだって高い。まあ大丈夫よ。ダンジョンの中に比べたら仕事なんて楽なものよ」

「それならいいけど」

エヴィーは結局アメリカから帰ってきたのは今朝のことだったらしい。ダンジョンに入る直前まで、その姿は見なかった。なんだか疲れているように見えたので『少し休んでからダンジョンに入る?』と聞いた。

それでも時間が遅れると、ダンジョンの周りに人が増えてしまう。それもあってエヴィーも大丈夫だと言うので、そのまま入ってきたのだ。

それに一つ気になっていることがあった。3階層では3人で必ず行動する。3階層は2階層と違い、単独行動をする時間はない。それをするのが危険なのだ。しかし、そうするとエヴィーとの時間が全く取れなくなる。

だからこそ、休んでる間に時間を取ればよかったのだが、エヴィーがまるでそれを拒むようにアメリカに行ってしまった。もしそうなら一度ちゃんと話してみたいと思っていた。それでいてエヴィーから拒まれていることが明確になるのを怖がっている自分もいた。

「俺の人を怖がる癖はもはや病気だな……」

ともかく今は余計なことを考えている場合じゃない。

エヴィーだって、いつ死ぬかもわからないダンジョンの中で俺どころではない。色恋から頭を離すことにした。

Side美鈴

探索者になると寿命が伸びると言われているが、きっとここで死んだらかなりの短命だ。私、桐山美鈴は、それでも好きな男について行くことにした。恋などしないのかと思っていた自分にしっかりと恋心を刻みつけた男。

六条祐太。

憎むべき南雲が祐太を攫ってから、祐太と連絡がとれることはなかった。今日の朝会うまで、南雲に連れ回されていたそうだ。あの人に文句を言う訳にいかないから仕方ないけど、正直途中で一回ぐらい連絡できなかったのかと不満だった。

まあ、池本は私たちが関わらない間に死んでくれたみたいでホッとしたけど。

小春からの電話が思い出される。

『美鈴、和也死んじゃった』

『和也?』

『うん、池本のことよ。ずっと黙ってたけど私たち付き合ってたの。強引なところがあって、正直、最近はもう別れたいって思ってたんだけど、最後は私のことをかばって死んじゃった』

小春は泣いていた。あんな男にも好いた女を守るぐらいの気概はあったのか?それでも死んだと聞いてホッとした。正直、レベル15の人間が、祐太を殺したいとか言っているのは、かなり気味が悪かった。

だから私はこれっぽっちも同情心がわかなかった。それよりも神様がいて、ちゃんと祐太の迷惑にならないように池本を殺してくれたんだと思った。

「それにしても小春もレベル7か。おまけにクエストS判定とか生意気な。負けてらんないな」

3階層での作戦はそれほど難しいものじゃなかった。この階層で一番弱いのはゴブリンライダーで、この階層ではゴブリンの種類が1種類ではない。5種類もいる。その中でゴブリンライダーが最弱だ。

3階層は明らかに2階層よりも暑い。湿気もすごい。すぐに下着までぐっしょりと汗で濡れた。祐太に汗臭い女だと思われないか気になる。でもあの時の祐太は意外と私の匂いも好きみたいだった。

いけない。またあの夢のような時間を思い出して顔がニヤつきそうになる。

慣れたゴブリンライダーが相手とは言え、2階層のゴブリンライダーのことを思えば遥かに強い。レベル12だ。15騎~20騎で動くのは2階層と変わらない。ゴブリンライダーは、この階層では使い走りで、主な目的は狩りで、その次に重要な目的が探索者という敵を発見すること。

だから、常にうろついている。

その縄張り意識はゴブリン集落全体に及び、こいつら一群を殲滅したところで、そのエリアが完全に安全になるということもない。そして、レベル12ぐらいになってくると、ゴブリンもかなり賢くなってきて作戦行動を取る。

探索者を発見すると一騎が離れて、集落に連絡するのだ。

連絡が来たら、すぐにゴブリンジェネラルが50騎~100騎編成の軍隊を連れてこちらへと向かってくる。そして探索者をできるだけレベルが低い段階で殺そうとする。女だった場合のみ、集落へと攫ってしまう。

攫われた女はゴブリンに色々される。そりゃもう女にとって一番されたくないことあらゆる手を尽くしてされるらしい。

「絶対自殺できないように固定されて、食事も無理やりとらされて、生き地獄の状態にされるらしいから、くわばらくわばらよね。ダンジョンが現れた初期の頃にさらわれて、ゴブリンと5年共同生活していた女の人が最近助けられたらしいよ」

「怖がる。よくない」

リーンが私の横で姿勢を低くしていた。自分の震える気持ちをごまかすように喋ってたら、リーンから注意された。

「はーい。でも、もしもの時はお願いね」

「わかった。リーンもお願いする」

「う、うん」

幼女のような見た目で言われると思わず返事が鈍った。お互いもしもの時は自分を殺してくれと言う約束だ。それぐらいゴブリン集落に攫われることだけは女として避けたい事態なのだ。

3階層に降りて、すでに私たちはゴブリンライダーの群れを見つけていた。ゴブリンライダー達は駆け足ではなく、ゆっくりと騎乗するライオンを歩かせていた。

ゴブリンの生態を調査した頭のおかしい探索者、モンスター愛好家米崎の話では、ゴブリンライダーは、3階層でも、自身の乗っているライオン以外とは交尾をしないそうだ。

たとえ人間を捕まえても、繁殖しようとすることはなく、自身のライオンにのみに操を立てる。

『人間の女を近づけたら普通に襲おうとしたことから、これは人間の女に興味がないわけではなく、ただただ集落で一番弱いために順番が回ってこないだけだろうね』

米崎は気紛れにテレビに出ている時があって、そんな話をしていた。世間的にかなり批判の多い人物だが、それでも学者でレベル100を超えている人間は滅多にいない。

実際、頭の冴えもかなりのもので、テレビに出ていると、大抵のことを知っていて、どのコメンテーターよりも正確にデータに基づいた鋭い意見を言う。おまけに探索者に対するタブーも気にせず喋ってくれる。

そのことから米崎を問題視する人が多い一方で、とても人気のある人でもあった。

「切り替えないと」

私はパンパンと頬を叩いた。余計なことを思い出している場合じゃない。ゴブリンライダーとの距離がどんどんと近づいていく。いつも初めてのモンスターと戦う時はひどく緊張する。

今も手に汗がびっしょりなっていることがよくわかった。姿勢を低くして、レベル7現在の射程である200mまで近づいたときだった。

「頼んだよ」

「わかった」

エヴィーがラーイに騎乗して、祐太が自分に加速のスキルをかけて一気に駆け出した。ラーイとほとんど同じ速度で近づいていく。向こうがこちらに気付いた。その瞬間、私はスキルを使い、矢を放つ。

「【剛弓】【精緻二射】!」

祐太と最後まで一緒に居るのがいつも私じゃないのが、嫌だなと思いながらも、こちらに気付いたゴブリンライダーが、連絡係のゴブリンライダーを出す。見逃さず、私は弓を射った。二つの矢が軌跡を描く。

集落への連絡係であるゴブリンライダーのゴブリンとライオンの頭を同時に貫通した。ゴブリンライダーにはスキルがない。だからここまで順調にレベルを上げてこられた探索者ならばこの群れには勝てる。

「まあ次からは避けてきたりするんだけどさ!」

大人しくずっと的になっていろ。願いながら私はスキルを唱えて矢を放った。