軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十三話 女達

「ま、マジで殺しやがった」「ひ、ひい!」

小野田と後藤があまりのことに腰を抜かしていた。後藤など自分も殺されると思ったのか小便までもらしていた。

「確かにそうだ。本当に殺したよ」

池本に虐められていた時にずっと考えていた。どうしてこいつは俺を殴るんだろうと。普通、人を害するのはその人が自分にとって何か迷惑になる明確な理由があるからだろう。でも池本はそうじゃなかった。

ただただ俺が嫌がるのが面白いだけみたいだった。それをどうしてやり返せなかったのか今わかった気がした。きっと池本と俺とでは暴力に対する考え方が違うのだ。俺は人を殴るということはその人を本気で傷つける時だと思うのだ。

だからきっと池本が俺を殺しに来たら、殺し返せるのにと思っていたのを思い出した。本当に殺しに来たから殺し返した。きっとそれだけのことなのだろう。

「小野田」

「ゆ、許してくれ、頼む。俺も後藤も池本ほど酷いことはしてないだろ?」

小野田がそう言ってくる。確かに積極的にオレを虐めていたのは池本だけだ。こいつらは同じテニス部で、池本に連れられてただけだ。池本がいない時に自分たちだけで俺を殴ってくることはなかった。

伊万里の中学よりはレベルが落ちるとは言え進学校である。積極的に俺を虐めようとしてやっていたのは池本だけだった。そして池本さえいなければ、俺の中学生活はそれほど悪いものではなかった。

「確かに。正直、これからお前たちまで手にかけるのは、まったく気が進まない。でも、お前たち2人が、俺に不利なことをこれからしない保証があるか?」

「そ、それは……」

「いや、お前と喋っても仕方ない。どうですか?京香さんでしたよね?」

だからって小野田と後藤を信用できるかといえば、正直、全然だった。特に小野田は池本の後ろに上手に隠れて、俺を殴って普段の憂さ晴らしをしていた。

『お前を殴ると本当にスッキリするわー』

そんなことが平気で言えるメンタルの持ち主だった。信用する方がどうかしている。

「はあ、和也も許してくれたらうれしかったんだけど、さすがにそんなに甘ちゃんじゃないか。ゆかり。2人を外に連れて行ってくれない?」

「え?いいの?」

短いジーパンとTシャツを着た女性が、こちらに確認を取ってきた。リーダー格らしき京香さんが、俺に確認を取ってきた。

「いいわよね?2人を守ろうっていうわけじゃないの。ただ、居られたら喋りにくいだけ」

「構いませんよ。俺もその2人は信用できませんし」

「分かった。ゆかり」

「ほら、行くよ2人とも。うわ、もう、小野ちゃんまで漏らしちゃったの?」

そういう趣味はないのか、ゆかりさんと呼ばれている人は、小野田と後藤をばっちいそうに持ち上げて、ダンジョンの外へと運んで行った。残っているのは京香さんと中レベル探索者の女の人たち3人。そして榊さんだった。

「先に聞いておくけど小春ちゃんはまったく怨んで無いのね?」

「ええ、虐めを手伝ったわけではありませんしね。むしろこの顔につられて分かりやすいほど裏切ってくれたんで助かりました」

「ぷっ、相変わらず抜け目のない子ね」

「そりゃ死にたくありませんから、万が一の事も考えてますよ」

「確かにね」

榊さんの言葉に京香さんが肩をすくめた。そうすると、ほかの女の人たちが口を開いた。

「あのさ。私たちも後で南雲に殺されたくないから、ちゃんと話し合っておきたいの」

「そうそう。なんなら小野ちゃんとごっちんも殺せっていうなら殺すよ」

そこまでの執着が小野田と後藤にもないのか、女の人達はあっさりそんなことを言った。いくら男が欲しくても、自分の命と天秤にかけるつもりは欠片もないようだ。俺は少し考えてから口を開いた。

「小野田と後藤に関してはそこまでのことは望んでません。池本のことも殺すほど恨んでたかと言われたら正直そんなことないですし」

「じゃあ、どうして殺したの?」

「殺そうとしてきたからですよ」

本当のところはどうだったのだろうと考えた。殺したいと思うほど恨んでいたことは事実だ。ただ池本側から関わって来なければ、おそらく俺は池本に何もしなかったと思う。それだけは確かだった。

「なるほど」

「まあ、当たり前か」

ほかの女の人たち2人が口を開いた。

「私、やっぱりこの子がいいなー」

「私はちょっとあの顔はなー。作り物みたい」

「あなたたち、次々と喋らない。言っておくけど南雲は本当に殺すときは殺すやつよ。私はこんなところで下手を打って死にたくない。だから私がしゃべる。いいわね?」

「はいはい。こういうことは京香に任せるわ」

「六条君。私のことは京香でいいわよ。小野田と後藤を連れて行ったのがゆかりで、髪をロングにしているのが澪。赤く染めているのはひなた。 ミニスカート履いてるのが渚」

残りの女の人たち3人が好意的にこちらに手を振ってきた。池本の首が転がっているのだが、それは気にならないようだ。この女の人達もどこか壊れちゃってるんだな。まあ、俺もか。俺は血の出ていない池本の首を見た。

池本の首は切り口がかなり焼けただれていた。

美火丸の効果だ。おかげで血が飛び散ることもない。美火丸を見ると池本の首を撥ねたときに付着した血が蒸発していた。相手を治しも出来ないほど焼け爛れさせるくせに自分だけは赤く綺麗。そんな刀だった。

「それであの2人は転校させるってことでOK?」

「いえ、転校は必要ありません。受験シーズンだから学校に来なくても違和感ないですし、卒業式に来るぐらいならいいんじゃないですか」

「そうだったわね。じゃあ、あの2人は卒業式以外、学校に登校させないってことでいい?」

「やっぱあの2人育てちゃダメ?」

髪を赤く染めているひなたさんという人が聞いて来た。俺の雰囲気が落ち着いてきたことで、やはりダンジョンペットに対する未練が湧いたようだ。

「いえ、別に育ててくれていいですよ。むしろ、あなた達が管理してくれる方が、妙なことに、ならなくて済みそうだし」

「よかったー」

「ひなた。ごっちんの馬鹿お気にだもんね」

「あなた達気が抜けすぎよ。それで、肝心の私たちだけど、どうする?」

「特に何も」

「良ければ5人で相手してあげるわよ?」

「間に合ってます」

「まあ、そうでしょうね」

京香さんは俺の顔を見て納得がいったようだった。

「本当、男は得よね」

「私たちなんて強くなった途端、相手を見つけるのにこんな苦労をしなきゃいけないってのにさー」

「ひなた、澪!黙る!」

「「はーい」」

「六条君。何もなしというわけにはいかないわ。あなたとちゃんと話しておかないと、後で南雲にどんないちゃもんつけられるか分からないしね。でも、そっちがこちらに何も望んでないのに押し付けるのもおかしな話。どうかしら?ここは、ペットの監督不行き届きということで、慰謝料だけ払ってお暇するってのは?」

「ああ、そうですね。それならもらいたいです」

「OK」

京香さんもマジックバッグを持っているのか、その中から、ポーションらしき瓶を一本出した。赤いビンに入っていて、俺はそれが何なのかはよく知らなかった。

「エリクサーよ。受け取りなさい」

京香さんがまるで何でもない事のようにそれを投げてきた。俺は慌てて受け取った。

「い、いいんですか?」

「今、私たちができる精一杯よ。あなたに渡したら、私たちはもう持ってない。でも、命の代わりと思えば安いものよ」

「今度からペットの躾はもっと気を付けなきゃね」

「本当もう、こういうの勘弁」

「やっぱ野放しにするより家の中で飼うほうがいいかな?」

「ふふ、次はどんな服着せようかな?」

「女ものはほどほどにね」

「ごっちんにパンティーだけはやめて、この間ゲロ吐きかけたわ」

「ええー」

小野田と後藤のことは、この人たちに任せたら大丈夫そうだ。ある意味、池本よりも悲惨なことになるのかもしれない。しかし、この場で手を出さない以上は、もう俺の手を離れてしまった。2人がどうなろうと俺は口出しすることはできない。

「じゃあね~」

それ以上、話すことはないと、あっさり4人ともダンジョンを出て行った。そばには池本の首が相変わらず転がっている。ようやく恨みが晴らせた思いと、ここまでする必要があったのかという思いが湧き上がった。

「出ようか?」

残された榊さんが声をかけてきた。

「ああ」

榊さんが俺と当然のように腕を組んできて、その豊かな胸が押しつけられた。

「池本が死んだのによくするね」

「殺したのは六条じゃない」

「そうだね……」

改めて人を殺したのだと思った。そしてその殺した相手と仲の良かった女の子と腕を組んでいる。どんな神経なんだと自分でも思った。池本の首を見た。もう二度と動くことがない。明日には骨も残さずダンジョンが吸収している。

「深刻になっても仕方ないわよ。和也は生きてる限り、六条に害を成そうとしたわ。それが分かってたから殺したんでしょ?」

「そうだね」

「ま、そんなすぐには割り切れないか」

俺の心境を理解したように、榊さんが声をかけてくれた。それでも池本が首だけになったのを見ると考えてしまう。本当に殺さなきゃいけなかったのか?

「榊さん」

「うん?」

「池本のお母さんに、ちゃんと池本が死んだことを話しに行くよ。恨まれるだろうけど、ちゃんとしておきたいんだ。俺だけで話すから、榊さんには迷惑はかけない。家を知ってるならこれから案内してくれる?」

「そりゃ、いくらでも案内するけど……。やめときなさいよ。何も言わなきゃ絶対バレないわよ。小野田と後藤は京香さん達が喋らないように言って聞かせるでしょうし、私も言わない。それでいいでしょ?」

「そういうわけにはいかない。殺されそうだから殺したわけじゃない。殺されそうな状況は脱していたけど殺した。ダンジョンの中では罪がないと言っても、やっぱり悪いことだよ。それだけはちゃんと守りたいんだ」

そうしないと、いずれ自分は穂積のような人間になってしまうのではないかと思った。人を殺して罪悪感が沸きあがってこない。どこか自分はおかしくなっている。だからこそ、池本のことはちゃんとしておきたかった。

「六条」

「うん?」

「和也の母親ってね。和也にだだアマなの。そりゃ見てて鬱陶しいぐらい。私も、中学からの付き合いなんだけど、ちょっと前のことかな。素行が悪いって先生から連絡が家に入ってさ、和也の母親が、私に『本当のことか?』って確認してくるのよ」

その時、俺は初めて榊さんが、池本とつきあっていたんだと知った。

「付き合ってたの?」

「ああ、それも言ってなかったか。付き合ってたわよ。って、話戻していい?」

「あ、ああ、ごめん」

「それで私も『ちょっと素行が悪いのはあるかな』って言ったらさ。『うちの和也に限ってそんなことあるわけがない!』って100倍ぐらいにして返されるわけ。私、ありえないことだけど和也ともし結婚したら、この母親とだけはうまくいかないって思ったわ」

「うん」

「先生だって昔から和也のこと放置してたのは、あの母親が面倒くさいからよ。まあ、私はクラスで和也の顔が一番格好良かったから付き合ってたけどね」

「うん」

「六条。あんたは和也を殺した。向こうは殺された子供の母親。謝って納得するわけないし、自分の子供が本当はどんな姿だったかなんて、どれだけ言ったところで信じない。そういうもんでしょ?特に和也の母親はそうよ」

「それは……」

「そうでなくても、母親なら自分の子供はいい子供だった。世間に見せるのも恥ずかしいようなことなんてしてなかった。そう思いたいものじゃないの?あんたが謝りに行かなければ、そう思えるのよ。和也はあんたと一緒にダンジョンに入った。その事実はクラスメートも沢山見てるし、誤魔化せない。でも、不幸にもモンスターに襲われて死んじゃった。なんなら私を助けようとして死んだって美談にしてもいいわ」

「榊さんは強いね」

「六条。私だって、ちょっとはショックを受けてるのよ」

「でも彼氏が死んでもなんとも思わないんだろ?」

かなりひどい言葉を俺は使った。

「まあそれはね。正直、死んでくれてスっとしてるわ。いろいろあって和也への想いはもう醒め醒めだったのよ。クラスメイトだって、誰もあいつの味方はしないわよ。それぐらいレベルアップして調子に乗りまくってたから。真相に気づく奴がいたとしても、よくぞ殺してくれたって思うぐらいだわ」

「……」

「それでも納得いかなくて和也の家に連れて行って欲しいなら連れて行くけど?」

「……」「やめとけ」

それでも行こうかと思った。でも、不意に耳元で南雲さんの声がした気がした。しかし、周囲を見渡しても南雲さんはいなかった。

「『やめとけ』か……あなたもそう言うんですね……」

しばらく考えた。榊さんが考えているプランで行くほうが、おそらく母親へのショックは少ないだろう。そして俺が思っているとおりにしたら、きっとかなりの人が不幸になる。

「はあ、ごめん。榊さんの言う通りだと思う」

「どうしたの急に?」

「いや、まあ、あの人が言うならそうなんだろうって……」

まさかずっと見てたんだろうか?

「あっそ。よくわかんないけど、納得したんならいいわ」

「それとありがとう。一人で決着をつけようと思って美鈴も誘わずに来たけど、正直、今、この場で、一人だったらかなりきつかった」

「でしょうね」

腕を組んだままの榊さんを見た。とても綺麗だった。ダンジョンというのは本当に不思議な場所だ。榊さんは巨乳でも決して美人ではなかった。それなのに今となっては美鈴並の美少女になっている。

「榊さん、少し見ない間に綺麗になってびっくりしたよ」

「それはこっちのセリフよ。六条、ちょっと見ない間にびっくりするぐらいイケメンになったわね。お互いもう別人みたい」

「戸惑わなかった?」

「戸惑ったけど悪くないなって思った」

「そっか。俺はいまだに自分のこの顔が別人に見えるけどな」

「そのうち慣れるわよ。私はもう慣れたし」

「強いね」

自分の容姿がほとんど別人みたいに変わったというのに、あまりにもあっけらかんとした榊さんの様子に自分が深く考え過ぎなのかと思えた。

「榊さん、これからどうするの?」

「私は当初の予定どおりDランに行くわ。京香さん達にレベル上げの手伝いとかアドバイスはもらいながらだけどね。でも六条、ちゃんとダンジョンから出てきているときは私に連絡しなさいよ。会いに行くから」

「なんで?」

「イケメンはできるだけ見ていたいの。目の保養になるでしょ?」

「本当、ブレないな」

池本の頭だけがこちらを見ている。さっさと出て行けばいいのだが、このまま放置して良いのかと考えると、うじうじとダンジョンから出られずにいた。

「あと協力してあげた私へのご褒美だけど」

「うん。やっぱりそうなるんだね。変なこと言わない限りはできるだけ聞くつもりだけど」

一発やらせてくれとか言い出しそうで怖い。

「一発やらせて」

「それ以外でお願いします」

やっぱり言ったよこの女。

「ええー、なんでもいいって言ったじゃん。先っちょだけでもいいからお願い」

「それ女の子が言うセリフじゃないよね?それと何でもいいなんて言った覚えないから」

「いいじゃん六条ー。その顔なら、どうせこれからいろんな女としたい放題よ。一々悩まずに楽しんで行きなさいよー。私もそうしてるから」

「いやいや、そういうわけには行かないよ」

「でもさー」

「なんだよ」

「私の巨乳をずっと押し付けられて、もう待ちきれないんでしょ?結構興奮してるの知ってるのよ?」

「うっ」

「ふふ、仕方ないやつね。和也、あんたのお詫びに最初はここで、六条の溜まっているものを浄化させてあげるから、そこで見ててね」

「いやOKしてないだろ!こら触るんじゃない!」

榊さんの手が鎧の隙間に入り込んでくる。美鈴の親友であり、その彼氏の死体を前にして、堂々とそんなことをする勇気は俺にはない。というか、これ以上女性関係が荒れたら死んでしまう。呪師なら侍の腕力に勝てるわけがないから抵抗しようとした。だが、

「なんだ!?体が動かない!?」

「六条。呪師ってね、敵の体を動かなくするのが得意なの知ってる?」

「やめろ!俺はお前の敵じゃない!錯乱するな!というかこれは犯罪!」

「バカね。ダンジョンの中では犯罪なんて無いのよ。すぐに気持ちよくなるから、ちょっとだけ我慢してね」

「いや、ちょっと、お前、洒落にならっ!」

俺は身の危険をこの時ほど感じたことはなかった。