軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十話 Side小春③

私、榊小春は焦っていた。

六条と浅草寺へ向かう電車へと乗り、隣に並んで座る。和也のアホは一本先の電車で、浅草寺に行ってしまったようでいなかった。それでも意外と抜け目のない和也である。車内に視線を巡らせると小野田の茶髪が目についた。

下手に色々しゃべると全部和也に筒抜けである。私は六条に尋ねた。

「ねえ、本当に和也と戦う気?」

さすがにあのあほも六条を本気で殺しはしないと思うけど、少なくとも六条が再起不能になるぐらいはやってしまいそうだ。それは元はといえば私のせいで、バカな考えを起こして、最初に六条を懲らしめてやろうと考えたのは自分だった。

それにあのアホは単純だから乗ってくれた。今日までのことを思い出すだけでも頭が痛くなってくる。あの日、中レベル探索者に声をかけられた私は、あの日以来、胃が痛くなるような毎日を過ごしていた。

『ねえ、僕。お姉さんたちがダンジョンについて全部教えてあげる』

和也のアホはあの日から、京香さん達に夢中である。拳銃を持ってダンジョンの中で調子づいていた和也は案の定、ダンジョンの中で死にかけていた。日本刀で胸を貫かれて、金属バットで足の骨を折られていたのだ。

それを京香さんたちが助けた。

和也にとって間違いなく女神に見えたことだろう。

しかもちょっと綺麗なお姉さんたちが、和也にとって良いことも色々させてくれた。うれしくて仕方なかったと思う。京香さん達は5人パーティーで、和也はハーレム状態だった。私は小間使いのように使われて、2人の方がレベルアップには効率が良いからと、パーティー仲間にもされてしまった。

おまけに和也への恋愛感情などもうなくなっているのに、気が向いた時だけ彼氏面である。

それでも自分がバカな考えを起こしたからだと諦めてもいた。何より嫌がって、ダンジョンに入れないなんてことになったら、京香さん達に何をされるか分からない。だから、私はその心を押し殺して一緒に入った。

それでも普通なら入れなくなる。だから、京香さんたちは私にメリットも示してくれた。それはあいつらも知らないことだ。そう。あいつら。和也もだが、小野田と後藤の2人。

『ね、小春ちゃん。あと2人喜んでパーティー仲間になりそうな子を知らない?』

『男ですか?』

『もちろん。和也には悪いんだけど、あのレベルの男一人じゃ物足りないのよね』

和也とこの京香さん達では体力が違いすぎる。ここ最近和也が、京香さん達に搾り取られるだけ搾り取られてすごくばてているのを私は知ってた。

だから小野田と後藤の2人を誘う事に和也は反対しなかった。その結果、あの2人がパーティー仲間になった。正直、それはかなり嫌だった。何しろあの2人、ダンジョンの中に入っているのに、あんまり容姿が良くならなかったのだ。

イケメン好きの私は、そんな2人のことがどうしても好きになれなかった。正直、和也もレベル10を超えても、あまりパッとした容姿にはならなかった。私はというと自分でも意外だったが現時点で魅力が40になった。

それは美鈴に以前どうしても教えて欲しいと言って、せがんで聞いたレベル1の時の美鈴と同じ魅力だった。うれしくて仕方なかった。レベル1のときとは言え、あの美鈴と同じ魅力になったと舞い上がった。

『ね、ねえ、和也。見てよこれ、私40だよ』

『お、おう、そうかよ』

『ち、自慢するなよな。いやな女だよな』

『うっとうしいなー』

そして女の嫉妬も怖いが、男の嫉妬ももっと怖いとよくわかった。和也は魅力が25までしか上がらなかったし、後の2人に至っては18と19だった。正直、それぐらいの数値は一般人でも結構いる。和也で何とかイケメンと言えるぐらいだ。

私の40は、誰が見ても可愛いと言われるレベルで、探索者でも40を超える人間はなかなかいない。結果として、私の扱いは余計に悪くなった。京香さん達もそんなことは見て見ぬふりで、それよりも早く和也たちのレベルを上げて、立派なダンジョンペットにするのに夢中だった。

『このステータスでいいわよね?』

『うん、大丈夫だと思うよ。これならレベルアップ限界にはまだならないと思う』

『ペットを育てるのって結構難しいわね。餌を与えすぎて太らせ過ぎたらダメだし』

『あの3人やたら散歩したがるよね』

『最近ちょっとはこっちも楽しめるんだけどさ』

『でもやっぱりペチペチされてるだけみたいで、物足りないのよね。薬キメてもらおうか?』

『慌てないで。そっちの教育はとにかくレベル100にしてからよ』

『それまでお預けか……』

『廃人になったらもう使えないんだから、我慢しなさいよ。さすがに私たちじゃペットにエリクサーを与えるのは無理よ』

自分がダンジョンペットにされていることにも気づかずに毎日アホみたいに喜んでる。私は相変わらず気が向いたら彼女扱いされて、その他ではパシリ扱いでいいように使われていた。京香さん達は私への脅しもあるのだろう。

私の前で堂々と和也達をダンジョンペット扱いして、育て方の方針を真剣に話し合っていた。きっと行き遅れのあの5人は、中レベルで頭打ちになり、中途半端にレベルが上がっただけに、相手をしてくれる男もいなくなり、それぐらいしか夢中になれることがないんだろう。

私はそうなりたくないのだが、このままだとそうされてしまいそうだ。その点、六条は全然違った。一目見ただけで惹きつけられるような、甘いマスク。そばに居るだけでいい匂いがしてくる。六条に『ここで裸になれ』と言われたら喜んでなると思った。

「そのつもりだよ」

「やめときなよ。あんなのでもレベル15だよ。絶対勝てないって」

調子に乗って中レベル探索者を呼び捨てにするし、この間は京香さん達のお尻を蹴っていた。私はいつ京香さん達が本性を現すのか怖くて怖くて仕方がないのに、あの3人は何も気づいてない。

自分たちがいいようにペットにされていることも、遊ばれているだけだってことも、隠されて全然わからないようにされてる。それでももっとレベルが上がらないと、京香さん達の相手ができない。

だから今の段階で、あの3人は結構良いステータスをしている。

「俺はね。榊さん。池本に負けたって、もう思いたくないんだ」

「それは分かるけど、あの3人同時なんて絶対無理よ。レベル7じゃ絶対に勝てない。あいつら平気で3対1とか卑怯なことするわよ」

「俺はそんなことはないと思ってるよ。あいつらだってレベル7を相手にそこまで大人気なくないだろ。それに俺は池本を一発でも思いっきり殴れたらそれでいいんだ」

「ちょっとそれは甘くない? 六条は虐めてたやつの良心なんて信じてるの?」

「榊さん俺が虐められてたってやっぱり知ってるんだ」

「それは……」

私は言葉に詰まった。つい最近まで六条が虐められるのは当たり前だと思ってた。殴られても仕方がないくらい情けないままでいる六条が悪いと思ってた。

「ずっと榊さんの俺を見る目が嫌だった。なんでそんな情けないんだって。お前は虐められるために生まれてきたんだって。そんなふうに言われてる気がして嫌だった。榊さんだけじゃない。他のクラスメイトの視線も結構似たようなものだったよ。今日だってそうだ。どうせお前が虐められて終わりなんだから、早く教室から出て行け。お前のせいで俺たちは迷惑してるんだって」

「そんなこと……」

あるか……。みんな六条がびっくりするぐらい格好良くなってるのに、それでもいつもの六条にしか見えてないみたいだった。そうか。六条は和也を殴り飛ばすまでどれだけ格好良くなっても虐められっ子、六条のままなのか。

だからどうしても和也を殴り飛ばしたいんだと思うと奇妙なほど納得ができた。

「私、協力してあげようか?」

だからそんな言葉が出た。今になって六条に見惚れている私のせめてもの贖罪だった。小野田が聞いているだろうが、どうでもよかった。

「必要ない」

「どうして? 私が協力したら不意をつけるから、小野田と後藤ぐらいなら動けないようにできるよ。そうしたらせめて和也と1対1にはなるでしょ?」

それでも私の口から、『美鈴を呼んだら』という言葉は出てこなかった。むしろ美鈴がいないこの状況を私は喜んですらいた。

「そういうことじゃない。俺は自分のことに他の人を巻き込む気はない。それをするぐらいなら鶴見先生に言われた時に助けてもらってるよ」

「そりゃそうでしょうけど……」

六条は聞き入れそうになかった。これが男の意地というものか。バカバカしい。それでも六条の甘いマスクでそんなことを言われると蕩けるほど格好良い。やっぱり人間は見た目が大事だ。イケメン好きの私は間違ってない。

イマイチで、格好良くなり損ねたあの3人は六条のために死んで。どうして和也はダンジョンで死んでくれなかった。私は美鈴の友達として、この顔を横で見てるだけでも幸せになれたのに……。無情にも電車が浅草に到着してしまう。

スマホの着信音が鳴った。小野田から連絡がいって、和也が怒ってメッセージを送ってきたのだ。本当に死ぬほど鬱陶しい。自分の彼女を分からせるためにほかの男を殴ろうとしているところも、馬鹿みたいに小心者なところも。

「六条、こっちよ」

浅草寺ダンジョンの入り口ぐらい六条だって分かってるだろうけど、私は見張り役の小野田に見せつけるように六条と腕を組んで引っ張った。

「池本に怒られるよ」

「これからどんな目に遭うかわからないんだから、そんなこと心配しなくていい。それより、もしかしたら死ぬかもしれないんだから、胸の柔らかさぐらいしっかり楽しんだらいいじゃない」

「はは、ありがとう。榊さんのこと本当に誤解してたみたいだ」

「いいのよ」

きっと誤解されたそのままが私の本当だから。誰でも触れば喜んでくれる私の一番の自慢の胸をしっかりと六条の腕に押し当てた。六条の整っていてそれでいてワイルドな顔が真横にある。

私の豊かな胸を押し当てたら、普通の男なら、誰でも少しはだらしない顔になるのに六条の顔に変化はなかった。あまりにも格好良くてドキドキした。一度だけ抱いて欲しいとお願いしてみたい。イケメンが死ぬなんて世の中の損失だ。死なないで欲しい。

私は強くそう願った。