軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十四話 魅力値

「エヴィーが心配だって顔してる」

ダンジョンの外はまだ昼だった。正確な時間はわからない。東京では、雪が降っていて、アスファルトに降り積もっていた。相変わらずこの気候の違いだけは驚かされる。あの照りつける太陽がまるで夢のようだ。

「そんなことないけど」

「私のこと独占欲が強いって思う?」

「い、いや、思わないよ。むしろ当たり前だと思う。俺がはっきりしなきゃいけないんだけど、ごめん」

「いいよ。むしろレベル1000を目指すとしたら、エヴィーを仲間にし続けている気持ちはわかる。でも……」

それだけの気持ちではなかった。レベル1000になりたいからはっきりしないわけじゃない。むしろそれは他の方法を考えてもいいと思っている。だからダンジョンではあんなことを言ったのだ。

本当はあれで俺の方がエヴィーから愛想を尽かされるはずだった。しかしそうはならず、俺が、エヴィーを好きになってきているからはっきりできない。

「私ね。正直エヴィーが怖いの。クラスにいた時、自分が一番綺麗だっていうことがなんとなく分かってた。それを笠に着てたつもりはないけど、クラスでそう思われてることを自分自身が当たり前だなって思ってたんだ。でも、エヴィーは私より綺麗だし、お金持ちだし、優しい……時もある。だから一緒にいると怖くなってくる」

「美鈴でもそんなこと感じるんだ」

「私、自分でも初めて知った。人を好きになるってこういう気持ちになるんだって。こんなに嫉妬深くなっちゃって、こんなに自分だけを見て欲しいって思うものなんだって。ねえ、祐太の言ってた好きな人って伊万里ちゃんのことだよね?」

「あれは……」

違う。俺が好きなのは桐山美鈴だ。伊万里は大事だけどそういうのとはまたちょっと違う。恋愛感情ではないのだ。キスまでしてなんだそれって話だけど、女性として本当に好きなのは桐山美鈴なのだ。

口に出して言ってしまいたくなる。

だが、

『きっと桐山さんは自分なんかに好きと言われたら、迷惑だろうな』と思ってきた。

『告白なんてしても笑いものにされるだけだ』と思ってきた。

その相手が横にいて自分のことを好きだと言ってくれても、勇気が出なかった。何よりも恋愛感情ではなかったはずのエヴィーと伊万里も手に入れたいと欲の深いことを思い始めている。

「ごめんね。祐太は私のことを好きだなんて一度も言ったことないのに、エヴィーに嘘ついちゃった」

「いや、その、俺の方こそ」

「祐太は悪くないよ。私もエヴィーと一緒。伊万里ちゃんに泥棒猫だって言われた通りだと思う。でもものすごく祐太と一緒にいると気持ちいいの。これが好きなんだーって思うと、こんなにごちゃごちゃな状況なのにそれほど悪くないと思ってる自分もいるんだよ」

美鈴が寒いせいか余計に俺の腕にしがみついていた。もうすっかり俺の腕に胸を押し付けるのも当たり前になった。こうされることに未だに俺が『現実感がない』と言ったら美鈴はどんな顔をするんだろうか。

ついこの間まで本当に俺はこんなんじゃなかったんだ。ただの情けない虐められっ子だった。

「ね、お店に寄ろう。食べ物買わないと」

「食べ物?」

「そ、だって高級ホテルとかは肩が凝りそうだし、食べ物持ち込める安いラブホにしようよ」

「ら、ラブホ?あ、ああ、いや、美鈴。それはちょっと待って欲しい。そういうのは、まだ早いと思うんだ。15歳でもしも子供なんてできたら大変なことになっちゃうよ」

「……ユウタ。私が嫌い?」

「そんなことはないよ」

「……今回のダンジョンに入る前にエヴィーと一緒に一晩過ごしたんだよね?」

「うん」

「じゃあ本当にするのは無理でもそれは良い?」

「ああ、ああ」

美鈴はなぜこんな優柔不断な人間を強く求めるんだ?エヴィーもそうだ。いっそ誰でもいいから俺に愛想を尽かさないだろうか?

「どっちみち私たちが泊まるのは安いラブホにしておこうよ」

「まあそれはいいけど」

どうやらすごいお金を渡されても、美鈴はそのお金で何をしたらいいのかわからないらしい。俺だってそうだ。マジックバッグに入っている4000万以上のお金はどうするべきなのか正直悩んでいた。伊万里に頼んで銀行にでも預けておいてもらおうか……。

いや15歳の女の子が銀行にそんな大金持って行ったら何を言われるかわからない。やはり困ったときはデビットさん達に頼むのが一番いいか。

「じゃあご飯の買い込み」

美鈴と腕を組んだまま惣菜やお菓子まで売ってる大きな薬局の自動ドアを開けた。中の空気が暖かかった。こんな綺麗な美鈴と並んで歩いているせいで、先ほどからジロジロ見られる。

今は服装は変えているが、顔や体格は変えてなかった。だから二人で並んで歩くと、あまりにも釣り合わないカップルだと思われてるのだ。

「みんな、祐太のこと見てるね」

「はは、そりゃもう。美鈴と歩けばね。変なのに絡まれなきゃいいけど」

「変なのに絡まれたら守ってくれるでしょ?」

そういえば自分が強いんだと思い出した。普通のチンピラなら拳銃を持ってても怖くない。こんなところで探索者なんかにそうそう出会うものでもないから大丈夫といえば大丈夫か。

やたらマスクが並んでいるなと思いながら歩いていると、学生ぐらいの女の店員さんが、俺のほうを見ていた。視線が合うと慌てて向こうから逸らした。

「やっぱり俺は美鈴とかなり釣り合ってないと思われてるみたいだ。レベルも上がったし、そんなにひどい顔はしてないと思うんだけど。ハリボテなのがバレるか」

「はあ」

美鈴は何か呆れたように息を吐いた。

「祐太、自分の魅力値は?」

「56。数字だけはすごいよね。50を過ぎたら超絶かっこよくなるって聞くけど、まあ俺だし」

「はあ、ウジウジ虫。わかってないんだね。エヴィーがどうしてそんなに祐太にこだわってるか」

「そりゃレベル1000になりたいからだろ?」

「はあ、自分の顔を鏡で見たら?」

「何で?」

「エヴィーも私もやっぱり顔がいい男の方がいいってことだよ」

そう言われて大きな薬局の奥にある姿見を指差された。俺はそれで自分の姿を見た。

そこには黒いダウンジャケットを着たものすごい男前がいた。

誰、こいつ?

と思って後ろを振り返ると誰もいなかった。そして自分だと気づく。

「誰?」

それでもそんな言葉が出た。ダンジョンの中では鏡などないから自分の姿などほとんど見ることがなかった。美鈴やエヴィーは持ち込んだ手鏡で身だしなみを整えていたが、自分は気にならなかったので水に映った自分を見ているぐらいだった。

「誰って、祐太以外誰がいるのよ」

「俺?」

もう一度鏡を確認した。なぜ俺の顔はこんなに格好良いんだ?探索者とはここまで格好良くなるものなのか?相変わらずの短い髪だが、凡庸だった瞳は鋭く整った瞳になっていた。

鼻筋が通って唇の形も綺麗だった。平均的だった身長も少し伸びたように思う。鏡に映る美しい男はそこら辺のアクション俳優よりもワイルドで、恐ろしいほど男の魅力に満ちていた。

『探索者になったのに容姿が全く良くならなかった』

以前、穂積たちのことを言っていた南雲さんの言葉を思い出す。探索者になれば、こんなに格好良くなれるはずだったのにならなかった。穂積たちのやったことは最悪だが、レベル300にもなってそれでも男前にならなかった。

自分の顔を改めて見て、そのことには同情を禁じ得なかった。

「ほら、女の人がみんな祐太を見てるよ。あの人もその人もみんな見てる」

「自分じゃないみたいだ」

いや、みたいだ言うよりも。自分じゃない。これは?自分の顔じゃない?いくらなんでもこれは綺麗すぎる。男前すぎる。格好良すぎる。保証できる。俺の顔はこんなに美しくなるはずのない顔だった。

「でも可能性のない顔にはならないって言われてるんでしょ?」

「こんな顔になる可能性が俺にもあったって?」

鏡を見て思う。以前よりも筋肉質になり、顔も引き締まっている。レベルアップの見た目変更は自分の可能性がゼロの場合は、その顔にはならないのだという。美容や健康、筋トレなどその他色んな事に気を使って、その人の究極になるのだと言われていた。

「元々そんなに顔は悪くなかったのか?」

いや、それでも骨格ごと変わったような気がした。俺がこんな顔になれたらと理想を描いていたような顔である。だいたい身長が伸びているのがおかしい。いやおかしくないのか?中学3年だと考えたらまだ身長が伸びる可能性はあった。

「それにしても……」

これでレベル10になったらどうなるんだ?自分で自分の顔を見てうっとりしてしまう。格好良い人にナルシストが多い気持ちがわかる。こんな顔ならずっと鏡を見てても大丈夫だ。

魅力は等分に上がっていく。

だとするとレベル10になれば、俺は魅力80だ。

エヴィーの到達点が79だと思われるから、エヴィーよりも綺麗な男になってしまう。

そうだ!

ダンジョンでも自分の顔が見られるように鏡買っていこうかな……。

「で、でも、やっぱり美鈴の方が美人だ」

「何言ってるの?ほとんどもうステータスの魅力は同じだよ。祐太が56で、私が58。魅力の上がり方って特徴的で、レベル10まで等分に上がって行くの。だから、私は最終的に67で止まる。祐太は最終的に80になる」

「……」

有名な話だ。美鈴も知っているようだ。だから、レベル2になる時に魅力が3上がるだけでみんな狂喜乱舞すると言われてる。魅力が27も上がると保証されたからだ。しかし俺はレベル2になったとき8も上がっていた。

正直、何かの勘違いかと思っていた。ダンジョンはステータスを使って冗談を言うのかと思っていた。それぐらい8は現実感のない数字なのだ。

「気にしてなかったの?毎回レベルアップで、魅力が一番上がってたよ。小春が言ってたけど魅力って普通の顔で10だって。レベルアップしても30はなかなか超えないらしいよ。探索者でもほとんどの人は魅力30前で止まっちゃうんだって。一番悲惨なケースだとレベル10になっても魅力が上がらないこともあるんだって」

「榊さん、ものすごく見た目を気にする人なんだね」

「みんなそうだよ。私だって正直祐太に負けたくないなって思ってたから、ずっと魅力のステータスを気にしてた。だってレベルが上がるごとに明らかに見た目が変わるから、すごく顔が気になるもん。祐太なんて一つレベルが上がるごとに異常なほど格好良くなっていくし」

「俺にはもったいないぐらい綺麗な美鈴がそんなの気にしてたの?」

「だって祐太が私より格好良くなったら、私に興味なくなるかなって」

「格好良くって………」

それ以前にこれを自分の顔と言っていいのか?一度上がったステータスは下がらない。この自分とは思えないような顔が自分なんだと思って生きていくしかない。それでも自分の顔を鏡で見れば見るほど違和感があった。

鏡のところでいつまでもいたら変なので、俺たちはそこから離れて、買い物かごを手に取り適当にポッキーとかスナック菓子とか、ついでに酔わない程度にビールを一本だけ購入した。

「女の子と買い物なんて一生無理だと思ってた。でもこれで一生に2回目だ」

「その顔でそんなこと言ったら嫌味だよ」

「そうかな」

「そうだよ」

「あ!」

「何?」

「こ、ここは俺が奢るよ」

「ふふ」

美鈴は思わず笑ってた。まあそりゃそうである。きっと1万円にもならない買い物である。マジックバッグの大金を考えると奢るも何もあったもんじゃない。きっとこの店のものなら一番高い物でも買える。

探索者になるためにと思ってこういう店でも一円でも安いものを選んでいた。それがつい最近のことなのだ。

「ねえ、祐太、変なこと聞いていい?」

「え?う、うん」

「祐太、自分の元の姿って好き?」

「……あんまり好きじゃないかな」

あの頃自分の姿を鏡で見るのも憂鬱だった。いや、まだ鏡で見るとマシなのだが写真で撮ると、どうしてこんなに不細工になるのか自分でも不思議なほどだった。

「そっか。じゃあ、なんでもないの。変なこと聞いてごめんね」

「うん?それぐらい別にいいよ」

「……祐太。大好き。祐太がその気なら私何でもするから言ってね」

美鈴が露骨なことを言ってくるから恥ずかしくなる。こういうところに躊躇がないんだよな。俺は周りに聞かれないか気になりながらも、レジへと向かう。

若い女の子のレジ係で、俺の顔を見ながら真っ赤になって、レジを進めていく。その気持ちは分かる。俺もこの顔が目の前に来たら男でもビビる。支払いで手が触れると驚いたように引っ込めた。

「あ、あの、二人ともすごく綺麗ですけど探索者の人ですか?」

レジで話しかけられたことに驚いた。というかレジ係がそんなことをしていいのか?その女の子は結構可愛かった。年齢的にはすこし年上だ。絶対以前の顔なら話しかけられなかったと思うと複雑だ。

「まあそんなところだよ」

あの鏡で見た顔でこんなことを言っているのかと思うと、すごくキザな男に思えた。

「やっば」

「?」

「た、探索者ってすごく格好いい人が多いですよね。わ、私も今年から武蔵野のDラン行くんです。もしダンジョンで見かけたら、よろしくお願いします。あの、握手してもらってもいいですか?」

「は?あ、ああ、別に構わないけど」

後ろで並んでいるお客さんが、この女の子何言ってんだみたいな顔になっているはずだ。と思ったら、あんまりなってない。むしろ女の人だったが、声をかけたそうに寄ってきてる。俺はレジの女の子に手を差し出すと握手した。なんだかやたらとしっかりと握られた。

「こ、この手しばらく洗わないでおきます!」

「いや洗った方がいいと思うよ」

なるほど、格好良くなるとレジをするだけでも疲れるのか。今年からDランと言っていたから、レジのバイトをしていることを考えるとその資金集めか。高校卒業してから入るんだろうか。Dランは年齢を問わないので、高校ではあるが15歳である必要はない。

「Dラン……」

どういうものか、少し興味が湧いた。今なら虐められないだろうか?レベル7になってこんなに顔がイケメンになって、それでも虐めを気にしてる。やはり所詮はその程度かと思うと自分の顔に自惚れるのはほどほどにしようと思った。

「美鈴はよく街中で声かけられたりする?」

店から出るとそんなことを聞いていた。

「そこそこかな?渋谷とかだと大抵ナンパされるけど……まあ、格好良い男の方がよく声かけられるんじゃないかな。男が女に声かけると変な目的だって受け取っちゃうけど、女だとそういうふうには受け取らないから」

「そうなんだ」

「顔。ニヤついてる」

「お、おお」

「隙だらけだから、あっちこっちから誘惑されるのよ」

「前はそんな心配しなくても、誰も声かけなかったんだよ」

思わず笑ってしまいそうになる顔をなんとか引き締めた。雪がちらついていても寒いと感じなかった。美鈴がしっかり腕を組んでくれているからだ。そうしながら俺はスマホで15歳でも泊まれるホテルを探した。

探索者なら大丈夫だというのは分かっているが、カスタマイズするとは言えステータスを提示するのも年齢を聞かれるのは面倒だった。だからそういう手続きのない場所を探した。すぐに近い場所が見つかった。

美鈴と二人なら走ったらすぐだが、街中ではさすがに階段探しみたいなことをする気にならない。タクシー乗り場で、二人で乗った。あえてそういうホテルだと言わずに住所だけ言うと、運転手は気を利かせてニヤつきながら走ってくれた。

タクシーから降りるとホテルの人間と一切顔を合わせることなく中へと入った。安いと思っていたのにハート型の大きいベッドがデンと置いていた。

ベッドに2人で腰掛けると、美鈴にギュッと抱きしめられた。

「祐太の汗の匂いがすごくする。私、祐太は匂ってるほうがいいと思う。なんか祐太っていい匂いだし、祐太の匂いがしてるほうが安心する」

「動物みたいだ」

「言ったな」

ダンジョンから出てきたまま着替えて、そのまま車に乗ったからお風呂に入ったわけでもない。指輪の変身を解くと、二人とも元の姿に戻った。美鈴は白い長袖のシャツと黒い短パンを履いてるだけで、俺も長袖のシャツにジーパンを履いてるだけだった。

その日、俺も気分が高まっていた。そのせいか、少しだけ美鈴と先に進んだ。