軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三話 焦り

「死んだ!? ジャックが……嘘だろ?」

なんだかんだで今まで、仲間を死なせずにやってこれた俺は、今回もどこかでうまくいくんじゃないかと思い込んでいた。しかし海王獣アトラディオと戦っていた場所まで到着した俺が、【管理球】向かおうとしたタイミング。

その時に土岐が顔色を失って報告してきた。ジャックが死んだ。そのことに俺は気づかなかったが土岐がすぐに気づいた。

「間違いないと思う。僕たちはお互いに命を保管し合ってるんだ」

「保管?」

「そうだ。どちらかが死んだらどちらかの元にすぐに魂が回収されるようになってるんだ」

「そんなことができるのか?」

「うん。米崎博士から聞いた魂を相互保管する方法だよ。特別な縁でつながれたもの同士は、これによって殺された後でも【蘇生薬】で蘇ることができる。でもそれが今切れたのを感じた」

「つまり……死んだと?」

「間違いないと思う。それぐらいジャックとのつながりを感じないんだ」

ジャックが死んだ。米崎に続いてジャックまで死んだ。あまりにも現実感がなかった。本当のことなのかと思ってしまう。俺たちは田中があんなことになっても田中ファンのままで、それなのにそんな話もできてなかった。

ジャックと話したいことが俺にはたくさんあった。学生時代にやったことのない友達トークというのもしてみたかった。

「俺はまだジャックと何も話してないぞ……」

でもそんな話をする前にジャックが死んだ。膝が折れそうになってくる。海の上だったがその場でへたり込みたい気分だ。しかしジャックの死の知らせを聞いて、そんなに時間が経ってない時だった。

「うん?」

緑色をした精霊が俺の近くに現れた。

「こいつは?」

「ジャックの精霊だ。風の精霊だよ」

風の精霊は人の形をして俺と土岐の間で光り出した。そうすると目の前にジャックが見た光景が映し出される。それはジャックの記憶交じりで、俺は本当にジャックが死んだのだと知った。そして、

クミカではないクミカ。

そんな存在がいるのだと改めて実感させられた。何よりもセラスが自由に動けるようになった瞬間にあっという間に2人も殺された。米崎とジャック。あまりにも痛すぎる。このまま作戦を進めていいのか。逃げるべきではないのか。

そんな思いが湧き上がってきて、止まらなくなってくる。

「六条君」

このままセラスという桁違いに強い存在と対峙したら、こちらの準備が整う前に何人殺されるか……。

「六条君!」

セラスが目の前に来たら俺たちは抵抗できないんだ。全滅することだって……。

「六条祐太!」

「……あ」

土岐が呼んでて顔を見た。

「君は君のやるべきことをするんだ。ジャックも僕も死ぬ覚悟をしてこの戦争に参加した。死んだからって文句はないよ。僕たちはどっちかが死んだら、その家族の面倒を見る約束をしている。だから僕は残念だけどこれ以上は協力できない。僕まで死ぬとジャックとの約束を守れなくなるからね。でも、君がここで諦めることだけは、僕は許せないよ」

そんなことを土岐が言い、

「ジャックが死んだんだ。米崎博士だって死んだんだろう。逃げることは許さないよ」

「……」

そう言われて俺は顔を上げた。

「……今更、そんなこと言い出す気はない」

俺の力のない言葉に土岐が続けた。

「それでいい。それに個人的な見解だけど、セラスはそれほど自由に動けないんじゃないかと思ってる。千代女様の情報だとセラスは健康問題を抱えている。それがなければ一番最初に目の前に来るのは、君だったんだと思う。だから、君の準備ができるまでセラスには近づかない。みんなにそれを徹底してもらう。それで作戦を続行していいんじゃないかな」

「……」

「セラス様が健康問題を抱えている話は私も聞いたことがあるぞ」

氷狼王グレイシスもいたのだと今、気づいてそちらを見た。白い狼が俺たちのそばに来ていた。

「本当に?」

確認したのは土岐だった。

「本当だ。どうもあまり長時間動けないのではないか。そんな話は何度か聞いたことがある。一度その力を大きく振るわれた後、かなり長期にわたって姿を見せないのだ。私が生きているこの何百年の間にも何度かそういうことがあった」

「……」

グレイシスの言葉に俺は考え込んだ。

「なら君は早く行かなきゃいけないよ」

土岐が口にして、グレイシスもさらに言ってきた。

「さっさと急げ。アトラディオの【管理球】はこの海の全体を司るものだ。それは間違いなくセラス様が管理している【国家管理級】の次にこの世界で大きな【管理球】だ。それによってお前がレベルを上げることこそ重要なのだろう?」

悲しんでる場合じゃない。クミカからのつながりでうっすらと彼女が桜魔に勝利したことも把握していた。それならばアトラディオと桜魔の【管理球】でレベルが100近く上がる。

この両者が所有していた【管理球】のエネルギーはそれぐらい大きい。

「分かった。あと土岐」

「何?」

「お前が戦争を抜ける件了承した。ジャックの家族のこと頼むぞ。報酬についても心配しないでくれ。規定通りに報酬も払わせてもらう。死亡に伴う補填も——」

「それはいいよ。報酬はありがたいけどね。でももう十分すぎる。それよりそんなこと心配してる場合じゃないよ」

この戦争における第1段階はほぼ完了していた。全面的に仲間の支援が必要な局面は終わりを迎えてきている。土岐はそのことも承知して口にしたのだと思う。

「そうだな……。グレイシス、どういうわけかクミカの光の精霊が使えなくなってる。【意思疎通】はできれば戦争中に使いたくない。悪いが残りの戦場、ホロスと帝王ロガンのところに走って直接レベルアップできることを知らせてくれ」

「分かった。では私はもう行く」

「頼む」

俺の言葉にグレイシスが飛び出した。俺は美しく真っ白な巨狼が遠ざかっていくのを見ながら、海の中へと潜っていく。

《土岐、バタバタしてすまない。後を俺に任せて土岐はもう戦場を離れてくれ》

《うん。わがままを言ってごめんね》

《いいや、ここからはそれほど人数がいても仕方がない。土岐がいなくても全く問題ない。それよりもジャックの話をもっとしたいんだ。だから、後で聞かせてくれ》

《それなら無事に作戦を完遂させてよ》

土岐は高速通信でさっさと終わらせた。俺もそれに答えてそれ以上は連絡しなかった。そして俺は再び鳳凰の姿に戻って、海の中に潜ると、アトラディオから伸びるエネルギーの糸をたどっていく。

南雲さんもこんな気持ちだったんだろうか。エルフさんが死に、日本の探索者がかなりの数死んでしまい、そして田中とフォーリンは悪神に堕ちた。それはどんな気分だったんだろう。よく耐えられたものだ。

俺はどこか、まだ誰も死なないと信じていた。しかしその俺の自信が何の意味もないものだと痛感させられた。戦争をしているのだ。こちらに被害が出て当たり前。そういうことなのだ。それにしてもギガノス大陸は何かおかしい。

ジャックもそう伝えてくれた。摩莉佳さんとも連絡が取れないし、確実にローレライが噛んでる気がする。でも、現状ではこれ以上、手を出しても犠牲者が増えるだけになる。だが美鈴と榊がいる。放置していいのか?

考えている間に【管理球】がどんどんと近づいているのを感じた。

「でかいな……」

海の中に浮かぶ【管理球】が見えてくる。今まで見てきた中で間違いなく一番巨大だった。

「——祐太様。これを」

無事レベルアップとルビーコインを手に入れた俺は、サクラマギアの管理球も手に入れるため、そちらへと向かっている途中で桜魔を殺したクミカと合流することができ、クミカが俺の影の中に戻る。

それと同時に桜魔の死に様と、桜魔の頭の中身が俺の中にも伝わってきた。そのことで、改めて戦争をしているのだと思わされた。クミカは心配するが、それでも俺が止まらないことも承知してくれていた。

クミカに案内されサクラマギアの【管理球】もこちらのものとした俺は、隣で鬼が戦い続けているのを感じる。今なら助けられる。そう思ったのだが、

《鬼、今からそっちに》

《必要ない。お前が来ても俺が抜けるだけだ。こいつとは1人で戦わせろ。お前は俺の言葉を一度は聞かなきゃいけないはずだ。お前は俺がいなければ死んでた。違うか?》

《だが、お前と俺の二人がかりなら絶対ホロスに勝てるぞ?》

《そんなつまらん戦いは鬼の戦いではない。そもそもこの男はそこまで甘くない。お前が一番わかっているはずだ。こいつは正面から1対1でない時点で、“別の戦い”に切り替える。自分が生き延びる戦いにな。この男は戦いを楽しむタイプではない。“皇帝”として自分が生きるべきことを何よりも最優先にする男だ》

《……》

海の【管理球】が大きくてレベルは全て合わせて90ほど一気に上げることができた。俺の現在のレベルは907。レベル的には皇帝ホロスと全く同じ。しかし装備の面においてまだ相手の方が強い。そして戦いの経験の差も相手の方が多い。

長く生きてきただけありホロスはミスもしない。戦いの経験を山ほどしている。だから確実に戦ってくる。普通に戦ってもまず勝てない。勝ちきることも難しい。おまけにこの男が正面から戦わなくなったら、面倒この上ない。

鬼の言う通りかもしれない。今はホロスとの戦いに俺は入るべきじゃない。そもそもホロスを殺せばセラスが出てくる可能性が高い。そうなるともっと万全の準備がいる。俺が今やるべきことは……。

祐太様、悩むべきではありません。

クミカが俺の思考に入ってくる。

悩むべきではない。

それはわかってる。

俺が今やるべきことは1つだ。

それしかないのだ。

でも、1人だけ楽をするようで嫌だった。

でもどう考えても、

“ガチャを回しに行く”

それが今自分の一番やるべきことだと思えた。ガチャ運はレベル800になった時、あのガチャ運最強女フォーリンと同じになった。ガチャ運10である。今ガチャを回せばもしかしたらルビー級専用装備を揃えられるかもしれない。

美鈴たちを助けに行くべきか行かないべきか悩んだ。でも、今向かったところで、どうにもできそうにない。米崎とジャックが簡単に死んだ。土岐がジャックの死を感じたのは、俺とすれ違ったほとんどすぐ後である。

ジャックは雷神様に近い実力を持ってたらしい。レベルが低いとはいえ、それが簡単に死ぬ。やはりセラスの絶対神としての力はレベル1500なのだ。聖勇国の最強にして唯一の神。でも、

ガチャを回しに行く。

この言葉の響きがあまりにも情けない。

最強セラスから美鈴を助けるために、ギガノス大陸に行くべきか?

それともガチャを回しに行くべきか?

さっさと自分で判断して動かないと、全部手遅れになる。

「クミカ。今のコインの枚数は?」

クミカは桜魔が保管していたらしいルビー級コインを心を読むことで手に入れた。それはクミカと繋がった瞬間にわかる。そして聞かなくてもわかるのに聞いた。

「1人で153枚です」

「そうか……」

思考加速を行い俺は10分ほど悩んだ。

しかし結論は変わらなかった。

現時点でセラスがいるギガノス大陸に向かうことはただの自殺。自殺なんてしに行ったら米崎とジャックに笑われる。俺はあの世に行った時あの2人に笑われたくない。

「——ガチャを回しに行く」

迷いは消した。それだけあるならやはり俺は行くべきなのだ。

「畏まりました」

クミカはいつも通り俺を全肯定してくれる。何か意見も欲しいところだが、クミカの考えていることは俺と繋がっているから伝わってくる。クミカも俺のガチャ運なら今はガチャを回しに行った方がいいと考えている。

まあクミカは基本的に違う考えを持っていても、俺が考えていることを正しいとすぐに切り替えてしまう。だからクミカと相談することだけはあまり意味がない。

「クミカ。できるだけまた早く合流しよう」

「また別れるのですね」

「仕方ない。それよりも早く一緒になりたい。だから急いでくれ」

「畏まりました」

俺は自分だけのレベルを上げるべきか悩んだが、クミカのエネルギーは【管理球】に残しておいた。クミカをレベル的に置いて行きたくない思いもあったし、クミカの中にあるミカエラの力は俺よりも上なのではと思えるほど強い。

あの能力が俺と同じくレベル907まで上がったら、どこまで強くなるのか予想がつかない。それに光は闇に特効を持っているが、闇も光に特効があると言われている。セラスに対抗する上で絶対必要な力だと俺は判断した。

たとえ俺がレベル999になり、千代さんと雷神様もレベル999に戻ったとしても、そもそもセラスをどうにかできなければ、行き詰まることが明白だった。だから俺だけのレベルアップよりもクミカも含めたレベルアップを選んだ。

そのクミカがすでに俺の管理下にある【管理球】を回るために再び俺から離れた。【管理球】によるレベルアップだけは、その場所に行かなければ無理なのだ。

「すぐに帰ります」

「クミカ。わかってると思うがクミカもガチャを回すんだぞ。美鈴たちは心配だが、今はギガノス大陸に近づくなよ」

クミカは俺の言葉を聞いてから新しく得た闇魔法【影移動】をするために俺の影の中に潜った。クミカが離れていくのを感じる。

セラスとローレライ。

正直まだ未来を知ってる奴らに踊らされている気がして仕方がない。それをどうやっても超える必要がある。でなければ千年も準備期間があったローレライたちに勝てるわけがない。

自分を落ち着けながら、【転移】を繰り返して再びレッドに帰ると、ゲートをくぐって、それと同時にここに来たのと同じ、整備された会津若松城の広場に出る。千年郷の空気は穏やかで、太陽が優しく照りつけている。

《桜千。土岐は帰ってきたか?》

まずそちらが気になった。

《はい。つい先ほど帰還されました。『君が心配するといけないから、伝えておいてくれ』と言われております。『ジャックの家族を回収したら、大八洲国の僕の家で大人しくしてるよ』とのことです》

《そうか。よかった》

大八洲国の土岐の家は俺も昔1度だけ行ったことのある二層にあるはず。あんな場所に戦いから離脱した土岐をセラスたちも狙いはしないだろう。そのまま俺はルビーエリアへのゲートをくぐり何度目かになる校門を見る。

以前と同じ白い翼を持つ人たちが門番に立っていた。

「お前また来たの?」

呆れたように言われた。かなりの短期間の間で、4度目になるから、その反応も理解できた。相手は何か聞きたそうな顔だったが、余計な話に付き合う暇はない。この調子ではルビーエリアをほとんど飛ばすことになる。

学校……。今ならきっと楽しく通える。死人が出て当たり前の信じられないほど厳しい学校らしいが、小学校、中学校と全く楽しめなかった俺としては、かなりもったいないことをしている気分だ。

ジャックや美鈴たちと楽しく学校に行きたかったな……。

「ええ、ちょっと急いでるんで行きます」

そんな心の中とは対照的に急いでいる俺の口からは淡々とした言葉が漏れた。門の両脇にいた2人が話す暇もなく、そのままガチャ教室に入る。古びた教室。どこか懐かしくなる黒板。ガチャコインはルビーしか持っていない。

だからルビーガチャが1つだけ机の上に鎮座していた。今はこれにかける気持ちもかなり強い。

「呑気にガチャを回す気分でないのも確かだけど……」

ガチャ教室の戦いとかけ離れた雰囲気に、本当にこんなことしてて大丈夫なのかと思えてくる。しかし何度考えてもこれがベストだと思う。俺の今のガチャ運は10なのだ。おそらくそれは地球の中でフォーリンと並ぶガチャ運だ。

かねてからガチャ運がいいとは言われ続けていたが、これで本当に地球では俺以上のガチャ運の人間はいなくなる。これでルビー級専用装備を揃えることができたら……。俺の中にはその期待がかなりあった。

ただそれでもセラスの問題は残る。セラスをどうにかしないと、行き詰まる。何度も考えてきたことだ。そしてその問題の解決方法も“紅麗様”しかないという考えにも至っている。

「白蓮様はどこにいるのかわからなすぎて、接触してくるまでこちらからできることはない」

そして俺の中でもう1つの思いがかなり強く沸き上がってきていた。

「紅麗様のところに行くタイミングは、多分これが終わってすぐしかない……」

ただでさえ美鈴達が心配なのに、どれだけ時間がかかるのかもわからないようなことまでしに行く。美鈴達がもしも想像以上の困難に直面しているなら、俺の行動によって本当に間に合わなくなってしまう可能性がかなり高い。

紅麗様に会いに行く時間がもしも1週間とかもかかれば、いくら何でも美鈴たちはそんなに耐えられるだろうか。でも千代さんと雷神様がいる。レベル900を超えたあの人たちは俺より強い。もはやロガンに負ける理由もない。

あの二人が動いてくれたら、美鈴達の方はなんとかなるはず……。逆にそれでもどうにもならなかったらやっぱり今の俺が行ってもどうにもならない。いろいろ頭の中でごちゃごちゃ考えた。

そうして結論は、ルビーガチャをまず回す。その後……。

俺は自分の義体を造る。

「弁財天を呼んできてくれ」

義体に弁財天を呼んできてもらう。義体は俺自身でもありすぐに頷いて部屋から出た。俺が何を選んでも次の行動で遅くならないようにする。その準備だけはすることにした。

「やるべきことはやった。後はお前次第だ。頼むから渋らないでくれよ」

俺はともかくガチャを回すことにした。