軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七章最終話 Side南雲 十年 報告

Side南雲

千代女からかなり時間がかかると聞いていたが、2年経ってようやくジャックだけが帰ってきた。報告を田中の屋敷の中にある鈴が引きこもってた場所で聞いた俺は、

「田中の名前がトップランキング1000から消えた。鈴が悪神であったのなら、田中もそうなったみたいだ。それに田中自身からも連絡があった」

とジャックに教えた。どうやったのかは分からないが火星で大規模な送信アンテナでも造ったのだろう。【千年郷】に向かって電波を送信し、それを管理型からくり族【桜千】がキャッチした。

そして自分が悪神に堕ちたこと。このまま鈴のためだけに生きたい。悪神になって敵対関係になったはずなのに田中は律儀にそう教えてくれた。

『本当にごめん。何もかも南雲君に背負わせる僕を許してほしい。南雲君のことだからこんな僕のことでも心配するかもしれない。だから話しておくけどこっちの心配はしなくていい。僕には特殊なアイテムがあるから、こっちの住環境を整えるのはそんなに難しくないんだ』

最後にそんなことを言って、それ以来連絡はない。ジャックは俺からその話を聞いて、すぐに土下座して謝ってきた。

「スマン! 俺がすぐに戻って2人とも連れ帰ってくる!」

「いや、いい。お前までいなくなられると困る。それより火星に確かに鈴の気配はあったんだろ?」

「ああ、それは間違いなかった。かなり気配が淀んでたが、あれは間違いなく天使様の気配だった」

「なら、いい。他のやつらにはもう説明してある。鈴は死んだことにしてたが、今回その情報も修正した。世間的にちゃんと2人とも悪神に堕ちたと発表したんだよ」

「マジかよ。龍神様、それでよかったのか?」

「嘘はばれた時が怖い。それに仕方ないことだ。そんな場所にいるんじゃ誰も気づくこともないと言いたいところだが、急速に上がっている世界の文明レベルを考えると、意外と来年にも火星に人がたどりつくってことも起こりかねない。だが、火星に2人悪神が居るとなれば、進んで開発しようという国も現れないだろう」

ジャックは悔しそうにしていたが、俺はそれほどでもなかった。田中と鈴が生きてるならそれでいい。そう思ってしまった。あの2人が幸せならそれでいい。きっと俺は英傑失格なのだろう。ババアに鈴に田中。

この10年で3人もいなくなり、日本はかなり暗い空気に包まれていた。このまま落ちぶれてしまうのではと恐怖するものもいたが、それでも日本は強国の位置に残っている。最も大きな原因は弁財天様が桃源郷の神となったことだ。

そのおかげで【千年郷】は本当の意味で【千年郷】となり、弁財天様に祐太との子供がいて、他の子供がいないことから言っても、【千年郷】は安泰と言えた。それに大八洲国は国として安定している。

日本のような過渡期ではなく一度決まった神はそう簡単には変わらない。貴族から挑戦を受ける時もあるらしいが、【幻影の円環】は神になったことで5つ使えるようになっており、信長ですら2つの弁財天様に勝てなかったのだ。

今のところ、弁財天様に挑もうなどという貴族はいないらしい。日本は英傑が俺一人になってしまったことから、武力では一番とは言えなくなった。だが、現在、世界の国の中で一番豊かであることは間違いない。

そして俺はジャックに伝えておいた。

「【千年郷】がある限り、田中と鈴を自由にさせてやっても日本は問題ない。あいつらが成長して創造の力が使えるようになれば、あるいは火星に悪神の領土を築くかもしれん。それはそれで面白いことだ」

「悪神の領土だぜ?」

「それが結構必要らしい。悪神はゼロにすることはできない存在らしいからな。それでも、お前が責任を感じるなら、お前がレベル1000を超えてみろ。少なくとも1年前に田中の名前が消えてから、いや、もうずっと前から雷女はそのつもりだ」

「雷女が神様?」

「ああ、ただ、レベル1000を超えることだけは実力だけじゃ無理だ。何らかの別の要素がいる。そのために雷女は祐太とどうあっても帰ってきたら組みたいと考えてる。千代女も同じ考えだ。そして2人ともレベル999の限界まで上げやがった。お前もそうしろ。それで開いた12英傑の枠は全部日本がもらう」

現在トップランキングに残っている英傑は弓神、瞬神、俺、麒麟、饕餮、カイン、死神、そして森神の名を継いだエヴィー。八英傑で、四枠が決まらないままである。それを誰もが狙っていた。ジャックはしばらく悩んでいた。

「なあ、本当にいいんだな?」

「ああ、いい。田中も鈴も英傑って柄じゃない。悪神が2人もいれば、火星にもいずれダンジョンの扉が開くだろう。いずれ会える時も来る。まあ、それに俺はあの2人には自由に生きてほしいんだよ。あの堅物の田中が1人の女のためだけに生きたいとか、考えただけでも愉快だ」

「俺は……いや、そうだな。ずっと田中と旅してて思った。田中は思ったより普通のおっさんだったって。あれだけの立場になったのにあんまりにも普通すぎて不思議なぐらいだった」

「だろうな。あのおっさん、悪神になっても報連相を欠かさないサラリーマンの鏡みたいなやつだよ」

「こっちに敵対してきたらどうする?」

「その時は一緒にどうにかしてくれ」

「はは、分かった任せといてくれ!」

いい顔で笑うやつだと思った。

「面倒かけたな」

「結局何もできなかった。謝られても仕方ねえよ」

「それでもだ。田中に付き合ってくれてありがとよ」

「本当、実は龍神様が一番苦労性なんじゃねえの?」

「ふ、かもな」

ジャックは何かを決めた顔で鈴達がいた家を出ていった。俺は帰りにババアの墓に寄った。【千年郷】の桜の大木の近くにちょっと大げさすぎるなってぐらい大きな墓が建てられていた。烏丸達はこれでも小さいと感じてるらしい。

日本に帰ったらちゃんとしたのを建てるそうだ。俺はその中心。一般人が入れない場所で、地下に霊安室が造られていて、柊木が1本植えられていた。この下にババアの遺体が埋められた。

神だったものを燃やすなど恐れ多いと火葬はされず土葬だった。

「ババア。あんたみたいなことをずっとやってるぞ」

柊木の前にドカッと座る。統合階層の下にある女神の神殿にどこか似ていた。それぐらい広い空間。柊木の前には美しいエルフの石像があった。ババアの遺体は沖縄のかなり地中深くに沈んでいた。

死体には何も重要なものは残っていないが、掘り返されて穢されるようなことがあってはいけないので、烏丸達が回収したのだ。ババアのお墓参りをする一般人はもっとかなり手前までしか入れない。

ここに来れるのは一部の関係者だけで、今は俺一人だ。ババアも行ける口だったから、普段あまり飲まない日本酒を注いで2つ盃を置いた。

「ババア。うまくやれてる自信はない。吉祥や烏丸も支えてくれるが、正直、全然だって自覚はある。特に田中と鈴に関してはもうちょっとマシな方法があったと思う。ババアがいたらもっとうまくやったんだろうがな。俺は全くできなかった。でもまあこの俺が真面目にやってる」

そうするとババアはいないが、ババアが答えているような気がした。もう31だというのに、まだ俺はお婆ちゃん子が抜けない。俺の肉親の方の祖父母は優しい人ではなかった。両親は俺が嫌いだったし、肉親で恵まれなかった。

祐太とはよく環境が似てるかもしれない。俺も血は繋がっているが姉とだけうまくいってる。姉に関してはレベル上げを手伝ってあげたりもした。安全のためにと俺の屋敷にも住んでもらってる。

結婚してもいいと言ってるのだが『友禅が弟じゃみんなビビって男なんてできないわよ』と言って未だに独身だ。姉は俺ほど両親が嫌いじゃなかった。俺がダンジョンの探索中に両親は死んでたが、そのことも悲しんでた。

俺が出てきた時には葬式も全部終わっていて、姉だけが家の中にいた。

「そうだ。しばらく俺たちはその家に住んでたけど、あんたが気づいて引っ越しの手伝いもしてくれたっけな」

レベル3以上で成人なんて制度はないから、身元引受人になってくれて、かなり世話になった。親代わりと言ってもいいぐらいだ。俺にまだまともな部分があるのはババアがいたからだろう。

いなきゃもっとむちゃくちゃだった。少しの間愚痴ると立ち上がった。ふと、田中と鈴が気になる。だが首を振った。田中はこっちよりも鈴だけを選んだ。それが間違ってるとも思わなかった。地下から出ると空を見た。

【千年郷】の空はいつも晴れていて、そして、その向こう側で2人が幸せであることを祈った。

「それにしてももうちょっと近くでいいんじゃねえの? 会いに行くのにどれだけかかるんだよ」

でもいつか帰ってきてくれる。そんな気がした。

「とりあえずもう一人のダチが帰ってくるまでは踏ん張ってみるさ」

祐太が帰ってくるまで多分もうすぐだ。

【桜千よりご連絡がございます】

頭に声が響いた。この【千年郷】の管理人の声だった。

《どうした?》

【我が主、六条祐太様が世界に現れました。現在池袋におられます。あの地域には危険人物が2名います。できればお迎えに行ってもらえるとありがたいのですが】

《分かった》

どこに帰ってくるのかわからなかった。しかし、祐太がいなくなった場所が一番可能性が高いのではと、千代女や美鈴達はユグドラシル近くにあるそっちに迎えに行っていた。まだレベル400の祐太を守るという意味合いもあった。

「池袋か。早速ナディアか。アイツはいつも忙しいな」

《ジャック戻ってこい。祐太が池袋に帰ってきた。豊國もいるか?》

《よし! やっとかよ! すぐ行く! というか直接行く!》

ジャックの喜びが伝わってくる。俺も嬉しくないといえば嘘になる。山田総理と米崎に出かけることを告げておく。体が空へと浮かんでいく。炎が漏れ出てきた。久しぶりに気分が上がってくる。豊國から少し遅れて連絡が来た。

《南雲、千代女は珍しく外したな》

《ああ、千代女は祐太が関わると冷静さが抜ける》

《10年前。我の方が先約なのに、いつの間にか先を越されていた時はずいぶん腹が立ったが、ユグドラシルではどうにもなるまい》

《祐太が帰ってきた以上、俺も出る。二人とも遠慮はいらん。どうせ全部造り直しだ。ずっと邪魔だったやつらにお灸を据えるぞ》

俺は体を本来の龍に変化させていく。天高く飛び上がり宇宙空間に出ると、二筋の光が池袋めがけて落ちていくのが見えた。そして俺もそれに続いた。