軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十六話 Side南雲 一年 堕ちる

「ああクソが!」

思いっきり地面を踏みしめようとしてやめた。それだけで自分の部屋が破壊される。思いっきり動きたければ一旦レベルを下げなきゃいけないのだが、こんな時にそんなことするほどバカにはなれなくなった。

「あの時、1人も殺せなかったのが響いてる」

鈴が悔しそうだった。積極的に知り合いを殺せるタイプじゃなかったが、この期に及んでそんなことも言ってられなかった。それでもまだ小さくも見える鈴がその言葉を言うのに、戦争の非日常性を思う。

2ヶ月前に行った大規模攻勢。ナディアの件で向こうが混乱してるうちにと思ったが、正直あまり良くなかった。【千年郷】の中には『上手く行った』と言ってるが、いわゆる大本営発表だ。実際のところは失敗に近い。

無駄にババアが残してくれてる蘇生薬を使っただけだ。やはり六英傑に勝つには 王(ワン) と張り合えるぐらいの頭脳がいる。いや、戦力で劣っているのだからそれ以上がいる。残念ながら俺も鈴も考えて行動するタイプじゃない。

田中はそのタイプなのだがババアと比べると劣る。王が相手だと完全に手玉に取られる。そのことが今回はっきりした。

「また一般人が結構死んじゃいましたね」

田中が口にした。俺の部屋のソファーで、三人で話し合っていた。ババアが死んでから、この三人でよく集まって話し合う。俺はきついバーボンを飲み、田中はビール、鈴は牛乳と決まっていた。

「余計に殺す気はなかった。まあ言い訳か」

レベル1000以上の3人が攻撃して、それを受けて立つのもレベル1000以上だ。自分たちの魔法やスキルの威力を考えると、どれほど加減しても巻き添えが出る。向こうの発表だとこの1年間でもう5000万人以上死んでるらしい。

そのせいで、いくつかの国は政治体制が崩壊して、国という体裁を保てなくなっている。国が崩壊すると余計に二次被害で人が死に、危機感を煽られダンジョンに入る人間は増える。

世界的なダンジョンラッシュが起きていて、日本でも1日のダンジョン利用者数が1000万人を超えている。それでいてルビー級やいなくなった英傑の枠が埋まることはなかなか起きない。

翠聖様にそのことを尋ねると、

『 童(わらべ) 等の育成期が終わったということであろう。徐々にではあるがこれからは条件がこちらと同じになってくる。ただそれだけのことだのう』

そう話してくれた。つまり今まで俺たちの世界には何らかの優遇措置があったのだ。それはおそらくまだ続いてはいる。ただ、統計的に急激なレベルアップをするものは1/10ほどになった。厳選された優秀なもののみがそうなっている。

「南雲はもうちょっと人が逃げるの待った方がいいと思う」

「一般人が逃げるのなんて待ってたら、あっちにいくらでも時間を与えることになるだろう」

「そうだけど……」

「月城様の方はどうだ?」

桃源郷の神の争奪戦。そちらの決着が一刻でも早くついてほしかった。というのがサファイア級のアイテムの貸し出しである。【千年郷】があるおかげで持久戦はできる。しかし決着をつけるほどの攻勢となると難しい。

どうしてもこちらが攻撃するとそれほど時間をかけることなく向こうに集まられて、負けそうになる。だがここにサファイア級のアイテムが加われば状況は一変する。残り2つの【 黄泉孵(よみがえ) りの卵】と【幻影の 円環(えんかん) 】。

【千年郷】と違い、攻撃型だと言われるこの2つのサファイア級アイテムがあれば、勝てる見込みはかなり上がるのだ。

「残念ながら【千年郷】が見つかってからの進展はないみたいですね」

「日本の探索者が総出で1年間かけてまだひとつも見つけられないかよ。じゃあ、なんであいつはあんなに早く見つけてるんだよ」

「それは僕が聞きたいぐらいですよ。彼のことは南雲君の方が詳しいでしょ」

「まあ……」

ガチャ運が死ぬほどいい。あいつが今ルビー級にでもなってガチャを回したら何が出てくるのか。それどころかあいつなら俺より早くサファイア級になったかもしれない。ガチャ運が冗談みたいに高いのは相変わらずだったと聞いてる。

まだ12英傑で自分のガチャからサファイア級最上位アイテムを出したものはいない。同じサファイア級でも、アイテムによって随分と価値が変わるのだ。【天変の指輪】を超えるサファイア級アイテム。

それがあいつだとあっさり出かねない。

それにカインが言っていた。

『我が友への借りもある。我は八英傑を抜け、ヨーロッパのすべては中立を宣言する』

と。向こうが有利なのだ。普通に考えればそんなことをするメリットはない。しかしカインはそうした。レベル400のあいつがそれだけカインと張り合って見せたのだろう。

だから 王(ワン) が意地でも殺そうとして、その結果、死神によって10年も遠ざけられた。

「卯都木さんが死んでなければな……」

「まあそうだな」

作戦立案だけはセンスだ。それがないやつはどれだけ考えてもセンスのあるやつに穴を突かれる。だから王は、最初にババア。次に祐太。この2人を退けた。それが成功した時点で王はババアの言っていた通りやはり一番賢いのだろう。

「【呪怨】か……浄化できないって言うよね」

鈴が呟いた。牛乳をちびちびと飲んでいた。身長を伸ばしたいのだと昔から飲んでいたそうだが、伸びた様子はない。

「でもよ。この間【呪怨】を千代女が『現場まで確認しに行った』って言ってたんだが、どうもどこにもないみたいなんだよな」

「じゃあ10年も姿を隠さなくてよかった?」

「それはやっぱわからん。悪神レガの言葉を信じるならどこかに潜んでる可能性を否定できんしな」

「わかんないことだらけ。もう嫌になってくる。まだダンジョンの中に入ってる方はましだよ」

鈴が愚痴りだす。それは俺も言いたいぐらいだ。365日ここのところずっとこんな話ばかりだ。そして最終的な結論が出ることはなかなかなかった。

「うんざりしてるのはお前だけじゃねーよ。面倒だから愚痴るな」

「命令するな」

「あん?」

「まあまあ今日はこの辺にしときましょうか」

「賛成。田中【千年郷秋葉】に行こう!」

鈴がもういいでしょと言いたげに俺を見てきた。相変わらずこの2人は仲がいい。それなのに俺はどうもこの二人と私生活では全く付き合いがない。一時期田中と友達になりかけたが、それもうまくいかなかった。

それ以前に俺は最近、女の相手を全くしていない。時を止められて、目が覚めてから一度も眠ってないし、女を抱きたい気分にもならなかった。ゆっくりしていられない。その思いばかりが先行する。こういうのはダメだ。

俺が苛つけば無駄に人が死ぬ。久しぶりに誰かに相手してもらうか。こういう時に決まった相手がいないのがな。好きな女の一人ぐらい作ろうと思った時もあるが、どの女を見てもピンとこない。

無数に告白されて誰一人好きだと思ったことがない。かなり以前に好きだった女が死んだ。それ以来、俺はそういう気持ちが欠落しているようだ。

「まあそうだな。これ以上は意味がなさそうだしな」

俺がそう口にすると、田中が気にしてこちらを見てくる。だが本当にいいと手を振った。

「——また考えてるな」

二人が部屋から出て行き、考えることはやはり戦争のことだ。もともとこちらの英傑の数を1人減らせと始まった戦争だった。だが、ババアが死んで1人減っても戦争は終わらなかった。

簡単に世界の全てを灰にできるような力を持った英傑たちが、1人死んで余計に引くに引けなくなって戦い続けている。こっちは1人減ったが向こうは2人減った。戦力バランスは変わらないまま。

【転移】で外へ出る。

サングラスをかけてポケットに手を突っ込んだ。

そのまま立ち上がった状態で上空に浮かんでいく。成層圏を超え、そこから【転移】して、日本の気象衛星ひまわりの上に腰掛け下を見渡した。日本の形がわかる。中国地方に隕石でも落ちたような大穴が空いて、海水が流れ込んでいた。

メトと争った時にできたものである。今の目だとまさに神の目だというように地上が見える。ずいぶんとたくさんの建物が瓦礫に変わった。世界中に20以上のどでかいクレーターができ、他にも大きな傷跡が結構ある。

日本では【千年郷】に逃げ込んでいないのはもう探索者ぐらいのものだ。最終的には【千年郷】の技術を使って日本国内の建物は再建すると約束している。だから、よほどのバカでない限り【千年郷】に逃げ込んでいる。

今の日本は静かだ。

対外的な貿易も全てストップし、世界中から日本人が消えた。日本中が樹木で覆われた【森神の守護】が消えた時、そこに日本人は1人もいなかった。守護が消え、すぐに侵攻を開始するつもりだった六英傑の目論見は見事に崩れた。

「ババア……」

最初に死亡の知らせを聞いた時、あれほど怒りを覚えたことはなかった。一番腹を立てたのが自分に対してだった。そして自分を見失うほど暴れた。そんなことをババアに選ばせた自分に腹を立てながら、英傑のいる国全てを襲撃した。

そしてメトのところで殺されかけた。本当ならそこで死ぬはずだった。死んでもいいと思っていた。

「それでもまだ生きている」

この命にどこまで意味があるのか。死に損ねたあの日のことは今でも思い出された。

あの日のメトは強かった。俺は怒りに駆られるまま日本から出てきたから、アイテム類もそれほど持ってなくて、心もとない懐事情は尽きてしまい。向こうはこちらを逃さないために一対一を挑んできた。

その挑発に乗った俺は自分でも死ぬことを決めていたように思う。英傑の移動能力で動くと、地球は狭すぎるほどで、本気で戦ったこともあり、どれほど死んだかわからないほど人も死んだ。

そして最後は鳥取の砂丘の上でまともな回復もできなくなり血だらけで立ち尽くしていた。

『嫌になるほど殺してくれたな。だが龍炎竜美が殺せるなら、この犠牲にも意味があったと言えるだろう』

こんなやり方をすればこうなると自分でもわかってた。祐太がカインを中立宣言させたその意味を、【千年郷】を手に入れたその意味を、ババアが国を守った意味を、日本の探索者が今も全力でがんばっている意味を全てなくす。

俺はバカだ。

特大のバカだ。

分かっていたが自分の怒りが抑えられなかった。今から考えるとよく"俺こそが悪神"にならなかったものだと思う。

『大婆が死んでお前だけが悲しかったと思うなよ。それを選ばせた我とてどれほど自分が腹立たしかったか』

『抜かせ』

腹に穴が開いていた。心にも穴が開いていた。だからメトの太陽のような塊で死ぬはずだった。

『だがこれで本当に終わる。田中と天使だけならば【終戦】でどこからももう文句は出るまい。お前は全ての罪を背負い死ね。せめてそれぐらいの正義は持っていたのだと後々に伝えてやろう』

これでアホみたいに人が死んだ戦争も終わりだ。ババアと俺がさっさと死んでれば良かったのか。ただ負けを認めることが良かったのか。

『メト。お待ちください』

そして全てが終わるその直前にナディアは俺の前に立った。

『何をしてる?』

メトは混乱した顔をしていた。俺もナディアが何をしているのか理解できなかった。これで終わる。全てが終わる。 王(ワン) はまだ終わらせたくないだろうが、ここまで世界が壊れれば、誰もがもう戦争などうんざりだろう。

そういう意味では1つだけ王の目論見を外すことができたと思った。

『メト。南雲を見逃してあげてください』

『駄目だ。どけろナディア』

『そうだ。どけろ』

『嫌です』

『お前は頭がいかれてるのか? 俺が死んで戦争が終わる。それでいいだろうが!』

『いいえ、私は南雲が死ぬのが、メトが死ぬより嫌なのです。南雲。私と一緒にメトを殺しましょう。これを』

ナディアは月のように輝く玉を俺の前に差し出してきた。エネルギーが枯渇状態の俺はそれが何なのかもわからず口の中に飲み込まされた。途端に体の中に力が溢れ出してくる。傷ついていた体が全て再生していく。

そして気づく。あれほど腹を立てていた怒りが、これほどに暴れて全て抜け落ちていた。そして体に力が満ちている。エリクサーよりもまだ何か上の回復薬のようだった。ナディアの能力は回復に全振りしている。

そのうちの最も効果的なものを施された。自分が怒りのまま死ねば、日本は負けるが戦争は終わるはずだった。それでも田中と鈴が生きていれば、日本は蔑ろにはされないはずだった。しかし回復してしまった。

何か"ナディアの一部"を分け与えられたような感覚。前より力が増してる。

回復しなければ終わりで良かった。でも回復したらいろんなことが思い出されて、終わりにできないことが分かっていた。

『お前、本気か?』

俺はナディアの行動が信じられなくて見つめた。

『よかった。これで元の元気なあなただわ。それは私の一部なの。あなたは私の体の一部を食べたの』

笑顔を見せてくる。誰かに操られてる? 少なくとも正気の行動とは思えなかった。

『……何ということを。ナディア。我等の国の人間が何人死んだか知ってるか?』

『もちろん知ってます』

『その命全てが今の行為で無駄になったのだぞ! 我らは神なのだ! 人の模範とならねばならんのだ! そのような悪行を成してどうする!?』

メトは神であろうとしている。俺はどこまでも人で、ほとんどの英傑がそうだ。神などという考え方をできないのだ。ふと気づく。ああ、そうか。誰かにそそのかされたわけではなく、まだこの女あの日のことを忘れられないのかと。

かなり以前のこと。あまりに自衛隊と米軍が命を狙ってくるものだから、ほんの一時期だけ、メトのところに身を寄せていた。俺とメトは同じく世界から受け入れられない悩みを持つ同士として、あの頃は結構仲が良かった。

『お前また女をふったのか?』

メトは完全に呆れ顔だった。

『なんか俺が悪いみたいに言うなよ。ババアが「もうそろそろ日本に帰ってこい」って言うし、ちゃんと俺が好きだっていう女全員と別れただけだ』

『お前……その女癖の悪さだけはどうにかしろ』

そうは言うが俺は一度も女を口説いたことなどない。向こうが勝手に好きになるだけだ。その中でも俺に実力でもついてくる女がいた。俺を守るために回復魔法専門になったとか言ってたが、俺のパーティーにはババアがいる。

ダンジョン黎明期の混乱の中だった。なぜ好かれたのかもよくわからず、結局俺は好きだった女が死んでそれほど経ってなかったこともあり、その女の相手にしなかった。ただ帰りの空港にいて、

『必ずあなたに好かれる女になります。だから結婚してほしい』

そう言ってきた。そこまで話を飛躍させた女はナディアだけだった。それでも、

『結婚とかそういうの性に合わないんだよ。じゃあな』

かなりきっぱり振ったから、それで終わりだと思っていた。ただ、その女が12英傑になり、メトとパーティーを組んで、さらにメトはナディアにプロポーズして、無事結ばれたのだと聞いていた。

『どうしてこれが悪いことなのですか? 私の知らない誰かが死のうと私は知りません。恋する人が一人だけ生きていればそれでいいのです』

『お前は我が好きだと誓った日を忘れたか!』

『ごめんなさいメト。やはり私はあなたを好きになれません。南雲を忘れるべきだと一時期努力してみたのですが、この思いは募るばかり。やはり私は南雲だけなのです』

口にした瞬間。ナディアの体の中で何かが変わっていくのが見えた。純粋で綺麗なエネルギーが、悪神に見られる瘴気に変わっていく。

『ナディア! 言葉を撤回しろ! そのままでは堕ちるぞ!』

『どうしてですか? ただ1人を愛し続けることが悪いことだというのなら、私は喜んで堕ちます』

ナディアの肌色は今まで褐色だった。南アジアや中東によく見られるような褐色肌の綺麗な女だった。その肌が病的なほど白くなっていく。髪の色が黒から金色に変わっていく。

『バカが。俺でもそんなことになってないぞ。ナディア、落ち着いて戻ってこい』

俺は女を振る時ははっきり振ってる。それが一番女のためにもなると思っていた。しかしナディアはそれを溜め込んで、傷ついたことを隠し、今から考えると俺に当てつけるためだけにメトと結婚したのではないかと思えた。

『どうして? こんなに気持ちいいのに戻るなんて無理だわ』

ナディアが完全に変化した。清潔感のあるしとやかな美女だったのが、露出の激しい黒い服に変化して、男の肉欲を誘うような姿だった。瞳は金色で、胸が大きくなり、お尻もボリュームが増した。妖艶な女に完全に変化していた。

それはナディアとは思えない対局の女になっていた。ナディアが自分自身で、今までの姿を否定して、望んだ姿になった。レベルが上がるほどに自分の思いが体にも反映される。どうしても心が見た目に出る。

今の姿こそがナディアの心の中にずっと秘めていたものなのか。

『ふふ、南雲。いつかあなたもこっちに来てね。私はあなただけを永遠に変わらずこっちで待ってるから』

『俺はお前と一緒にはならない。俺はそれを前にもはっきり言ったぞ』

『いいえ、きっとあなたは近いうちに私と2人でここにいる』

ナディアは俺の頬に手を当て唇を奪った。そしてメトの姿は一度も見ることなく、姿を消した。

『……こんなふざけたことが起きていいのか?』

あまりにもメトの姿はいたましく、俺は結局生き延びてしまった体を見て日本の池袋まで【転移】して戻ってきた。帰ってきてまずババアがいれば死ぬほど怒られたのだろうが、その怒るババアはいなかった。

むしろ他国に単騎で攻め込んで、ナディアを悪神に堕とし、メトは形だけ六英傑に残っているものの、ナディアから命を狙われ、自国を攻撃する悪神に戦争どころではなくなった。カイン以来の敵側の大きな戦力低下。

俺はそのことで怒られるどころか周りから賞賛された。

「——ただ単に終わらせるために死にに行ったようなものなのにな」

田中も鈴も俺の行動の真相は知らない。そういうことには鈍いこともあり、あの時は俺が生きて戻ってきたことだけで喜んでくれた。どうにも調子が出ない。機械神ルルティエラの地球を抱く姿が目に入る。

全てを見つめているという女神。さらに思考が巡る。今日はもう1つだけ用事があった。それは突然できた用事だった。

【決して誰にも知られないように】

そんな連絡が昨日来たところだ。少しだけ空間が開く瞬間を教えられた。間違えることがないようにと時間を正確に測る。もうすぐだ。ダンジョンの中。甲府の統合階層。何もない砂だけの場所。一瞬だけ空間が開いたと感じる。

巨大な女神が一瞬こっちを見た気がした。捉えられるような感覚があり急いで【転移】した。

大丈夫だよなと振り返る。どこまでも続く砂の中、砂嵐が巻き起こっていた。何かの気配があるとは思えない。ただ女神がその気なら俺でもその目はごまかせない。うまくごまかせていることを願うしかない。

「こんなところに住んでるのか……」

空間的にゆがんだ場所。

【ブルジュハリファ】が砂嵐に包まれそびえ立っていた。

昨日突然届いた手紙。

【白蓮】

とだけ記されて消印もない手紙は、俺の部屋の机の上に、最初からあったというように置かれていた。誰かのいたずらかと思ったが、ブルジュハリファを見る限り、本当のようだ。伊万里達は会うことができなかった真性の神。

「それがどうして俺に接触してきた?」

ここへと一瞬だけ空間が開き、俺が入れるように真性の神が調整した。本当に女神から逃げ回っているようで、それは0.1秒すらも開いてなかった。建物の中に入る。広く豪華なエントランス。俺の靴の音だけが響いた。

たくさん並んでるエレベーターの中から1つだけ勝手に開く。迎えられているのだと気づきエレベーターに乗った。階数がどこまでも進んでいく。頂上を超えているはずなのにまだ上に登っていく。

砂漠を包んでいた砂嵐の上に出て、さらに上に登っていく。ここは統合階層のエリア外だ。空間的にさらに隔離している。祐太がエヴィーから聞いたという情報そのままだ。

エレベーターの扉が開いた。

そこに小さい陰陽師のような白い服を着た女の子がいた。